サンタの女の子とぬいぐるみ
どうも、蜻蛉です。
「ギフト企画」楽しんでいらっしゃるでしょうか?他作品は「ギフト企画」と検索することで閲覧が出来ます。このシーズンに、様々な作者さまの温かな話をどうぞおたのしみ下さい。
今回の小説の想いについては、ぜひとも後書きをごらんになって下さるとありがたいです。
では、一ヶ月も早いですが、クリスマスを舞台としたちょっとした童話をお楽しみください。
※激論イベントの観点。
・文体の違和感
・話の流れ
・テーマ性について
・総評
これは十二月二十四日の出来事です。サンタクロースはこの日の深夜、子供も大人も寝静まった頃に雪振る夜空をトナカイと共に駆けます。それはもう、一年に一度しか見れない光景だけあって感極まるものがあるほど楽しみで、嬉しい行事です。シャラン、シャラン、とトナカイの鈴が鳴ります。ついに今年もクリスマスがやってきたのです。
そこには一人の女の子サンタがいました。その女の子は数いるサンタクロースの中でも人一倍人間に興味津々な女の子で、何かある度に人間の世界を覗いていたくらいでした。なので今回も、本当はまだプレゼントを届けられる歳では無いのに、サンタクロースの偉い人に一生懸命頼み込んで、この仕事をさせてもらっているのです。サンタクロースは普通、歳を取るたびに担当する子供の数が増えるように出来ていて、その女の子はまだ成り立てのサンタクロースだったためにたった一人の子供を担当していました。なんてことも無い普通の男の子のプレゼントを届ける、それが女の子の仕事です。
「さぁ急がなくっちゃ!」
プレゼントを入れもしない大きな袋にたった一つ詰めて、女の子はまだ乗り慣れていないソリに乗ります。たった一つが担当でも、初めて仕事をする女の子にとっては大行事です。一つ一つソリにおかしなところが無いか確認していきます。これはサンタクロースのおじいさんからも教えてもらったことで、これをやらずに走らせると事故が起きてしまうと言われていました。そして全てが終わった後、わたわたと慌てながら、トナカイの手綱を握ります。
「よ、よし。安全確認終わりっと、行くよ!」
勢い良く手綱を引き、トナカイに走れ! と命令を出しました。ところがどっこい、トナカイはその瞬間大きく前足を上げたかと思いきや、物凄いスピードで走り出しました。勿論そんな速さに慣れているわけも無く、女の子は悲鳴を上げながら必死にトナカイを操ろうと手綱を動かします。ですが、止まる気配は全く無く、そのままわけの分からない方向にどんどん進んでいきます。
すると、なんと目の前に大きな木が出てきました。出てきた、というよりも女の子が目を瞑っていたので、開いた時にいきなり目の前に現れたのです。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
トナカイはそれでも止まることなく、ついには木に思いっきりぶつかってしまいました。
ドーン! と大きな音がして、女の子とプレゼントはソリから落っこちて地面に落下しました。ちょうど降り積もっていた雪がベッドのようになって、女の子を助けてくれました。
「いたたたた……、なんなのよぉ」
ふと空を見上げてみると、トナカイが邪魔者は追っ払ったとでもいうように、意気揚々と空を駆けて戻って行ってしまっています。それを不思議なものでも見るように口をぽかん、と開けてしばらく見ていましたが、突然気付いたように泣き出してしまいました。
「えーん! えーん!」
無理もありません。初めて、それも偉いサンタクロースに沢山頼み込んで初めて貰った仕事でこんなことになっては小さなその体では、悲しさに耐え切れるわけが無かったのです。さらに言うならば、女の子の隣に落ちたプレゼントの袋は途中で木の枝に引っかかったのか、見るにも耐えないほどボロボロになっていました。きっと中のプレゼントも無事ではないでしょう。それに女の子が気付くと、涙はますます溜まって滝のように流れ始めました。
