挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
グルノールの転生少女 ~ないない尽くしの異世界転生~ 作者:ありの みえ

第4章 街での新しい暮らし

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

69/339

頓珍漢と幼女の主張

作注。
ひらがなとカタカナの入れ替わった台詞は日本語発音していると思ってください。
例:「ぷりんガ食ベタイ」
 楽しいはずの夜祭から帰ってきた子どもが帰宅早々自室に篭れば、まともな神経をした大人であれば何かあったのかと心配するだろう。
 館の主が最近雇った家庭教師は問題外だが、レオナルド以前から館に仕えているタビサとバルトはこのタイプだ。
 顔をあげる気にもならなかったので気づかないで寝ているふりをしてしまったが、タビサたちは夜中に何度か様子を見に来てくれていた。
 気を使ってくれているのが解ったので、翌朝には私もなんでもない顔をしてベッドから起き出す。
 ただ、一晩寝ても人恋しい気持ちだけは抜けなかったので、甚平姿のまま髪もかさず一階へと降りた。

「おはよーごじゃいましゅ」

「おはようございます、ティナ嬢様。……すごい格好ですよ。まずは髪を整えましょう」

 そう言って手招いてくれるタビサに、遠慮なく甘えることにした。
 普段は椅子に座るぐらい自分でやるし、髪だって自分で梳かすのだが、今日はべったりお任せモードだ。
 今はともかくドロドロに甘えたい。

 抱き上げられて椅子に座り、大人しく髪を整えられる。
 じっと座っていると頭を動かしたい悪戯心がムズムズとしてきたが、さすがに我慢した。
 甘えたい気分ではあるが、仕事の邪魔をしたいわけではない。

 タビサに髪を整えてもらうと、多少人恋しさが緩和された気がする。
 いつもどおり元気だ、とは言いがたいが、帰宅時ほどの酷い気分ではない。
 風呂に入って着替えを済ませると、さらにすっきりだ。

 あじあじと朝食のパンを齧っていると、レオナルドが帰宅した。
 どうやら昨夜は帰ってこなかったらしい。

 ……さて、どう話そうかな?

 向かいの席に座って珈琲を飲むレオナルドの様子を探る。
 私にとっては見たまま、感じたままの真実だが、聞く人によっては陰口とも悪口とも取られかねない内容だ。
 話し方にも気を使った方が良いだろう。

 ……うん? そういえば、今日はレオナルドさん変だね。

 普段であれば砦に泊まった次の日の朝は、私を館に一人放置することに対する罪悪感か、館に帰るとすぐにハグをしてくる。
 一応の加減はされているのだが、厚い筋肉の鎧を纏った騎士にハグされるのは正直あつくるいたい。
 最初のうちは我慢してレオナルドのしたいようにさせておくのだが、もう満足しただろうと勝手に判断すると、顔面をペチリと叩いて体を離すのが恒例だ。
 それが今日はない。

 ……なんか変だね? 何か言いたそうと言うか……時々こっちを見てくるような?

 チラチラと覗かれる意味が解らなくて、首を傾げる。
 それから、レオナルドが私に対してありそうな用件を探した。

「……甘辛あまから団子なりゃ、全部食べちゃいましらよ?」

 昨日門番に預けた甘辛団子は、当番の門番とタビサとバルトの分はもちろん、後で私が食べる分まで数があった。
 一応レオナルドの分も買ってあったのだが、お腹が空いていたし、腹も立っていたし、でタビサに髪を整えてもらった後で粛々とやけ食いを決行している。
 あじあじとパンを齧っているのは、夕べのことも多少尾を引いてはいるが、冷静に考えれば甘辛団子の食べすぎであった。

「……いや、団子のことではなくてだな」

「違うんれすか?」

 じゃあ他はなんだろう? と考え始めると、珈琲の入ったカップをレオナルドが横に避ける。
 どうやら私に改まった話があるようだ。

「夕べの話をしよう」

「夕べっれ、夜祭の話れすか?」

 せっかく持ち直しつつある気分が、昨夜の話を振られた瞬間に再下降する。
 今思いだしてみても、中々に最低な夜だった。
 時間つぶしに酒場へ入り、店長がそのつど助けてくれたが酔っ払いに絡まれ、レオナルドの祭祀は見られたが、祭りが終われば後は勝手に帰れとカーヤに放り出された。
 通りの角に立つ騎士や兵士に話しかけつつ、明るい道だけを通ってなんとか無事館へと帰ってくることができたが、運が悪ければ犯罪に巻き込まれかねない危険な行為だ。

