挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
グルノールの転生少女 ~ないない尽くしの異世界転生~ 作者:ありの みえ

第3章 砦の街グルノール

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

32/372

サンドイッチと赤い靴

「おいで、ティナ」

 手招かれ、執務机へと近づく。
 レオナルドは引き出しを開けると、中から缶を取り出した。

「はちみつ、飴?」

 レオナルドの手に握られた缶には、見覚えがある。
 蜂蜜味の飴が入っていた缶に似ていた。

「飴じゃなくて申し訳ないが……ほら、口を開けろ」

「あーん?」

 飴じゃないの? と首を傾げながら、言われるままに口を開く。
 あーんと大きく開けた口の中に、甘い塊が落とされた。

「……カリカリ?」

 イメージとしては、前世で食べたチョコレートバーとか、そういった感じだろうか。
 コーティングに使われているものはチョコレートではなく、飴だと思う。
 ナッツやクッキーを細かく砕いたものを飴で丸めたお菓子だ。
 噛んでみるとサクサクとして美味しい。

「おいしい、です」

「そうか、よかった」

 残りは全部やろう、とレオナルドは缶ごとお菓子をくれる。
 お腹もすいていたので素直にお言葉に甘えることにした。

「レオにゃルドさんもあーん」

 私ばかり食べるのも悪い気がして、レオナルドに一つ差し出す。
 お菓子を受け取ったレオナルドは、お菓子を自分の口に運ぶのではなく私の口の中へと運んだ。

「……お菓子、いらなかった?」

「俺はちゃんと昼飯を食べたからいい。ティナはお腹が減ってるだろ?」

 つまり、この引き出しから出てきたお菓子はレオナルドの非常食なのだろう。
 食事を摂る暇がなかったり、小腹が空いたりした時のための。

「ティナ、俺には昔弟妹が居たが、親元にいた時間より一人の時間の方が長い。子どもの世話なんて、それこそガキの頃に妹の世話を少ししたぐらいで、何が必要で、何が不必要なのかは解らん」

 遠慮なくお菓子を食べる私を抱きあげて、レオナルドの膝の上に座らされる。
 なにやら大事な話をしているようなので、じっと耳を澄ませてレオナルドを見上げた。

「だから、ティナに我慢をさせていても、言ってくれなきゃ気づけないんだ」

「……何、言う、必要?」

 仕事の邪魔をしないように黙っていただけなのだが。
 それも不味かったのだろうか。

「大人しく座っていろ、と言ったのは俺だが、お腹が空いたとか、靴が欲しいだとかはちゃんと言って欲しい。俺は察する、ということがどうにも苦手らしい」

「わかった。ちゃんと、言う」

 まあ、たしかに。レオナルドの邪魔にならないように、と気を使って黙っていては、相手も自分に対して何をしたら良いかも判らないだろう。
 話し合いは大事だ。

「じゃ、さっそく、言いたいこと、ある。いい?」

「うん? なんだ? 何か食べたいものでも……」

 若干緩んだ声音に可愛らしいおねだりを期待されていることはわかったが、ここはあえて超直球で攻めることにする。

「おしっこ」

 せめてトイレあるいはかわやと言うべきだったのかもしれないが、口から出てきた言葉はこれだった。
 そろそろ我慢の限界なのである。
 欲望がストレートに口から出てきてしまったのもいたしかたがない。
 もともと限界を感じて言いつけを破り、椅子から降りたところをレオナルドに捕まっているのだ。

「わたし、座ってるだけ、お人形、違う。おしっこ」

 ポンポンと軽くレオナルドの膝を叩き、降ろしてくれ、と催促をする。
 大事に抱き運んだり、膝に乗せてお菓子を口まで運んだり、と養育すべき子どもにする甘やかし方ではない。
 私はお人形ではありませんよ、とアピールしたつもりなのだが、レオナルドは困ったように固まっていた。

