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原作編 第二十一話
 数ヶ月前の嵐により、橋が大破されたことによって十分な道がまだ補正されてはいないフーブラス川には整備の目処はまだ立っているとは言い難い。

 なぜなら、魔物が整備中に襲ってきたり、瘴気が大地から漏れつつあるからと人員を導入するのは危ぶまれているからだ。そんな川にてガタガタと大地が震動を始める。何かが近づいてきている……川で水を飲んで体を休めていた魔物達もまたその気配に感づき始めている。

 そんな川の下流から威風堂々と姿を表す大きな戦艦・・・タルタロスが現れ始めた。

「タルタロス、フーブラス川へ突入!」
「崖への衝撃に備え、譜術障壁起動!」
「了解! 譜術障壁起動!」

 戦艦内では艦長を始め、タルタロスの操縦をする者達が一人一人の役目を果たしつつ、この川へと入る作業をしている様子が見られていた。

「数日前、ここで瘴気の噴出が見られたそうで、橋の再建を中止していたのが功をなしましたね」
「うむ、でなければ橋を壊してまで進むというマルクトの財政に大きく関わる出来事になるようですからな」

 タルタロスは順調に進んでいく。途中幾つか崖の範囲が一部出ているために、強引に進んだりして壊したりしながらだが・・・障壁の御陰で艦本体には破損は受けない。

「しかし、フーブラス川を通る事が出来るとはな……」
「以前まではカイツールの国境法に基づき、軍事関連の兵器、戦艦はこの地域までは持ち込まぬように義務付けられてましたからね」

 和平問題に伴い、ハーミットがクリムゾンの伝手で回したキムラスカ側の人員配置の仕方は今回のフーブラス川横断の行為を黙認させる事に収まった。

 そんな時、戦艦のスピードが落ち始める。よく見ると、操縦者が停止処置を取っているのが伺えた。

「艦長!」
「何事だ」
「あちらを!!」

 操縦者が指さした方向には、窓から通して見る、崖に狭まれて経路を塞がれている道が存在していた。このまま進んでも、タルタロスでは通る事は難しいだろう。

「どうしましょうか!?」
「むぅ……大砲を使うわけにはいかん・・・もしキムラスカ側に機器で我々が譜業兵器を使ったという記録を掴まれては外交関係に罅が……」
「ですが、このままではフーブラス川を通るのは不可能です!」
「別経路からの作戦を……駄目だ、ここ以外は瘴気でタルタロスでも通るのは危ぶまれるほどの濃度が噴出している」

 いきなりの目の前に佇む問題により、停止を余儀なくされていた。

 そんな様子は艦内でも伝わっていた。

「あれ、揺れが感じられなくなったな?」
「タルタロス止まったの~?」
「方向展開の為じゃない?」

 タルタロスの食堂でマルクト兵共々に食事を取らせてもらっている治癒師団達も違和感を感じる。

 そこへ副艦長が現れ、艦船前に巨大な障害物が存在し、このままでは進めない事を掲示する。その通達により、食堂にいたマルクト兵達は一斉に何処か持ち場へと走っていく。

「うーむ、大抵はキムラスカ側にも通達しておけば砲撃は使えるが、何せ向かうのはアクゼリュスだからな……」
「しかも秘密裏、何するつもりだとか滅法問いただされそうですよね」
「呑気な事言わないでよ~! このままじゃ~」
「けど、人個人で使う譜術なら問題はないだろうな」
「さすがヒュー、わかってますね」