「えーん! えーん!」
女の子がしきりに泣いているその頃、近くの森で大きなクマが一頭その鳴き声のあまりの大きさに冬眠から目を覚ましました。さらに、リス、シカ、トリ、ウサギと、次々に森の動物たちが目を覚まして行きます。眠い目を擦りながらなんだなんだと雪に足跡をつけて女の子の元に集まってきます。動物たちが見たのは赤い服を着た女の子とボロボロの袋、そしてその横に転がっている何なのか分からないモノです。きっと人間のおもちゃなのだろうと動物たちは思いました。動物たちは酷く泣いている女の子にお互いに顔を見合わせてどうするべきか悩みました。するとその中の一匹、クマが前に出て雪音を立てて女の子に近づいていきます。それを息を呑んで他の動物たちは見守ります。
「どうしたんだい、可愛いお嬢さん?」
出来るだけ優しくクマは声をかけました。女の子は涙の溜まった綺麗な瞳を上げて、クマを見ました。当然言葉なんて分かるわけも無いのですが、大きなその身体に女の子は怖がるどころか頼りにするように言葉をかけました。
「私のトナカイがね、木にね、ぶつかって……ひっく、落っこちちゃったの。プレゼントも壊れちゃったし、これじゃあ届けられない」
「これは、ぬいぐるみかい?」
既にボロボロで、綿が所々から飛び出しているそれはクマが見てもぬいぐるみには見えず、どちらかというと森に無残に捨てられていることがある汚いものに見えました。自分が失礼なことを思ったと思って、クマは一度首を振って、後ろにいる他の動物たちを呼びました。
「この子がプレゼントが壊れてしまったらしいんだ。どうしたらいいと思う?」
動物たちは人間の言葉が分かるようです。すると、リスがまじまじと女の子の顔と服を見て、手をポンッと叩いて言います。
「彼女はサンタクロースじゃないか! これは大変だ、人間の子供がプレゼントを貰えなくなってしまう!」
「サンタクロースとは何だいリスさん?」
「空の向こうに住んでいる人間で、毎年この季節になると人間の子供たちに記念としてプレゼントをあげる人のことだよ。赤い服に、さっきトナカイと言っていたから間違いないよ。ボクは冬にも起きているからたまに空を飛んでいるのを見るんだ」
「そうか、それは大変だ。なんとかしてプレゼントを直してあげられないだろうか?」
クマがそう言いますが、壊れたぬいぐるみは最初がどんな形だったのか誰にも分かりません。それに、動物たちでは例え直せる力があったとしても、作るための材料をそろえることが出来ません。人間のお店で動物たちは買い物をすることなんて出来るわけがないからです。
「盗んできたらダメかなぁ……?」
ウサギがそういいますが、当然そんなこと他の動物たちは賛成しません。と、ここでシカが言います。
「この近くの小屋に猟師が住んでいるんだけど、そこにこの子を連れて行ったらどうだろう。動物には気が荒いけど、たまに人を連れてくるときはとても優しい顔をする人だ。もしかしたらなんとかしてくれるかもしれない」
「とても危険だけど、確かに人間のことは人間に任せるしかないのかもしれないな……。行ってみよう!」
女の子はなんのことだかわけが分からないままクマに抱きかかえられ、シカが壊れたぬいぐるみを持って小屋に向かいました。
その頃、その猟師の家では猟師が他の仲間を呼んでお酒を飲んでいました。
「うはははは! 今年もいっぱい稼いだなぁ!」
「そうかぁ? 今年は去年に比べて数が少なかったように思うけどなぁ」
「お前の腕が無かっただけさ」
「くっそぉ、来年こそはてめぇより数狩ってやるぜ!」
賑やかな小屋は外の静けさとはまるで違います。こんな夜中に起きているのはもしかしたら彼らだけだったかもしれません。既に何十本ものお酒のビンが床には転がっています。仲間の一人は酔ってうるさいいびきを立ててソファーで寝ていました。
すると、その小屋に小さくコンコンッ、というノックの音が響き渡りました。
「ああ? なんだこんな時間に」
