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グルノールの転生少女 ~ないない尽くしの異世界転生~ 作者:ありの みえ

第3章 砦の街グルノール

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アルフの誘い

 タビサにバスケットへとサンドイッチを詰めてもらい、裏庭へと出る。
 正門へ行っても良いのだが、さすがに前庭を突っ切るのは距離的に辛い。
 ちょっと気分転換に外でお昼を食べよう、という程度のお出かけなので、そこまでの距離は歩きたくなかった。
 敷地外へと出ることなく近場で、暇つぶしの話し相手が捕まる場所となると、先日見つけた裏門しかない。
 正門の門番は比較的来客や通行人と会話することがあるらしいのだが、裏門は基本的には誰も近づかない。
 そのため一日中裏門の門番は暇をしているのだ。

 ……門番の顔と名前は覚えておけ、ってレオナルドさんも言ってたしね。

 レオナルドが居ない日は宿直とのいとして門番が一人館に詰めてくれる。
 また私が泥棒と勘違いして大騒ぎをしないためには、あらかじめ彼等の顔を覚えておく必要があるのだ。

 ……結構色々覚えたよ。門番は基本二人組、一日三交代制。補充要員をいれて全部で十五人。

 護衛対象である館に住む人間ではあるが、交代時間まで教えてしまっても良いのだろうか、とは少し思うが。
 今の私は裏門の門番についてちょっとだけ情報通だ。

「ティナです。開けてもいいれすか?」

 木戸を叩き、砦側の裏門を守る門番に合図を送る。
 いつもはこれで裏門が開かれ、中から暇そうな顔をした門番が顔を出すのだが、今日は少し待ってみても木戸が開かれる様子はなかった。

 ……あれ? 居ないのかな?

 不思議に思って木戸の取っ手に手をかける。
 キィっと蝶番が軋む音を立てて扉を開くと、そこにはにこやかな笑みを浮かべたアルフが立っていた。

「……あれ? アルフさん?」

「やあ、ティナ。久しぶりだね」

 そういえばアルフの顔を見るのは久しぶりな気がする。
 指折り数えてみれば、街に来た日に砦で別れて以来、一週間以上顔を見ていなかった。

「お久しぶり、です……?」

 久しぶりは確かに久しぶりなのだが。
 なぜアルフが裏門にいるのだろう、と周囲を見渡す。
 そうすると、普段は門番が並んで立っている場所で、一心不乱にスクワットをする二人の門番の姿が見えた。

 ……なんでスクワット?

 不思議に思って首を傾げると、アルフに視界を遮られる。
 どうやら私が見てはいけないものだったらしい。

「ティナ、門番からこの門は使っちゃいけません、って言われなかったかな?」

 ……あ、そういうことですか。

 どうやら私はこれから怒られるらしい。
 許可無く裏門を使ってはいけない、という理由で。

「門、使ってない、よ。ここで、門番さんたちと、お話、しただけ」

 一応屁理屈を捏ねてみる。
 裏門を開いて門番と話し込むことはあったが、裏門から出入りをしたことは一度もない。

「……門番のお仕事の邪魔になる、と考えた事は?」

「ごめんなさい」

 そう言われてしまえば、屁理屈で誤魔化すことはできない。
 出入りという意味では門を使っていないが、門番と話をすれば、それだけでも二人の業務の妨げになるだろう。
 たとえ門番本人が暇だと、私を話し相手に引き止めたのだとしても。

「副団長、ティナちゃんを引きとめたのは自分が――」

「五十回追加」

「はっ!」

 どうやら取り付く島はないらしい。
 振り返らずに回数を追加するアルフの声は固い。

「……それで、ティナはなんで裏門に? 裏門を使ってはいけない、とは門番から聞いているよな?」

「だって、毎日暇、です」

「暇? 館には書斎があるだろう。そこで本でも……そういえば、まだ文字が読めないとか、レオナルドが言っていたな」

 と、ここで言葉を区切り、アルフは考えるような仕草をした。

「……文字も読めない、外出も禁止で、館に居るのは使用人夫婦二人だけ、って状態でティナを放置しているのか、あの馬鹿は」

 ……改めて考えると、放置児童ですよね、私。

 三食昼寝付き、さらにおやつまで付いてくる高待遇ではあるのだが。
 出来ることも、やることもないのに、ただ家の中に放置されているのは困る。
 屋根裏部屋の掃除はもう終わってしまったし、だからと言って他の部屋の掃除はさせてもらえないのだ。

「暇なら、砦で働くか?」

「ほ?」

 意表を突かれすぎて変な声がでた。
 レオナルドは子守女中ナースメイドを付けるか、家庭教師を雇うかと言っていたが、私が働きに出るという選択肢はなかったはずだ。

「実は、街の中での感染は落ち着いてきているが、隔離した砦の一角にいる感染者を看病する手が足りていない。感染を恐れて看病したがる者もいないしな」

「それを、わたしに任せる、どうかと」

 看病したがる人間がいないからと言って、幼女にその役目を押し付けるのはいかがなものか。
 そうは思うのだが、不思議と惹かれるものがある。
 たしかに、私だって感染するのは怖い。
 でも今はオレリアの薬がある。
 最初は数が足りなくて騎士にしか配れないとレオナルドが言っていたが、そろそろ数も揃っているはずだ。
 初期の感染なら治ると聞いている。

