親せき回り→大学レポート地獄→インフルエンザ→試験期間……
地獄を見ました……遅くなってすみません。
原作編 第八話
「た、たっけぇ―――!!!」
「しっかり掴まってルーク、もしも落ちたら助けられないわよ?」
「ぅ……おう」
ルーク達はグリフォン達に乗って上空を移動していた。その高度は50mと半ば低空でなるべく風の影響を与えないようにする為だ。
「この様子なら、一時間も経たないうちにカイツールへ辿りつけますね」
「空の旅ってなんかアニスちゃん感激ですぅ~♪」
「こんな体験、僕には初めてです」
ダアト以外では陸上用の魔物を扱う事はあるが、空を飛ぶ魔物を扱う事は全くと言っていいほどない。その類の魔物の性質による為だとか何か言われているが、一番の原因は振り落とされたらかなり危険な為だ。魔物の心や言葉が分かるアリエッタだからこそ扱える移動手段である。
導師イオンやアニスも役職柄でこのような移動をする事が無かったので今回が初めてである。
「今、フ―ブラス川の上空です。一先ずそこで休憩する事にしましょう」
アリエッタと共にフレスベルグに乗っていたハーミットは前方からそう言ってくる。その言葉に反応して和平一団の先導であるジェイドに了解を取ってから彼らは徐々に高度を下げて行く。
そして、近くにあった広めな高丘の場所へと降り立った。
「少し遅めですが、食事にするとしましょう」
「もー、アニスちゃんお腹ぺこぺこですよぅ~♪」
「ですが大佐……」
張り切ってる所を申し訳なさそうにティアが聞いてきた。それにジェイドは「なんです?」と尋ねる。
「誰が今回食事を作るんですか?」
「「あ……」」
何処となく冷たい風が吹いて行った……
「お、俺はぜってー作んねぇかんな! 料理なんかしたことねぇんだ」
「あの、私もどちらかと言うと得意な方では」
「私は一応作れますが、面倒くさいですね♪」
「僕も……残念ながら……」
「イオン様は別に気にしなくていいですよぅ! それじゃあ……」
―――カタンカタンッ―――
「あれ、そう言えば先生とアリエッタは?」
「何か音がしますが、なんでしょう……グリフォン達が集まっていて隠れて良く見えません」
―――ジュウゥゥゥゥ―――
「ん、なんか良い匂いして来たぞ!?」
「ひょっとして……」
そうティアが何か言おうとする前に、グリフォンの群れの中心から勢い良く何かが飛んで行った。その次の瞬間、グリフォン達は一斉に飛び上がり、それ目掛けて飛んでいく。
「もう一回、です」
「そらきた!」
更にもう一度、手に持っていたフライパンを大きく上へと振ると、再度飛んできた物を上手く嘴で捕えて美味しそうに啄み始める。
「何をしてらっしゃるんですか」
「ん? 餌やりだが」
ジェイドが近付いて良く見てみると、彼の手にはウィンナーの入ったフライパンが握られていた。何時の間にと言いたい位の手際のよさである。
「皆頑張ったからご褒美、です」
「てな訳だ。本来なら休ませる日程だったが無理をして飛ばせたからな。奮発でもしてやらなきゃこいつらも参るって訳だ」
「は、はぁ……」
ダアトでは一体どのような魔物の扱い方をしてるのか少し疑問に思えたジェイドであった。
バサバサバサバサッ―――!!!
