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グルノールの転生少女 ~ないない尽くしの異世界転生~ 作者:ありの みえ

第3章 砦の街グルノール

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迷惑な訪問者

 屋根裏の掃除が終わってしまい、完全に暇になってしまった。
 レオナルドの口添えのおかげで少しぐらいのお手伝いはさせてもらえるのだが、さすがに一日潰れるような量の仕事は任せてもらえない。
 一応は雇用側の人間ということになっているからだ。

 そうなると、この館で一日を無為に過ごすのは難しい。
 やりたいことも、やらなければならないこともないのだ。

 ……とはいえ、いくら暇でも一人で外に行くのはなぁ?

 子どもなら子どもらしく外に遊びにいくという方法もあるが、右も左も判らない場所に自ら出向くような冒険心は残念ながら持ち合わせていない。
 一応レオナルドにも聞いてみたが、一人での外出には難色をしめしていた。
 しばらくはタビサが食材を仕入れに出る時についていき、行動範囲を少しずつ広げていくしかないだろう。

 そんなわけで、今の自分にできることは敷地内の散策しかない。

 ……裏口で砦の敷地と繋がってるんだね。

 暇に任せて敷地内を散策しまくり、今日初めて小さな裏門の存在に気が付いた。
 この門を通れば、表から回るよりも早く砦へと行ける。

 ……見張りは……あ、いた。

 館側の扉の前には誰も居ないのだが、木製の扉を開けて砦側に顔を出すと、あくびを噛み殺した黒騎士が二人立っていた。

「あれ? パールさん?」

 門番二人のうち一人に覚えがある。
 館に来た翌日、レオナルドに顔を覚えておけ、と紹介された門番の一人だ。

「ティナちゃん、この道は、黒騎士以外は使用禁止だよ」

「そうなの? ごめんなさい」

 それは失礼しました、と扉を閉めようとすると、パールに引き止められた。
 どうやら二人とも、人気の無い裏門の警備で暇を持て余しているらしい。
 話が長くなりそうな気がしたが、こちらも暇を持て余していたので良いかもしれない。

「この道は砦と館との緊急用の道だから、普段は使っちゃいけないことになっているんだ」

 もしかして団長に会いたくなったのかな? と聞かれたので、素直に敷地の探索中に門を見つけただけだ、と答えておく。
 どれだけ暇であっても、こっそりレオナルドに会いに砦へ行こう、などと考えた事はなかった。
 砦で仕事をしているレオナルドの邪魔はしたいとは思わない。






 結局、私以上に暇を持て余していた門番二人から逃れることができず、しばらく話し相手をすることになった。
 砦の中でのレオナルドのことや、ブラウニー夫妻と紹介されたタビサたちの姓が本当はバーロウであることなど、実にささやかな新情報を手に入れる。

 ……まさか、本当にお手伝い妖精って意味のブラウニーだとは思わなかった。

 ブラウニー夫妻というのはあだ名のようなものだった。
 何人か前の砦の主と館の管理人として終身雇用契約的なものをして、館の主が変わっても管理人である夫妻だけは変わらないことになったらしい。

 ……まあ、主が変わるごとに管理人を雇いなおすのも大変そうだしね。コロコロ主が変わるって言うのなら、管理人が固定なのは合理的なのかも?

 裏口から出入りをしてはいけません、と言いつけられていたので、面倒でもぐるりと館の正面へと回る。
 裏口は使用人の使う出入り口なので、主人側の人間は使わないものなのだとか。

 ……主人とか使用人とか関係なしに使わせて欲しいけどね、私、足の短い幼女ですから。

 散策のために敷地内を歩き回っているのは自分だが、さすがに疲れるので帰り道はショートカットしたい。

「あれ?」

 正面玄関に普段は門の前にいる門番一人とバルト、それから見知らぬ白衣の集団がいた。

 ……なんだろう? なんか揉めてるみたいだけど?