 ……普通の子どもだったら、泣いてたよ。

 私は普通の子どもではなかったので、不貞寝をしたぐらいですんだが。
 本当の幼い子どもであれば、軽くトラウマになっているに違いない。

 さて、どうカーヤのことを言い出そうか、と朝食の皿を横へ避けてレオナルドに向き直る。
 レオナルドに話したいことなら、私にだってある。

「昨日、ティナが一人で帰ってきた、とパールから報告を受けたんだが」

「はい。一人で帰ってきましら」

 なんだその話か、と知らずに入っていた肩の力を抜く。
 改まった雰囲気をしていたので、何事かと思った。
 ちょうど同じ話をしようと思っていたので、都合が良い。
 あとは告げ口に聞こえないように伝えるには、どう切り出せばよいだろうか。

 そう考えていると、何故か私が怒られた。

「夜道を一人で歩くだなんて危ないだろう。なんのためにカーヤを付けたと思っているんだ」

 言っている内容は理解も判断もできるのだが、意味が解らなさ過ぎてポカンとレオナルドの顔を見つめてしまった。
 改まった話をする様子で、レオナルドの顔にも緊張が見えたから、何か真面目な話だろうとは思っていたのだが、なんのことはない。
 全て私の言いたいことと同じだ。

「……つまり、レオにゃルドさんはわたしがひとりで帰ってきりゃ、ってころに怒っていりゅんれすね?」

「他に何の話だと思うんだ?」

「……わかりましら」

 よいしょ、と椅子から降りる。
 それから私が運ぶには大きすぎる椅子を抱き上げ、移動する。
 途中でバルトが手伝おうと手を差し出してくれたが、無言で断った。

「ティナ……?」

 ずったり、椅子を下ろして休憩したりとしながらもテーブルを回って隣へと移動してきた私に、レオナルドの怒りは継続できなかったようだ。
 戸惑いと困惑が滲む顔で、お行儀悪くも椅子の上に立つ私を見上げた。
 椅子に座ったレオナルドと、椅子の上に立った私とで、普段とは目の高さが逆になる。
 レオナルドを見下ろすというのは、なかなかに新鮮な気分だった。

「レオにゃルドさんのアホーっ!!」

 高さ調整のために積まれたクッションを振り上げ、おもいっきりレオナルドの顔面に叩きつける。
 私としては力いっぱい攻撃しているのだが、武器がクッションなのでどうしても音は軽い。
 大したダメージは与えられていないのだろう。
 それは判るのだが、それでも、何度もなんどもクッションをレオナルドの顔面へと叩きつけ続けた。

「私ダッテ夜道ハ怖カッタデスヨッ! ナンデ幼女ガ一人デ夜道ナンテ歩イテ帰ッテ来タト思ッテルンデスカ!? 好キデソンナ怖イコトスルワケナイデショッ! ナンデソンナコトモ解ンナイノ!? 全部れおなるどサンガ押シ付ケタかーやのノセイジャナイデスカッ!!」

 声に出したら昨夜の怒りがぶり返して来た。
 しかしその反面、言葉にしたことから急速に心が軽くなってくる。
 ここしばらくの不満全部を口から吐き出して、両手を振り回して全力で抗議した。

 夜道を子どもが一人で歩くのは危ない。
 そのことについてレオナルドが怒るのは正しい。

 けれど、根本的な部分で間違っている。

 私が夜道を一人で帰ることになったのは、元はといえばレオナルドの選んだ家庭教師のせいだ。
 これはつまりレオナルドのせいでもある。

「レオにゃルドさんのばかーっ! とんちんかんっ!! あほんだらっ!」

 奇襲に驚いてされるままになっていたレオナルドだったが、私の口から漏れた「私悪くないじゃないですか!」という叫び声には反応した。
 振り下ろされ続けるクッションを掴み取り、後方へと投げ捨てる。

「ティナが悪くないわけないだろう! 夜の一人歩きはダメだと俺は言って……」

「ウルサイ、黙ッテ私ニ殴ラレナサイッ!!」

 つい日本語で本音をぶちまけて、レオナルドの顔面を叩く。
 力いっぱい殴っているつもりなのだが、平然と受けられているのがますます腹ただしい。
 そのうち爪がレオナルドの頬に当たると、ようやくダメージらしいダメージが通った。
 今の私が力いっぱい叩いてもレオナルドには何のダメージもないが、引っ掻き攻撃は有効である。
 そう判断して故意に爪を立て始めると、両手を捕まえられてしまった。
 こうなってしまえば手も足も出ない――はずはなく、つま先の強化された靴でお腹を蹴ってやろうと足を振り上げたら意図せず膝が鳩尾みぞおちに決まる。

「ぐふっ」

「ご、ごめんにゃさい……」

 両手を捕まえていたはずのレオナルドの手がはずれ、身体をくの字に曲げたレオナルドに、私の怒りは一瞬で冷めた。
 攻撃の意図はあったが、鳩尾に膝蹴りを入れるつもりまではなかった。
 たしか、鳩尾は人体の急所だと聞いたことがある。
 そんな場所を意図せずとはいえ蹴ってしまったのだ。
 成人男性であっても痛くないはずがない。

