原作編 第十六話
ノックの音が聞こえている。それが分かっても声を返せるほどに覚醒はしていなかったが、部屋の主の寝穢さは心得たものなのだろう、少し待った後で勝手に扉は開かれた。
「ルーク様。おはようございます。今日もいいお天気ですわ」
メイドが入ってきて、大きな窓に掛かったカーテンをシャッと開けた。眩い朝の光が部屋をいっぱいに満たしていく。
「ただ、ローレライ教団の預言によると、にわか雨があるかもしれないとのことですけれど」
ベッドの中で掛布に包まっていた赤毛がもぞもぞと動き、いかにも眠そうな顔でようやく半身を起こした。それを確認して、メイドはベッドの脇に立つと伝言を告げ始める。
「今朝方、ナタリア殿下から使者が参りまして、ご登城なさるようにとのことでした」
「俺、屋敷の外に出ていいのか?」
ぱちりとルークが目を開くと、メイドは自分こそ嬉しいような顔で「よろしいようですよ」と笑った。上着などを細々と用意して、一礼してから部屋を出て行く。
「ナタリア、何の用だろ?」
袖を通した上着の裾を払って、ルークは呟いた。今までは必ず彼女の方から訪ねて来ていたのだ。こちらが軟禁されていたせいではあるのだが、呼び出されるなんて記憶にある限り初めてである。
「(家に来ないで城に来いって事は、伯父上の用事かもしれないな……。ヴァン師匠のことかな?」
……しっかし、簡単に屋敷から出れちまった。複雑だぜ……今までは何だったんだっつーの)
軽く頭を振ると、長い髪がサラサラと揺れ動いた。そのまま部屋を出て行きかけて足を止め、戻って、棚に無造作に立てかけておいた剣を手に取る。
厳重に警備されたバチカル最上層、ましてやバチカル城で、これが必要になることなどないだろう。だが旅の置き土産と言うものなのか、この重みがないと何となく落ち着かない。
腰の後ろに剣を差し、ルークは部屋の扉を押し開けた。
バチカル城とファブレ公爵邸は殆ど離れていない。領地ではなく王都に邸宅を構えているのは、体の弱い公爵夫人にして王妹のシュザンヌを慮ってということもあるのだろうか。
父の公爵は既に登城していると言う。勝手にくっついてくるミュウを足下に引き連れて、ルークもまた城の門を潜ったが、自分の名が耳を掠めて足を止めた。
「それでは第七譜石はアクゼリュスに……?」
「そうだ。恐らくルークがアクゼリュスに……」
見れば、廊下の片隅でティアとモースが話し込んでいる。
「俺がどうした?」
声を掛けると、モースはハッとしたように口を閉ざした。たちまち、気味が悪いほど相好を崩す。
「これはルーク様。お待ちしておりました。カーティス大佐はもう中でお待ちですよ」
「……ジェイドが?」
「参りましょう」
三人は連れ立って謁見の間に向かった。
ちなみに、その途中にだが……
「ルーク……」
「ん、なんだよ?」
「昨日の事はお願いだから皆に内緒にして……」
「あぁ、そういやまた服着替えたんだよな・・・確か母上が言ってたな、その服の名前というのボンテー……」
「ルーク!!!!!」
「おわ!? んなでけぇ声だすんじゃねぇっつーの」
「ご、ごめんなさい。でも……本当に内緒よ……約束だからね」
あの後の真実は神のみぞ知る……という訳だ・・・
謁見の間には、玉座についたインゴベルト王とナタリアの他に、ファブレ公爵、アルバイン内務大臣、そしてジェイドが揃っていた。
「おお、待っていたぞ、ルーク」
モースたちと共に歩み寄ってきたルークを見て、インゴベルトが早速口を開く。アルバインが後を継いだ。
「昨夜緊急議会議が招集され、マルクト帝国と和平条約を締結することで合意しました」
「親書には平和条約締結の提案と共に、救援の要請があったのだ」
「現在マルクト帝国のアクゼリュスという鉱山都市が、障気なる大地[ノーム]の毒素で壊滅の危機に陥っているということです」
王とアルバインが交互に語り、ナタリアも口を開いた。
「マルクト側で住民を救出したくても、アクゼリュスへ繋がる街道が障気で完全にやられているそうよ」
「だが、アクゼリュスは元々我が国の領土。当然カイツール側からも街道が繋がっている。そこで我が国に住民の保護を要請してきたのだ」
「そりゃ、あっちの人間を助けりゃ和平の印にはなるだろうな。でも俺に何の関係があるんだよ」