「や、止めろ―!! 放してくれー!! あぁいや放すな―!!」
そんな時、何処からか誰かの叫び声が聞こえてきた。声の発信源を全員で探ってみると、一匹のグリフォンが誰かを脚で掴みながら頭を突き続けていた。
「おや、この川を渡ろうとする人間が居たのか。おーい! そいつは餌じゃないから喰うんじゃないぞー!?」
『クァ―――!!!』
とにかく、誤って襲ってしまった人間を助けるべくその場へと急ごうとハーミットは準備し始めたが、ルークがふとした事に気付いた。
「ん……? あの姿、どっかで見た事があんだよな」
「抜ける抜ける!! ハゲになるから!! ファブレ公爵の生え際みたいに俺はなりたくない!!」
「ブブゥゥゥ―――!!!!!」
ルークは突如噴き出した。そんな悪口を言う人間を七年の内で一人しか思いつかなかったからだ。
「ガ……ガイィィィィ―――――!!!!!」
「知り合いなの?」
「アイツ、家の使用人のガイだよ!! 何だってこんな所に居んだ!?」
「と、とにかく早く彼を助けましょう!! これ以上は危険です!」
「あっ! 降りて来た」
しばらくすると、グリフォンはガイを未だ掴みながら翼を羽ばたかせてゆっくりと降下してきたのであった。改めてガイの様子を見てみると、頭から少々血を流していてグリフォンの唾液でベタベタとなっていた。
「どうしてこの人襲った、ですか?」
『クァ―――!!!』
「……どうやらこの人の頭の上にウィンナーが落っこちたからそれを拾おうとしただけだって」
「あの時か……まぁ、すまんかった」
「うぅ……(泣)」
ガイ、本名は3Gと訳せてしまうほど単純で屋敷で共に働く姉によってほぼ毎日扱かれる日々を過ごす何かと残念な使用人であった。
(ガイという言葉の使い方:例)
き●ガイ、疎ガイ、被ガイ、人ガイ、災ガイ、etc
「ちょっとこら、メタ的な発言は控えろって!」
すんませんでした……
――――――――――――――――――――――
「いやー、フ―ブラス川を態々歩いていたらこんな目に遭うとはな……世の中分からないもんだぜ」
「よぉガイ、久しぶりだな!」
「やー、捜したぜぇ。こんな所にいやがるとはなー」
懐かしい笑顔だ。見飽きていたはずのそれを見て、ルークは久しぶりに顔を明るく綻ばせた。屋敷を出て以来ずっと腹の底にあった重い石が消えている。目の奥がつんと熱くなって、ルークは慌てて瞼を伏せた。まだ十日ほども屋敷を離れていないのに、こんなに嬉しくなるなんてカッコ悪過ぎる。
「なんだか大変なことになってたみたいだな。ルーク」
「……ああ。ったく、屋敷を出てからロクな事がねーぜ」
「はっはっは。屋敷を出てから大冒険! ってか?」
「あのな。笑い事じゃねーっての……」
実際、それどころではなかった。泥棒扱いされて蹴り飛ばされるわ、変なチーグルを押し付けられるわ、眼鏡野郎には嫌味を言われるわで……。
拗ねた顔で睨み付けると、こっちの気も知らないガイは可笑しそうに笑う。
「ははは、まぁまぁ。事件はだいたい解決したんだろ? じきにバチカルに帰れるさ」
「だと良いんだけどなー」
お互い今後の目標について二人だけで肯定し合う。
「ところで、あなたは……」
イオンが、ガイに物問いたげな視線を向ける。
「そういや自己紹介がまだだっけな。俺はガイ。ファブレ公爵のところでお世話になってる使用人だ」
立てた親指で自らを指してそう言うと、ガイは笑顔でイオン、ジェイド、アニスそしてティアと握手を交わした。
「ファブレ公爵の使用人ならキムラスカ人ですね。ルークを捜しに来たのですか?」
「ああ。旦那様から命じられてな。マルクトの領土に消えてったのは分かってたから。俺は陸伝いにケセドニアから、グランツ閣下は海を渡ってカイツールから捜索してたんだ」
チラリと現れた名前に敏感に反応したのは、ルークとティアだった。
「ヴァン師匠も捜してくれてるのか!」
ルークは顔を明るく輝かせている。
「……兄さん」
ティアの方は苦しげに呟いていた。聞きとがめたガイが怪訝に眉根を寄せる。
「兄さん? 兄さんって……」
「お~い、飯が出来たぞ」
ガイがその呟きの真髄を探ろうとした所、ハーミットがそう言った。実は、先ほどから彼は食事の用意をしていたのであった。
「お、やっとできたか! 早く食おうぜ!」
「そうですね、一先ず食事を優先する事にしましょう」
ルークはもちろん、ジェイドもそう言うので全員食事にすることが決まった。
「……ごめんなさい、先ほどの事はいつかにしてちょうだい」
「……いいだろう」
時と場合を考えた結果、今回は止めることにした。
――――――――――――――――――――
「うんめえぇぇぇ―――!?」
「おや、これはなかなか……」
「やっぱり何回食べても美味しいわ。先生の料理って……」
「ご主人さま! ミュウもこんなご飯食べた事がないですの!!」
評価は上々ならしい。精神約九十年の経験は伊達ではなく、彼の料理の腕まで上達させていた。
「もー、アリエッタってばずるい! 大抵は先生の手料理食べられるんでしょ?」
「アリエッタ、それが一番の楽しみ、です」
ちなみに、今回のメニューはチャーハンである。上手く卵を絡めさせていて甘みが脂と合って絶妙のうまさが香ってくるのだ。
「ところで、この肉は何を使っているんですか? アクが無くて鶏肉のようですが何処か違うような……」
「蛇だ」
「ゴフッ―――!!!」
「ブッ―――!!!」
「うっ……」
「みゅっ!?」
いきなりのトンデモ発言に全員が噴き出した。しかし、アリエッタだけが黙々と食べ続けられている。これこそが野生少女の力だというのだろうか?