「痛い? 痛い? 痛いれすよね? ごめんなしゃい、そこまでするつもりやなかったれす……」

 反射的にレオナルドの背中を擦ると、痛みの引いたらしいレオナルドに再び捕まえられた。
 今度は暴れられないようにか、ご丁寧に抱き込んで膝の上へと拘束もされる。
 拘束の意図しかない構図が、姿勢だけなら膝の上に座らされて背中から抱きしめられている格好だ。

「ティナ、何度も言うが、暴力は良くない。意見があるのなら、ちゃんと口で言ってくれ」

「カーヤのことにゃら、何度も言ってましゅ。今殴ったにょは、レオにゃルドさんがあんまりにも頓珍漢らかられすよ」

 狙ったわけではないが、鳩尾へのクリーンヒットは効いている。
 レオナルドにも、私にも、だ。
 そこまでのダメージを与えるつもりはなかったのだが、急所と知っている場所に攻撃が入ってしまったのは痛い。
 やりすぎた、とこれ以上の怒りの継続は無理だった。

 ……怒りにまかせて、色々本音が言えそうだったんだけどね!

 悔しいし腹は立つが、もう暴力には訴えられない。
 これ以上の不満は、ムッと唇を尖らせるぐらいしか訴えようがなかった。

「ティナ、ゆっくり話してくれ。おまえは怒ると早口すぎて、何を言ってるのか聞き取れん」

「わたし、悪くないれす」

「いや、ティナが悪いぞ。一人で夜道を――」

「聞いてくれないんにゃら、また殴りましゅよ」

 殴ると言いながら、手は猫のポーズだ。
 言葉とは裏腹に、引っ掻く気満々である。

「わたしらって、夜道はこわかったれす。でも、レオにゃルドさんが一緒にいけってつけたカーヤが一人で帰れって。お祭は終わったかりゃ、わたしのお仕事も終わりって、わたしのことお途中で放り出したんれすよ」

 だから私は悪くない。
 私だって好きで一人で帰って来たわけではない、と今度はゆっくり主張する。
 私の言葉を聞いたレオナルドは、困惑した顔で頬を引き攣らせた。

「……そんな馬鹿なことを言う家庭教師がいるわけないだろう」

 普通の大人であれば、夜道を一人で帰れなどと子どもには言えないし、言わない。
 普通の神経をした大人であれば、だが。
 レオナルドも普通の神経をした大人であったから、まさかこんな非常識な行動をする大人がいるとは信じられないのだろう。
 私が聞いたそのままを伝えているというのに、いまいち信じられないようだ。

「それぐらいひどい家庭教師ら、ってわたしまえから言ってましらよね?」

 最初の一週間はカーヤも予定通り二日に一回来ていたので、多少授業らしきものをしていた。
 女性らしい仕草を身につけろ、ということだったので、物腰や姿勢を見て覚えなさい、とカーヤは私の手本として振舞った。
 主として使用人タビサを使い、出される茶や菓子を食い散らかし、お行儀もとてもではないが誉められたものではなかった。
 それでも最初は前世の知識がある私の常識と、この国の常識が違うのではないかと疑いもしたが、使用人の躾け方と称してカーヤがタビサの手を踏みつけた時に確信した。
 これは絶対に間違っている、と。
 こんなのは女性らしい仕草を身につけるための教育ではない、と。

「変らって感じりゅたびに、ちゃんとレオにゃルドさんに言ってましら。なんれレオにゃルドさんはわたしの言葉は信じなくれ、カーヤの言うことは信じりゅんれすか?」

「結構仲良くなれた、と聞いているぞ? ティナから髪飾りを貰った、と俺の買ってやった髪飾りをしていた」

「髪かざり……?」

 最近良く聞く単語だ。
 タビサが探していて、不審に思ってアルフに相談もした。

「バルトさん、タビサさんが探していら髪かざりって、どんなのだったか覚えていましゅか?」

「銀の鳩の意匠に、翡翠で作られたクローバーが飾られたものです」

 バルトも思い当たることがあったのか、すぐに答えが返ってくる。
 そして、今度はレオナルドが眉をひそる番だ。

「……ティナがカーヤにやったんじゃないのか?」

「どこにしまってあるかも判らないものを、どうやってわたしがあげりゅんれすか?」

 オレリアのくれたリボン以外は、はっきり言ってどこに片付けられているかも把握していない。
 数が多すぎるのが、理由の一つだ。
 それに、ただ与えられている贈り物の数々ではあったが、さすがに人から貰ったものを別の人間に贈ったりはしない。
 それも、血は繋がらなくとも兄だと言って自分を受け入れてくれている人間レオナルドがくれた物を、だ。

 そんなものを、嫌いなカーヤになど譲る理由わけがなかった。
次回は可愛い妹に全力で怒られて傷心レオナルド視点の閑話予定ですが、レオナルドが傷心のあまり更新はおやすみかもしれません(違)

誤字脱字はまた後日。
冗談はさておき、明日の更新はおやすみです。

誤字脱字、みつけたものは修正しました。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