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黒い剣の異世界譚 作者:青葉 夜
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035 - 試合開始。

旅人装備のまま、さらに闇を纏った俺は、兵士の背後に張り付いて場内への侵入を果たした。
闇の効果で気配なんかをしっかりと隠蔽しているので、ほぼ誰にも気付かれる事はない。

「―――――?」
「……」

ただし、流石王城。警備は侮れない。
魔術を齧っている人間も居るのだろう。不自然な魔力の気配を感じてか、偶に反応する兵士もちらほら。
正直、心臓に悪い事。

とりあえず城の中心にたどり着いた。次は、地下なりの探索を開始しなければならない。
闇の能力を一気に開放し、その方向性を主に下に向けて放つ。
点探査ではなく、面探査。この探査から逃れうる方法なんて、只単純に距離を稼ぐ以外にありえない。それも、俺の魔力なら相当な距離を稼がなければならないだろう。

「……っと、やっぱり地下に空間があるか」

続けて闇で探査を掛けていく。
地下の空間はそれほど大きなものではなく、予想通りなら地下牢だと思う。
此処との出入り口は……。
中庭と城の外堀に一つ。

そのことを確認し次第、大急ぎでその場を離れる。
そろそろ大会の試合が始まる。
俺の試合は第二予選だから……そろそろ拙いのだ。

適当な巡回の背後について、そのまま城の外へと出る。流石に中と外の交通は簡単ではない。
しかし、それさえクリアしてしまえば此方のもの。
何時ぞやの蜘蛛足を作り、それに乗って一気にアリーナへ向かって走る。

『それではコレより、予選第二試合を開始します!!』

慌てて選手の中にもぐりこむ。
なんとか開始前には間にあった様だ……って、装備装備。

全員の目が司会に向いている事を確認して、一瞬で装備を鎧に切り替える。
うん、俺黒騎士装備。

『初戦は、第一試合と同じく、フィールド内での総当たり戦と成ります。それでは全員、準備はよろしいですね!!』

司会の声と共に、周囲一帯に緊張感が漂う。

『それでは、試合、開始ぃぃーーーーーー!!!!!』

ゴーーーン!!というドラの音と共に、試合開始が宣言されて。
途端、周囲の人間が手当たり次第に暴れだした。

予選の組み合わせは、ギルドの登録ランクで組み分けされる。
第一試合がEとD。第二試合はCからだ。国家枠推薦者はシード枠だったりもする。

で、現在の俺のランクはC。
まぁ、所詮はCランク。魔術を使う人間が居たとしても、それよりも手を出すほうが早いという連中ばかりだ。

フィールドの端へ退き、適当に防御しながら集団と距離を置く。
偶に此方へ斬りかかって来る馬鹿が居たが、それは適当にフィールドの外へたたき出す。
一応リングアウトも有りなのだ。

「…………」

まぁ、放っておけばそのうち数は少なくなる。
そうしたら、それを叩けば良いか。
そう考えて、斬りかかって来た奴をリングの外へ放り投げて、適当に時間を潰す。

例えば、虹の雫を取りに行った間に読んでいた魔導書。
あれは俺が最初に学んだ魔術とは少し違い、式がとてもシンプルに構成されていた。
そのため、式の起動に殆どタイムラグが無い。呪文なんて一言で済む。
ただし、術の威力は術者によって大きく差異がある。

この世界で一番汎用的とされている魔術……四大元素に力を置き換えたもの……は、その術者
の熟練度に関わらず、常に一定の威力を示す。
これは素人でも一定の結果を出せるという事だが、玄人でも一定の結果しか出せない、という事だ。

そして俺が読んだ魔導書の魔術。
これは、術者の魔力量、意識、想像が物凄く術に作用する。
例えば相手を拘束する“縛”の術とて、術者の魔力総量、イメージ次第で強度も全く変わってくる。
安定しない、その代わりに高い成果を出せる魔術。
まるで博打だが、どうやら俺には相性が良いらしい。

まぁ、闇の属性だし。四象と相性が良いとも思っていないが。

「……って、あれ?」

そうこう考え込んでいる間に、何時の間にか人数はかなり減っていた。
ひーふーみ………残り、俺含めて7人。

Cランクからトーナメントへ上がる事が出来るのは二人。
その中でも一番厄介な……と、何時の間に認定されたのやら……俺の周囲に三人。
後の二人は少しはなれたところで正面から切り結んでいる。

「アンタは厄介そうだからな。先に潰させてもらうぜ!!」

リーダーだろうか、一人が此方へ向かって飛び掛ってくる。
槍を担いだ軽装の男だ。
なんだか妙に警戒されているな。……というか、なんだか少し返り血がついている。
……もしかして、考え込んでいる間、無意識にカウンターでも取っていたかな?