「冗談だ。本当はそこいらにいた野兎の肉だ。だから安心しろ」
「う……ウサギ……」
安心しろと言われてもティアにとってはあの可愛いウサギが今日の献立に入ったと聞いて何処かショックであった。
「……手を付けた以上ちゃんと食べなさいティアちゃん」
「え……あの……」
その表情を読み取ってかハーミットは釘を指すようにそう言った。
「生き物は生きる為に常に何かを犠牲にする。これは摂理でもあり、避けられない事だ。それなのに、折角死んだこの兎の命を無駄にするつもりかい?」
「……ごめんなさい」
ティアは先ほどまで手を止めようと考えた自分を恥じながら謝る。
「そう謝る事は無いさ。そんな思いも大切になることだってある」
そう言って、ハーミットは口にチャーハンを運び続ける。
「哲学者みたいですね。ハーミットの考えは」
「いえ、そのような大層な物ではありませんよ」
イオンに関心されながらも謙遜の言葉を返す。
「……ちょっといいか?」
「なんだ?」
そんな時、ガイが突如話しかけてくる。何かと思いながら返事を返してやる。
「アンタ……いや、ひょっとすると俺は……前に会った事がないか?」
「どうしてそんなことを?」
「昔、何処かで見た事がある気がしてな……人違いじゃなきゃいいんだが」
そう言うガイの顔をよく見てみる。正確にはその瞳だ。その奥には何か強い物を感じられる。もしや、“あの時”の事を覚えているのか?
可能性は高いな。嘗て、この男の姉にも自分の事を確認して覚えていた。となると、自分の事をこの男にも話している可能性があるはずだ。
だが、今は肯定しておく訳にはいかない。どちらにせよ……俺がこいつに会ったという実証はこいつの正体に繋がる可能性が大きい。しかも、この場にはマルクト軍所属の大佐が居ることだってある。
「俺は記憶にないな。お前のような人間には会った事が無い」
「……そうか」
これ以上はガイは何も聞かなかった。だが、最後まで疑う素振りは止めてはいなかった。
「さて、ゲリュオンはどう回収しておくかな。また戻るとするか」
「えっ、一緒に着いて行ってはくださらないんですか?」
「本来、私が譜業バイクで進む筈だった道は此処じゃないから此処まで走らせる訳にはいかなかったんです。ですが、今回は場合の為に一旦置いてグリフォンで道案内をする役割が目的でしたからね……此処からはアリエッタに任せる事にします」
「えぇー、また先生とお別れですかー?」
「仕方がないんだよ。俺も本来の動きに戻らないと……」
―――ゴゴゴゴゴゴゴゴ―――
「うぉわ! じ……地震か!?」
「気を付けて!! かなり大きいわ!?」
唐突に大地が鳴動した。下の大地に亀裂が走り、紫色の蒸気のようなものが噴き上げる。
「おい、この蒸気みたいなのは……」
周囲を見回すガイの声に、ティアが鋭い声で答えた。
「障気だわ……!」
「いけません! 障気は猛毒です!」
イオンが叫ぶ。 かつてユリアが地の底に封じたとされる障気。ルークが焦った声をあげる。
「吸い込んだら死んじまうのか!?」
「長時間、大量に吸い込まなければ大丈夫。とにかくここから離れないと」
「早くグリフォンへ!!」
それぞれグリフォンに乗ってこの場から離れる。幸い、高丘に休憩していたから逃げ場を失う事は無かった。
「危なかった。もしも河を渡って横断しようとして居たら……」
「瘴気に呑まれていたかもしれませんね」
自分達のもう一つの可能性を想像してみると、ぞっとする。
「しかし、瘴気が噴き出してくるとは……何か此処の大地に異常が出ているのかもしれませんね」
「こりゃあ暫くは此処に近付く事はできなくなったな」
ハーミットは下の様子をしばらく眺めながらグリフォンに跨り続ける。そして、唐突に後ろを向いてルーク達に言う。
