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グルノールの転生少女 ~ないない尽くしの異世界転生~ 作者:ありの みえ

第1章 メイユ村の転生幼女

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マルセルの愛玩動物

 貧しい村で唯一愛玩動物ペットを飼っている、というステータスを得て、マルセルは調子にのった。
 これまで以上に絶好調だ。
 絶好調すぎて、ウザさも倍増している。

 マルセルは最近ではほとんど家に居るらしい。
 おかげで外を歩くのになんの警戒もいらないので喜ばしいことだが、たまに遭遇する事があるとニヤリと口の端を歪めて笑うのが気持ち悪い。
 空気を読める日本人としてその表情から読み取れた感情は「いいだろう、うちの愛玩動物」「見せてくださいって言うんなら、見せてやってもいいんだぜ」「見せてください、って言えよ」といった所だ。
 マルセルはこれを村中でやっているので、村人はほとんどこのペット自慢の被害を受けている。
 そのせいで、見ていなくてもどんなペットなのか判っていた。

 ……リス系のげっ歯類とか、ちょっと可愛いんだろうけど、マルセルの家に行くとか無理。

 村の中では普通なのかもしれないが、日本人の感覚で見ると汚家おうちにしか見えないマルセルの家を訪問などしたくはない。

 ……そういえば、オーバンさんの家って汚いって思ったことないな。

 ダルトワ夫妻は村人に比べて身奇麗で、家の中も綺麗に掃除されている。
 夫妻に頭を撫でられる時は伸ばされた手に身構えることもないし、抱き上げられても息を止める必要はない。

 ……どっちかが前世日本人で、綺麗好きだったりしてね。

 そんなありえない想像をしていたら、突然進路を塞がれた。

「よお、ティナ! 久しぶりだな!」

 ……ついに家で待っていても誰もペットを見に来なくなったから、自慢できる相手を外に狩りに来たか。

 ペットを買って以降、マルセルは毎日のように村人を呼んで自慢していたので、村長の家のペットは村中に知れ渡っている。
 正直なところ、村人もすでに飽きているのだ。
 わざわざマルセルの長い自慢話を聞きに村長の家に行く者など、この村にはもう誰もいなかった。

「おまえにはまだおれの愛玩動物ペットを見せてやってなか……」

「興味ない」

 最後まで言わせずに、言葉をかぶせる。
 リス系の小動物はほんの少しだけ見てみたいとは思うが、そのほんの少しの好奇心を満たすために支払う代償が大きすぎた。

 ……マルセルの自慢話を延々と聞かされるの嫌だし、村長の顔なんて見たくないし、そもそも宅訪問とかしたくないし。

「嘘付け! 俺の愛玩動物は滅茶苦茶かわ……」

「どうでもいい」

「ちょっとティナに……」

「キモっ」

 マルセル的に、リス系のペットと私が似ているらしい。
 村人に散々「ティナっぽい」「ティナに似てる」「うちの愛玩動物可愛いだろう」と言っていたらしいことは、ペット自慢被害にあった村人から聞いている。

 ……ペットを好きな子に見立てて溺愛するとか、キモすぎるんですけど。

 腰に手を当てて、盛大に溜息を吐く。
 やれやれだぜ、といった呆れのジェスチャーのつもりだ。

 近頃では完全に無視をするより、少し相手をしてやった方が早く開放されると学んだ。
 一に挨拶、二で切り捨てゴメン、三・四がなくて、五でさようなら。
 理想としてはこんな感じだ。
 そして、もう二までこなしたので、あとは五に移行するだけだ。
 可及的速やかにマルセルの前から立ち去りたい。
 しかし、強引に逃げては追いかけられるので、面倒だ。
 となれば、マルセルを煽って自分からこの場を立ち去らせれば良い。
 マルセルを煽るのは簡単だ。
 ちょっとつれない返事を返すだけで、すぐに顔を赤くして怒り出す。

「……なんだよ、ティナの馬鹿っ! せっかくおれが親切に愛玩動物見せてやろう、って思ってんのにっ!」

「頼んでない。興味ない。見る気ない」

 思いつく限りのお断りの言葉を出すと、マルセルは悔しそうに唇を引き結んだ。

「ほんっと、可愛くないなっ!」

「ありがとうございます」

 マルセル渾身こんしんの口(攻)撃に、むしろ褒め言葉です、とつい嬉しくなってニコリと笑う。
 このまま嫌ってくれるのなら嬉しいです、という気持ちの表れだったが、ポカンっと口を開けて瞬いた後、マルセルは耳まで真っ赤になった。

「に、二度と誘ってやらないからなぁーっ!!」

 赤くなった顔を隠しながら、マルセルは脱兎のごとく逃げ出した。
 その背中(ティナなんか大好きだー! とかマルセルは謎の雄たけびをあげている)を見送って、小さく首を傾げる。

 ……はて? 最短記録で追い払えたけど……?

 もしかして、拒絶するよりも受け入れてやった方がマルセルは楽になせるのだろうか。

 ……それにしても、私ってどんな顔してるの?

