第17話
あの日から四か月目の月日を俺達は迎えた
ユリアシティで暮らして行く事に慣れ、ようやくマシな形となった頃だった
幾らかは薄れたが、ここの住民とも大抵の接点を持つようにもなった
此処に住むのを拒み続けてた人達ではあったが、それがなくなったのはある事を知ったからだ
フェンデ家はあの始祖ユリアの子孫であったことだ
ファルミリアリカ様にも聞いた所、フェンデ当主が入り婿で自身がその血族だったらしい
それを知ったとたん、ここの住人は踵を返したように態度を変えてきた
なんでも、始祖ユリアの子孫ともなるなら尊重するべき存在に等しいとな……
現金な奴らだ本当に……
それに、俺はその子孫の忠実な使用人みたいな事を陰で口叩いていたし……
まぁ…そんな事は二人が頑なに否定してくれた
ヴァンもそんな事を聞いた時は怒ってくれたりもしてくれた
俺の事はかけがえのない人だと言い張っていた
そんな風にまで言われて俺も若干照れたな……
そんな訳で俺はユリアシティで今だ生活している……
何にもしない訳にもいかないので雑用を主にしたような仕事をちょくちょくとしたりしている
ゴトッ……
「支給された食料の荷はこれですべてです」
「そうか…じゃあ倉庫に運んで置いとけ」
今俺は外郭から送られてくる物資の運搬をしたりしている
ユリアシティに住む住人は普通の街と比べて人口は少ないが、それでも多いと感じれる
その分だけ物資は届くのだから木箱詰めや麻袋詰めの荷を建物まで運ぶ
「倉庫は……裏の方から行くんだったな……」
場所を思い出しつつ荷台を使って運んで行く
坂道とかあったら大変な量だが、この地は平坦な形にしかなっていないからあまり心配する事は無い
早めに終わらせておこう
「衣服類、薬品類、食料類……確認完了」
ふぅ…これで終わりだな
渡されていたチェック表に記入して最終確認をし終えた
後はこれを渡して帰るだけだ
「しかし、なんか暇だな……」
ここには本の類はあるにはあるのだが……預言、創世期、ダアト、ユリアとジャンルがそんなものばかりしかない
読もうにも俺にとっては前世でいうと聖書を日常で読み続けてるようで嫌になりそうで仕方がない
それでも、オールドランドの裏側を色々知るためには仕方なく読むしかなかった
「はぁ…せめて生体系の本が読みたい…」
此処で愚痴を言ってても仕方がない……
部屋に戻ろう……
「今戻りました」
「お帰りなさい、ハイル。今日はお早いですね?」
「今週分は少し少なめでしたからね…ファルミリアリカ様」
「あら、もうそんな堅苦しい口調で話すのはせずとも良いと前にも申しましたわ?」
「……固着してしまいましたからまだ…」
「ほらまた、…あなたには礼を言っても言いきれないほど感謝しているのですよ?この四か月…私達をいつも見守ってくださったのですから……」
「…………」
そんな褒められるような事じゃないんだ……
そういう風にしてたのは…自分に後ろめたさを感じているから……
何とかする…そう宣言したはずなのに…俺には何もできなかったに等しいから……
結局ヴァンには咎を背負わせる事になったんだ
「そう…今は見守る事しか……」
「……?」
「あ、独り言です」
「そう……ならいいのですが」
「そういえば、お腹の方もずいぶんと大きくなりましたね…もう妊娠中期に入ったところでしょう」
「…この子は私にとって旦那様からの最後の贈り物ですから……」
「……そうですね、無事に…生まれてきてほしい…いや、絶対無事に産まれてくると信じています」
これ以上、この人達に悲しみを与えないでくれ
だから、頼む……
「聞きたいんですけど、名前はもう決めました?」
「えぇ、初めて貴方が懐妊の知らせを伝えた後に旦那様と二人で決めておいたのですから」
「お早い事で…してその名は?」
「それはね……」
ダッダッダッダッダ!!!