ルークが不遜に言うと、ファブレ公爵が息子に言った。
「陛下はありがたくもお前を、キムラスカ・ランバルディア王国の親善大使として任命されたのだ」
「俺ぇ!? 嫌だよ! もう歩いたりすんのはごめんだ」
アクゼリュスへ行くということは、また旅をするということだ。足を棒にして歩き、時に野宿をし、様々な面倒に耐えながら。
そういえば、今も剣を腰に差している。魔物相手に時々抜いて戦ったぐらいにしか使わなかったが、もし人間相手に使うことになるというなら……
護衛達が人間相手で戦闘を行なっていたところを何度か見たが、あまり直視出来るものではなかった。
あそこにあるのはかっこよさや優雅さでもなんでもない……只の暴力のせめぎ合いだけだった。
「ナタリアからヴァンの話を聞いた」
甥に拒絶されても、インゴベルトは淀むことがなかった。
「ヴァンが犯人であるかどうか我々も計りかねている。そこで、だ。お前が親善大使としてアクゼリュスへ行ってくれれば、ヴァンを解放し協力させよう」
「ヴァン師匠は此処に捕まってるのか!?」
「城の地下に捕らえられているわ」
暗い声でナタリアが言った。力が及ばなかったことを悔いているのだろうか。
「……分かった。師匠を解放してくれるんなら……」
「ヴァン謡将が関わると聞き分けがいいですね」
ジェイドが揶揄してくる。
「……うるせぇ」
「しかしよく決心してくれた。実はな、この役目、お前でなければならない意味があるのだ」
「……え?」
インゴベルトの言葉に、ルークは眉を顰める。ファブレ公爵が兵士に持たせた譜石を示した。
「この譜石をごらん。これは我が国の領土に降ったユリア・ジュエの第六譜石の一部だ」
「ティアよ。この譜石の下の方に記された預言を詠んでみなさい」
「……はい」
インゴベルトに促されて、ティアは譜石を詠み始めた。
「――『ND2000。ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり。名を聖なる焔の光と称す。彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄に導くだろう。
ND2018。ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へと向かう。そこで……』。
……この先は欠けています」
「結構。……古代イスパニア語に言う聖なる焔の光とは、今のフォニック言語では『ルーク』。お前の名だ。つまりルーク、お前は預言に詠われた、選ばれた若者なのだよ」
『大丈夫だ。自信を持て。お前は選ばれたのだ。超振動という力がお前を英雄にしてくれる』
ルークの脳裏に、あの日キャツベルトの甲板でヴァンに言われた言葉が鮮明に甦った。
「よいかルーク。お前にはユリアから授かった超振動という力がある。今までその力を狙う者から護るため、やむなく軟禁生活を強いていたが、今こそ英雄となる時。その力でアクゼリュスを救うのだ」
「(そうか……。やっぱり師匠の言う通りなんだ)」
父の声を聞きながらルークは思う。
「(父上も伯父上も、俺が特別な力を持っていることを知っていた。それで……俺を利用するために軟禁していたんだ。だけど……俺の名前がユリアの預言に詠まれてるって? 和平のために親善大使になればキムラスカを繁栄に導く……ってことは、兵器にはならなくて済むのか?それにしても俺が親善大使……。アクゼリュスの奴らを助けたら、師匠は助かる、か~。それに、平和条約が上手く結ばれたら俺は英雄になれるかもしれない……。そしたら、師匠の言っていた通り自由になれるかも……)」
「英雄ねぇ……」
「何か? カーティス大佐」
アルバインがジロリとジェイドを睨んだ。
「……いえ。それでは同行者は、私と誰になりましょう?」
「ローレライ教団としてはティアとヴァンを同行させたいと存じます」
「わ、私をですか?」
モースが言う。そんな提案にティアは一瞬驚く。
一応、自分は休暇の身ではあるが……ここまで大事に関わってしまった事だ。
はっきりいって拒否権などないだろうと結論づけ、ティアはモースの提案にうなづくしかなかった。
その次にファブレ公爵は息子に訊ねた。
「ルーク。お前は誰を連れて行きたい? ――おおそうだ。ガイを世話係に連れて行くといい」