 様子を見ながら揉めているらしい一団に近づく。
 揉め事に首を突っ込む趣味を持っているわけではない。
 彼等が正面玄関に陣取っているため、館に入るためには仕方なくとも近づくしかないのだ。

 ……一人だけグレーの服着た人がいるね。

 白衣の集団の中で、一人だけ濃い色の付いた服を着ているので目立つ男がいる。
 背はそれほど高くは無い。
 長い茶色の髪を三つ編みにした、眼鏡をかけた男性だった。

 ……バルトさんは忙しそうだから、誰に聞けばいいんだろう?

 観察しているとバルトが白衣の集団を館に入れないようにしているのが判ったので、その背後に回りこんで自分だけ玄関から中に入るのは避けた方が良い気がする。
 門番の仕事もバルトと同じだ。
 白衣の集団をその場に押しとどめる、もしくは門まで下がらせようとしていた。

「……なんの、さわぎ?」

 興奮状態にあるらしい一団から一歩離れ、静観しているように見えたグレーの服を着た男に話かけてみる。
 男は意外な方向から聞こえてきた声に驚いたのだろう。
 数瞬またたいた後、視線を私へと落とした。

「おまえ……いや、お嬢さんはこの館の子かな?」

 ……あ、この人、嫌な奴だ。

 私を見た瞬間「なんでこんな所に子どもが?」とあからさまに顔を歪め、レオナルドの用意したワンピースのを見て言葉を改めた。
 人を見た目とか身分で判断する、ちょっとお近づきにはなりたくないタイプなのだと思う。

 ……いや、一言で嫌な奴認定とか、私もそうとう嫌な子どもだけどね。

 なんとなく警戒心が刺激され、男から数歩下がって距離をとる。
 男の方は第一声の失敗に気が付いたのか、特に追いかけてくることはなかった。

「おうちのまえ、なんのさわぎ?」

「騒いでいるのは我等がセドヴァラ教会の頭脳にして、最大の恥部、ユウタ・ヒラガ研究会の御老人たちだ」

「ちぶ……?」

 どこから突っ込んで良いのかがわからず、とりあえず引っかかりを覚えた単語を復唱して首を傾げる。
 無害なただの子どもですよアピールは大事だ。

「恥部っていうのは、恥ずかしい部分って意味かな」

「ごろうじん、はずかしいの?」

「恥ずかしいねぇ……」

 苦笑を浮かべた男に、最初に感じた警戒心が揺らぐ。
 気は合いそうにないが、日常会話レベルの付き合いなら可能なかんじだ。

他人ひと様の自宅前で騒ぎたて、とにかく中に入れろと門番や使用人に食って掛かる老人集団とか、同じ教会に所属する人間として恥ずかしいよ」

 礼節を欠きすぎており、年長者としてとても褒められた行為ではない、と言うことだろう。
 肩を竦める男に、思わず同情してしまった。

「……それで、お嬢さんはこの館の子かな?」

 ……あ、話が戻った。

 にっこりと笑った男の顔から読み取れる感情としては、「この館の子じゃなかったらどうしてくれようか」という黒い物が伝わってくる。

 ……無駄な説明をさせやがって、ただでは済まさん。とか、絶対思ってる顔だ。

 玄関前の騒ぎを静観していたので、落ち着いた人なのかと思って話しかけてみたのだが、話しかける相手を間違えた気がする。
 むしろ「気がする」ではない。
 絶対に「間違えた」だ。

「お嬢さんがこの館の子なら、使用人にお嬢さんから言ってくれないかな? とりあえず我々を館の中に入れるように、って」

 ……あ、それが目的ですか。

 確かに私が認めればバルトたちは白衣の集団を館に入れるだろう。
 レオナルドが砦に行っている時間は、私がこの館の主のようなものだ。
 けれど、私だってレオナルドから館の留守番を任されている、と自負している。
 そう簡単に素性の知れない人間を館へと招き入れることはできない。

