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グルノールの転生少女 ~ないない尽くしの異世界転生~ 作者:ありの みえ

第4章 街での新しい暮らし

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追想祭 1

 アルフにあれこれと話してしまうと、かなり楽になった。
 カーヤについては不審な点をいくつもレオナルドに訴えていたのだが、どうにも曖昧に聞き流されている気がしていたので、すっきりだ。
 すっきりはしたが、レオナルドには少し腹を立ててもいる。
 こちらは真面目に訴えているというのに、まともに取り合ってはくれないのだ。

 ……ふっふっふっ、レオナルドさんめ。新しい朝ですよ。絶望の朝です。

 元気良くベッドを降りて、カーテンを勢い良く開く。
 屋根裏部屋の窓は小さな出窓になっていて、カーテンの幅も小さい。
 そのため、子どもの私でも簡単に開くことができる。

 窓を開けて外に顔を出すと、夜明けを少し回った時間だと判った。
 今日は意識していつもより早い時間に起きようと企んでいたので、予定通りだ。

 ……まずはレオナルドさんが昨夜帰宅したかどうかを聞いてこよっと。

 レオナルドが帰宅していなければ、折角の早起きも無駄になってしまう。
 早急に確認をとり、場合によっては寝なおすしかない。

 寝巻きをベッドに脱ぎ捨てて、中古の夏服に着替える。
 今日は少々暴れる予定なので、レオナルドが買ってくれた綺麗で高価な服は着たくない。
 髪を手櫛で簡単に整えると、部屋を飛び出してそのまま階段を一階まで駆け下りる。
 今日はわざと大きな足音を立てた。

「おはよーごじゃいます」

 台所に飛び込むと、タビサが朝食の準備をしている。
 まだ野菜を切っている段階なので、今日は本当に早起きだ。
 室内を見渡してみたが、バルトの姿は見えない。
 もしかしたら、パン屋が配達してくれるというパンを取りに外へ出ているのかもしれない。
 せっかく早く起きたのだから、噂しか聞いたことのないパン屋の顔を見てみるのも楽しそうだが、まずは台所まで来た用件を済まさないことには。

「おはようございます、ティナ嬢様。今日は随分お早い……なんですか、その髪は。少し待っていてください。すぐに髪を……」

「後でいいれす。それより、きのうはレオにゃルドさん帰ってきましらか?」

「レオナルド様でしたら朝方に戻られましたが……」

「朝方れすね? では、起してきましゅ!」

 くるりと方向を変えて来た道を戻ろうとすると、慌てて追いかけてきたタビサに脇へと手を差し入れられて抱き上げられてしまった。
 元気よく前へと踏み出される足が空しく宙を掻く。

「朝方戻られたのですから、寝かせて差し上げてください」

「ならばなおにょこと、起しがいがありましゅ」

 朝方床に着いたというのなら、夜明けを少しすぎたこの時間は、少し眠れたかようやく寝付いたころだろう。
 もしかしなくとも、階段を駆け下りた足音で眠りが浅くなっているかもしれない。

「レオナルド様は遅い時間まで働いていらっしゃったのですから、ゆっくり寝かせてあげましょう」

「むーぅ……」

 いかに私が愛らしい幼女を装うとも、タビサの主はレオナルドだ。
 そのレオナルドの安眠を守るためならば、私の希望は二の次にされるらしい。
 当たり前のことなのだが、少し悔しい。

「……わかりました。朝ごはんの時間まれ、レオにゃルドさんとおやすみすりゅことにします」

 レオナルドを起こしに行くのではなく、一緒に寝るために行くのだ。
 言葉を変えただけで、レオナルドの部屋に乗り込むという事実は変わらない。
 これならどうだ、とタビサを見上げると、タビサの中でどのような思考が行われたのかは判らなかったが、苦笑いを浮かべながら床へと降ろしてくれた。

「静かにお部屋に入って、一緒にお休みするだけですよ? お約束できますか?」

 タビサに念を押され、答える代わりに両手で口を押さえる。
 子どもらしい「しゃべりません」「静かにします」というジェスチャーなのだが、内情としては嘘をつくのも気が引けるので「あえて返事はしません」だ。
 ただ本音を言ってしまっては引き止められるのが判っているので、小さな声で「いってきます」と囁いた。

 ……うん、私、あざとい!