「何でもいいや。師匠がいるなら」
どこか気もそぞろのルークの一方で、ナタリアは隣に座った父に懸命に訴えかけている。
「お父様、やはりわたくしも使者として一緒に……」
「それはならぬと昨晩も申したはず!」
ナタリアは憮然として黙り込む。ルークがインゴベルトに伺った。
「伯父上。俺、師匠に会ってきていいですか?」
「好きにしなさい。他の同行者は城の前に待たせておこう」
バチカル城の罪人部屋は、例に漏れずに城の地下にある。案内を受けて罪人部屋に入ると、ヴァンはちょうど格子戸の中から解放されたところだった。
「師匠!」
「簡単ないきさつはご説明してあります」
駆け寄ったルークに告げて、兵士は罪人部屋を出て行った。ヴァンはじっとそれを見送っていたが。
「今ここには私たちしかいない。だから私の言うことを落ち着いて聞いてほしい」
足音が遠ざかったのを確認すると、ルークを見つめて喋り始めた。
「……へ?」
「私の元へ来ないか? 神託の盾騎士団の一員として」
「……師匠、何言ってんだよ」
「お前はアクゼリュス行きを簡単に考えているだろう。だが、その役目を果たすことで、お前はキムラスカの飼い犬として一生バチカルに縛り付けられて生きることになる」
「ど、どうしてだよ。師匠が言ったんだぜ。英雄になれば、自由になれるって」
「しかしアクゼリュスはまずいのだ。お前もユリア・ジュエの預言を聞いただろう」
「ああ。俺がキムラスカを繁栄に導くとかって」
「その預言には続きがある。『若者は力を災いとし、キムラスカの武器となって』と。教団の上層部では、お前がルグニカ平野に戦争をもたらすと考えている」
「俺が戦争を……? そんな馬鹿な……!」
「ユリアの預言は今まで一度も外れたことがない。一度も、だ。……私はお前が戦争に利用される前に助けてやりたいのだ!」
まっすぐに言われ、ルークの心は揺らいだ。
「――でも、どうしたらいいんだよ……。俺がアクゼリュスに行かないと街がヤバいんだろ」
「預言はこう詠まれている。お前がアクゼリュスの人々を連れて移動する。その結果、戦争が起こる、と。だからアクゼリュスから住民を動かさず、障気をなくせばいい」
「障気って……あの毒みたいなのだろ。どうやって……」
「超振動を起こして障気を中和する。その後、私と共にダアトへ亡命すればいい。これで戦争は回避され、お前は自由を手に入れる」
「……やれるかな。超振動だって自分で起こせるかどうか」
「私も力を貸す。船の上で超振動の暴走を収めてやったようにな」
それを思い出すと、ルークは安心感に包まれた。本当に恐ろしかったあの時、ヴァンはルークを助けてくれた。
「(――だったら。師匠が手伝ってくれるんなら)」
「……分かった。俺、やってみる」
ヴァンは真剣な表情でルークを見つめる。
「この計画のことは、直前まで誰にも言ってはならないぞ。特にキムラスカの人間に知れれば、お前をダアトに亡命させる機会が無くなってしまう」
「……なぁ、師匠はどうしてそんなに俺のこと、親身になってくれるんだ?」
「――お前は記憶障害で忘れてしまったのだったな」
「……俺が何か言ったのか?」
「私と共にダアトへ行きたい。――幼いお前はそう言った。超振動の研究で酷い実験を受けたお前は、この国から逃げたがっていたのだ。だから……私がお前をさらった。七年前のあの日に」
「師匠が!? 俺を誘拐したのはマルクトじゃなくて師匠だったのか!?」
「今度はしくじったりしない。私には、お前が必要なのだ」
「……俺、人に必要だなんて言われたの初めてだ」
ルークは声を震わせた。
冷たい父。利用するために軟禁していた伯父。母は優しくしてくれるが、それでも、過去の記憶はまだ思い出さないのか、と時折問われるのは辛かった。何も知らないことで呆れられ、眉を顰められる。ナタリアも、ガイも、本当に求めているのは誘拐される前の記憶を持った『ルーク』で。――記憶のない自分は、必要とされていないのではないか、と思えることがあって。
けれど。
「師匠だけは、いつも俺のこと褒めたり叱ったり、本気で接してくれてたもんな」
過去の記憶を思い出せ、とは言わなかった。知らないことを馬鹿にしなかった。間違っていたら叱ってくれ、覚えられたら褒めてくれた。