 両親を参考にするのなら、そんなに悪い容姿ではないはずだが。
 少し笑っただけで怒り顔が赤面に変わり、照れて逃げ出すほどの顔とは、どんなものだろうか。

 ……毛先だけちょっと癖があって、クルっとしてるのはお気に入り。

 柔らかい髪質は、未だ自分が幼女だからなのかもしれないが。
 柔らかくクルっとカールした毛先は、自分でも気に入っている。
 そんな条件の幼女が居たら、自分でも可愛いと絶賛して愛でていることだろう。

 ……あー、でも両親に似てない可能性もあるか。私の髪の毛って黒くて、両親のどっちとも違うし。

 伸び始めた前髪を引っ張って、日に透かす。
 真っ黒な髪は、父の金髪でも、母の赤毛でもない。

 ……おじいちゃんが黒髪だったらしいんだよね。

 髪の色について気になった時、父のサロがそう教えてくれた。
 その際に、祖父について少し聞いてみたのだが、父はそれ以上の情報を聞かせてくれなかった。
 いつか考えた『両親駆け落ち説』は、かなり正解に近いのかもしれない。






 喜ぶべきか、悲しむべきか、今生こんじょう産まれ落ちたこのメイユ村は、冬でも雪に閉ざされることはない。
 薪が足りなくなれば追加を探しに山へ入ることが出来るし、隣家への移動も可能だ。
 ただ、畑仕事はできないし、外は寒いし、で結局住民は家に閉じこもることになる。
 家の中で男は大工仕事をこなし、女は布を織ったり服を繕ったりとやれることはいっぱいあった。

 我が家では、良好な関係にあるダルトワ夫妻と共に冬を越す事になっている。
 同じ家で過ごせば、秋に集めた冬越し用の薪が節約できる、というのが主な理由だ。
 他の理由としては、私が家に閉じこもったら寒かろうが雪が降ろうが、ダルトワ夫妻が自分の顔を見にきそうだから、という物がある。
 そろそろ初老に手が届く夫妻に、そんな真似はさせたくない。
 雪道で転びでもしたら大変だ。

 ほとんど娘か孫娘のように可愛がられているので、こちらとしても第二の両親か祖父母のように慕っている。
 両親もそんな気持ちでいるのか、冬を一緒に過ごすことで夫妻から村のしきたりや風習について様々なことを教わっていた。
 早く村に馴染みたいと言う両親が、私にはなんとも不思議でしかたがない。
 もう何年もけ者にされているというのに、何故この村に馴染みたいと思えるのかが、まったく理解できなかった。

 ……あれ? そういえば、最近マルセルが来ないね?

 春から秋はほとんど毎日。
 冬になっても三日に一度は遊びに誘いに来るマルセルが、もう一週間ぐらい姿を見せていない。

 ……ついに嫌われてるって理解してくれた?

 そう内心で安堵していると、薪を納屋へ取りに行っていたオーバンさんが噂を仕入れてきた。

「村長のとこのマルセルが、なんかの病気でもう十日も寝込んでるらしい」

「風邪かしら? 元気すぎて、冬の川にでも入ったのね」

 我が家の感想は、こんなところだった。
 マルセルが元気すぎるのは村の誰でも知っていることだ。
 腕白すぎて冬の川に飛び込んだのだろう、裸で寝たのだろう、等と、結構好き勝手な憶測があがる。

「マルセルのお見舞いにいったニコラが今度は寝込んでるらしいよ」

 数日後に、噂は少し変化をみせた。
 マルセルが回復した代わりに、その見舞いに行った子が寝込んでいるらしい。
 マルセルの風邪が移ったのだろう。

 最初は皆、そう噂した。

「……ティナちゃんは、家から絶対に出ちゃいけないよ」

「誰が来てもドアを開けては駄目よ。村長には特に気をつけて」

 ダルトワ夫妻に家へと閉じ込められるようになったのは、マルセルが再び寝込んだという噂が聞こえてきてからだ。
 外は寒いし、一緒に飛び回って遊ぶような友達もいないので、家に閉じこもっているのは苦にならなかったが、両親とダルトワ夫妻が少し不穏で心配だ。
 ピリピリと緊張していて、落ち着きがない。

 一番に死んだのは、ニコラだった。

 自分の認識としては、マルセルの取り巻きだ。
 いつもマルセルと一緒に行動していて、マルセルの言うことは何でも聞いていた。
 あれは対等な友人関係ではない。
 村の権力者である村長に媚びるため親に言い含められた、所謂太鼓たいこちというやつだった。
 当然、マルセルに毎日のようにいじめられていた自分からしてみれば好意など抱けるはずもなく。

 ……可哀想だとは思うけど、それだけなんだよね。

 特別悲しくもなんともない。
 むしろ、早くに子供を亡くすことになったご両親の方がお気の毒だと思った。

「……マルセル……同じ……」

「まだ寝込んで……」

「……ニコラの他にも……寝込んで……」

 寝室へと押し込めるように私を寝かしつけた後、両親達が最近の村の様子を話し合う声が聞こえる。
 漏れ聞こえた内容を纏めると、こんな所だ。
 ニコラとマルセルは同じ症状で寝込んでおり、マルセルは一度回復したが、また寝込んでいる。
 どうもただの風邪とは違う。
 一度高熱が出て寝込み、熱が引くと肌が赤く爛れ、強烈なかゆみを発するらしい。疱瘡ほうそうのような水ぶくれができる事もあり、かゆみを我慢できずに掻き毟るとそれは増える。
 かゆいかゆいと泣くニコラの声が静かになったと思ったら、死んでいた。
 マルセルは最近では血を吐いているらしい。

 ……なにそれ怖い。なにか変な病気拾ってきたんじゃないでしょうね?

 つなぎ合わせた噂だけで自分がこれだけ不安になるのだ。
 大勢で噂しあう村人達の不安は、これの比ではないだろう。

 ……外歩く時用に、マスクとか作っておいた方がいいかな?

 どんな病気なのか。
 その予防法などは。
 何一つ正確な情報はなかったが、自分で今できる範囲の予防と対策をしようと思ったら、手洗いとうがいの徹底とマスクの着用しか思い浮かばなかった。

 ザ・前世日本人の貧相な発想である。
ティナの容姿は可愛い。
幼女成分でも可愛い。
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