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今更ですが、明けましておめでとうございます。
第27話
「うがぁぁぁぁ………!!!」
「しっかりしなさい!意識を失くしてはいけません!」

屋敷の調理場では人だかりが集まっていた
白衣を着た医師らしい人間が一人の患者を抑えて暴れるのを止めようとしていた
患者は苦痛の顔と共に叫びを上げ、苦しみを少しでも紛らわせようとしているようだった

「レイシス先生!こいつはどうなるんですか!助かるんですか!?」
「…胃腸に関しての薬はもはや効きそうにありません………もう、今は譜術で痛みを和らげさせることぐらいが限度となるでしょう………」
「………ッ!?」

つまり、助かる見込みが低いという事だ
薬を服用させても効果がない以上、打つ手は無い………

「もう少し…もう少しだけ治療してやってください!こいつはまだ半人前ですが、料理人として今まで頑張って来てた奴なんです!ここで短い生涯を迎えさせるなんて………酷過ぎる」
「むぅ…しかし、これ以上の投与は患者に害を………」
「お願いします!!」
「……………」

料理長は希望に縋って医師に患者の治療を勧め………
医師は患者の体を考えてこれ以上の治療を止め………
どちらとも正解でも間違いとも言えない対話が続く中………
彼らは現れた………

「此処か?さっき言った場所は…」
「ん………?」

「「殿下………ッ!!!!!」」

ピオニーとハイルであった………
この時になって丁度辿りついたようだ………
周りにいた使用人達はこの屋敷での主人が突然現れたため一斉に頭を下げ、膝を着いた

「…今は楽にしていい………そんな場合じゃないだろ………?」
「は…ハッ………!!」

ピオニーはそれをすぐに止めさせる
なんせ人の命が掛かっている状況だ
王族として相応しくだとかそういう体面を持つ暇など在りはしない………

バッ………!!!

「ちょっと失礼します………」
「君は………誰かな?」
「自分の身の紹介は後にさせてもらいます………邪魔ですから…」
「………ッ?」

この屋敷の医師レイシスはハイルに対して持った印象はこうだ
失礼な奴だ…と………
ハイルは別に悪気があって言った訳ではないのだが言葉を選ばずに出した物がこうであったためそう考えられても可笑しくは無かっただろう
だが、そんな事を考える事は後回しにして今は目の前の病人に意識を集中させた

「すみません…幾つか質問よろしいですか?」
「………うぅぅ………」

返事としての言葉は無かったが首を縦に勢いよく振って肯定の意を示してくれた
もはや喋る事も出来難くなってしまっているようだ………

「此処までお腹が痛くなる前まではどこら辺が痛いと感じてましたか?」
「……ま……まん………なか………!!!」

始めは腹の中心………

そして、今は………


グッ…!!!


「ガアァァァァ―――――!!!イテェェェェ――――――――――!!!!!」
「き、君!いったい何を!?」

ハイルは何を思ったのか右脇腹の方に指二本を使って軽く押してみた
傍にいたレイシスは患者の苦しみようを察してハイルが何か変な事をしているではと警戒する

「右脇腹…!?」

痛い部分が広がり…患部が固くなり始めている………
これは………


「盲腸(虫垂炎)だ!!」

しかもこの様子では完全に腹膜炎を起こしている!!
まずい………
腹膜炎が起きているとなるなら………
この患者は………




―――――半日で死ぬ…!!!―――――




手術しなければこの患者は助からない!!
どうする…今回は昏睡状態などで麻酔は多少必要なくても何とかやれる状況じゃない!!
これじゃあたとえ症状が解ったとしても手術が行えない………
患者が意識下の中で麻酔なしで執刀なんかしたら激痛で臓器が飛び出す事がある!!
マズイ………出来ない……………


「どうしたんだハイル!?いきなり蹲ったりなんかして!?」
「……………ッ!!」

諦めるな………考えろ!!
この世界でも麻酔の代用になるような薬はあるかもしれない
………駄目元でも聞いてみよう

「あの…聞きたいんですが………」
「………何かな?」
「エーテル………ってありますか?」

麻酔の母とも言われる薬剤:エーテル……………
1846年モートン氏によってエーテルによる全身麻酔が行われ、その後広まったとされる物だ
16世紀に合成され、催眠効果を持つ事が発見されてから当時人体に最も害の少ない麻酔とされた
吸入から始まり、開放点滴法による導入が確立されてからは多くの外科手術に貢献してきた偉大なる発見と発明である

この世界にも前世と同じような薬効のある物もあったが…名前が全く違っていた
もし、今回もそうなら諦めるしか………

「エーテル…エーテル………もしかしたら君が言うのはひょっとしてアトミックエーテル酸というものかい?」
「アトミックエーテル酸………?」
「そうだよ………フォ二ミンと混ぜると血中酸素を分解させる薬として有名なものだ」

………違う
それじゃない………やっぱり駄目だったか………
そんな物じゃ麻酔の効果を一割も発揮しない
やはり無理か………

「そういえば、間違えてその煙を吸ってしまってその為の解毒剤を服用したけど分量が多すぎて仮死状態にしてしまったという事故があったなぁ………」

ガバッ…!!!

