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グルノールの転生少女 ~ないない尽くしの異世界転生~ 作者:ありの みえ

第3章 砦の街グルノール

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はじめてのお留守番?

 夕食の仕度ができた、とバルトが迎えに来たので一階の食堂に行くと、埃だらけである、とタビサに怒られてしまった。
 薄暗くて気が付かなかったが、どうやら屋根裏部屋には埃がたまっていたらしい。
 見て御覧なさい、と髪についた埃を取ってくれたのだが、タビサの手の上には大きな綿埃が乗っていた。

「夕食の前に、お風呂ですね」

「……はい」

 タビサに連行されたのは一階の大きな風呂ではなく、客間に用意された小さなお風呂だった。
 小さいと言ってもそれは一階の物と比べればであって、大人一人が入るには普通の大きさである。
 用意された真新しい石鹸とタオルに、少し心が浮き足立つ。

 ……だって前世は日本人だもん。お風呂好きよー。

 本来は夕食の後の予定で用意したものらしい。
 少し熱めのお湯に手を入れてタビサが温度を確認すると、やはり熱かったのか「少し水を入れて調節しましょう」と水がめを取りに行った。
 一人残されて、オレリアのくれたレースのリボンを解く。
 改めて見ても可愛いレースだ。
 やはり、幼女でなければ付けることを許されない愛らしさだろう。

 ……幼女でも、普段から使うには綺麗すぎてもったいないよ。お出かけとかの、特別な日用って感じだね。

 少し付いている綿埃を取り除き、皺にならないよう丁寧に丸める。
 靴を脱いでいる間にタビサが戻ってきた。
 体を洗う手伝いをしてくれると言うので、これを丁重に辞退する。
 レオナルドから一人でもちゃんとお風呂に入ることが出来るという話は聞いていたようで、タビサはあっさりと辞退を受け入れてくれた。






 埃を落として改めて食堂へ行くと、クッションで高さを調節した椅子の前にパンとサラダとシチューが用意されていた。

「……食事、わたしだけ? タビサさんたちのは?」

 大きなテーブルだが、食事が用意されているのは私の椅子の前だけだ。
 レオナルドは居ないので判るが、タビサとバルトの食事が無い。

「私たちは使用人ですので、ティナ嬢様の後にいただきます」

 ……ああ、そう言うことか。

 二人は城主の館の管理人で、城主とはレオナルドだ。
 レオナルドの妹として引き取られる私は二人にとって主筋の人間で、同じテーブルで食事をとる関係ではない。
 そういうことだろう。

 今生では村人に。
 前世では日本の一般家庭に生まれた私には、なんとなく馴染むのに時間がかかりそうだ。
 時折ダルトワ夫妻に預けられていたのとは違う。
 タビサたちにとっては、幼い子どもを保護者が帰るまで預かっているのではなく、幼い主が一人で留守番をしているだけなのだ。

 文句無くおいしいシチューを口に運びながら、なんとも物足りない。
 他人ひとが居るというのに、自分だけが食事をしている、というのも居心地が悪かった。
 とにかく早く居心地の悪い空間から開放されたくて、黙々と夕食を食べる。
 シチューの皿を空にしたら、自動的におかわりがよそわれてしまった。

 ……え? まさかのダルトワ家式? 少し残さないと足りないと判断されて、わんこそばされるの!?

 気分的にお残しはしたくないのだが、ここでも故意に少し残す必要があるのだろうか。
 確認のためタビサに聞いてみたら、そういったマナーの場も確かにある、と答えられた。
 ただ今日のようにお客様をお招きしているわけでもない私的な場では、好きに食べて良いとのことだった。

「ティナ嬢様はシチューがお好きだと、レオナルド様から聞いておりましたので……」

 おかわりをしたくても初対面の自分たちには言い出せないのではないか、と自主的に追加をよそってくれたらしい。
 居心地の悪い空間から早く開放されたくて黙々と食べたことも、好物を一生懸命食べているように見えたとのことだ。

 ……相互理解って大事。

 オレリアの家でシチューばかり作っていたのは野菜スープに味の変化を求めたからで、黙々と食べていたのは一人だけの食事が気まずかったからだ。
 やんわりとそう伝えると、タビサの口から三食がシチューになる危機にあったことを知る。

 ……レオナルドさんっ! 甘やかし方が間違ってるよっ!!

 たとえ好物であっても毎日食べれば飽きる。
 しかも、一日三食同じメニューとか、どんな暴挙だ。

 ……レオナルドさんは、あれだ。絶対大雑把な人だよ。

 シチューだけではなく色んな味が食べてみたいです、とタビサに伝えると、次からは季節の野菜を使ったスープや魚のスープも作ってくれる、と言ってくれた。






 食事が終わると客間へと移動し、用意されていた中古服に袖を通してお直しの相談をする。
 一緒に採寸もされたので、次は中古服ではなく一から服をあつらえるらしい。
 私としては中古服で十分だったのだが、レオナルドが張り切っているのだとか。

 ……レオナルドさん、家族に飢えてるのかな? 妹さんにさせてあげたかった贅沢とか?