「俺……師匠についてくよ!」
「よし。では行こうか。お前自身の未来を掴み取るために」
「はいっ!」
ルークは、心が高揚するのを感じた。目の前に無限の未来が開けたのだ。そして、そこには誰よりも好きな師匠がいてくれる。
それだけで全てが満足であった……
後に、その全ての行動が『人形』に『糸』を括りつける為だと知るまでは・・・
【グランコクマ】
バチカルにて、和平協定が結ばれる直前になりかけているさなか、ここマルクト首都:グランコクマでは宮殿の王座にて貧乏ゆすりをする者がいる。
「おいゼーゼマン、ジェイドからの経過報告はまだなのか」
「申し訳ありませんが来ておらぬようですな。もう少し辛抱なさってくだされ」
「そうですぞ、果報は寝て待てと言い表しもありますな」
「んなこと言ったってよぉ、前途多難まっしぐらなスタート切って進められた和平だぞ!? 無事にすむと決めること自体無理に等しいだろ!!」
ピオニーはジェイドの導師誘拐・バチカル公爵子息の保護とダアトから流れてキムラスカへと入っていく数々の問題により、正直自身を失いつつあった。
「それにしても、最終決議を出した俺も言えんが、何で議会の殆どの奴らが和平の使者をジェイドに推薦したんだか……」
「恐らく『預言』絡みですな・・・我がマルクトは預言を必然としない政策を取ってはおりますが、その有用性を捨てきれん者がまだおるのでしょう」
「偶に態々ダアトまで行き、内密に今後の政策の決議の行方を詠んでもらう者が見られているそうですぞ陛下」
そうだ。現マルクトは前皇帝が行なっていた昔の政策とは違い、この眼で国の様子を調べ、それに則った政策を政務に携わる者達が作り出し、決議をまとめている。しかし、その政治家の中には前皇帝の代からピオニーに仕える者も多数居る。
一度覚え込んだ“蜜”の味は忘れられないと言うわけだ・・・
「しかし……和平の平和条約締結の提案と一緒に出した救援の要請・・・」
「やはり陛下も引っ掛かる所があるとお考えですか……」
「あぁ、確かにマルクト側で救助に向かおうにも街道が高密度の瘴気で塞がれて不可能だ。その為、まだ犯されてないキムラスカのカイツール側で住民の保護を要請するのは政策措置としては正しい……だがなぁ」
「“余りにも出来すぎている”・・・そう述べられますな」
まるでバラバラになっていたパズルのピースが次第に完成に近づいてきているような感じだ。それも悪い方に……そう、全てが仕込まれているように思える。思えば、アグゼリュスの救援要請を和平の平和条約締結で提案する議案を出したのも全文で述べたような“政治家達”が中心だった。
「どうやら俺達の知らない所で“でかい事”をやらかそうとしているのかもしれないな……キムラスカかダアトは・・・いや、或いは両方か」
「出来るだけ他の師団に救援の為、こちら側でもアグゼリュスにどうにか向かえないか検討中です。私共もなるべく急ぐよう努めさせて頂きますぞ」
「頼む……今でもアグゼリュスにいるこの国の民達は苦しんでいる……彼らには直ぐにもその地獄から救い出してやりたいんだ」
ピオニーは下の者達に行方を任せ、アグゼリュスの民達の無事を祈り続ける。
と、そこへ……
「失礼します、陛下」
「おぉ、アスランじゃないか? どうかしたのか?」
フリングス将軍が謁見の間にて、礼儀をしてからこちらへとやってきた。
今の事態ではフリングス将軍はかなりの問題を処理しており、此処に来ること自体珍しくなっている。そんな彼が此処にひょっこりと現れ、若干驚きながらも此処に来た理由を尋ねた。
「実は、皇族御用達での伝書鳩にこのような手紙が届けられたのですが……」
そう言われてピオニーはその手紙を受け取ってみる。
「こ、これは……!?」
その手紙の封筒は真っ白なままで何も書かれてはいない……だが、封蝋は特殊な青の蝋で作られた“鷹”のシンボルを押されていた。そればかりではない……このマルクトでは知らぬ者は居ないといえる大貴族のサインがその脇に“証明”としても小さく記されていた。
「二つの内の一つはあのブリジスト侯爵の者です……ですが、封蝋はブリジストのとは違います。侯爵が印を変えたという報告は聞いた事がありませんし……かと言って検査の為、開封するわけにはいきませんでしたから―――」
―――ビリッ!!