猟師は面倒くさがりながらも扉を引きました。が、ノックしたのは大きなシカです。猟師は驚いて腰を抜かして座り込んでしまいました。
「なななな、なんだぁ!?」
さらにその後ろからクマがのっそのっそと歩いてきます。良く見れば、シカの足元にはウサギが一匹、そして上にはトリが羽を羽ばたかせています。この時期は冬眠しているはずなので、猟師もこの事態は全然予想が出来ません。
ですが、後ろから来た猟師の仲間が真剣な顔をしてクマを指差します。それを追って猟師もそちらを見ました。クマの手には小さな女の子が抱えられていました。そしてシカの口には無残にボロボロにされたぬいぐるみが。
「お、お前たち、これを届けに着たのか?」
人間の言葉が分かるクマは、猟師にも分かるように首を下に振りました。そして女の子を腕の中から解放し、そっと背中を押して猟師のほうに歩かせました。シカは猟師の足元にぬいぐるみを落とし、一歩ほど後ろに下がります。
女の子は一度クマのほうを見たあと、猟師に向かってこう言いました。
「ぬ、ぬいぐるみを直せませんか? つ、ついでにソリとか作れたら良いんですけど」
この女の子は何を言っているんだろうかと猟師は呆気に取られましたが、仲間のほうがぬいぐるみを拾い上げます。
「これは酷いな。縫うだけではどうにもならない。せめて布と綿がもっとあれば……。ソリは、そうだな、木材さえなんとかなれば出来ないことは無いが」
「あと、あと少ししか時間が無いんです。朝になるまでにそれを届けないと」
「ふむ……」
初めて会話する人間に女の子は緊張しっぱなしです。おじさんの顔はごっつくて怖いだとか、後ろの人間はビクビクしていて変だとか、そんなことばかりで頭の中がいっぱいでした。
クマはその男の言葉を聞いて、他の動物たちに話しかけました。
「俺たちはソリを作るための木を集めよう。布と綿は人間にどうにかしてもらうしかないけれど、それなら俺たちでも出来る」
「それはいい! ボクたちも手伝おう!」
クマは人間の目を一度じっと見たあと、ゆっくりと木を取りに森の中に走っていきました。他の動物たちも散り散りになり、残ったのはトリとリスです。男は動物たちが何をしようとしているのか分かって、しりもちをついている猟師に向かって言いました。
「今すぐ布と綿を買ってきてくれ。少しくらいの金は出して良い。寝ていたら叩き起こせ」
「そ、そこまでその女の子のためにするのか?」
「何、一年に一度のクリスマスじゃないか。こういうことがあってもいい」
「それもそうだな。よし、行ってくるか!」
猟師は上着を手にとって小屋を飛び出していきました。トリとリスもそれに続きます。彼らは猟師が買った道具を早く届けるために一緒についていくつもりだったのです。男はそれを見届けると、寒そうにしている女の子を部屋に入れてスープを作ってあげました。
「これから私もソリを造りに行くから、ここで待っていてくれ。布と綿が届いたら大きな声で呼んでくれ」
そう言って男も上着と道具を取って外に飛び出していきました。
それから数時間経った後、ついにソリが完成し、ぬいぐるみも元のような綺麗なものに直されました。しかし女の子にはそれを喜んでいる時間がありません。女の子は動物たちと猟師たちにお礼を言って、急いで笛を吹いてトナカイを呼びます。急いでトナカイにソリをつけ、さっそうと夜の空に駆けていきました。猟師と動物たちは、女の子が見えなくなるまで『頑張ってー!』と声をかけ続けていました。それが女の子に届いたかどうかは、誰にも分かりません。ですが、ここで協力しあった仲間たちはみんなニコニコしていました。
男の子の家はそう遠くなかったおかげですぐにつきました。こっそりとおじいさんに教わった家に入る技を使って入り、男の子の部屋に入ります。男のはすーすーと寝息を立てていて、始めて近くで見る人間の男の子に興味が湧いてほほをつついたりと、悪戯を女の子はしました。するとなんと、男の子が目を開けてしまいました!
