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グルノールの転生少女 ~ないない尽くしの異世界転生~ 作者:ありの みえ

第2章 孤児と騎士と谷の魔女

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もう一つのメイユ村

人によってはちょいグロ注意回です。
 ワイヤック谷という場所を目指して黒騎士一行は進んでいる。
 メイユ村を訪ねて来たのは六人の騎士だったが、村へと続く街道で一人残った。
 謎の伝染病が蔓延した村なので、旅人が迷い込んだりしないように、と見張りに立ってくれたらしい。
 レオナルドたちが持っていた携帯食料は、ほとんど残った一人に預けられた。

 街道を道なりに進んで三つ目の村にたどり着く。
 目指すワイヤック谷への道にはあと四つ村があるらしい。

 ……あとどのぐらいでつくんだろ? 馬だと距離もスピードもいまいち判らないんだよね。

 そろそろお尻が痛くなってきたな、と馬に乗せられたまま微妙にお尻の位置をずらしていると、奇妙な違和感をおぼえた。

「……変なにおい」

 思わずマスクの上から鼻をつまみ、顔をしかめる。
 臭いの元はどこだろう? と首を巡らせると、臭い以外にも違和感があった。

「誰も居ない?」

 昼間の人里だというのに、人影はどこにも見当たらなかった。
 普通の村であれば子供が走り回っていたり、洗濯をする女達の笑い声が聞こえたりするものであったが。

 ……何か変だ。

 そう気がついた時には、レオナルドたちも村が異常だと気がついたのだろう。
 馬から降りて周囲を警戒しはじめた。

「わたしも、降りる」

 馬から降ろしてとレオナルドの肩を揺する。
 レオナルドはすぐに私の要求をのんで馬から降ろそうとしてくれたが、結局私を馬から降ろすことはなかった。
 降ろさない方が良いと判断したらしい。
 普段より目線の高い馬上にいるよりは、足が地面についている方が安心できる気がするのだが。
 むっと眉を寄せて、そっぽを向く。
 拗ねたふりして一つの家を見ると、窓の奥で人影が動いた。

「レオにゃルドさん、あの家、誰か居る!」

 拗ねたふりを一瞬で忘れてレオナルドに教えると、レオナルドは人影が見えた家へと馬の鼻先を向けた。
 手綱を引いて馬ごとレオナルドは家に近づく。
 家に近づくほどに異臭が濃くなる気がして、目をすがめた。
 気のせいか、目に染みる臭いなのだ。

 ……なんの臭いだろう? 甘いような、胸焼けするような、酸っぱいような、吐き気がするような?

 とにかく複雑な臭いだ。
 様々な臭いが混ざって、最終的に腐った臭いに変化している。
 そんな気がした。

 ……腐臭?

 ふと浮かんだ言葉に眉を顰める。
 村にたち込めている異臭は、物が腐った臭いに似ている。
 そう気がついた瞬間、窓辺の人影がざわりと散った。
 人影に見えていたものは人間の影などではなく、黒い小さな羽虫の群れだった。

 ……蝿? にしても、数が多すぎるよね……?

 窓辺に近づくレオナルドに驚いて散った羽虫だったが、すぐにまた窓にびっしりと張り付き始めた。
 羽虫で黒く染まった窓をレオナルドがコンコンとノックする。
 再度ぶわっと窓辺から散った羽虫に、馬上にいたため窓の奥が見えてしまった。

「レオ、レオにゃルドさん……」

 窓の奥のモノから目が離せず、震える声でレオナルドを呼ぶ。
 室内には見たくないモノがあるのだが、どうしても目を逸らすことができなかった。

「どうした、ティナ?」

 すぐに私の異変に気づき、レオナルドは窓辺を離れる。
 レオナルドが窓辺を離れると、あっという間に窓が羽虫で埋まった。

「部屋の中、誰か、死んでる。ベッドの上……」

 胃の中の物が喉まで上がり、吐き気を懸命に堪える。
 馬上で嘔吐などするわけにはいかない。
 見てしまったモノから目を離せずにいると、馬上からレオナルドの胸へと抱き移された。
 強制的に視界が切り替わり、少しだけ楽になる。

「ベッドの上で、腐ってる。黒くて、ウゴウゴしてた」

 説明しながら思い出される光景に、ぎゅっと瞼を閉じる。
 視界を遮れば少しは見たモノを忘れるかと思ったが、逆にありありと思いだされた。
 薄汚れたシーツの上のどす黒い肉の塊。ところどころ骨が見えていて、内臓はすでに腐りきったのかお腹の部分だけベコリと肉が窪んでいた。何か小さな生き物が体中に張り付いていて、絶えず動き回っている。
 察するに、遺体に蝿が卵を産みつけ、蛆が発生して窓を黒く染める大量の蝿に成長したのだろう。

 私が見たモノをそのまま伝えると、レオナルドは村で起こっていることを察したらしい。
 すぐにアルフたちを集め、指示を出して家々を調べ始めた。






 結論だけ言えば、村人は誰も生きてはいなかった。
 墓地には新しいと判る墓がいくつもあり、家の中には埋葬もされずに放置された遺体だけが残っていたらしい。
 らしい、というのは、私はアルフたちの集めてきた情報を聞いただけだからだ。
 荷物番と称して荷車と馬を繋いだ場所に残され、アルフたちのように村の中を調べて回ることはなかった。