 ……感染は怖いけど、薬で治るし、少しは――

 ――少しは、この罪悪感が薄れるかもしれない。

 頭の裏側で、声が聞こえた気がした。
 もちろん、本当に声が聞こえたわけではない。

 ……これが、私の本音。

 いやらしい本音だ。
 日本語が読めれば、聖人ユウタ・ヒラガの残した研究資料が読める。
 今砦に隔離されている伝染病の治療薬も作れるかもしれないのだ。
 だというのに、転生者とバレたらどのような扱いを受けるか判らないと言うだけの理由で、私は私の身を守るためにそれを黙っている。
 すでに何人も、それこそ村が丸ごと無くなるぐらいには人の命を奪っている病だというのに、だ。
 その後ろめたさを、私は少しでも誤魔化したいのだろう。

「ティナはメイユ村で生活していたわけだけど、感染せずにいられただろ? ティナの生活態度を真似れば、他の者もある程度の感染は防げるかもしれない、と思っている」

 嫌と答えない私が不思議なのだろう。
 アルフは少し言葉を足した。

「……看病、した。でも、村の人、みんな死んだ」

 ……あ、私の声、少し固い。

 嫌な思い出の方が多い村だったが、やはりあんな形で離れることになってしまえば思う事もある。
 オレリアの家に居た頃は毎日やることがいっぱいあって、あまり考える暇はなかったのだが。
 レオナルドの家は駄目だ。
 使用人が居て家事の全てを行い、私がやれる仕事はない。
 新しいことに触れている間は忘れていられるのだが、無為すぎる時間につい色んなことを考えてしまい、息苦しくて動けなくなる。
 それが怖くて、やることも無いのに屋敷中を散策と称して歩き回っているのだ。

「メイユ村は間に合わなかったが、今はオレリアの薬がある。体力のある者たちはちゃんと快方に向かっているよ」

 だから心配しなくても良い、と言いながら、アルフは私の頭を撫でる。
 優しい手つきだったのだが、わざと乱暴に揺すられてみた。
 ぐらんぐらんと揺れる視界に、少しだけ気分が浮上する。

 ……日本人の転生者だって、名乗り出ることはできないけど。

 今の自分にできることがあるのなら、可能な範囲で手伝いたい。
 そう思っているのも本当だ。






 バスケットに入れたサンドイッチを館へと持ち帰り、食堂で食べている間にアルフがバルトたちと話をしていた。
 しばらくアルフが私を預かる、という話だ。
 タビサは伝染病を隔離している場所に私を向かわせるなんて、と反対していたが、夜には帰ってくることを条件に一応納得をしてくれたようだった。
 いつのまに用意していたのか、子どもサイズのマスクと手袋を山のようにアルフが持たされている。
 動きやすいようにオレリアの家で着ていた服に着替えると、砦へと向かう準備は完了だ。

「ティナ、本当にいいのかい?」

「誘ったの、アルフさん。今さら、お手伝いなし、ない」

 マスクと手袋をして裏門から砦へと入る。
 隔離施設として案内されたのは、北棟の一角だった。
 明り取りの窓はあるし、カーテンも閉められているわけではないのだが、何故か薄暗く感じる。
 病室として使われている部屋をいくつか覗き、アルフの後に続いて廊下を歩く。

 ……本当に村の人と同じ病気みたいだね。

 いくつか覗いた病室でベッドに横になっていた人の症状が、いつか見た母の症状と似ている。
 手足に赤くはれた疱瘡と掻き毟った跡があり、指先には血が滲んでいた。
 比較的症状が軽い、と聞いた病室の患者は、疱瘡こそ無かったが高熱でうんうんとうなされている。

 ……臭いもすごい。

 血と浸出液の混ざった独特な臭いと、汗とアンモニアの臭いが充満している。
 看病が嫌がられるとアルフは言っていたが、洗濯をする者もいないのだろうか。

 ……なんとなく不潔な感じ。掃除とか洗濯とかしてるんだろうけど、全然間に合ってない、みたいな?

 これでは治る病気も治らない。
 そんな不衛生な環境に見えた。

「とりあえずティナはこの区画を観察して、気になったことを教えてくれ。解っていると思うが、マスクは絶対に取らないように」

 他の説明としては、一階は潜伏期間が疑われる者、初期状態で薬を与えられた者、看病をするための人間がいる。
 二階と三階はすでに発病していて高熱で寝込んでいる者や、猛烈な痒みと戦っている者だらけとの話しだった。

「……あと、ここには地下室もあるが、ティナは絶対に近づかないように」

「何故、ぜったい?」

「特に酷い重篤患者が隔離してある」

 アルフは子ども相手だから、と言葉を濁さなかった。
 下手に隠すよりも、はっきりと言っておいた方が私は聞き分ける、と思っているのかもしれない。

 ……確かに、ちゃんとダメな理由を説明してくれたら、私だって言うこと聞くよ。

 それにしても、と考える。
 重篤患者を地下室に、というのは、治る病気も治らない気がする。
 病を封じ込める、という意味では正しいのかもしれないが。

 ……地下室って、換気とかちゃんとしてるのかな?

 他にも気になることがいくつかあったが、まずはアルフに言われたように、隔離区画の観察をしてみることにした。
幼女相手の語りかけだと、大概のキャラが同じ口調になってきてあかん……orz

怪我をした時とかに出る透明だったり、乾くと黄ばんでいたりする液体の名前が浸出液だと、今日初めて知りました。
我が家では母が「ヤニ」と呼んでます。これは方言か? 正しい言葉なのか? と調べてよかった……。
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