「君は、誰だい?」
不思議にも怯えた様子はなく、寒そうに布団を被ったまま女の子にそう聞きました。
「私はサンタクロース、あなたにプレゼントを届けに来たの」
本当は自分がサンタクロースということをばらしてはいけなかったのですが、女の子は秘密ね、と最後に付け加えて楽しそうにそう言ってしまいました。
「そうなんだ! じゃあ僕と遊ぼうよ!」
「……え?」
男の子の突然の提案に女の子は戸惑ってしまいます。秘密をばらしたのに加えて、サンタクロースは朝日が昇るまでに帰らなければならないのですが、もうその時間がすぐに迫っているので、遊んでいる時間なんて無いのですが、その甘い言葉に女の子は悩んでしまいました。しかしやはり、サンタクロースのおじいさんに怒られるのも怖いし、もしもサンタクロースをクビにされたら嫌なので女の子は申し訳無さそうに断ります。すると男の子はこう言いました。
「ならサンタクロースなんて止めて、一生人間の世界で暮らせば良いじゃないか。だって君は、人間が大好きなんだろう?」
「で、でも……。サンタクロースの決まりを破ると、二度とサンタクロースの仕事をすることが出来ないの。やっぱり私はお仕事が好きだし、人間の世界じゃ暮らせないの」
「どうして? サンタクロースのお仕事はお金をいっぱいもらえるの?」
「お金はもらえないけど……」
「ならどうしてそんな仕事をしているの? うちのお母さんとか、もっと偉くなってお金をもっと稼いでって毎日言っているから、お金って仕事をする時には大事なんでしょ?」
「で、でも、好きなことだから!」
「ふーん、僕と遊んだ方が楽しいと思うんだけどなー。ほら、僕友達いっぱいいるし、みんなと遊ぶときっと楽しいよ?」
「と、友達?」
「うん」
女の子の世界、サンタクロースの世界ではそんな言葉は聞いたことがありませんでした。でも意味するところはなんとなくですが、女の子にも分かります。同じくらいの歳の子供と一緒に毎日遊んだらどんなに楽しいだろうかと想像すると、少しだけ羨ましくなりましたが、それでも首を振って後ろを振り返ります。
「でもやっぱりダメだよ。私はサンタクロースになるんだから」
「うーん、残念だなぁ」
「う……」
「まあでも無理言ったらいけないよね。お仕事頑張ってよ!」
とても胸が苦しくなるのを女の子は感じました。このままここにいられたらどんなに良いだろうと。しかし、やはり女の子にとってサンタクロースの仕事は自分の全てであって、そんなに簡単に捨てられるものではありませんでした。泣きたくなるのを堪えて言いました。
「と……とにかくプレゼントは渡したからね。じゃ!」
「あ!」
女の子は走り出して、外に置いてあったトナカイを走らせ、勢い良く飛んで帰っていきました。男の子はその空を見て、寂しそうに布団の中に入って、再び寝息を立て始めました。
その様子をこっそりと見ていたトリが、そのことを森のみんなに話しました。
「あの子は友達がいなくて寂しがっていたよ。ワタシたちにどうにかできないかな?」
動物たちは悩みました。どうしたってサンタクロースは一年に一度しかやってこないので、友達になっても毎日は会えません。そこで、ウサギがこんなことを言いました。
「そういえば、なんで男の子みたいな子供はぬいぐるみを欲しがるんだろう?」
「可愛いからじゃないか?」
すると人間のことに詳しいリスが自慢げに答えます。
「あれは、例えばあのぬいぐるみがクマだったら、そこにクマがいるように思えるからさ。寂しさを無くすためらしいぞ」
「それだ!!」
クマが大きな声で言いました。
「来年のクリスマスにあの女の子が着たら、寂しくないようにぬいぐるみを渡そう! そうすればサンタクロースの町に帰っても一人じゃなくなるぞ!」
「でも、どうやってぬいぐるみなんて手に入れるんだい? 人間の店ではやっぱり買い物は出来ないし、盗んだものなんてあげても嬉しくないよきっと」
「だから作るしかないよ。今日の残り物が確か小屋のゴミ箱に捨てられていたはずだ。作り方は人間のを見ていたから少しだけだけど分かるし、なんとかなるんじゃないか?」
それにはみんな賛成してくれました。
「でも、一体なんのぬいぐるみを作るんだい? クマかい? ウサギかい?」
そのシカの言葉にみんなは頭を悩ませます。必死に女の子が喜びそうなプレゼントを考えていると、トリが思い出して羽を羽ばたかせてみんなに言います。
「そういえば女の子は人間の子供が好きらしいぞ! そう男の子の家で聞いたよ!」
「人間の形をしたぬいぐるみか……リスさん、なんとか出来るかい?」