「レオにゃルドさん? わたし、赤ちゃん違う。おもらしする前、おトイレ、いかせてくだしゃい」

 もう一度、今度は少し強めに膝を叩いて催促をする。
 ややあって、ようやく反応を取り戻したレオナルドに無事膝から降ろされた。






 トイレから戻ると、ちょうど黒騎士が執務室から出て行くところだった。
 腕には書類の束を持っていたので、レオナルドの仕事がひと段落ついたのかもしれない。

「……ただいま」

 トイレから戻って「ただいま」というのも不思議だが。
 なんとなく口から出てきた言葉に、レオナルドは苦笑を浮かべて「おかえり」と迎えてくれた。

「お仕事、終わり?」

「いや、軽食と処理の終わった書類を持って行かせただけだから、まだ仕事は残っている」

「じゃあ、わたし、また大人しく座ってる」

 昼からずっと座っていた椅子の元へと歩くと、その椅子をレオナルドが執務机の側へと移動させる。
 必然的に椅子を追って執務机の側に来ることになるのだが、良いのだろうか。
 さすがに執務机のすぐ側では、じっと座っていたとしても邪魔だろう。

「ティナは俺と休憩しよう。サンドイッチは知ってるか? パンに野菜やハムを挟んだ食べ物なんだが……」

 今度は膝の上ではなく椅子に座らされて、レオナルドと向き合う。
 差し出されたお皿の上には、小さな四角に切られたサンドイッチと、三角に切られたサンドイッチが載っていた。
 小さく切られているのは、もしかしたら私用ということかもしれない。

 ……サンドイッチって、賭け事好きのサンドイッチ伯爵だか男爵だかとにかく貴族がつけた名前じゃなかったっけ? 異世界で何故『サンドイッチ』?

 偶然同じ名前になったと思うよりは、これも転生者が広めたと考えた方が当たりな気がする。
 とはいえ、今生では初めて見るので、本来の私はサンドイッチなど知っているはずが無い。
 さも初めて見る食べ物です、という顔をしてサンドイッチに手を伸ばした。

「……パン、柔らかい」

 これまで食べてきたパンは、とにかく固い。
 日持ちをさせるためだとは判るが、乾燥していて口に含むとガンガン水分を取られて、スープと一緒でなければ食べ難かった。
 が、このサンドイッチに使われているパンは柔らかく、日本の食パンに近い気がする。

「オレリアの所のパンは保存用の固い奴しかなかったからな。街に住んでいると、柔らかいパンが食べれるぞ」

 それはちょっと嬉しい。
 固いパンも歯ごたえがあっておいしいが、やはりパンは柔らかい物という認識がある。
 柔らかくておいしいパンは大歓迎だ。

 ぱくりとサンドイッチに噛み付く。
 ハムの塩味が素晴らしくおいしい。
 自作の料理は改良を重ねていたが、やはり微妙に不満が残る。
 自己流の限界だろう。
 その点、このサンドイッチは誰が作ったのかはわからないが、文句なく美味しい。
 久しぶりのお菓子以外で美味しいと絶賛できる食事だった。

「……ティナの部屋も用意しないとな」

 黙々とサンドイッチをかじっていると、レオナルドがぼそりと呟いた。
 もしかしたら考え事がつい口から出ただけかもしれない。
 サンドイッチを咀嚼そしゃくしながら、でも視線は私に向いていないので、たぶん無意識だ。

「絨毯やカーテンはティナの好きな色で揃えるとして、あとはベッドとクローゼットとクローゼットの中身。あとは……」

 これとこれが必要か? とレオナルドの口から漏れる品数が怖い。
 主に、値段が気になる。
 絨毯やカーテンを私の好きな色で揃えるとは、どういうことだろうか。
 今ある物をそのまま使うことはできないのだろうか
 そもそも、私の部屋とはどういうことだろうか。
 ベッドやクローゼットを一から揃えると言っているように聞こえるのだが。

「……しばらくは客間でいいか」

 伝染病が落ち着くまで纏まった時間が取れそうにない、ということで、レオナルドの中の散財計画が棚上げにされる。
 私としてはあまり大金をかけられても返すあてなどないので、ある物で補えるものなら補って欲しい。
 一応は諦めがついたようだが、まだ何か見落としは無いか、と考え始めたレオナルドに、気を逸らすべく別の話題を振ってみた。

「ジャン=チャックさん、感染、なんでかわかった?」

 判っている限り街の感染はジャン=ジャックが最初だったはずだ。
 感染源に触れたわけでもないジャン=ジャックがどうして感染したのか、これは絶対に解明しておく必要がある。

「メイユ村に行ったから、だろう。ジャン=ジャックはメイユ村の焼き払いにいっていて、感染源を運ぶ商人の捜索には参加していない」

「村行っただけ、感染ない」

 村に来ただけで感染する、たとえば空気感染であったなら、私やレオナルドが感染していないわけがない。
 レオナルドやジャン=ジャックだけではなく、メイユ村には他の騎士だって来ていたのだ。
 にもかかわらず、今のところ症状が現れているのはジャン=ジャックだけだ。