 いち早く、解決法を表記したヒューにディノが賞賛の声を上げる。

「そういや、さっきマルクト軍から先生お呼び出しされてたね」


「「「あ、もう大丈夫だな(ね)」」」


 一気に安心感を手に入れた。そんな噂の当人というと……

「【氷獄の河≪コキュートス≫にて眠る魔の力よ、この名を以て永遠の安らぎを与えん、永久≪とこしえ≫の氷にて眠れ……】」


―――アブソリュート!!―――


 問題の崖の上から障害となる両側部分に禁呪:アブソリュートを解き放ち、忽ち崖を氷の壁へと変貌させてしまう。

「次、第五音素の譜術を先程の場所へお願いします」
「了解しました! 構え用意!!」

 マルクトの譜術士達が氷漬けの崖へと手を向け、音素を練り始める。
 使うのはフレイムバースト・・・第五音素を用いる中級譜術だ。

 幾人ものフレイムバーストが束なり、崖の氷を溶かしつつ崖岩を破壊していく。だが、それではまだまだ終りではない。

「清浄なる光よ、邪悪を滅ぼす槍と化せ≪ホーリーランス!!≫」

 次にハーミットが放ったのは第六音素の上級譜術:ホーリーランスだ。
 槍状に固められた第六音素が壊れかけた崖を再び集中放火のごとく、突き刺さっていく。それによって、所々に罅が入り始め、『あと一息』という所だ。

「さて、そろそろ出来頃か……」

 崖上から様子を伺っていたハーミットは頃合と見て、崖沿いの場所へと立つ。
 そして、息を深く吸いながら構えを作り出し、音素を足の譜陣へと吸収して力を蓄える。
 凄まじい音素の流れが周りの地面を震わせ、今にも破裂しそうな力の暴風雨を中心に乱れていく。

「総引退避! 急げ急げ!!」
「巻き込まれたくないものは退け!」

 そんな崖下ではこれからするであろうハーミットの行為で起こりうることから逃れるため、持ち場を離れていく。そんな様子を確認し、何も心配することがないと判断したハーミットは―――


―――思いっきり崖岩へと震脚を踏み込んだのだ―――


 そこからは想像できるところだ……強烈な威力の震脚は忽ち崖に亀裂を激しく走らせ、粉々に崩壊させていく。障害となる岩壁が見る間に取り除かれ、平らに近い崖へと姿を生まれ変わらせたのだ。

 これは熱膨張の原理を利用して行なった地質破壊の一種だ。地球では機械というものを使う事で漸く起こせるような現象だが、この世界では原理を少し知っていれば直ぐ様人個人で起こせられる。

「よし、次もう片方に入るぞ」
「了解! そのまま続行の協力を願います!」



 とりあえず、彼らの現状はこんな感じだと表記しておこう……

――――――――――――――――――――

 バチカルから東南へ進み、東アベリア平野を抜けて街道を北に上ると、ザオ砂漠と呼ばれる広大な砂の大地が広がっている。この惑星上で唯一の砂漠地帯だ。寒暖の差が厳しく、時に砂嵐が起こることすらあるこの難所を抜けるには、通常なら陸艦か、せめて小型恐竜[うま]の魔物を使うところなのだが、ルークたちは徒歩だった。成り行きとはいえ、自虐とも言える過酷な道を行く一行である。

「うー。早くイオン様を見つけないと……」

 砂に足先を埋めて歩きながらアニスが唸っている。バチカルを出てから既に数日を経ていた。ティアも不安げな顔だ。

「命に危険はないと思うけど、心配だわ」
「ってか、オラクルの連中の目的は何なんだ? 平和条約の妨害なら、俺らを邪魔するのがスジってもんだろ?」

 流れ落ちる汗を拭いながらルークは言う。

「イオン様をさらわないとダメなワケは、別にあるってこと?」
「そういう事になるわね……」
「ったく。めんどくせー」

 敵の思惑。起きていることの意味。分からない事だらけだ。……おまけに、砂漠はシャレにならないほど暑くてしんどいし。

 うんざりしてぼやくと、アニスがぷっと頬を膨らませた。

「そんなこと言わないで~。ルーク様~」
「わ、分かってるよ。ともかく、オラクルのヤツに追いつかないとな」
「そうね」

 ティアが頷く。

 だが、砂漠越えは想像以上に辛い。何故か一人で涼しげな顔をしているジェイドは別にして、健康な成人男性のガイや、軍人として訓練を積んだティアやアニスでもそうだろう。まして、王宮育ちのナタリアは何をかいわんや、であった。