一番人間のことを知っているリスに視線が集まります。少したじろぎながらも、リスは形だけなら任せてくれと胸を張りました。と、その時、雪原の向こうから一人の人間が歩いてきました。それは、一緒にぬいぐるみとソリを作った猟師の仲間の男です。
「その話、私も一つ乗せてもらえるかな。私が人間の人形を作るから、君たちは君たちの人形を作ると良い。きっと沢山あったほうがあの子も喜ぶだろう」
とても冬とは思えない温かな声でそう言いますが、動物たちは人間が自分たちの言葉が聞こえていたのかが不思議でなりません。ためしにクマが声をかけてみます。
「あなたはこっちの声が聞こえるのか?」
普通の人間にはただ『バウッ!』と吼えただけに聞こえたでしょう。しかし、男はニコニコと笑って答えます。
「ああ。私は少し魔法のようなものが使えてね、仲の悪い人間と動物がこうして、一丸となって何かが出来るならば少しでも力を使ってやりたいのだよ」
「ということは、手伝ってくれるんですね?」
「ああ。協力しようじゃないか」
動物たちは心の中でガッツポーズを取ります。とても頼りになる協力者を得て、人間と動物、そして魔法使いは勢い良く声を上げました。
「よし、じゃあそれでいこう!」
「今年は寝る暇が無いぞー!」
おー! と彼らは一丸となって、その年をぬいぐるみ作りに勤しみました。みんなの頭の中にはもう、女の子が笑って喜ぶ姿がずっと浮かんでいました。
毎日毎日を人間に教えてもらいながらぬいぐるみ作りに費やし、不器用な動物たちはとても長い時間を使いました。しかし、そこは他の猟師たちにも手伝ってもらい、とても立派なぬいぐるみを作ろうと何度も失敗しながら頑張ります。ただ、本物の女の子が喜ぶ顔を見たいがために必死になりました。
……そして、一年の時が経ちました。
―――
これは十二月二十四日の出来事です。サンタクロースはこの日の深夜、子供も大人も寝静まった頃に雪振る夜空をトナカイと共に駆けます。それはもう、一年に一度しか見れない光景だけあって感極まるものがあるほど楽しみで、嬉しい行事です。シャラン、シャラン、とトナカイの鈴が鳴ります。ついに今年もクリスマスがやってきたのです。
そこには一人の女の子サンタがいました。去年にやっとサンタクロースの免許を取って、今年は多くの子供たちにプレゼントを届けることとなりました。一年の間にいろんなことを練習し、もう失敗はしないと大きく意気込んでトナカイを走らせています。
今日の仕事は全て終わりました。見習いじゃなくなった女の子は沢山の子供たちにプレゼントを渡して、とても満足そうな顔で帰ろうとしていました。
すると突然、ドーン! と大きな音がしたかと思えば、いきなりトナカイが暴れだして物凄いスピードで走り出しました!
「止まってーー!!」
しかしどうにもならず、そのまま目の前に現れた木に突撃してしまいました。トナカイはそのまま空へ、女の子は雪のじゅうたんへと落ちていきました。女の子はそれにとても悲しくなり、きれいな瞳に涙を溜めて泣き出そうとしました。
その時、目の前でやさしげな男の声がしました。
「おっとごめんね、あのままじゃ帰ってしまいそうだったから少し乱暴なことをしてしまった。大丈夫かい?」
それは去年、一緒にソリを直してぬいぐるみを作ってくれた猟師の仲間でした。女の子に手を出しだしています。女の子はそれを握って涙を拭い立ち上がって頭を下げました。
「ありがとうございます。えっ、と、何か用ですか? 本当はサンタは人間とはあんまり関っちゃいけないんで……」
「分かっているよ。少し聞きたいことがあるんだが、いいかい?」
女の子は首を傾げます。
「サンタクロースの世界には、君と同じくらいの子供は沢山いるのかい?」
それに女の子は少しうつむいたあと、素早く首を横に振りました。やはりか、と男は呟いて女の子の頭に手を乗せました。それは季節とは真逆に温かく、女の子の目に浮かんでいた涙のあともそれで消え去ってしまいそうでした。男は白い息を吐いて言います。
「人間の世界では、仕事をするのは大人になってからだ。子供は遊んで学んで、精一杯親のものを食べて生きている。でも、世界にはそうはいかない人たちがいる。まさにここにいる君のようにね。仕事をしなければいけない、仕事をすることしかできない。そんな人たちがいる。でも、それでも決して忘れてはいけないのが、君はまだ子供だということだ」
言葉の一つ一つが女の子の心の中にまるで降り続く雪のように積もっていきます。いつの間にか、女の子は真剣にその話に聞き入っていました。
