手術場面を書いていくのが段々ハードになって来た……
でもめげないもん!
第75話
Side:イオン
「イオン様、平気ですか?」
「心配しないでくださいアリエッタ、僕は全然平気ですよ」
ハーミットは船に乗り込んだ所だろう……僕達の方が早く着けるから時間の差があるのは仕方がない。フレスベルグでの移動は何時乗っても快適な物だ……
「此処で東北……所謂斜め右方向に進んでいってください、しばらく進めば砂漠が見えてくる筈です」
「はい……です」
ケセドニアで僕の未来が決まる……預言に消されるか……預言を打ち消すか…………
意外と不安ではない……何故だろうか…………僕はアイツを信頼してるからなのだろうか?
思えば、随分と丸くなってしまった気がする……自分以外の人間を下らないと思い、自分もまたどうでも良くなっていた筈だった僕も心の底から楽しいと思える事がたくさん増えた。
導師として堅苦しい態度をとる事を止めてハーミットとアリエッタを中心とした奴らで馬鹿をやってみる。それがどんなに面白いと思って来たか考えきれない……預言で決められた人生なんて糞くらえな態度を取って本来なら導師として有るまじきな事をしたり……ひょっとしたらこれは僕自身なのかもしれない……導師としてでもイオンとしてでもなく……裸のままの僕が求めていた事なのだろうか。
「ありのままの自分で居る事……」
「……イオン様?」
「あ、いえ……なんでもありませんよ」
今だからこそ、僕はこう言いたい……もっと生きたい…………と
それにしても……少し息が苦しいな…………この頃激しく動いてなかったから肺が少し縮んだかな?
――――――――――――――――――――
Side:ハーミット
船による移動もようやく終了した。後は当初から計画しておいた場所に行けばそこからイオンの手術が始まる。アイツの片方の腎臓は腎不全に陥っている。機能しない腎臓は体にあるままだと循環上無毒に出来なかった老廃物などが吸収されやすくされてしまう……ならば、その腎臓を切除して老廃物などをもう片方の腎臓で働かせれるような内臓の構造にしなくてはいけない。
「暑~~い!!」
「ここまでとは……」
そういやエレナとリーシャはケセドニアに訪れるのは初めてだったな……砂漠地帯は初心者にはちときついか……
「もはや摂氏40℃超えてますね……相変わらず…………」
「そりゃそうだ、砂漠には水と名のつく物は砂によって地底深くまで流れて行ってしまう、その為雲も出来やしないし、ましてや日光を遮る植物もないから熱は籠る……まさにダブルパンチだな…………」
「エレナさんとリーシャさんは日除けの布着けときますか?」
「お、お願いしますぅ~!」
インド系のターバンを思わせるかのような布着を二人は顔に巻きつける。服を重ねたら暑くなるのでは?と思う人もいそうだが……実際は汗で体を冷やすのに効率が良かったりもする。
「先生!!」
用意をしていた所にふと大声を上げて此方を呼ぶ声が聞こえる。そちらへ視線を向けてみると見慣れた姿の者がいた……
「アイラ!……どうしたんだ?」
「イオ……あの子が!!」
アイラは計画の協力者の一人だ……その事を知っている。しかし、今イオンと言いかけたな……人がいる所でその名前は禁句だ。とっさの判断で言い変えたが、イオンがどうかしたのか?
「とにかく急いでください!」
「お、おい!!」
アイラはそのまま向こうへと走って行った。行先は分かっている……孤児院だ、そこにあいつらもいる筈だからだ。詳しい話も聞けないまま一先ず俺は彼女の跡を着けて行った。
――――――――――――――――――――
「げほっ!げほっ!!」
「イオン様!?」
「しっかりしなさい!落ち着いて呼吸をして!」
孤児院の一室ではイオン、アリエッタ、フィリスが居た。だが、イオンの方だけが様子がおかしい……呼吸をするのが苦しくなっているのだ。
「どうして!?まだ尿毒症になるには早い筈なのに……」
尿毒症……血中に含まれる尿素や老廃物により引き起こされる腎不全の合併症である。毒素は血液の赤血球を溶解させ、また血小板の異常な減少も引き起こさせる。
「何が……何か変わった事は…………!?」
少し考えた所でフィリスはある事に気がついた。
「ねぇアリエッタちゃん、もしかして貴方達……空を飛んで此処まで来なかった?」
「え……どうして知ってる……ですか?」
「やっぱりそれよ!」
フィリスは思い出した……血圧の変化による臓器の影響をだ…………
高い所では人間は気圧の問題により血圧が上がる……所謂高血圧になるという訳だ。
高血圧がつづくと細い血管がせまくなって腎硬化症といわれる状態となり、腎臓の働きが落ちて逐には腎不全(尿毒症)になることもある。
そこに今回は当てはまったという訳だ……
「盲点だったわ……余計に悪化させただけじゃないの!」
「イオン様!イオンさまあぁぁぁ……」
バンッ―――!!!
