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この頃スランプになりがちで申し訳ありません。
久々の手術シーンです。
第56話
「担架班急げ!病室の鎮痛剤及び止血剤、増血剤は遠慮せずに使え!とにかく死なせるな!」
「腕や足が千切れている者達は!?」
「もはや消滅している方は四肢切断術を行う!綺麗に残っているのなら出来る限り四肢縫合術だ!!」
「急げ!各自係に廻れ!!」

 こいつは酷い……襲われた導師よりもこいつら襲撃犯達の方を同情しちまうぜ。
 俺達治癒係は導師に襲撃を掛けたという奴らを治療することになった。
 だが、殆どが虫の息で助かる見込みの奴は十数人居た内2,3人しかいない。
 
 だが、こいつらは今ここで助かったとしても導師襲撃の罪で死罪確実だろう……
 此方の被害はアリエッタだけだったが……幸いにも急所を外れたので死には至らず、今はベッドで安静にして眠っている。
 こいつ等にはこのまま後に苦しんで死なせるよりも今ここで心臓を止めてやりたいと変な事を考えるが、まだ生きてる以上そうはさせない。

「先生……13番患者の心肺停止及び死亡……確定しました……」
「……死体袋を何袋か運んで来い……」
「…………」

 それにしても……この惨状を作り出したのが……被害者である≪導師≫なんだよな。
 俺達が現場に駆け付けた時には他の治癒係に治療されているアリエッタ、導師守護役達に先導される導師……そして、大量の血だまりの上に横たわる襲撃犯達……【の体】。

―――アカシックトーメント―――

 導師のみに代々伝えられるダアト式譜術の一つ……
 ダアト式譜術とはユリア・ジュエの弟子の一人、フランシス・ダアトにより編み出された戦闘では『特殊な譜術』と『体術』を画気的な組み合わせにして使い、惑星預言プラネット スコアを詠む事ができる唯一の譜術でもある。
 他の譜術と違って第七音素を大量に使う為、扱いが難しく……第七音譜術士でも全く使える事が出来ない物だ。
 その中で導師としての素質を持つ者だけが使える譜術なのだ。

 その威力の凄まじさがこいつ等の体に直接刻みつけられたかのように重体の怪我として現れていた。
 くそ、細胞組織レベルまで破損されているような傷口だな。
 これは……手術しないと無理だな……

「この二人は手術室へ連れて行け。ディノ、リーシャ、ヒュー、エレナの四人は助手として着いてきてくれ。」
「「ハイ!!」」

 
――――――――――

 手術器具良し、ライト良し、麻酔導入良し……
 俺は全ての用意を確認していたのだが……

バタッ……!!

「先生!!今入った情報なんですが……」
「何があった……」
「冷凍保存させてたこの人の右腕が……」
「…………何!?」

 問題が起きた……片方の男の千切れた腕が感染症にかかってしまったそうだ。
 なんてこった……このまま繋げても確実に壊死を起こし、合併症を併発してしまうぞ!?
 
 やはり……無理か……四肢を繋げれる時間はマイナス温度条件でも最高6時間までだ。
 四肢縫合は時間との勝負だというのに……

 ちなみに知らない人には少し教えておこう。

 くっつけるということは、元の状態に戻すということにはならないんだ。
 切断された動脈と静脈を再建すれば切断された組織は生き残るが、いったん切断された神経は完全には元通りには戻らない……
 腕には、手の動きに関係した重要な神経が3本あるが、そのうちの1本が損傷され、手術で縫合したとしても手には障害が残る。
 ましてや3本とも切断されたのなら大きな障害が残る物だ。

 神経の問題だけではなく、筋肉の障害も残る。
 通常、筋肉組織は絶え間ない血行によって栄養が送らされているが、この血行が2時間以上、途絶されると不可逆性の変化を起こす。
 こいつが一番の厄介ものでな……筋肉が萎む事により元々通ってた筈の血管と神経を圧迫してしまうからなぁ……

 時間が足りない……やはり、四肢縫合は諦めるしか……
 いや、そう簡単に諦めてどうする!!
 不可能など滅多にしかない!!可能を不可能に簡単に変えるな!!