「大人は昔、子供だったんだ。子供のころに優しさとか、温かさとか、そういうものを沢山感じて、それを覚えたままで大人になっていくんだ。すると、大人は仕事で忙しくなって、友達と遊ぶ時間が少なくなっても、少しくらいならたえることが出来る。それを、君に作って欲しいんだ。たとえ子供の頃からそういう立場にあったとしても、友達を作って、沢山遊んで、元気に育って欲しいと思うんだ」
「でも……私には友達なんて……」
「ふふっ、そんな君に、彼らから贈り物があるんだ」
「――え?」
男はすっ、と身を横によけ、自分の後ろを指差しました。すると、そこには去年出会い、共に協力し合った仲間たちが雪景色の中にたたずんでいました。クマが何か『ガォ』と吼えました。
「『君に、プレゼントがある』と言っているね」
「言葉が分かるんですか?」
男はそれににっこりと笑うだけです。クマが一歩大きく踏み出して、女の子に持っている袋を渡しました。それは赤いリボンで包まれている、クマのぬいぐるみです。作りはあまり上手ではありませんでしたが、どうしてか女の子にはそれが本物のクマのように見えて、急に愛しくなって抱きしめました。そのあとも次々と動物たちが自分を似せたぬいぐるみを手渡してきて、溢れるくらいのプレゼントが女の子の手に渡りました。男が最後に、まるで人形劇に出てくるような小さな小人の人形を渡していいます。
「私は男だから良く分からないがね、普通の女の子はこういう人形を沢山持ってるものだよ。動物たちは、これを自分たちだと思って寂しさをなくして欲しいと言ってるんだ。私はそれに少しだけ協力したのさ」
「で、でも、こんなの貰って、わたし……」
「子供にも、大人にも、全ての生きているものには友達が必要なんだよ。それが出来にくい人はそうして少しでも心を支えてくれるものを持つべきなんだ。受け取ってくれるね?」
「そ、そんなの無くたって……」
なかなか受け取らない女の子に男はため息をつきました。
「君がソリを壊したとき、君がぬいぐるみを届けられないと泣いていたとき、それを支えてくれたのは誰だったかな?」
「……動物さんたちと、人間さん」
「そういうことさ」
「でも……」
「動物たちも言っているんだ。冬の夜、鈴の音が聞こえてきたら君のことを思い出して、喜ぼう。助け合ったことを思い出して、一緒に笑いあおうって」
「一緒に……」
そう言う女の子の腕にはしっかりと渡されたぬいぐるみが抱かれており、男はそれを見て微笑みました。
「メリークリスマス」
女の子がそれを受け取る理由なんて、その一言で済んでしまいます。
「さて、またソリを作り直さなければいけないね」
そう言って笑ったのは、男だけではありません。動物たちも、そして女の子も、小さな瞳に精一杯涙を浮かべて、とても綺麗な笑顔を見せ合っていました。
―――
一人の男の子がいました。夜中、もう他の子供も寝静まっているというのに、彼だけは目を覚ましていました。そんな彼の部屋に、コンコンッとノックの音が響きました。それから部屋のドアが開いて、一人の男の人が入ってきます。それは男の子のお父さんでした。男の子はお父さんに向かってわくわくした様子で聞きました。
「あれ、きちんと渡してくれた?」
「ああ。喜んで受け取ってくれたよ。きっとおまえの気持ちが届いたんだろう」
「そう。良かったよ」
「ところで、お父さんからもおまえにプレゼントがあるんだ。おまえは彼女の友達なのだろう? なら、これが必要なはずだ」
お父さんは後ろに隠していたものを前に差し出しました。
「友達ってのは、互いを思い合うことだ。そうだろう?」
それは真っ赤な服を着た、女の子の人形でした。その人形はにっこりと笑っており、男の子はそれを見て同じくらい眩しい笑顔を見せました。
その時、お父さんは思いました。やはり、子供には笑顔が良く似合うと。
「メリークリスマス、私の可愛い子供よ」
どうも、蜻蛉です。読了ありがとうございました。
今回は「ギフト企画」ということで、私個人の解釈としては、この話を読んだ社会人の方が、子供に読み聞かせられるような話をイメージして作りました。昨今、仕事に追われる社会人の方や、家で一人で遊ぶ子供が多いと聞き、この作品を作った限りです。
テーマとしては「友達」を意識して作りました。「ギフト」じゃねぇのかよ!?って話ですが、そこは気にしない方面で(ry
子供に塾に行かせるのも良し、勉強を強要するのも良し、習い事をさせるのも良し、ですが、個人的には遊ぶ時間を消費してまで優先させる事項ではないと。たまにはお子さんの頭でも撫でてはいかがでしょうか。
そういうわけで、蜻蛉がお送りしました。