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黒い剣の異世界譚 作者:青葉 夜
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017 - 世界の事情、俺の事情。

「カノンで、大会が開かれるそうなんです」
「大会?」

ランドの背の上で、ベリアと二人で会話をする。
一晩たって、なんとか彼女と打ち解ける事はできたようだ。まぁ、何処か未だ固いところは感じるのだが。
因みにランドは俺達の会話をしっかりと聞いている。
耳が前でなく、自分の背中を向いてるし。

「大会とは?」
「カノンで毎年行われる武術大会ですね。武術大会、っていうのは名前だけで、戦士、武道家、剣士、騎士、盗賊、魔術師、神聖騎士などなど、色々な職業の人々が戦う大会です」
「一種のバーリ・トゥード(なんでもあり)か。把握した」
「カノンの国営行事なんですけどね。その行事に、外国の重鎮を招待するんですよ」

納得。それで今回はベリアが招待されたと。

「そんなわけ無いじゃないですか。私女の子ですよ? チミドロの戦いなんて見ても面白く感じませんよ」
「あら?」
「本来であれば兄さまが……第二皇子のボロニア兄様が受けるはずだったんですけど、めんどくさいって叫んで何処かへ逃げちゃいまして」

叫んで……逃げた?
公務っていうのは、そんなので逃げ出せるものなのか?

「ボロニア兄さまは帝国最強の剣士で、あの国に剣術で兄さまに敵う人って居ないんですよね……」
「へぇ、それは格好良い」
「それだけなら。でも、兄さま馬鹿の癖に強いんですよ。魔術だって如何やってか剣で叩き斬っちゃうし、俺より強い奴に逢いに行く!、とか言ってよく行方不明になるし……」

……それを地で行く人間、異世界で発見。
というか、それは本当に皇子なのか?

「で、結局私にお株が回ってきたんです。今身体の空いてるのって、私だけだったんで」
「……なんというか、お疲れ」

皇族社会にも、色々とあるんだろう。うん。

「しかし、その大会だっけ? いったいどんな連中が参加するんだ?」
「主に冒険者の皆さんですね。後、其々の国から選ばれた選手がシード権を持って出場する事ができるんですよ」
「成程ねぇ。でも、そういうのって諍いの元にならない?」
「成りませんよ。だって、本気を出してしまえば誰が最強かなんて決まってるじゃないですか」

うわ、言い切りましたよこの子。
そんな呆れた気配が伝わってしまったのだろうか。ベリアはその幼く可愛い顔を真っ赤に染めて。

「え、あ、あの! だって、事実として帝国が一番武力を持っているのは事実でして!!」
「まぁ、そりゃアレだけ国土を持ってれば」
「国土は広くても人は割合多くありません! 広い国土を少人数で制圧する……それを行うため、帝国の兵士は少数精鋭なんですよ」
「ほぉ、へぇ……」
「少ない人員で協力し合って生きていく。その連帯感のおかげで、帝国の人々ってとっても身内を大切にするんです。私だってみんなと仲良く過ごしてるんです」
「具体的には?」
「家臣にもベリア呼ばわり」
「嘗められてるじゃねーか」

笑いながら頷く。
成程成程。そういう国なのか。帝国、って言うところは。

「むー、コレも親愛の表現なんですよ?」
「うん。分ってる。正直、そういうところはうらやましいよ。俺なんか最初、ウェストリーの政権争いの真っ最中だったから……」
「ウェストリー?」

あっ、と思って慌てて口を閉じる。
が、ベリアはしっかりと俺の言葉を聞き取っていたようで。

「イーサンさんはウェストリー出身なんですか?」
「さんは要らない……まぁ、出身ってわけではないが、出発地点はウェストリーだな」

言うと、ベリアは少し唸るように顎に手を当てた。

「……イーサンさ……イーサンって、もしかして勇者ですか?」
「………………」

もし俺がコメディー系キャラクターならば、間違いなく色々吹いていただろう。

「――いや、違うけど」
「今、間を空けましたよね……私、イーサンと会話していて、ずっと疑問を抱いていたんです。隠蔽された力、高価な武装、意味有り気に隠された素顔と本名。そして国同士のメンツなんて事に頭が回るのに、世間の事情に関しては知らなさ過ぎませんか?」
「…………続けて」
「ウェストリーが出発点。私の知識で思い当たるものといえば、あの国で行われているという勇者召喚の儀式で、今回のその儀式は確か一月ほど前。一人で私の馬車を襲撃した盗賊たちを追い返したという話と総合すると、どうも普通の人間ではないように感じるんです。大筋はこんなところで、後細かい補足は色々と」

凄いなぁ、この子。
そんな断片的な事象から、こっちの事情を見抜いてきたんだから。
……まぁ、いいか。別に何としてでも隠したい、と言う程の事でもないし。

「凄い。殆ど正解」
「殆ど……?」
「召喚されたのは事実だけど、俺は勇者じゃないから」
「??」

何を言っているのか分らない、という表情のベリアに、仕方無しに説明する事を心に決める。
まぁ、これだけ聡い子だ。此方の意思を無下にする事は無いだろう。
第一、それほど隠す事でもないし。

「……そんじゃま、細かい説明をしましょうか。ランド、お前も聞いとけよ」

一応周囲を確認する。といっても、こんな町外れに他に人間が居るとも思えないが。
しっかりと走り続けているランドに声を掛けて、ぽつぽつとこれまでのことを話し始める。
とはいっても、俺の事情なんてそう大した話では無い。

数十分。只喋り続けて。

「……ご愁傷様です」
「ガウ」

一人と一匹にそんな感想を漏らされたときは、流石に鬱になりかけたが。

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