「それでは、私の役目は此処までです。後はアリエッタに着いて行ってください」
「ご苦労様です。貴方の御心に感謝します」
「強引の間違いじゃないのか?」
「いえいえ、そんな事は一切♪」
ジェイドとハーミットは互いに刺を含めたような言い方をして会話をし合う。
「なんかあの二人仲良くね?」
「さぁ、どっちかというと違うんじゃないのか?」
ルークとガイはひそひそとこの状況をお互いで分析し合っていた。
「では、これで」
そう言って、グリフォンは翼を羽ばたかせて方向転換をしてルーク達の進行方向と反対の道を戻って行くのであった。
――――――――――――――――――――
<セントビナ―>
「あの方はもう行ってしまわれたのか!?」
「いえ、ハーミット響士殿は自身の取り物を回収するべくもう一度戻って来るといわれていますが……」
「私は彼に会う為態々グランコクマからやって来たのだぞ! 無駄足だなんて真似にしてたまるものか!!」
「私にそう言われましても……」
老齢の男性がマルクト軍の一人に突っかかるようにして叫び続ける。兵士は困ったような顔をしてどうにか彼の対応をしていた。
「フォッグ殿、そう荒げられても我々ではダアトの行動をどうこうする権利など持ち得ぬ。しばし待たれよ」
「マグガヴァン将軍、ですがのぉ……」
この場に入って来た将軍に静められ、気を落ち着け始める。
「おい、グリフォンだ!」
「よかった。戻ってこられたんだ!!」
その時、兵士達が何かを見つけたらしく、若干嬉しそうな顔をしてそこへ指を指していた。しばらく待っていると、グリフォンはセントビナ―の門の前で着陸し、乗っていた人物も共に脚を地面に付けた。
そう、彼こそ先ほどまで案内をしていたハーミットであった。
「戻っていいぞ」
『クァッ―――!!!』
ハーミットは手を使って行くようグリフォンに促した。その動作に伴って、グリフォンもハーミットを残して何処か飛び去って行った。
「ハーミット響士殿~!!」
「んっ……?」
そんな時、何人かの兵士が大急ぎで此方に向かって来ていた。何処か尋常ではない様子でだ。
「何か用か?」
「時間が間に合ってよかった! 実は、貴方にお会いしたいという人物が此処セントビナ―に参られたんです」
「何と、首都グランコクマに存在する【マルクト国立医学院】の学院長“フォッグ・ジョシュア・フォールミア”氏ですよ!!」
「学院長……マルクトの……」
そう呟きながら街門の向こう側を見てみると、髭を生やし、細目の顔をした老齢の老人が杖を付きながら佇んでいた。
―――――――――――――――――――――
「貴方のような立派な御方に出合えるとは、この老いぼれ……光栄ですじゃ」
「いえそんな、マルクトの医学界で名高いフォッグ氏がわざわざ私に会う為ここまで」
ハーミットは内科的な旧医学の医師達と対立している身ではあるが、全てを知らない訳ではない。重要な発見をした人物などは顔を知らねども名だけでも知っている事にしている。
「私はもはや前線を引いた身です。今は唯、学園長の椅子に収まっているだけの唯の老人ですじゃ」
「ですが、貴方の功績は素晴らしい。貴方は医学界に無くてはならない存在だ」
「ホッホッホ……貴方にそう言われるとは、嬉しい事です」
お互い握手をして、互いを褒め合う会話をしていく。どうやら彼は人間の価値を身分で決め付けるような人間ではないようだ。
実質、ハーミットはたいていの貴族医師達には邪魔な存在極まりない人間ではあるが、本質を見ている医師には尊敬される存在でもある。その例としては、ハーミットの医学を学びにダアトへ留学しにくる医者とかだ。
「で、この度は何用で?」
「…………」
そう聞くと、フォッグは唐突に黙り始めた。杖を付きながらため息を吐いてさえいる。
「お恥ずかしいかぎり、マルクトでの医学はまだまだ発展途中ですじゃ……治療のハッキリしない病気も星の数ほど存在する」