「知らない人は、おうち、入れません」

 幼女が使える、単純にして最強の断り文句である。
 子どもの断り文句としては他にも「親の言いつけ」だとか「友達がそう言ったから」だとか、発言の責任を他人に押し付けるものもある。

「そうか、確かに知らない人は家に入れたら駄目だね。お嬢さんはちゃんとお留守番のできる良い子だなー」

「アナタハ清々シイマデノ棒読ミデスネー」

 思ったことをそのまま言ったら不味いことは判るので、日本語で毒を吐く。
 意味など通じるわけが無いのだが、なんとなく毒づいているのは判ったのだろう。
 男は一瞬だけ奇妙な表情をして、すぐに笑顔の仮面を被った。

「申し遅れました。私はセドヴァラ教会グルノール支部内ニホン語解読班所属のジャスパーと申します」

「セドヴァラきょうかい……グルノールしぶ、ない……ニホン語かいどく?」

 台詞が長すぎて全部は聞き取れなかったのだが、日本語解読とか言っていた気がする。
 目の前の男は日本語を解読できる、ということだろうか。

 ……もしかして、今の日本語、聞き取れたぞ、って意味ですかー!?

 失敗した。
 力いっぱい失敗した。
 もう二度とどうせ相手には理解できないだろう、と日本語で愚痴や毒を吐くのはやめよう。

 ……やばい、やばいよ。ばれた? 転生者って気づかれた? オレリアさんに気をつけろって言われたてのに……っ!

 内心で激しく動揺しているのだが、気づかれるわけにはいかないので、逃げ出したい。
 否、今逃げ出せばますます立場が悪くなるだけな気もする。
 そもそも、この意地の悪そうな男はきっと逃がしてくれはしない。

「それで、お嬢さんのお名前は?」

「なまえ?」

 どう誤魔化したものかと心臓はバクバク言っているのだが、ジャスパーと名乗った男は私の内心の動揺など知るわけも無く、涼しい顔をして続きを促してきた。

「私はジャスパーとすでに名乗りました。相手に名を名乗らせておいて、お嬢さんは名乗らないつもりですか?」

「……あ」

 ……なるほど、あれですね。子どもとお互いに名乗りあって、「これで知らない人ではない」と言いくるめる戦法。

 日本語解読うんぬんと言うのはただの自己紹介で、他意はなかったのかもしれない。
 もちろん、気をつけるに越したことはないが。

「うー……」

 先に名乗られたからには、やはりこちらも名乗るべきだろうか。
 そうは思うのだが、なんとなく正直にのせられたくはない相手だ。
 本当に「なんとなく」でしかないのだが、すでに苦手意識がべったりと張り付いている。

「ぐりゅのーるきちだんレオにゃルドしゃんのいもーとぶんのてぃなです」

 長く自己紹介をしてくれたジャスパーに対抗し、こちらも長く自己紹介してみたのだが、久しぶりの長台詞にやっぱり噛みまくった。
 普段よりも酷い。
 しかし、ジャスパーはこれを特にからかうことはなかった。
 しれっと受け流して笑顔の仮面を貼り付けたままである。

「ではティナさん、私たちはお互いに名乗りあったわけですし、もう知らない人ではありませんよね?」

 ……言うと思ったよ!

 さて、今度は何と言って断ってやろうか。
 そう無い知恵を絞り始めると、新たな足音が近づいてきた。

「あ、レオにゃルドさん」

 若干怖い顔をしたレオナルドが、もう一人の門番を伴ってやってきた。
 どうやら二人の門番のうち、一人は白衣の集団を押しとどめに、もう一人は砦へとレオナルドを呼びに行っていたらしい。

 ……お仕事モードで前髪あげてて怖い顔してるけど、今の私には白馬の王子様に見えるよ!