「ハッ、セアッ!!!」
「………」

一般人なら、眼にも留まらぬであろう速さで繰り出される槍の突き。
三連打されたそれの、三激目、その引きと共に相手の懐にもぐりこんで。

「ゴフアッ!?」

鳩尾に正面蹴りを見舞う。
勢いをつけて跳んでいった槍男は、そのままステージの端へと吹っ飛び転がって行った。

「おおおお!!!」

その隙を狙ってもう一人が斬りかかって来る。
その大男が持つのは、戦斧と呼ぶ類の大きな得物だった。

剣を抜いて魔力を籠める。
強度を圧倒的に増した黒い剣は、その戦斧の一撃をなんとか凌いだ。

「……っ」
「まだまだぁ!!」

大男は、その外見に見合わぬ素早さで戦斧を振り下ろしてくる。
強靭な筋力が成す、脅威の威力。
戦斧に比べてまるで頼りない俺の剣は、しかしその強力な一撃をしっかりと受け止めてくれている。

普通の剣なら、幾ら俺の魔力を注いでもこれ程の攻撃の前には砕けていた事だろう。
星の巡りとこの剣に感謝し、この男を早々に潰す事を決意して。

「おおおおお!!!」
「ちょっと痛いが、我慢しろよ?」
「っ!?」

剣を鞘に仕舞い、その鞘で大男の手を叩く。
戦斧を振り下ろしたそのタイミング。思わず斧を手放した大男は、そのままたたらを踏むように後退りして。
その大男の腹に向かって、剣の腹で、大きく振りかぶったフルスイングを叩き込んだ。

「グフオオッ………」

そんな声を上げて崩れ落ちる大男。
いやぁ、久々にバッティングセンターを思い出した。そういやこの世界って、野球みたいなスポーツはあるんだろうか。
そういうのを広めてみるのも面白いかもしれない。

で、残った一人に視線をやる。
その男はどうも、前衛に出て剣を振るうタイプではなく、中距離から援護するタイプみたいだな。男の右手に集う魔力。それは結構な桁になっていた。

「……満たせ、満たせ、満たせ、我が手に集う偉大なるマナよ、その威を持ちて我が前に立ちふさがる、そのこと如くを打ち滅ぼしたまえ!!」

自らのオドを代価としてマナを召喚する。
更にそのマナを魔力として練成し、一人で大規模魔術を練り上げる。
いやぁ、熟練の技を感じる魔術だこと。

「威出よ、煉獄!!」

ごうっ、と火柱が二本走る。
俺を囲うようにして走った火柱は、丁度俺の真後ろでぶつかって。
丁度俺を中心とした円を描いていた。

その瞬間、その場から一気にジャンプする。
背後で起こる大爆発。流石に中距離空間攻撃を妨害するのは難しすぎる。
攻撃範囲は、直径五メートル程度の円陣。少し炎が掠ったが、なんとか無事に脱出する事ができて。

「……っ、糞っ!!」

多分、あれがこの男に出来る最高の一撃だったのだろう。
大規模魔術は、時間もしくは人手を要して初めて威力を持つ。それを一人でこなす為、魔力の召喚速度を速め、術式の範囲を小さくして、何とか対人戦用に煮詰めて。

必殺の一撃と練り上げた術を回避されれば、そりゃ舌打ちの一つもする。

「ま、お疲れ様」

言いながら回し蹴りを叩き込む。
皮鎧を装備していたその男は、しかし勢い良く吹っ飛び、そのままリングの外へと落ちていった。

さて、と気を抜いたところで試合終了の合図がなった。
見れば、向こうは向こうで決着がついたらしい。
勝ったのは片手剣と盾を装備した、年若い青年のようで。

……ま、とりあえずトーナメント進出決定という事で。
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