「ジャン=チャックさんだけ、感染。おかしい」

 娼婦や他の砦の騎士へ感染を広げたのは、ジャン=ジャックだ。
 自分や最初にメイユ村に来た者の中で、発症しているのはジャン=ジャックだけなので、これは間違いがない。

「……そういえば、砦の騎士で感染している者は、ジャン=ジャックと親しかった者と、メイユ村の焼き払いに出かけた者が中心だな。村長の要請で出かけた際の同行者……とくにメイユ村の入り口でしばらく見張りに立たせたローレンツあたりに感染が出るのなら解るが、ジャン=ジャックだけに感染が出るのはおかしい」

「ジャン=チャックさん、村を焼く時、何かした?」

 マスクである程度感染が予防できたことを考えると飛沫感染だ。
 メイユ村の村人は既に死んでおり、飛沫を飛ばす感染者はいない。
 となると、メイユ村で病に感染しようと思ったら、私やレオナルドではしない何らかの行動をとる必要がある。
 ジャン=ジャックは必ず何かを行っているはずだ。






「団長、館からブラウニー夫妻が来ていますが……」

 ノックの音に思考が中断させられる。
 部屋の中へと入ってきて用件を告げる騎士の背後に、壮年の夫婦と思わしき男女が立っていた。

 ……この人たちがブラウニー夫妻? ブラウニーって、お手伝いをしてくれる妖精の名前だっけ?

 なんてことを考えていると、女性の方と目が合った。
 女性は私と目が合うとにっこりと笑い、幼女の気を引こうとしているのか手にした小さな箱を振る。

 ……なんだろう? 何か入ってるのかな?

 しばらく無言で女性とコミュニケーションを取っていると、話の終わったらしい騎士が執務室を出て行った。

「ティナ、おいで」

 呼ばれて椅子を降りる。
 レオナルドについて執務机の横を回ると、ブラウニー夫妻と向き合った。

「履いてごらん」

 レオナルドは女性に手渡された箱から小さな靴を取り出し、私の前へと置く。
 女性が振っていた箱の中身は、私のための靴だったらしい。
 赤く、可愛らしい花飾りのついた靴だ。
 少々子どもっぽいデザインだが、今は正真正銘の幼女なのだから遠慮なく履ける。
 床に座り込んで靴を履こうとしたら、女性が手伝ってくれた。
 幼女の頭身は、意外にバランスが悪い。
 立ったまま靴を履くなんてことはできず、そんなことをしようとすれば間違いなく転ぶ。
 それが解っていたので、女性は手伝ってくれたのだろう。
 女性の体に寄りかかり、片足を上げると靴を履かせてもらえた。
 完全に子ども扱いなのだが、今の体格では仕方が無い。

「ぴったり」

 大きすぎず、小さすぎず。
 今の私の小さな足にピッタリなサイズの靴だった。
 これでようやく遠慮なく歩き回ることができる。

「さて、ティナ。この二人はバルトとタビサ。城主の館の管理をしている」

 名前を呼ばれたタイミングで会釈をしてくれたので、どちらがどちらかが判った。
 バルトが男性で、タビサが今靴を履かせてくれた女性だ。

「隔離しているとはいえ、今この砦には伝染病が存在している。本当ならティナを砦に迎えるわけにはいかなかったんだが……俺が砦を離れられないからな。だから、先に二人と一緒に城主の館へ行ってくれ」

「ん、わかった、です」

 城主の館? レオナルドの家ではなくて? と気になったが、レオナルドが忙しい事は知っている。
 しばらくこの夫妻に預ける、と理解しておけば良いのだろう。
 たぶん。

 ……でもレオナルドさん。私を妹として引き取るって言って、早速たらい回しにしてるよ。自覚なさそうだけど。

 オレリアに預け、アルフを迎えに寄こし、ようやく引き取るのかと思えば、また別の夫婦に預ける。
 やはりレオナルドに私を養育することは無理があるのだろう。

「……砦が落ち着けばすぐに様子を見に行くから、とりあえずは家で待っていてくれ」

 そう言って、レオナルドは私の頭を撫でた。
ちなみにこの世界のサンドイッチはまさかの偶然でサンドイッチと名付けられた、です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