「その解毒剤です!!」
「え…え………?」
「その解毒剤を仮死状態にするくらいの分量でください!!」
「解毒剤………そんな物をどう使うって言うんだ!?」
「それについてお話します!!」

そして、改めて俺は患者の病名について、治療法について詳しく迅速に説明した
それを聞くやレイシスは驚愕の表情をしていた………

「つまり…君はこの患者の腸の一部がエンショウというものを起こしているため、それを切って取り除かなければならない…そのため、痛みを一時的に感じなくさせるための薬が必要って訳かい!?」
「仮死状態にさせる薬ならば、使い方を考えれば痛覚を麻痺させる事に使えれるかもしれませんから!!」
「馬鹿な…そんな治療法なんて今まで聞いたことも無いぞ…!!だが…君の話しは理がかなっている………」
「正しいかどうかを探るのは後にして早くその薬を飽和状態になるまで水に溶かして持ってきてください!!」
「わ…解った………!!直ぐに用意しよう!!」

そっちは頼む………
じゃあ俺はアレを取りに行こうか………

「ちょっと必要な道具取りに行くため宿屋に行ってくる………その人の様子ちゃんと見といてくれ」
「は…はい………!!」

ユリアシティで使った疑似手術道具を荷物に入れておいた
わざわざかき集める必要はもうしない為にもな………
念を入れといて良かったわ………







道具の煮沸消毒完了………
次は…この薬剤をどう使うかだ………
この解毒剤は血中酸素を分解するのを阻害する効果がある………
だか、副作用として筋弛緩剤と同じ効果を発する………
つまり、大量に服用すると心筋まで弛緩させてしまう事があるから仮死状態になるという事だ
そもそも、全身麻酔は仮死状態にする事と同等の意味を持つ
全身麻酔では静脈麻酔薬と筋弛緩剤を両方使うからな………
そこに本来ならこのような大きな手術では効果が薄い冷却麻酔を使えば良い
首、脇、患部の周りに冷水を包んだ布を挟ませる方法だ

「………仮死状態になる一歩手前の状態になればいい…そうなれば成功………」
「つまり、昏睡状態に近くさせるという訳かい…?」
「痛みとは、そもそも意識されてこそ感じる脳の防衛反応ですからね………」
「しかし…マスイか………痛みを感じなくさせる薬があるとは思いもしなかった………」
「ですが…これは完全な物とは言えないでしょう………患者が“解って”しまったら最早効果はすぐになくなる………」
「危険は上場………か」
「では…始めます………まずは冷水を含ませた布を指示する場所へ………」
「解った…君の指示に従って行こう………」

レイシスはハイルの言った場所へ持ってきた冷水タオルを置く
置かれると同時に患者の肌は赤みが引き始めてくる………
血管が委縮して血液が流れにくくなっている証拠だ………

「では次に…この解毒剤を………開放点滴法で少しづつ使用していきます」
「カイホーテンテキホー?」

開放点滴法………
エーテル麻酔でも使われた昔の吸入麻酔の使用方法だ
いくつも重ねたマスクに本来なら揮発性麻酔薬を垂らして徐々に麻酔を掛けていくという物である
ちなみに、揮発性と言うのは今で言うならガスと言った方が良いだろう………

「よし…いくぞ………」

10滴………

20滴………

40滴………

一分間に徐々に垂らす液を増やしていく………
二倍にしてやっていくのがコツだ………

「ゲボッ………ゴホッ………!!!」
「すまない…耐えてくれ………」

開放点滴法は効果に時間が掛かるというのが穴だ………
患者が異物として感じ、涎を多く出す事があるから良くふいとく必要がある………

ビクッ………!

「む………!?」

ビクッ………ビクッ………!!

「痙攣が起こり始めたな………」
「効いているのか………」

なら此処からは少し慎重に………
仮にも劇薬の分類に入る物だ………
さじ違い一つで効果は変わる………

ピクンッ………ッ…………………

痙攣が止まった………
呼吸は………







成功だ………





「うまくいったのかい…!?」
「脈もある…呼吸もしている………麻酔導入完了です………」

それじゃあここからだ………
ビンに入れてあった蒸留させたアルコールを患部に塗っていく
これはアラミス湧水洞の出口で野宿してた時の間に白ワインから作っておいた物だ
消毒完了………
それじゃあ………



手術オペを開始します………」
実際エーテル麻酔での開放点滴法はそんなに早く効きはしません。
フィクションとしてこの話の中の事は捉えていてください。
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