そんな時だった…誰かが走ってこっちに来る音が大きく聞こえてきたのは……
その人物は良く知っている者であった
「ハ……ハイルさん!大変なんです!リートが…リートが……!?」
「どうしたヴァン?リートといえばライラックさんの所の息子んとこの名前じゃないか…その子がどうかしたのか?」
「と…とにかく来てください!」
「お…おい……そんないきなり引っ張るなよ」
息を荒げながらもヴァンは俺の袖を引っ張って強引に連れて行こうとする
とにかくなにやら一大事らしそうなので速さを上げて走って一緒に着いていくことにした
「リート…リート!しっかりしてくれ!リイィィィトオォォォ!!!」
着いた先には人だかりができていて、その中心に横たわり苦しそうな表情をした少年とそれを心配して呼びかけてる男がいた
…何があったんだ?
「どうした!その子になにかあったのか!?」
「あ…あんたは……」
「今はそんなことどうでもいい!それより何があったか詳しく教えてくれ!」
「数分前に…段差で躓いてしまって……あそこにある譜業に胸をぶつけて……それから急に苦しみだして……!!」
「胸をぶつけた……?」
それを聞いた俺はすぐさま顔色を覗って見た
…唇や顔の皮膚が青紫に変わり始めようといる……まずい、チアノーゼの兆候が出てる可能性ありだ!!
そして、上着を破りすぐさま触診に移る
なぜ態々脱がさないのかと言うとその時の衝撃で患部を余計に傷つける可能性があるためだ
……肋骨に損傷なし……呼吸に浅さは見られない……肺に異常は無いという事か……
となると……心臓か!?
ゆっくりと耳を心臓のある場所に付ける
ズズ……ズズズ……ズズ……
心音が不安定……脈は低下傾向……全身がうっ血状態……これは…………!?
「まずい!?心タンポナーデだ!」
「し…しんぽたで………!?なんだそれは!」
「心臓は本来心膜と言う物に包まれている臓器なんですが…なにかしらの強い衝撃により臓器本体の方に損傷を受けて出血し、その血液が臓器と心膜の間に溜まっていくとそれが心臓の動きを阻害し、全身に十分な血液を送れなくなってしまう症状の事です!!」
「心臓が!?ど…どうすればいいんだよ!?」
「…………」
どうする…考えろ……
解離性大動脈瘤だと手術をしなければ助からない……
だけど、ここには麻酔はおろか…抗生物質も外科手術道具もない……
いや、ここじゃなくてこの世界にはまだないんだ……
考えろ……考えろ…………
…………
………
……
…
………!?………
「今すぐ俺が言う物を持って来い……」
「な……なに!?」
「裁縫針、ナイフ、フォーク、コルク栓つきのガラス瓶、ゴムのチューブ、沸騰させた熱湯を大量、白ワインのような色のつかない酒、一度も使ってない清潔な布を大きい方と小さい方を何枚も…そして絹糸だ!!」
「なんだそれは!?そんな物持ってきてどうするんだ!」
「そうだそうだ!!早く治癒師をダアトから……」
「良いから持って来いと言ってるだろうがウスノロ共が!!!!!この子の命がどうなってもいいのか貴様らは!!!!!」
「ひぃ………!!」
そして、最後には逃げるようにその場を離れて行った
他の人達も同様だ
“あの頃”に戻りかけたな俺………
それからは、すばやくユリアシティ中から住人が俺が提示した物を持ってきてくれた
絹糸は困った事に見つからない可能性が大きいかと感じて少年の毛髪を代用する策を考えておいたが心配なかった
なんと、ファルミリアリカが初めてユリアシティに来た時の服がその素材だった
後で感謝だ…………
ゴムチューブは譜業の部品の一部でそれを包む部分を取りだしたので代用した
そして、俺は準備を始める
大き目の白い布を所に穴をあけて簡易式のエプロン状にして作り出し、それを着込む
小さ目の方は口や頭や手の部分に巻き付けてマスクや手袋などの代わりにする
麻酔は無し…抗生物質は無く直接的なアルコール消毒と煮沸消毒のみ…
昔の人はそんな状況でも手術をし、運が良ければ回復した記録がある
それに、俺は第七譜術士だ
縫合した後、治癒譜術で素早く患部を塞げば何とかなる可能性は大だ……
これはスピードと的確な処置が命綱となる
後は……俺の腕が錆ついてなければの問題…………
それじゃあ………
「手術を始めます……」
取り戻すまでだ………
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