フリングス将軍が説明している間もなくピオニーは勢い良く手紙の封を開けて急いで中身の手紙を広げて見てみる
数秒静かな空間が広がり、誰もが手紙を凝視しているピオニーの様子を見守る。だが、しばらくすると、ピオニーの手紙を持つ手がガタガタと震え出し、手紙を床に落とした。そこから現れたピオニーの表情は恐れを通り越して“恐怖”を表していた。
「へ、陛下?」
「あばばばばばばばばば……!!!!!」
一体何があったのかゼーゼマンが訪ねてみるが、汗をダラダラと流してそのままだ。
そんな時、丁度足元に導かれたように飛んできた手紙をフリングス将軍は拾い取って読んでみることにした。
その手紙の主が書いた内容とは……
““ご無沙汰しておりますピオニー・ウパラ・マルクト陛下様……
今日この頃、お忙しい中にてこのようなお手紙を出されることをまずお詫び申
仕上げます。
さて、今回の件は私が提案した“こちら側”でのアグゼリュスの救援活動の参
加での援助を願いたく思います。私供としては、大多数を現地へ運ぶにはそれ
相応の『足』がなければすべきこともままならない所存でございます。ですの
で、『タルタロス』の所有権利を一時的に“こちら側”にお譲り出来ないでし
ょうか?もちろん、アグゼリュスの救援が終了次第返還させていただきます。
それと、何時か予定がつき次第、ご内密ですが御食事を共に致しませんか?
もしよろしければ私自らが腕によりをかけた『ブウサギ』料理をご馳走させて
いただきたいと考えております。ご心配なく、素材は『現地調達』で済ませま
すので新鮮かつ濃厚なお味を堪能できることを御約束いたします。
きっと陛下も『泣くほど』美味なお味でご満足頂けることでしょう。
それでは、この件について陛下の慎重なお返事をお待ちしております。
蒼鷹 ハーミット ””
「うわあぁぁぁぁ!!! ブウサギがあぁぁぁ!! 俺のブウサギ達があぁぁぁ―――!!!!! ネフリー!! サフィール!! ジェイド!!」
「陛下!! 落ち着いてくだされ!!」
手紙の内容は普通に見れば、何の変哲もない懇願状に近いものだ。そう、“普通”に見ればの話だが……
つまり、手紙の内容を要約するとこうだ……
―――テメェらが売った喧嘩、タルタロス寄越すことでチャラにしてやんよ? だけどもし拒否すんならテメェの大事なブウサギちゃん達を料理しちゃうぞ♪―――
なんとも手際のよい、国際問題にも引っ掛けぬようにしたクリーンに見せかけた脅迫文であろうか……たとえ脅迫の証拠として出されても、内容的に『気遣い・御好意・お礼』に満ち溢れた良心的な手紙として場外にさせされるだろう。
―――汚いなさすがハーミットきたない!!
「ノルドハイムうぅぅぅ!!! 直ぐ様タルタロスを指定の場所まで送るんだ!! 早くしてくれえぇぇぇ!!!!!」
「お気を確かに陛下あぁぁぁ―――!!!!!」
その光景を見ながらフリングス将軍はこの手紙を書いた人物がどのような者か一瞬知りたくもなった。ここまで鮮やかにピオニーを使いパシリにさせるなどジェイドでさえ難しい事なのに……そんな難問を鮮やかに突破したその男に……
この時は、フリングス将軍はまだ『彼』が若き頃の自分の命の恩人「第三十三話参照」であることを知るのはまだまだ当分先の様である。
――――――――――――――――――――
「やはりアグゼリュスの救援が和平の提案だったか……まさしく預言の通りというわけか」
「どうすんの? このままだと僕達の計画途中であいつらが辿り着いちゃう可能性だってあるよ?」
「だいぶ苦しい……です」
「強引だが、アッシュに『導師誘拐』に近い行動をしてもらう」
「はぁ!? んなことしたらまずいんじゃ―――!!」
「飽く迄『近い』だ……実質的に和平の仲介は終わった。後は導師のすることはもはや何もない……」
「……なるほどね、帰還と重ね合わせるというわけか・・・」
「出来るだけ俺がアグゼリュスでの仕込みを終わらせるまでに時間稼ぎが出来れば上々だな」
「あと、ヴァンへの眼を誤魔化すためか……分かったよ。僕とアッシュとアリエッタも時が来るまでは表面上従っていく」
「アイツの計画通りになるとすれば……次に彼らが向かうべき場所は・・・」
―――ザオ遺跡―――
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