「何があったんだ!」
「ハイル!?」
「パパ……」
ようやく孤児院にハーミットが到着した……彼の姿を見てみると息切れていて汗も滝のように流れている……余程急いで来たようだ…………
「がはっ……」
ベチャッ……
「イオン!?」
それと同時にイオンは何かを吐きだした……血だ…………
消化器系までも尿毒症に影響されてきているようだ……これはまずい!
「話す暇なんてない!―――緊急オペだ―――!!!」
のんびりしてはいられない……命を救え…………
――――――――――――――――――――
「クレアチニン導入!」
「はい!」
「まだ初期になったばかりの尿毒症だ!早めの対処が肝心となるぞ!気を引き締めろお前ら!!」
「「了解!!」」
簡単な担架を使って孤児院の中に前から作って置いた速式手術室へとイオンを運んでいく。地下室だが無菌性で明かりも十分にあるので活用は問題なしだ。
「イオン様!」
後ろからアリエッタが走ってきて傍に寄って来る。担架で運ばれているイオンは相変わらず苦しそうな表情でいる……
「大丈夫だアリエッタ……安心して待っていなさい……必ずイオンは戻って来るさ」
「パパ……イオン様……死んじゃわないよね……絶対助かるよね…………」
「心配するな……」
―――俺達を信じろ―――
バタンッ……!!!
そして、手術室のドアは閉じられる……ここからはハーミット達の闘いだ…………
アリエッタとフィリスは静かにその場で待つしかない……それが彼女達にとっての最善方法なのだから…………
「麻酔導入完了……では、これより右腎の片側完全腎切除術及びに腹腔での透析液による手動透析術を始めます……よろしくお願いします」
「「よろしくお願いします!」」
「メス……」
「はい……」
先ずは胸部と肋骨に沿った開腹……皮膚、脂肪、筋肉の順と刃を進めていく。特有の線を描く執刀で腹部は破れた布のような形となる。
「筋鉤……患部の洗浄を行います、生食」
「はい……」
次は吸引機で溜まる血を吸い上げて視野をはっきりさせる。出血部位の大きい所は縫合並びにガーゼによる止血を施す。
「脂肪吸引、カニューラを……」
右腎と腎周囲の脂肪及び副腎とを分離し、失血による腎重量の変化を防ぐ目的で腎血管及び尿管を二重結紮し、右腎を摘出する。測定していた右腎の湿重量を左腎を切除する際の基本重量とする。切開した腹壁及び皮膚を縫合する。
此処が勝負時だ……一つ一つの血管を素早く結紮しつつ切断して縫合する。完全に分離するように血管の流れを作り変えなければいけない……
「鉗子……鋏を…………」
瞬き一つせずに集中し続ける。周りのメンバーもそれに合わせてペースを合わせて行く。チームワークの合った作業が迅速に手術を進めて行く……
「エレナ……汗を…………」
「あ、はい」
しかし、地下といえどもやはり砂漠地帯では少し暑い……長時間の手術は俺達にも危険かもしれない。
「ディノ、絹糸を……」
「わかりました」
結紮を任せてハーミットは切除と縫合のサイクルの繰り返す……太い方、細い方全てを一つ一つと吻合する。
「これで……全て、と」
パチンッ……
縫合糸が切られてそれと同時に白く変色した塊がイオンの腹から出てきた……そう、これこそが腎不全になった彼の右腎である。白いのは壊死を起こしている証拠だ……これは根本的に取り除かないと後が怖い。
「うわ……見事に真っ白ですね…………」
「細胞がちゃんと栄養補給されてない証拠だわ……」
「……ホルマリンにでもなんでも漬けてこい」
少しばかり冗談をいう余裕も幾らか出てきているようだ。
「じゃあ、腎動脈にはさんである鉗子を取り外すぞ……」
ここからだ……血液の流れの変化により全体の血圧も変わってくる。その拍子にショックを起こす可能性がある……これを防ぐ手立てはない…………
カチッ……
そして、鉗子を外す……新しい血液が流れ出し、血管が脈動し始める。
ドクンッ……
「ごくっ……」
「…………」
ドクンッ……ドクンッ……ドクンッ…………
ビィ―――!!
「先生!心拍が……!?」
何……!?下がっているだと…………まさか、新しい血液が入って来た際に出たショックか!
ちなみに、先ほどの音はディスト製の心拍のみを測る事が出来る簡易式心電図だ……まだ十分とは言えないが、無いよりはマシだろう……とにかくまずい!
「先生、心停止!!」
「(心室細動か……!!)キシロカイン50㎎静注!!」
まだ終わらせてたまるか……!!
「ヒュー、カウンターショック!!」
「はい!」
脳の障害が出る可能性が高い時間は約3分後……それまでに何とかしなければ!
「離れろ!!」
バンッ―――!!!