「……えぇ」
「たとえダアトへ留学し、戻って来た医師達もまだまだ本格的な実用へ至ってはおらず、技術も経験も足りません」
彼から語られるのは、現代のマルクトの医学界に対する憂いであった。病気をみて人をみずや患者を選び、難しい病気はすぐ他へ任せるようになったなどと色々だ。
「そこで今回参られたのは、ハーミット殿……いや、ハイル・シュヴェール殿」
「…………ッ!?」
いきなり本名を言われた事にハーミットは驚いた。
「貴方に“帰国”してもらいたくお願いに来たのです」
そう言い、次にはフォッグは席を立ち、テーブルに手を付きながらハーミットに頭を下げた。ハーミットは唖然としていた。
「今まで私の元で卒業してきた医師達の素行、彼らに変わってお詫びさせていただきます」
「止めていただきたい! 私はそのようにされる資格などない!!」
「それは亡命のことですな……実は、その件をピオニ―皇帝陛下に直接直訴させていただきました」
「なっ……!?」
皇帝に直訴をするとは下手をすれば一族朗々に破滅へと導かれたりする事がある。それなのに、この男は自分の為にそこまでした。その事実にハーミットは息を呑んだ。
「すると、なんと陛下は嬉々としたご決断で貴方の罪を許されたのです! おかげで貴方の亡命記録は白紙にすると申されたのですじゃ!!」
もはや空いた口が塞がらなかった……
「そして、これが一番言いたかった事です。お願いですじゃ! どうか、マルクトで教鞭を振るって欲しい!! 貴方の素晴らしい医学を我々にも学ばせて欲しい!!」
「いえ、ですが私の名は未だ悪い意味で……」
「それが何ですか! 学院内でも貴方への理解を示している人間は多くいる。そんな彼らの為にもどうか今一度帰国を!! その為ならこのフォッグ、学院長の椅子を明け渡しても良い想いです」
「いや、そこまでされても……その……」
ハーミットはその勢いに幾らか呑まれていた。反論をまるで許さないかのような勢いでだ。
「もちろん、ダアトでの活動は続けて貰ってもよろしい。今の立場を無理に変えようとする気が無ければその条件を呑ませていただきます」
「ですが何故、なぜそこまで私なんかに尽くそうとするのですか。貴方のような方が!?」
そう、そこが疑問だ。ハーミットはフォッグとは何の接点もない。顔を合わせたのも今回が初めてである。
「……二年前、とある少女を手術しなさった事、御覚えですかな?」
「二年前……」
ハーミットはニ年前の事を頭の底から探り始める。
――――――――――――――――――――
<二年前>
その時は、シュウ先生との密談の為に秘密裏にベルケンドに訪れていた。そして、譜業バイク【ゲリュオン】を受け取ってマルクト領から出るところだった。その途中の街で、馬車に跳ねられ、両足を複雑骨折した女の子に会った。
その時は偶々見つけた為に直ぐに病院へと運ばれたが、何か気になった俺は病院へと着いて行く事にした。
そして、病院内ではその子の父親らしき人物と医師が何か言い合っていた。
「娘は、娘はどうなんですか!?」
「……娘さんは両足の骨や筋肉が滅茶苦茶です。このままでは命の支障があるため……切断するしかありません」
「き……切る……あの子の、足を……」
「命と引き換えです……」
「そんな……そんな……」
傍にいた母親は泣き崩れ、それを父親が慰めようとする。医師は残念そうにその様子を見ていた。
「今の医学の技術では、娘さんの足を残す事は……」
「だったらその患者、私が治療しよう」
その時、ハーミットはその少女の治療を名乗り出た。
色々と身元を聞かれたが、何かと誤魔化してただダアトの医師だという事を名乗って渋られながらもなんとか手術へと持ってくる事が出来た。