「……ナタリア、大丈夫かい?」

 見るからに辛そうなナタリアをガイが気遣う。

「……アクゼリュスの皆さんの苦労を思えば、これしきのこと……」
「とはいえ、辿り着く前に倒れては無意味です」

 ジェイドが言った。

「……え、ええ。それは」
「私かガイの後ろを歩きなさい。今なら日差しの関係で日陰になっています。少しはマシでしょう」
「わたくしはっ!」
「女性が体力的に劣るのは当然のことです。あなたには別の力を期待しています」
「そういうことだ。ナタリア、分かるね」
「え……ええ。そうですわね。お気遣いありがとうございます」

 ガイに優しく微笑まれ、不承不承頷いてナタリアは謝辞を述べた。

 一連の会話をルークはただ傍観していたが、不意に怪訝な顔になって口を挟む。

「ん? ……ちょっと待てよ。なんで俺はひさし扱いにならねぇんだ?」
「背が低いからじゃないか?」

 ガイの応えは明快だった。

 ルークは身長171cm。決して低くはないのだが、長身のガイやジェイドに比べると10cm以上低い。

「……き……気にしてることを……。今に伸びるんだよ!」

 喚くルークの声音はちょっと悲壮を帯びている。



 そうしている内に、砂漠で人影を見受けられるようになる。
 ザオ砂漠のほぼ中央に大きなオアシスがある。砂漠を行く旅人が必ず立ち寄る交通の要所で、当然のように商人が集まり、店が並び人が行き交って、小さな村の様相を呈していた。

 村のあちこちには古びた柱のようなものがあり、殆どが倒れて半ば砂に埋もれている。

「何か、色々倒れてますね。遺跡か何かの残骸でしょうか?」

 ティアがジェイドに訊ねている。

「これは、遥か昔に滅んだと言われている都市の名残……正確には都市の外れ、とでもいったところでしょうか」
「では、昔はこの砂漠に人が住んでいたということですの?」

 ナタリアが小首を傾げた。

「確証はありませんが、その昔この辺りは砂漠ではなかったようです。ただ、何らかの天変地異で砂漠となり、風化してしまったようですね」
「ふーん。じゃあ、なんで水がこんなにあるんだ? 砂漠になったんだろう?」

 興味ないような顔をしながらも次第に引き込まれて、ルークも疑問を口にする。

「それは、あの巨大な譜石のせいでしょう。あの譜石が落下した衝撃で、地下にあった水脈が湧き出したのです」

 ジェイドの示した一方には大きな泉があった。その中央に見上げるほどの高さの譜石が突き立っており、強い日差しをチラチラと反射しているのだ。ガイが感心の声をあげた。

「へえぇぇ~、さすがはジェイド。何でも知ってるんだな」
「いえ、先程すれ違った商人に、話を聞いただけですよ」

 ――……いつの間に。

 全員がそう思った。やはりジェイド恐るべし、である。
 
 村の中央には石積みで囲んだ小さな泉がある。傍にローレライ教団の教団員が立っており、道行く人々に声をかけていた。

「この泉から出る湧き水は、ローレライの加護を受けた神聖なものです。飲むだけで、浄化されますよ。百ガルドの寄付金でお飲み頂けますが、いかがですか?」
「ぐは。水一杯で百ガルド……」
「でも、教団への寄付なのだから適正な価格のはずよ」

 呻くアニスにティアが意見している。
 だが、どこぞやの腹黒元導師がこの場面をもし見つけたら、この教団員に『何勝手に空想話作り上げて商売してるんですか♪』と現在のローレライ教団の介入の仕方に唾を吐く勢いで迫ってくるかもしれない。
 