 子どもを売るような家なのだから、金銭的に恵まれていなかったのだろう。
 だとしたら、中古服ではない新しく誂えた服に対して憧れがあったとしても頷ける。

 ……というより、私への可愛がり方があれだよ。

 子どもの頃の自分ができなかったことを、自分の子どもにはさせてやりたい。
 子どもの頃に自分がされて嫌だったことは、自分の子どもには体験させない。

 そんなゆとり世代の駄目親特有の甘やかしを感じる。

 ……優しさと言えば、優しさではあるんだけどね。

 なんでも親にやってもらって、自分では何もできない。
 何かショックなことがあれば、自分では立ち直れない。
 そんな人間になってしまう。

 ……レオナルドさんと知り合ってひと月以上経つけど、怒られたのって、オレリアさんの弟子になった方がいいかって聞いた時ぐらい?

 逃げだした賢女の弟子がどう扱われるか、を知った今では、あの時のレオナルドの怒りが理解できる。
 経緯はどうあれ、妹として受け入れた私をみすみす殺すような真似はできない、と言うことだろう。

 ……レオナルドさんはいい人だね。

 ただ、この甘やかし加減に慣れてはならない。
 これが普通だと思うようになっては、きっと人として駄目になる。
 そんな気がした。
 好意は好意として有難く受け取り、度がすぎると思う部分はちゃんと本人に言ってみよう。

 ……必要だと思ったら言っていいって、さっき言ってくれたし、いいよね?

 かくんっと視界が揺れて、半分寝かかっていたことに気が付く。
 タビサもビクリと揺れた私に気が付いて、お直しの相談はお開きとなった。
 最後に白い寝間着へと着替えさせられて、ベッドの上へと運ばれる。

「それでは、私は家へ戻りますので……」

「え? 家!?」

 タビサの爆弾発言に、半分寝かかっていた意識が覚醒する。
 肩までかけられた毛布を跳ね除け、天幕を閉じようとしていたタビサに追いすがった。

「家、なに? タビサさん、じょうしゅの館、寝ない?」

「私たちは館の外の……使用人の家に住んでいるんですよ」

 館の外の家、となると、屋根裏部屋の窓から見えた建物の事だろう。
 倉庫か何かかと思っていたら、使用人のための家だったらしい。

 ……さすが城主の館、だね。そんなスケール感、幼女の敵だよっ!

 さすがにこの広すぎる館に一人でお留守番は怖い。
 中身が大人であっても、怖い。

「今夜は一階にバルトが宿直とのいとして残りますから、ご安心ください。城主の館には、主が不在でも門番がおりますし」

 不安が顔に出たのか、タビサは私を安心させるようにこう言って、客間を後にした。






 ……お、落ち着かない。

 清潔なシーツの上で、ごろりと寝返りをうつ。
 初めての家の、広すぎる部屋で、これまた広いベッドだ。
 一階に人がいるとは聞いたが、それも今日初めて会ったばかりの人間だ。
 ベッドに横になったからといって、すぐに眠れはしない。

 ……うう、暗いよ。

 天幕が下ろされているので、ベッドの中の遮光は完璧だ。
 それでなくとも、現代日本のように街が夜でも明るいということはない。
 外からの光など月明かりぐらいで、眠りを妨げるような光量ではなかった。

 ……静かすぎて眠れないよぉ。

 ベッドに一人で寝るぐらいはこれまでもあったが、まるで物音がしない家、というのは初めてだ。
 まだ幼児であったため、村やオレリアの家では一番睡眠時間が早かった。
 ベッドに入ってからも、他の部屋から家族やオレリアの立てる物音がしていて、無音ということはなかった。
 一階にバルトが居るらしいのだが、広すぎる館と柔らかい絨毯のせいで、下の階で歩いていたとしても足音も聞こえない。

 ……全然眠れないっ!

 何回寝返りをうったか判らない。
 何時間もベッドの中にいる気がするが、実際のところは一時間も経っていないのかもしれない。
 明かりも無く、時計もない部屋に、時間の感覚などあてにならないのだ。
 むくりと起き上がり、ベッドを降りる。
 裸足のまま窓辺へと移動し、カーテンを捲って窓の外を見てみた。
 空にはまだ高い位置に月があり、思ったほど遅い時間ではないのが判る。

 ……バルトさん?

 ギシッと階段の軋む音がした。
 気のせいかな? と耳を澄ませると、一定の間隔で階段の軋む音がする。
 現在館にいる人間と言えば自分とバルトだけのはずなので、この足音はバルトのはずである。

 ……バルトさんだよね? おばけだったり、泥棒だったりしないよね?

 足音の主はバルトである。
 高い確率でそうであると確信があるのだが、僅かな確率でも否定しきれない泥棒などの侵入者を想像してしまって怖い。
 初めての家という元から感じていた不安が、その恐怖を後押ししていた。

 ……なんか、足音がこの部屋の前で止まったんだけど?

 私が寝ているか、をバルトが確認しに来ただけなら良いが、泥棒や変質者だった場合に対処ができない。
 ベッドに戻ろうか、どこかへ隠れようか、と考えている間に客間のドアが開く音がした。

 ……客間って言っても、今は乙女の部屋なんだから、一声かけてからあけてよっ!!

 侵入者に無言で抗議しながら、忙しく考える。
 ベッドに戻って寝たふりをするか、このままカーテンの中に隠れているか。

 そうこう悩んでいるうちに、足音の主は真っ直ぐにベッドへと近づいていた。
昨日書ききれなかった部分なので、今日は短いです。
次はレオナルド視点の閑話……な予定です。
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