 考えろ……感染症防ぎつつ、尚栄養を送り続けさせるには…………
…………
………
……






 ―――別に腕は腕の部分にしか戻せないという訳ではないだろう?―――


「術式変更だ!エレナ……今から言う事を他の三人にも伝えておいてくれ!!」
「やはり、四肢縫合は諦めて……」
「いや、縫合はするさ……だけどそれは今という訳じゃないという事さ。」
「え……?」

 前世から引き出した興味深い術式の一つが頭に浮かんだ……
 これを思いついた奴はある意味尊敬するぜ……

「良く聞け……この術式はな…………」


――――――――――


 フォニム灯が一台の手術台を照らしつける。
 その真下には白の手術着を着た男女五人……
 傍には様々な器具が並び、今かと使われる時を待ち続けている。

「今から四肢縫合術に取り掛かる。君達はこの術式は今回初めてだろうが……一つも見逃さないでほしい。助手をしつつ俺から学べ……それだけだ。」
「で……でもハーミット先生!あの方法で本当に大丈夫なんですか!?通常感染した四肢は……!!」
「だから保存するんだ……元の肉体というこれ以上にない保存場所があるのだからな。」
「……今まで貴方に驚かされてきましたがこれは無いでしょう……なんせ……」


―――千切れ、感染した右腕を足の動脈、静脈を直接取り出して腕のと繋ぎ……なお且つ足自体に縫合するなんて……―――


「術後はしばらく抗生物質の投与などにより感染を完全に抑制させ、その後に再び本来の四肢縫合術で腕を付ける……それじゃあ……」


―――手術(オペ)を開始する―――


「メス……」
「はい……」

 狙うのは右足の股あたりから切開して動脈と静脈を取り出す。
 メスの鋭い刃はスンナリと皮を、肉を切り……そこから血が流れ出す。
 元よりマーカーを付けたのでその線に沿ってメスを走らせていく。
 その時間約10秒ほど……

剪刀(クーパー)……ペンローズドレーン。」

 煎刀……鋏の事を言う。
 メスでは綺麗に切れない所をゆっくりと剥がすようにして切り進める。
 余り深く入れると目的の血管を傷つけかねないので素早く且慎重にやる。

 ペンローズドレーン……排液管であり、内腔の血を抜くためのものである。

「鉗子……3本だ。」

 鉗子……代表的なものはコッヘル止血鉗子という物で血管を挟む為に使われる。
 これにより余剰な出血を防ぐ。

「心拍が少し低いな……酸素導入。」
「は~い、入れま~す♪」

 助手の一人、ヒューがどこか抜けた口調で酸素のバルブを開き出す。
 
「筋鈎……ディノ頼む。」
「解りました。」

 ディノに術野の拡大を任せる。
 二本のL字の形をした金属板が肉を引っ張り奥の組織を覗かせる。

「ありましたね……」
「あぁ……今からこの大ずい動脈、及び静脈を剥離して同じく剥離した腕の血管と縫合するぞ……メッツェンと洗浄の為生食を。」

 ここからだ……ここが正念場だろう……
 こいつを無闇に傷つけたら大出血を引き起こす。
 素早く鉗子で血流を塞いで切断した後に腕のと繋ぎ合わせるぞ。

鑷子(せつし)、ガーゼ……出血量は!!」
「今の所、800mlです!!」
「術前からの出血の為それより多い可能性大だ……A型の輸血の準備を!!」

血液型の調べ方についても述べさせてもらおう。

 たとえば、A抗原を持つ赤血球(つまりA型の血液)を、ある血清に垂らすと固まる。
 この血清には、A抗原を固まらせる物質「抗A抗体」が入っているのだ(抗A血清)。
 逆に、固まらなかった血清には「抗B抗体」が入っている(抗B血清)。