 詰まるところ、アニスの行動は正しいのかもやしれない……

「さすがにこの辺じゃ水は貴重なんだな」
「なんでもいいから水、飲もうぜ。干乾びちまう……」

 ガイに言って、よろよろとルークは泉に近付いた。

「ローレライのご加護がありますように」

 そう言って頭を下げた教団員から、人数分の水が振舞われる。泉の水はひんやりと冷たく、熱の篭もった体に染み渡る気がした。

「ふぅ。少し生き返ったな」

 泉の傍の椰子の木の下に座り込んで、ルークは息を吐く。

「ですわね」

 隣に座って、ナタリアも同じ表情をしていた。

「っつーか、一度休んじまうと、また砂漠歩くのがうざくなるな~」
「分かりますわ……さすがに堪えますもの……」

 これからイオンを捜すにしてもアクゼリュスへ向かうにしても、再び幾日も砂漠を歩くことになるのは確実なのだ。

 二人で並んでぐったりしていると、ひょいと顔を覗かせてジェイドが笑った。

「おやおや。お二人の旅はここで終了のようですね。まぁ、王宮ではできない貴重な体験はできたわけですし、良かったんじゃないでしょうか。では、またどこかでお会いしましょう」

 たちまち、ナタリアは頬を怒りで紅潮させる。

「な、何を言うのです! まだ城には戻りませんわ! 行きましょう、ルーク!」
「え~……。いいじゃん。そいつのイヤミなんてほっとけよ。……もちょっと休憩しようぜ」
「ダメです! 行きますわよ!」
「わ、分かったから引っ張るなって!」

 ルークの腕を引っ張って肩を怒らせる少女の背を見送って、ジェイドはなんとも人の悪い笑みを浮かべた。

「これはなかなか、扱いやすい方ですね」

 そんなジェイドのからかいがある一方で、教団員と話していたアニスとティアは表情を曇らせていた。

「イオン様らしい人物は見かけなかったそうね」
「イオン様、どこに連れて行かれちゃったのかなぁ」
「オラクルの兵達を見たっていう話も聞かないな」

 村の奥まで行っていたガイが戻ってきて言う。ナタリアが、ルークを引っ張っていた手を外して口元に当てた。

「ここに向かった訳ではなかったのでしょうか……」

 情報が無ければ闇雲に探す訳にはいかない。
 もし、見当違いの所を探していれば、その間に別の場所へと移動されて追いつけないくらいに行ってしまうかもしれないからだ。

 誰もが試行錯誤を続けるが、その中でのルークは輪の外で漫然と話を聞いていた。
 仕方がない、面倒事という事を屋敷を出るまで体験したことが無かった彼には問題の解決案というものを思いつく度量などまだ備えていないのだ。


「ハ~ハッハッハッ!!! どうやら皆さんお困りのようですねぇ」


 そんな時、突如として甲高い笑い声がこの場に響きわたる。
 何者かと全員が周りを見回してみるが、声の主は見当たらない・・・いや、ジェイドだけは何か知っているような顔だが、何処か嫌そうな表情だ。