 レオナルドの登場で、微妙にやり難い相手から逃れることができる。
 保護者の登場に幼女が会話を打ち切ってそちらへと走り寄ったところで、それほど不自然ではないだろう。
 今日ほど幼女でよかったと思ったことはない。

「おかえりなさい、レオにゃルドさん」

 そ知らぬ顔をしてレオナルドの元へと走り寄る。
 私の歓迎を受けたレオナルドは、大きな手で私の頭を撫でると、庇うように背後へと私を隠してくれた。

「レオにゃルドさん、お客様? おうち入れていい人?」

 レオナルドの背後から頭だけをだして見上げる。
 見上げられたレオナルドは、視線を白衣集団に向けて若干疲れたような顔をした。

「一応客ではあるが……まあ、少し乱暴だな」

 白衣集団の非礼を責める響きに、やはりバルトたちの対応が正しかったらしい。
 ほとんど強引に館へと押し入ろうとしてくるような相手だ。
 レオナルドの留守中に館へと入れるには抵抗がある。

「……ティナ、昨日の本は、屋根裏にあったんだよな?」

「昨日の本……?」

 ……というと、聖人ユウタ・ヒラガの伝記?

 ようやくこの騒がしい珍客の目的が判ってきた気がする。
 日本語解読班所属というジャスパー。
 騒いでいる白衣たちはセドヴァラ教会の人間。
 セドヴァラ教会といえば、聖人ユウタ・ヒラガが作り出した薬の処方箋レシピ管理を任せた施設だ。
 そしてその処方箋は失われた技術となっているものも多い、とレオナルドが言っていた気がする。

 ……昨日の本から、何か処方箋のヒントでもみつかったのかな?

 なんとなくではあるが、白衣集団の目的が判りホッとする。
 ただの騒がしい集団ではなかったのだ。

「昨日の変な本、やねう……」

「変な本とはなんだ! 罰当たりなっ!!」

 突然大声で怒鳴られてしまった。
 あまりに驚いたので、反射的にレオナルドの後ろへと首を引っ込める。
 しかし怒られたのは自分なので、と恐るおそるレオナルドの背後から顔を覗かせると、白衣集団の一人が青ざめた顔をしていた。

 ……あ、今私を怒鳴りつけたのあなたですか。顔あげたくないです。レオナルドさんどんな顔してるんですか。

 若干どころではなく私を甘やかしていると判るレオナルドだ。
 レオナルドの目の前で私を怒鳴りつければ、まあ鋭い眼光ぐらい頂く事になるだろう。
 可哀想に真っ青な顔をした白衣の男は、しどろもどろと小さな声で何やら怒鳴りつけたことを詫びている。

「……ティナ、昨日の本みたいなものは、他にはなかったか?」

 長い溜息を吐いた後、白衣の男からの謝罪を受け入れたのか、レオナルドが言った。
 私はというと、すでに気の毒になるほど青くなっている白衣の男が不憫で、知らんぷり等で意趣返いしゅがえしをしてやる気にもならない。
 本当に、レオナルドはどんな顔をしていたのだろうか。

「何冊か、紐、縛ってあった。ベッドの下、あった。けど、今は隣の部屋」

「他の本にもニホン語は書かれていたか?」

 ……あ、やっぱり日本語が目的でしたか。

 そうは思ったが、ここで失敗はしない。
 つい先ほど日本語を解読しているという人間に対して、日本語で毒を吐いたあとだ。
 さすがに失敗をした直後に新たな失敗はしない。

「ニホン語、しらない」

 日本語なんて知りませんよ。
 見たって判るわけないじゃないですか、としらばっくれる。
 世話になっていると自覚のあるレオナルドに嘘をつくのは多少良心が痛むが、身の安全のためには仕方が無い。

「他の本、見てみる?」

 とぼけることしかできないせめてもの罪滅ぼしに、精一杯の愛嬌を振りまいてみる。
 レオナルドの背後から出て手を引っ張ると、レオナルドの表情が幾分か和らいだ。
ジャスパー氏の性格が書いてみたら予定と違う……
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