 つまり、纏めるとこういう事だ。

「抗A血清は固まり、抗B血清は固まらない→血液はA型

 抗B血清は固まり、抗A血清は固まらない→血液はB型

 両方固まらない→血液はO型

 両方固まる→血液はAB型             」

 また、血漿の中の抗体からも調べる方法があるが……これ以上は説明しきれないのでハブらせてもらおう(それを作者の都合と言う……)。

「ふぬぐぐぐぐ!!!」
「ポンピング(注射器による血液の直接送入)できついだろうが頑張れよ……アルブミン(血漿タンパクの一つで、血管内に水を保持する働きを持つ)追加!!」

 これで出血性ショックは心配ないな……

「よし、血管剥離完了……次は腕を……ッ!?」
「どうしたんですか?」
「見て!血管の太さが違うよ!?これじゃあちゃんと縫合できないよ~!?」
「これは予定外だったな……けど太さが小さければ……広くすれば良い事だ!!」

バチンッ……!!

「な……腕の血管を斜めに切って幅を広げた!?」
「すごい!これなら問題無しです!!」
「私語は慎め……絹糸と縫合針」

シュッ……シュッ……

「ディノ……鉗子を……」
「了解しました……筋組織も縫合するので?」
「そうだ……できるだけ癒着を活用させて壊死を起こさせないようにだ。」
「先生、腕の切断術……大方完了です。」
「ガーゼと包帯……今回は譜術は出来るだけ使わない方向にする……余り自然治癒力のサイクルを壊したくないからな……煎刀」

パチンッ……!!

「四肢縫合術完了……ラストスパートだ、これより右腕の四肢切断術に取り掛かる……なるべく長さを残してのだ……いくぞ。」
「「はい!!」」


――――――――――

 
 手術は無事成功した……
 結局生き残ったのは二人だけだった……
 もう一人の方は足をやられていて完璧に挫滅していたために四肢切断術しか方法はなかった。
 手術時間は計2時間ほどだ……俺にとっては長くも短くも感じない。
 それよりも急がないと……俺は飲み水を片手に目的地へと向かう。
 
 そう、アリエッタの所だ。

「調子はどうなっている?」
「あ……先生でしたか。今は安静にして眠っていますよ。」
「……そうか。」

 その言葉を聞いてほっとした。
 傷は浅いとはいえ、万が一の心配は越したことは無い。
 未だベッドで眠るアリエッタの傍へと近寄って枕の隣辺りに座る。

「……無事で……本当によかった……」

 俺は患者の優先順位は飽くまで重症度によって決めている。
 だから、感情とかで優先順位を決めてしまっては助かる命も助からないからだ。
 命の生死に携わる以上俺は……冷酷になることだって気にはしない……
 けど……

「一刻も早くお前の元へ駆け寄りたかった……この気持ちは本物だ……」

 家族として、父親としてアリエッタを思う気持ちに偽りはない。
 それだけは知っていてくれ……
 そう考えながらハーミットは眠るアリエッタの頭を優しくなで続けるのであった……

「ハーミット先生……連絡が……」
「……言ってくれ。」

 先ほどまで助手を務めていたエレナがこの病室にやって来た。
 そして、治癒係の纏め役としての顔に即座に変更する。

「あの……先ほど手術を行った二人についてなぜ治療をしたのかと詠士達から何通か抗議が……」
「……やっぱり来たか。」

 まぁ……そうだろうな……
 俺の信念と奴らの信念は何処かと相容れない所がたくさんあるだろうしな……
 罪人だから治療はさせない……そんな事は却下だ。
 “生きようとしている限り”俺は治療をする。
 直接患者の体に聞くからわかるのさ……
 
「尋問とかうんたらかんたらで誤魔化して長引かせとけ……ディノの奴得意だろ?」
「ディノ先生可哀そう……まぁそれはいいとして……」
「いいのかよ……」

 少しふざけた所で……

「本命はこちらです。」

スッ……

「これは……集令か……どれどれ……ってなんだと!?」

手紙の封を見て俺はがく然した……なぜなら……

「音叉をシンボルとしたこの印は……導師のみにしか……!?」


さて、どうなるとやら……
薬品類とかは正確には調べれませんのでそこんところ考慮をお願いいたします。
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