挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
黒い剣の異世界譚 作者:青葉 夜
29/63

029 - 夜の街。

この世界では、夜になると大抵の村や町は眠りに沈む。

何故か。
それは、明かりがないからだ。当然、やろうと思えば火を起こす事だって出来る。けれども、そうしてまで態々夜中に歩こうとはしない。
何故か。
簡単な話だ。夜中まで活動する事に必要なコストとリスクが、リターンに全く見合わないのだ。

夜と言うのは野生生物の支配する時間だ。魔の気配の強い魔物……ゴブリンなんかは勿論、狼みたいな野犬型の魔物だって暗闇で狩りをする。そんな時間に、好き好んで活動しようなんて人間は居ない。
まぁ、連中は火を恐れる。けれども、だからといって火を熾し続けるにはそれなりの燃料なりが必要となる。

さて。昼間早起きする彼等が、態々夜の時間を求めてまで、何をするというのか。

「………そう考えると、ここってイレギュラーだよな」
「全く。夜であると言うのに、やたら灯を燈しおって……」

鬱陶しそうにリネアが呟く。
俺も賛成。この世界に来たときは、星が綺麗に見えると喜んだものだが。

カノン城下町。其処の夜は、まさにファンタジーな不夜城。
炎と魔術の灯に満たされ、町は夜でも活気を残して……否。夜の活気を放っていた。

「流石商業が盛んって言うだけある。生活リズムが生産者じゃなくて、商人側なんだろうな」
「ん? どういう意味じゃ?」
「夜の商売って奴」
「成程のう」

あ、通じるんだ。
まぁそれだけでもなさそうだが、そういう類が盛んなのもまた一面。
人間の生理的にも必要悪では在るって話だし、別に軽蔑したりはしないけど。

「そういえば、主殿はその類の話はせんのう」
「……そりゃまぁ、女の子も居たわけだし」
「溜まっておるか。ならば妾が相手してやろうか?」
「ごふっ」

思わずむせた――っていうか、何言ってるのこの子。

「出来るの?」
「うむ。魔力さえ供給されれば、妾も等身大で実体化できるのでな。その状態でならば、主殿のお相手も出来よう。なに、主殿の魔力総量から言えばさしたるものじゃて。それに、行為はより深いつながりを得るに良い儀式じゃて」
「いや、そういう意味じゃなくて、精神的に」
「下の世話ぐらい容易い。それに、妾は主殿のことを悪くは思っておらん故」

ナンなんだろうか、この淡々とした喋りは。とてもソッチの話をしているとは思えない。
いや、違うか。良く見ればデフォルメされたリネアの耳が真っ赤になっている。
……やばい、超可愛い。

「それじゃ、そのうち頼むよ」
「……、う、うむ。その内の」

嗚呼、なんていい反応をするんだ、この子は。
今まで寝てる間に助言してくれるだけで、ベリアほどに喋っていなかったから気付かなかったけれども。
この子、物凄く可愛いんじゃないだろうか。
……ちぃ、俺の馬鹿。もう少し早く気付けよ!!

「さて、何か面白そうなものは無いかな」
「主殿。それ等は如何かの」

言われて、注意を逸らす。まぁ、話題を逸らす意味でも話をふったのだけど。
リネアが指差したのは、真っ黒なレンズの付いた……サングラス?

「旦那さん、コレ何?」
「おっ、兄さん良いところに眼ぇ付けるね!! これは黒魚竜の鱗から作られた色眼鏡だ。度は入ってないから、兄さんでも掛けられるぜ」

へぇ、と言いつつそれに目を寄せる。
眼鏡と言うよりはゴーグルに近い造りのそれ。顔の大部分を隠してくれそうだ。

「黒魚竜の鱗というと、残留魔力の検出器になるのではなかったかの」
「おっ、良く知ってるね……って、兄さん、そのちっさいのは何だい?」
「あー、この子は俺の相棒で、妖精さんのリネア……ってそれは良いから。検出器って?」

興味津々な屋台のオッサンを制して話を促す。
好奇心が覗く瞳のオッサンは、渋々(?)サングラスの説明を始めた。

「この黒魚竜の鱗はな。それ越しに世界を見ると、その場に残った魔力の残滓をはっきりと見る事ができるんだ」
「魔力の残滓……?」
「主殿は魔力を感知できるであろう? それを行使された跡がはっきりと視認出来る様に成るのじゃ」

へぇ、と頷く。でもそれって、なんだか正面がまともに見れなくなりそうだ。

「その点は大丈夫だ。ちゃんと機能のONとOFFの切り替えが出来るようになってる。ほら、ここん所の魔方陣。コレがスイッチになってるんだ」
「へぇ、そりゃまた凄い」
「しかも単純な防具としてだって強い。如何だい兄さん。この優れ物の色眼鏡、今ならたったの銅貨60枚!!」

計算する。銅貨一枚四百円。国境で変動あり。それの六十倍で二万四千円。
うわ、普通。妥当な数字だ。まぁ、この世界の物価では……安いほうなのかな?

「魔力検出機能の効果って、永続ですか?」
「勿論。まぁ、もし機能が切れても少し魔力を補充してやれば、また使えるように成るさ」
「成程。買った」

言って、右手を差し出す。
手を差し出してきたオッサンの手のひらに、袖口に作った闇から銅貨を取り出す。

「……これ、何処から取り出したんだ?」
「内緒です。まぁ、手品みたいなもんだと思ってくれれば」
「兄さん、手品師かぁ」

違うけど、まぁ似たようなものか………んっ!!

「じゅの、……さんじゅで、六十。あい、そんじゃこの色眼鏡は兄さんへ……兄さん、如何かしたか?」
「いえ、なんでもないです。どうも」

言って、サングラスを受け取る。
ちょっと装着してみるが……まぁ、夜中だし。見えないだろう……と思っていたのだけど。

「見えるじゃん……」
「魔道具じゃしの。夜闇程度見晴らせぬ訳あるまいて」
「おれっちの商品はそんな程度の低い代物じゃないよ」

成程、と頷いて、そのままゴーグルを掛けっぱなしにする。
眼の色も隠せて、それどころか顔だって隠せる代物。

「如何だ、似合ってる?」
「……うむ。主殿の顔が隠れるのは少々寂しいが、まぁ鎧に比べれば幾分ましか。似合って居るぞ」
「何だか色々言われたなぁ」

肩をすくめる。
この眼鏡、闇の属性持ちの俺の目並みに夜闇を見通せるとは。相当の代物なんじゃないだろうか。そう考えると、安い買い物だ。

「おっちゃん、ありがと」
「おう! 因みに俺は未だ二十台だ。おっちゃん言うな!」

そんな事を言うおっさん……もとい、あんちゃんに手を振って、その場を後にする。

「それじゃ、次は何を見る?」
「うむ。主殿よ、良ければその菓子を食べてみたいのじゃが……駄目かの」
「ん、おっけー」

リネアに請われて、そのクレープのような菓子の屋台に入る。
そんな感じで、その夜はリネアのリクエストに俺が応える感じで夜は過ぎて言って。





因みに。

「うぁ……」

髪の毛は栗色に染めて、グラサン着用。
宿に戻り、姿見を見た俺の目の前には、金ピカのロボットに乗った大尉っぽくなってしまっていた。染料の関係で髪の毛はもっさもさだし、これで金髪なら完全だ。
……まぁ、三倍の機動力なんて持ってませんが。

「……ふぅむ」

隕石落しの魔術なんてあるんだろうか、なんて思ったのだった。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