そして、病院の一室ではハーミットが常時持ち続けているケースの中の道具の一つ、テント型無菌室を使って手術が行われようとしていた。
「本当にやるのですか? 治癒譜術では筋肉を修復できても神経や骨はそうはいかない。それでも手術で元通りにできるかどうか……」
手術着を着た医師や看護婦達はあり得ないという目でハーミットを見る。彼の正体を知らず、外科手術と言う物の本質を対して知らない人間だからこその反応だ
「患部を切開、砕けた骨を整復した後、切れた神経を繋ぎ、切れた腱、筋肉も縫合して繋ぐ」
「ほ……本当に切断せずに残すつもりなのですか?」
「通常ならば切断する判断が正しい。普通の医者ならば手術中に空気塞栓を起こすからな……」
そして、彼らは奇跡を見た―――正確なメス捌き、緻密な縫合術、的確な判断……どれをとってもそれは彼らの知る一流とは遥かに超えた技術を目のあたりにした。それは、もはや手術という言葉で収まる物ではない。敢えて言うなら……
―――命の芸術であった―――
――――――――――――――――――――――
「たしかに、そのような手術をした覚えがあります」
「おぉ、思い出していただけましたか」
それこそが重大な事だと言わんばかりにその言葉を喜んだ。
「実は……その少女こそが、私の親戚の孫娘なのです」
「そうなのですか」
意外な事実にハーミットは冷静な態度で反応する。
「私は孫娘の命ばかりか、今後の人生も救ってくださったその医者を探しまわりました。立ち会った医師からその特徴、正体全てを聞きだし、ようやくそれが貴方だと知った時には……私の立場としてもそう簡単に会える事ができないという事実で残念に感じました」
そうだよな、国立医学院の学園長が俺みたいなオールドラントの医学界の爪弾きと会ってちゃ色々と変な事になるからな……
「だからちょくちょくと貴方に会う為の準備を秘密裏に用意してたのです。そして、その成果が今……」
「その、お疲れ様です」
一応そう言っておくべきかと思い、そう口にした。
「で、御答えをお聞かせくださいませんか?」
フォッグは嬉々とした顔でそう尋ねてくる。しかし……
「申し訳ありませんが、亡命記録を白紙にするとかの話は無しにしてください」
「…………!?」
自分が想像した答えとは裏腹な物が出て来て驚く。
「そこまでして自分の“傷”を消そうとはしたくはありません。自分の尻拭いは自分でします。それに、私は余計な肩書きなどは嫌いな物でしてね……今の状態が一番気に入っているのですよ」
もしもマルクトで名を広めても実質、彼にとって邪魔でしかない。なぜなら、彼は“そういう”人間だからだ。
「私には、今を支えてくれる仲間や家族がいる。マルクトへ戻る事は、今までの関係を続けれなくなる可能性がある……」
どこか悲しそうな顔をしてハーミットはそう言った。その表情を読み取って、フォッグは静かに席を立つ。
「……どうやら貴方の決意はお固い様だ。今回は退かせていただきましょう」
「……折角の御好意、申し訳ありません」
「ですが、亡命記録の件は意地でも通させていただきますぞ。後々に役に立つかもしれませんからの」
「…………」
ハーミットはこれ以上は言わなかった。この人には何を言っても無駄だろうと判断したからだ。
この時、彼とは後々に何度か会う事を、彼は知らなかった……
「そうじゃ、もしよろしければ孫娘を嫁にどうかの? あの日以来貴方を慕っておるとの事じゃ」
「いえ、結構です」
「そう言わさんな。今年で16の初々しい娘じゃぞ♪」
「……貴方は俺を“ロリコン”にする気ですか(怒)」
ハーミットは笑窪をひきつらせながらそう云い放った。
正直言って、親馬鹿がそう否定しても意味がな―――――
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