強力な電流がイオンの胸に打ち込まれる……心電図の波が揺れ出すが……それは先ほどの電流の影響でしかない……彼自身の鼓動はまだ動き出してはいない!
「中心静脈からボスミン1アンプル!!」
「はい!!」
*ボスミン……心臓においては、洞房結節の刺激発生のペースを速めて心拍数を増加させ、心筋の収縮力を強め、心拍出漁を増大するので強心作用を現す。
「もう一度、カウンターショック!!」
バンッ―――!!!
「心拍戻りません!!」
「くっ……酸素ボンベ、アンビューバック、心マ開始!!」
少しでも脳に酸素を送るべく空気を送る為の処置を施し、加圧による心臓マッサージを始める。
「イオン、しっかりしろ!!」
グッグッグッグッ―――!!!
「息をするんだ!!」
グッグッグッグッ―――!!!
ハーミットは心マをしながらも意識の無いイオンに呼びかけ続ける……だが、心拍は戻らない…………
そして、次第に制限時間が過ぎ出す……ディノはこの時ふいに考えてしまった……もうこれ以上は…………
「どうした!手を止めるな!!」
「すみません!!」
ハーミットの叱咤により我を取り戻し、再開を始める事ができた……
「……四分経過です、先生…………」
「諦めるな!!」
……約束したんだ、必ず治してやるって…………
「……もっと生きたかったんじゃないのか…………」
―――不本意だけど……信じてるからね…………―――
「まだまだやり残した事があるんだろ……」
―――あんたは最高の医者だよ、僕が認めてるんだ……自信持ちなよ―――
「イオン!!起きろ!!」
お前はこんな所で死ぬ奴じゃないだろうが!!
「早く起きろ!!」
「先生…………」
「大丈夫、助かる!」
「もう……」
「放せ!」
「でも……」
「うあぁぁぁぁ―――!!!」
ドン―――!!!ドン―――!!!ドン―――!!!
この時、奇跡が起きた……渾身の力で振り上げた拳により心臓マッサージにより、一つの小さな灯が…………
ピッ……ピッ……ピッ…………
「嘘……」
「奇跡だ…………」
「せ……先生!心拍再開しました!!」
「はぁ……はぁ…………」
再び燃え上がり始めた…………
「こいつめ……何処までも面倒掛ける奴だ…………」
その顔には笑みが現れ始めていた……しかし、まだ油断はできない。再び止まらぬようにも処置を施さなくてはいけない…………
「エピネフリン静注!!」
*エピネフリン……アドレナリンとも呼ばれ、血中に放出されると心拍数や血圧を上げ、瞳孔を開きブドウ糖の血中濃度(血糖値)を上げる作用などがある。
そして、全てが安定する……
「じゃあ次だ……透析液の準備を…………」
これは前世の俺でも経験がない……透析液による浸透圧の変化を上手く使って毒素を体から出させる方法だ。さてと、腹部を閉腹して透析液バックを腹膜にと……
「もう少しだ……頑張れよイオン…………」
――――――――――――――――――――
Side:アリエッタ
「遅い……です」
「仕方ないわアリエッタちゃん……導師様の手術は最低でも4・5時間は掛かるのよ……」
早く会いたいです……イオン様…………
でも、パパならきっとイオン様の病気は治してくれるもん…………
パパは約束は破った事はなかった……です…………
何時もアリエッタの事……ちゃんと考えてくれてた…………
だから、今回も…………
バタンッ……!!
その時、ちょうど手術室からストレッチャーが出てきた。その上には、マスクを付け……ゆっくりと眠っているイオンの姿があった……
「イオン様!!」
アリエッタはその姿を見てすぐさま駆け寄った。声に反応してはくれなかったが、その姿を見れただけでも彼女には十分だった。
「病巣は完全に切除しました……後は血液透析を一日中取り換えながら行えば大丈夫でしょう、傷口は譜術で塞いでますので痛みもしばらくすれば直ぐに引く筈です……」
「もうイオン様大丈夫、ですか!?」
「えぇ……もちろん」
「ただ……」
ディノは何かを言いかけたが……口を閉じた。その様子にフィリスは可笑しく思う。
「ただ……?」
「その……」
「心停止が長かったから脳に障害が出るかもしれない……」
「先生!?」
「ディノ……今ここで隠していても仕方がない」
手術は成功した……だが、その代償は……どうだろうか?
「脳に障害……それは本当なの…………?」
「今はどうかわかりません……本人が起きてから調べないとどうか…………」
「……どうなっちゃう、ですか?」
「おそらく……麻痺…………」
「「…………」」
ハーミットは考えてた……死ぬ運命は回避した…………だが、これからの運命は保障してくれてなかったのかもしれない…………
「クソッたれ……」
今はただ、愚痴を零すことでしか……そのやるせなさを堪える事ができなかった…………
脳が酸素なしで生きていられる時間はわずか3~4分とされています。
皆さんもしっかりと応急処置の正しい知識は持ち合わせておきましょう。
きっと役に立ちますので……
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