 さすがに自分でもどうかと思う幼女ぶりっこなのだが、タビサは納得してくれたようなので気にしないことにする。
 これからレオナルドに悪戯をしかけようというのだ。
 多少の演技も悪戯のうちだ。






 タビサに止められないよう、足音を忍ばせて二階へと移動する。
 レオナルドの寝室へと足をむけると、これからする悪戯に向けて心が浮き足立った。
 らしくもなく浮かれているのが自分でも判る。

「レオにゃルドさん、起きてましゅか?」

 一応小さくノックをして声をかけてみる。
 ここで返事をされても困るのだが、中からの返事はなかった。

「寝ていましゅか?」

 カチャリとドアを小さく開いて、中を覗く。
 厚いカーテンの閉められた寝室は薄暗かった。

「レオさん、レオさん。寝ていましゅね?」

 よほど浮かれているのか、普段なら絶対に出てこない呼び方が自然と口から飛び出してきた。
 ベッドの中でレオナルドが身じろぐ気配があるので、起きているのか、無理やり覚醒へと向かわされているのかは判断がつかない。
 扉を閉めてベッドに近づくと、微かな返事が聞こえてきた。

「……起き、て……」

「ちなみに寝てなかったら泣かしましゅ」

「……寝てましゅ。俺はまだ寝ていましゅよ」

 寝起きのはずのレオナルドは、大分頭がはっきりしているようだ。
 律儀な返事に加え、私の舌っ足らずを真似てやり返す余裕まである。
 完全に覚醒しているのは間違いない。
 わざとらしく「ぐーぐー」といびきまでかき始めた。

「おはよーございまーすっ!!」

「ぅおっ!?」

 とうっと勢い良く大きなベッドに飛び乗る。
 さすがに体を踏んでは危ないので、着地地点はレオナルドの横を狙った。
 幼児の体重とはいえ、勢い良くベッドに飛び乗られれば、ベッドは大きく揺れる。
 ぐらんぐらんっとベッドの揺れが収まるのを待っていると、掛け布の中から伸びてきたレオナルドの二本の腕に捕まえられた。

「わきゃっ!?」

「くぉらっ! この悪戯っこめっ!」

 ぐいっと抱き寄せられて、一緒にベッドの上で横になる。
 肩と腰をがっちりと固められているのは、また飛び跳ねたりさせないためだろう。

「ベッドの上は飛んだり跳ねたりする場所じゃないぞ」

「はぁーい。ごめんなしゃい」

 内容は一応注意なのだが、少しも怖くない。
 レオナルドも、突然私がこのような暴挙にでたことについて、何か思うことがあるのだろう。
 怒られるのを承知でした悪戯なので、私としては反省するどころか楽しくて仕方がない。

「……今日はやけにご機嫌だな? 朝から飛び乗ってくるとか」

「え? だって、今日は悪戯をしてごめんなしゃいをする日れすよね? 夏の真ん中の月の、二十八の日」

 この世界の月は、春夏秋冬が各三ヵ月の全十二ヵ月と地球と同じである。
 ひと月の長さは二十八~三十一日で、一年は三百六十五日と、これも地球と同じだ。
 つまり、夏の真ん中の月というと、日本での七月になる。
 私の誕生日は初夏なので、日本で言えば六月生まれ、こちら風に言うと夏の前の月生まれだ。
 ちなみにレオナルドの誕生日は隔離区画が一番忙しかった春の後ろの月だったそうで、こちらも知らないうちに二十二歳になっていた。

「……確かに今日は夏の中月の二十八日だが……別に悪戯をする日ではないぞ?」

「ほっ?」

 ……なんですとー!?

 私をお腹の上に乗せたまま、レオナルドはあくびを噛み殺す。
 悪戯をする日だと思っていたからこそ、寝ているところへ襲撃してきたのだが、違うのならば夜勤明けの襲撃はさすがに申し訳がない。
 速やかに退散して寝なおしていただくべきだろう。

「……メイユ村では悪戯をする日だったのか?」

「はいれす。小しゃな悪戯をして、ごめんなさいをする日れした」

 違うんですか? と首を傾げれば、寝かしつけようとするように頭を撫でられた。
 寝起きすぐを襲撃されたわりにはすぐ対処していたが、やはりまだ眠いのだろう。

「悪戯をして故意に謝る状況を作るというのがまずおかしいと思うが……」

「悪戯をする日じゃなかったんれすか。がっかりれす」

「がっかり?」

 メイユ村では子どもたちが小さな悪戯をして、その悪戯を謝る日だった。
 が、メイユ村では私の家は除け者扱いだったので、これまで悪戯をする相手がほとんどいなかったのだ。
 両親と世話になっているダルトワ夫妻相手には、悪戯自体がしづらくもあった。
 今年は兄が相手なので、はりきって悪戯をしようと思っていたのだが、街では悪戯をする日ではなかったらしい。
 どうも習慣が違うようだと理解し、レオナルドのお腹の上から謝罪をする。
 悪戯をする習慣がないのなら、本当にただの安眠妨害でしかない。

「……秋からメンヒシュミ教会に行けば習うことになるが、ただしくは悪戯をして謝る日じゃない。夏の中月の二十八日は、追想ついそう祭だ。今は呼び方が変わったが、昔は悔悟かいご祭とも改悟かいご祭とも言っていた」