「何処を探しているんですか? 私はここですよ」

 再び声がした事により、漸く場所を特定する。
 
 そこは空中であった……五メートルほどのルーク達の真上に大きな譜業式の安楽椅子に乗って空中に浮かんでいるディストの姿があった。

「野蛮な猿ども、とくと聞くがいい。美しき我が名を。我こそは神託の盾:六神将、薔薇の……」
「おや、鼻垂れディストじゃないですか」

 ジェイドに朗らかに突っ込まれ、たちまちディストは表情を大きく崩した。

「薔薇! バ・ラ! 薔薇のディスト様だ!」
「死神ディストでしょ」

 と、アニスも便乗して言う。

「黙らっしゃい! そんな二つ名、認めるかぁっ! 薔薇だ、薔薇ぁっ!」
「なんだよ、知り合いなのか?」

 気が抜けた思いでルークはアニスたちを見返す。

「私は同じオラクル騎士団だから……。でも大佐は……?」
「そこの陰険ジェイドは、この天才ディスト様のかつての友」

 ディストの言葉に、しかしジェイドは肩をすくめて失笑した。

「どこのジェイドですか? そんな物好きは」
「何ですって!?」
「ほらほら、怒るとまた鼻水が出ますよ」
「キィ―――!! 出ませんよ!」

 延々と続く軽口(?)の応酬。思わず、ルークとガイはしゃがみこんで顔をつき合わせ、唸った。

「あ、あほらし……」
「こういうのを置いてけぼりって言うんだな……」

 やがて気を取り直したらしい。ディストがようやく本題に入った。

「……まぁいいでしょう。せっかくお前達に耳寄りな情報をこの私が態々与えに来たんです。ありがたく聞きなさい」
「……悪いけど、アニスちゃん達ディストに今構っている暇じゃないんだけど」

 しかし、アニスは興味無しと言わんばかりに軽く受け流す。

「キィ―――!! アニス! 貴方はどうしてそう一言が多いんですか! 流石の私も本気で怒りますからね! とりあえず、今貴方達は導師イオンの行方の情報を知りたいようですしね」
「導師イオンの居場所を知っているの!?」

 ティアがディストに尋ねる。

「それを伝える為にこの私が自ら赴いたのですから有難く思いなさい」
「そんな事いいから早く教えなさいよ!」
「ハ~ハッハッハッ!! そんな態度をとってもいいんですかぁ? 別に私には貴方にこの情報を絶対伝えるという義務なんてないんですよぉ?」
「なにぃ~!? せけぇ奴だな!!」

 そんなディストの出方にルークが不満を漏らす。

「ふん! 何とでも言うがいい!! ですが、もし知りたいというのなら……『私のような下賎な者に態々と有難い贈り物をくださり、本当にありがとうございますディスト様』……といってくだされば考えなくもないですよぉ~?」
「なにそれ~!! 巫山戯んじゃないわよ!!」
「ハ~ハッハッハッ!! 何とでも言うがいい~!」

 珍しく勝気なディストである。だが、確かな確立の高い情報となればディストの話を聞かない事にはできない。しかし、ルーク達にとってはこんな人間に頭を下げるというのも許せない。

 だが、そんなことはディストの扱いを良く知る彼には通用しなかった。

「さて、こんな鼻垂れの無駄話を聞いている暇はありません。直ぐにイオン様の救出に向いましょう」
「えっ……?」

 ジェイドは別に何でもないと言わんばかりの表情で後ろへ向き、歩き出す。そんな様子にディストは予想外という風な顔をした。

「あれ、旦那……俺達はまだ導師の居場所を知らないんじゃ・・・」
「伝の良い情報屋に頼んで聞き出したんです。ですからこんな奴の話など聞かなくても別に大丈夫なんです」
「い、何時の間に……」

 初めて聞く話にルーク達は驚きだ。そうしている内にジェイドはこの場から離れていこうとする。

「ま、待ちなさい!! では何ですか!! このディスト様の情報など要らないというのですかジェイドは!?」
「なんですか……まだいたんですか?」
「そ、そんなのあんまりですよ!! 折角ジェイドに会える理由としてこの情報をもってきたというのに!!」
「や~おつかれさまでしたね♪ 残念ですが、お引き取り願います♪」
「しょ……しょんなあぁぁぁ~~~!!!」

 ディストは実質を言うと、ジェイドに久々会えるから情報を与えるのを二の次にして此処までやってきたというのに、これでは無駄骨ということになってしまう。
 それに、これでジェイドとの対話を終えるというのもディストにとっては納得できない。

「ほ、本当に聞かないのですか? その情報が私と違う可能性だってあるのですよ!!」
「いいえ、少なくとも敵側の情報など私は信用する気はないんですよ」
「だ、だって……」
「では、私が知っている情報と照らし合わせてみて正しいか確認でもしてみますか? もし同じなら……話をしてやらなくもないですよ?」
「いいんですか!?」

