「さすがに疲れた……」
人生は走り続けてきた。
自分の目指す憧れを求めて……
俺はとある腕の良いと評判される医者だった。
医者になったのは俺は子供の頃、重い病気に掛かった俺を救ってくれた医者に憧れたからと簡単なことだ。
そこから始まったんだと言えるだろう……
必死に頑張って、努力して、第一外科のエースとも呼ばれるようになる事が出来た。
そんな絶好調の俺に一件の手術依頼が舞い降りて来ていた。
それは、俺が子供の頃かかった病名と同じ物だったからだ……
これを見て思った。
これを成功させれれば【彼】を超えられるかもしれない。
そう考え、すぐさま執刀を了承した。
だが、運命は俺には微笑んでくれはしなかった…………
手術を失敗に終わらせた俺は勤めていた病院を解雇される処分を下された。
直接の原因は俺で無かったとはいえ、【チーム】としてのやり遂げる能力が無かった俺を含めた他のメンバーにも責務はある事だろうからむしろ当然の処置だと思った。
病院としては、だが…………
真実を言えば俺はその患者を自分の理想へ近付けるための踏み台にしようと考えていた。
“罪人”の俺としては軽すぎる物なのだから。
患者の家族にこのミスを伝えた時、その人の妻がこう言った。
<希望をありがとう>と……
その言葉は心を罪悪感で埋め尽くすようになるには十分な物となり、俺は逃げ出した。
病院を、町を、県を、そして国を…………
無我夢中で逃げだした終着点は乱戦中の真っ只中のアフガニスタンのとあるボランティア活動の医療現場であった。
ここを選んだのは【彼】がいると言われてたからだ。
俺は未だ捨てかけてた憧れにしがみつく事にしていた。
―――“彼に会いたい”―――
それだけを思い、ひたすら自分が出来る事を考え歩み続けていた。
もし彼に会えたのなら、今まで俺が目指そうとして来た事は正しかったのか?
自分が医者であり続ける意味を教えてもらえるかもしれないと踏んだ。
――――――――――
ここでの生活もだいぶ慣れてきた所、とある事件が起きた。
乱戦中の兵士達が物資保存庫の物資を強奪するべく、テロを起こして来たのだ!
キャンプの中の人達を含めたNGO団体の人達を人質として膠着状態が続いていった。
何時までも続くのかと不安と苛立ちでいっぱいになってた俺の前で衝撃的な場面に出くわした。
撃ったのだ……
それは一瞬の出来事であった……
まだ15にも満たない少年の兵が人を見せしめとして撃ち殺したのだ!
この時に自分は初めて現実というものを今まで以上に深く実感させられたのかもしれない。
そして、恐怖心が強まっていった……
“このままだと殺される!”
純粋に俺は本気で生きたいと感じた。
だから、それを行動で表すのにはそう時間が掛かる事はなかった…………
――――――――――
誰もが寝静まるような深夜の時だった。
ここアフガニスタンは電気での明かりなど民家から漏れてくる事はまったくと言ってないので、テントの周辺以外は闇が広がっている。
見張りから逃げるには好条件といえるだろう……
事実、この時間帯は人間にとっては心身揃って疲労がたまっている所でもあり、意識が呆ける。
そこを突いて俺は昼時に目を付けていたある物を盗み出して外へ走り続けていた。
それは、“一挺のライフル銃”であった……
射撃の経験はとある手術依頼で行った外国の射撃場での一、二回だけだ。
そこで俺は余興でやっていたのだが、偶然にも射撃の腕が抜群に良いと周囲の利用者にも言われていた。
―――狙った的は外さない―――
そんな言葉の通りで俺は全ての飛んでくる的を一発も漏らすことなく撃ち当てたのだ。
そんな現象を間近に見て自身もが驚愕した事も覚えている……
だから、その能力をここで使う事に決めたのだ……
此方からは焚き火が照明の役割をしているため、兵士達のシルエットが明確に見える。
それとは対照に向こう側からは無限の闇によって俺の姿をとらえる事は難しい。
俺は膝を地面に付け、銃の後身を肩に押しつけて固定させる。
弾は予備で二つのマガジンが手元にある。
これは優位と言っていいものだろう……
そして、俺はスコープを覗く……
その先には兵士達の話し合い、笑っている姿が写っていた。
あの少年兵も一緒だった。
彼らをよく見てて俺は思った。
彼らも同じ人なのだと……
だけど、甘えるわけにはいかない…………
今は大丈夫だがたとえ俺がこの場から逃げ切れたとしても人質がまた殺される可能性も少なくはないのだ。
だから、ここで散ってくれ……
改めてスコープに記されてる標準の目盛を合わせる。
狙うのは頭じゃなくていい。的の大きい体を狙え…………
即席で作り上げた自分だけのルールは覚悟を完全に決めさせる暗示へと変化させる。
正直、命の危機に陥る状況はこの土地でも何度かあった。
違うのは…………
俺は初めて“治す者”から“殺す者”に変わったという事だ……
―――ドオウゥゥゥンッ……!!!―――
静かな土地で銃声が鳴り響く……
命を終焉へと導く殺戮の音が……
―――ドオウゥゥゥンッ……!!!―――
またしても銃声は鳴り響く。
その音の数だけ命が消えていく。
撃つ……撃つ……撃つ……撃つ……撃つ撃つ撃つ撃つ―――――!!!
その繰り返しが俺にとっては正義なのか、悪なのかは誰にもわからない。
マガジンは気がつくと取り替えていた。
だから、まだ続ける……
あちらも銃を乱射し始めてきている。
音と光で場所を見つける所は彼らもさすが兵士であると賞賛できるだろう。
でも俺もここで死ぬわけにはいかない……
場所を移動しつつ、なおかつ途中で手探りで見つけた障害物となる所に隠れつつ、それを繰り返し続ける。
だから、俺はまだ生きている……
銃声も少なくなってきて、俺のペースも拍車がかかった。
次の狙いを定めてスコープを覗いた時、トリガーに掛かる指が一瞬止まった……
泣いていたからだ…………
彼らもまた、死にたくないと戦い続けていたのだから…………
それを見た時、俺は思った。
“もう後戻りはできない”、と…………
だから、全てを終わらせる…………
――――――――――
何もかもが終わった時、俺に待っていた物は喪失感とさらなる罪悪感だった……
人質は一人を除いて全員が助かった。
俺と違い、手を汚さずにいれたのだから彼らは笑顔を持っていた。
それをスコープ越しで唯見つめているばかり……
それは、悔しくなるほど羨ましいと思えるものだった。
俺はもう医者なんかじゃない、人殺しだ。
全うな人生など送れる可能性など0に等しい。
だから、俺も終わりにしよう…………
ライフル銃の銃身を上に向け、それを口にくわえる。
そして、靴を脱いで足の親指をトリガーにひっかける。
その動作の中、考えていた。
思えば、俺はただ【彼】に認めてもらいたいと心のどこかそう思ってたのかもしれない。
だから、【彼】のようになろうではなく【彼】になろうと自分を見ようとしなくなっていたのかもしれない。
その結果がこういう事だったのだろうか?
望んではいなかったんだ…………
唯、俺は……
人を治して救う、そんな医者になりたかっただけだったんだ…………
―――ドオゥゥゥンッ……!!!―――
…………
………
……
…
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