 一番古い呼び方は慙愧ざんき祭と言ったらしい。
 言葉を見る限り、碌なゆえんではあるまい。
 レオナルドが簡単に解説してくれた話によると、大昔ある人間が神様の怒りに触れて、多くの命が失われることとなった。
 人々は反省し、二度と同じことを繰り返さないよう神様に誓い、自らの罪を忘れないよう祭りとしてその出来事を残したのだとか。

「大変れす、レオにゃルドさん。メイユ村ではきれいに忘れらえてましゅ」

 少なくとも私は、今日レオナルドに訂正されるまで悪戯をして謝る日だと思っていた。

「大変だと言っても、そのメイユ村はもうな……」

 あくびの混ざった声が途切れる。
 うっかりもらした言葉がどういう意味を持つか、遅れて気が付いたのだろう。
 すぐにでも眠りに落ちそうな目だったのだが、ばつが悪そうに泳ぎだした。

「……悪戯が神様を怒らせたって部分で、謝るところが反省部分だったのかもな。もしかしたら、伝承を子供向けに噛み砕いた結果かもしれない」

 さてティナ、と言葉を区切り、ようやく拘束の手が緩む。
 髪を撫でていた手が脇へと差し込まれ、ベッドの上に座らされた。
 ついでにレオナルドも体を起こしたので、肩から掛け布が滑り落ちる。

「仮眠を取ったら街の祭りへ連れていってやるから、もう少し寝かせてくれ」

「わかりましら。悪戯の日とまちがえて叩き起こしちゃってごめんらさい」

「……反省してくれたなら良い」

 ところでレオナルドさん、と反省した私をベッドから降ろそうとするレオナルドに話かける。
 一つだけどうしても気になることがあった。

「なんれ裸なんれすか?」

「暑いから、だが?」

 そこに何か疑問に思う要素があるのか、とばかりに普通の顔をして返されてしまった。
 体を起こすまではまるで気が付かなかったのだが、掛け布の下のレオナルドは裸だった。
 ついでに言うと、けっこう際どいところまで見えている。

 ……そういえば、日本のホテルは外国のホテルを真似していて、シーツが大きいのは全裸で寝ることを想定している、って何かのテレビで見た気が?

 他にもホテルのベッドに関する豆知識があった気がするが、今はどうでもいい。
 今はいつか見たテレビの豆知識など思いだしている場合ではない。

「……ちなみに下は?」

「確認してみるか?」

 幼女相手に艶っぽい笑みを浮かべてレオナルドが誘う。
 おそらくは、カーヤはレオナルドのこういう顔を見たいのだろうな、とは思うのだが、今の私にそんな色気を見せられても困る。

「……確認してもいいれすが、何もはいてなかったら、新しいくつのしゅくふくを受けることになりましゅ」

 それでもいいですか? と可愛らしく確認したら、無言でベッドから下された。
 どうやら本当に下も穿いていないらしい。






 台所に戻ってタビサを手伝い、朝食を食べ終わったら暇になった。
 今日は一日小さな悪戯をしようと思っていたのだが、どうやら町と村では習慣が違ったようで、すべてが白紙だ。

 ……辛いパンケーキとか、悪夢の味噌煮再び、とか考えてたんだけどな。

 色々考えていたのだが、悪戯はできなくなってしまったので暇だ。
 レオナルドが仮眠を取ったら街へ連れて行ってくれるというので、体力づくりと称して館中を動き回って疲れるのも控えた方が良いだろう。
 となると、出来ることは本当にない。
 満腹のお腹がおちつくまで自室に籠もろうかと階段を登り、ふと思い立って二階で足を止める。
 レオナルドが街に連れて行ってくれると言うのだ。
 一緒に寝れば、レオナルドが起きた時にすぐ判る。

 ……時間を無駄にしない、合理的な判断、です。

 二度目となる小さなノックをし、レオナルドの寝室の扉を開く。
 相変わらず厚いカーテンが閉められた部屋は薄暗かった。
 さきほどはベッドの隅で綺麗に畳まれていた寝巻きが、今は一部がぐちゃりと崩れている。
 どうやら下は穿いてくれたようだ。

「レオさん、レオさん、一緒に寝れも、いいれすか?」

 声はかけるが、返事は待たない。
 よっこらせ、と片足をあげてベッドに載ると、返事はなかったがレオナルドの腕が持ち上がった。
 枕には丁度良さそうな位置である。
 くぁっとあくびを一つして、レオナルドの腕を枕に横になった。
 早起きをしたことと、満腹であったことから、睡魔はすでに訪れている。

 ……食っちゃ寝生活にもほどがある……。

 そうは思うが、今日だけのことだと自分に言い訳をし、睡魔に身を任せることにした。
新しい靴の祝福=つま先を強化した靴で股間を蹴り上げて差し上げますの意。
体制を考えたら「踏み潰してやる」かもしれないけど。

誤字脱字はまた後日。

誤字脱字、発見したものは修正しました。
27日の更新はおやすみします。
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