 ジェイドとまた話せる!! そのご褒美的な次の行動にディストは口を緩めてしまったのだ。

「じゃあさっそくです!! 導師イオンはここから砂漠を東へ行った所に存在する“ザオ遺跡”という所にいます。導師イオンにはラルゴ・シンク・アッシュを筆頭としたオラクルの人員が共に付いている筈です。どうですか! この完璧な情報を!! 部外者の持つ情報とは比べ物になりませんよねジェイド!?」
「いや~馬鹿正直に自分から喋ってくれて本当にありがとうございます。では、ザオ遺跡に参りましょうか皆さん」
「……はい?」
「実は、元から導師イオンの居場所など私は知ってませんよ」

 つまり、誘導尋問な仕方でディストに自分から喋らせてしまったのだ。ディストという人間を良く知る人間だからこそ出来る技でもある。

「だ、騙したんですか!! ジェイド!! この友であるこの私を!!」
「おつかれさまでした♪ さぁ、行きましょうか」
「うわっ……大佐ってばセコい・・・」

 こうして、ジェイドを中心にルーク達はオアシスの東側へと歩いていく。恐らくディストの情報のとおり、ザオ遺跡へと向かうつもりだろう。

「待てーっ! 待て待ちなさいっ! 私の話がまだ終わっていない……」

 しかし、誰もその声に振り向かず、そそくさと去っていった。

「ムキ―――!! 覚えてらっしゃい!! 復讐日記につけておきますからね!!」

 結局いいように使われただけのディストなのであった……

――――――――――――――――――――

 その一方、ザオ遺跡ではラルゴ・シンク・アッシュを中心とした少数の人員が導師イオンと共に内部を進行する。
 この中は云わば廃墟の街だ……嘗ての昔の暮らしぶりを想像させる建物達の名残がちらほらと見受けられる。

「セフィロトまでの道のりはこれでいいのか?」
「ハッ! 教団から物色して手に入れた地図によればこのままゆけばたどり着くかと」

 ラルゴが他の団員に確認を取りつつ、遺跡を進んでいく。ここらへんは風化による影響で通路までもが崩れやすい所もある。注意して進まねばならない。

「シンク、奴らは此処に来ると考えるか?」
「来るね……あいつらの事だ。さっそうと此処に関しての情報を掴んでるだろうね」

 まぁ、本当は“撒いた”餌なんだけどね……

「けど、戦闘となるとあまり本気で戦わない方がいいだろう。なんせ此処は崩れやすい。少し強い衝撃でも簡単に天井が崩れる可能性も有り得るからな」
「そうだね、けどハッタリぐらいはやっとけばいいだろう」
「ふむ、違いない……」

 ラルゴはシンクの意見に同じく思うところがあるようで、同意を述べた。
 そして、シンクはイオンに近付くようにしつつ、その背後にいるアッシュに小声で尋ねる。

「(ねぇ、僕は顔を見たことがないけど……アクゼリュスまでの道の間には“アイツ”が遠征で居るんだろ?)」
「(そうだ、ハーミットが言うに……喜んで「あの巫山戯た老害共にやっと仕返しをしてやれるもんだよ」って言っていたそうだぞ?)」
「(そりゃ怒るだろうね……厄介払いとして態々長期に渡ってデオ峠での任務を行わせたんだから)」
「(しかし、彼処にはリグレットも向かうはずだぞ?)」
「(……これは荒れる予感がするね)」

 シンクはどこか悪い笑みを浮かべ、そんな様子をアッシュはやれやれと呆れていた。

「あのぅ……一体何を・・・」
「……気にしないでそのまま進んでくれ」



 そんな怪しい様子にイオンが恐る恐る尋ねてみようとするが、一掃されてトボトボと落ち込むような感じになりつつ歩き続けるのであった。
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