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泡沫の少女

作者:キュウ
5分ほどで読めるミニ短編です。
お茶とかカフェオレとか片手にサッとチャチャッとどうぞ。
 グラグラと何かが呻っているよう。そこに、淡い泡の音が交じりずっと奥まで響いていく。静かな水中には、水と、単純な音とぼんやりした水面、そして水に溶けた丸い月しか無い。
 少女は、微かにも動くことなく、ゆっくりゆっくりと水底へ沈んで行っていた。瞼を閉じ、唇を閉じ、抵抗の意思は全く感じさせない様子で、真っ直ぐ真っ直ぐに水底へ沈んで行っていた。
 虚ろな意識の中で、幾つかの景色が見え隠れしていた。その中で鈍く光を放つのは、少女の住む一軒家であった。彼女は、家に居る事に畏怖と嫌悪の念を抱いていた。彼女は、家族に忌み嫌われて、来る日も来る日も、けたたましい怒号と、吐き気のするような罵声を浴びせられていた。
 少女は家出をし、一週間ばかり森の中を彷徨った。あても目的地もなく歩き続けた。気付いたときには持っていた食料は無くなっていて、途方に暮れたこともあったけど、それでもとにかく歩いた。
 そして彼女は、月明かりに照らされた大きな湖を見つけた。湖から少女の目に入る光は仄かに蒼く光り、彼女は、それをしばしぼんやり眺めた。
 やがて少女は「どうせ死ぬのなら、こんな……綺麗な場所で逝きたいな……」なんて、そうポツリと言うのだった。
 少女がしっかりと意識を取り戻したとき、彼女は身体に重たい石を巻き付けていた。 
 ……タポン……タポン……と云う水音を耳の奥で聞きながら、腰まで湖に浸かって、湖の中心に向かって歩いていた。
 そして間もなく、少女は水中を沈んで行っていた。すぐさま息苦しさを覚えて、彼女は気を失った。

 遠退いた意識の中、彼女は夢を見ていた。
 それは、冷ややかな視線で彼女を睨む両親、強く罵倒してくる兄。いつしかそれは、屈みこんで耳を塞いだ少女を取り囲むかのようにユラユラと回り始め、彼女はキュウッと目を閉じた。
 そんな中、少女の周りで何やら叫ぶ両親と兄の身体の間を掻き分けて、彼女の友達が現われた。
 彼女は両親と兄に、怒りをあらわにした表情で必死に何かを言い、やがて少女に笑みを向けて手を差し出した。両親と兄の視線を背に受けつつ、少女は、その手を伸ばした。
 しかし、その時視界が急に明るくなり、あまりの眩しさに少女は目を閉じた。
 伸ばした手を見て、自分の手の随分小さいことに驚いた。それは、少女の幼い頃の記憶だった。
 やがて目が慣れよく見ると、そこには、何物よりも温かく、自然と心の安らぐような微笑を向けている、母親と、それを見守る父と、兄とがいた。
 現在の彼らはまだ後ろに居た。しかし、小さく、微かに少女を照らすかつての彼らは、確かに目の前に居てくれていた。……まだ、直していく余地は、十分すぎるほど在るんじゃないのかな……。
 ――ふと、身体中に湿りを感じた。
 薄っすらと目を開くと、口から出た小さな泡が、左右に揺れながら上昇して行くのが見えた。奥の方から、何かが呻くような音が聞こえる。少女の中から出て行く泡の音が交じって、それは、うんと遠くまで響いて消えて行った。
 少女は、水中に居ることをしっかり自覚した。急激に、少女の心を恐怖が支配した。
 急ぎ重りを外して、少女は上に向いて泳いだ。
 まだ、まだまだ死にたくない。また、両親と兄に会って、今まで言わなかった事をちゃんと言い、以前のような家族に戻りたい、少女はそう思った。
 手をばたつかせながら、もがき、もがき、水面の景色を死に物狂いで目指した。
 それでも、水面から覗く月明りはほとんど届いていない。ほんの小さな丸い光が、霞んで見える程度だった。
 再び意識が薄れ始めた。頭の奥を痛みが走り、喉の奥で息苦しさを感じだした。
 少女は、すぐさま尽きてしまいそうな力で、めいっぱい手を伸ばした。
 少女の意識は途絶えた。だから、その手を誰かに掴まれたのにも、気付かなかった。

 少女が目を覚ますと、いつもの自分のベッドの上で、どこか懐かしさを覚える微笑みを見た。少女もまた微笑を浮かべた。
 ……ああせめて、もっと早くに、こうなっていればな。彼女はそう口の奥で呟いて、深く、永く、眠りについたのだった。
お疲れさまでした♪
HP(→http://kyunote.blog.fc2.com/)にて
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