 ……邪魔にしかならないしね。

 それに、偶然とはいえ見てしまった惨状の遺体はそう何度も見たくはない。
 思いだすだけで吐き気をもよおす光景を懸命に頭から追い出そうとしていると、アルフが地図を広げた。

「私たちがメイユ村で見た遺体はティナの父親だけだったから、断定はできないが……」

「同じ病気の可能性があるな」

「ああ。干したままの洗濯物に血の染みがあった。ティナの言うように、痒くて血が出ても体を掻き毟ったのだろう。後は……どの遺体も腐敗が進みすぎて、詳しいことは調べられない」

 メイユ村と現在地の距離をはかり、レオナルドの眉間にしわが寄る。
 飛沫感染であれば、広がりようがない距離がそこにはあった。

「……念のために周囲の村を調べてみる必要があるな。アルフは砦に戻って俺の代わりを。ランドルはこのままワイヤック谷へ。ジャン=ジャックとテディはメイユ村に残したローレンツと合流して周辺の村を調べろ」

「はっ!」

 指示が出されると、騎士たちの行動は早かった。
 馬の荷物を軽くするために、と残りの携帯食料や毛布などの大物が荷車へと載せられる。
 馬が身軽になると、アルフたちは馬を走らせてあっという間に街道の先へと走り去っていった。
 馬の見えなくなった街道を見つめていると、レオナルドに馬上へと乗せられる。

「ティナは俺とワイヤック谷だ」

「レオにゃルドさんは、とりで、戻らない、いい?」

「感染の疑いがある以上、すぐには戻れないからな。大丈夫だ、頭を使う仕事なら、俺よりもアルフの方が頼りになる」

 アルフならすぐに情報を纏めて、取るべき最適な対処を取ってくれるだろう、とレオナルドは肩を竦める。
 二人がどういった関係なのかはまだ判らなかったが、しっかりとした信頼関係があるようだった。

「谷まで馬を走らせる。ティナは落とされないよう、しっかり掴まっていろ」

「はい」

 促されて、鞍の中央にある出っ張りを掴む。
 他に掴める場所がないので、たぶんここで良いのだろう。
 そう考えていたら、がっちりと腰にレオナルドの腕が回された。






 馬を走らせると景色の移り変わりが速い。
 春先とはいえ、木々の葉は秋に落ちて寒々しいままだった。
 枝先を良く見れば新芽が膨らんでいるのかもしれないが、どのみち走っている馬の背中ではそんなものは確認できない。
 山を越え、森を抜け、ひたすらに街道を進み、多少とはいえ整備された道を外れてわき道へと入る。
 木々が減り、森が林になって、岩肌がむき出しになった山が見えてくると、馬はさらに細い道へと入った。
 荷車がついて来られるのか心配になって後ろを見ると、辛うじて通れる幅だった。若干速度は落としているが、ちゃんと後ろについてきている。
 後ろを気にしながらしばらく進むと、馬の速度が落とされた。

 ……誰か居る?

 前方に立つ人影を見つけ、目を凝らして良く見る。
 背の高い人影は、黒い鎧を身に付けているようだった。

 ……黒騎士? なんでこんな所に……?

 人の通りそうにない道に騎士がいる理由が解らず、首を傾げる。
 レオナルドの方はここに黒騎士がいることを知っていたのか、特に驚いた様子はなかった。
 軽く駆け足をするように、やがて歩く速度で、とスピードを落とし、レオナルドは黒騎士の手前で馬を止める。

「……レオナルド団長!? 何故ここに……」

「詳細は省くが、しばらく谷にこもることになった。賢女殿は息災か?」

「あの人は相変わらず剛健ですよ。少し前も、新入りを杖で追い回していました」

 頭の上で交わされる短い言葉のやり取りに、レオナルドの腕の中から周囲を見渡す。
 少し離れた場所に木製の小屋が見えた。

 ……見張り小屋? あそこで寝泊りして、この人はここで見張りでもしてるのかな?

 でも、なんの見張りだろう? と考えていると、レオナルドと話をしていた黒騎士の視線が降りてきた。

「……この子は? まさか団長の隠し子……っ!」

「妹だ、い・も・う・と・!」

「へぇ……団長に妹なんていたんですね。あんま似てないような気も……?」

 妹と聞いて好意的な笑顔を浮かべて覗き込んでくる黒騎士に、こちらも笑顔でこたえる。
 笑顔は円滑な人間関係を作る第一歩だ。
 あちらが好意的なのだから、こちらも好意的に応えておいた方が良いだろう。

 ……ちょっと思ってたけど、レオナルドさんと私って親子に見えるんだね。

 前髪を上げていると二十代後半に見えるレオナルドと、八歳にしては少し体が小さめの自分では、兄妹きょうだいというより父娘おやこと言った方がしっくりくる。
 というよりも、歳が離れた兄妹と言う方が無理のありすぎる年齢差だ。
 丁度良いことに、髪の色も黒と同じで血の繋がりがあるっぽく見える。
 これは父娘でも言えることではあったが。

「……数日中に俺達の食料を運びに誰かが来るだろう。通るぞ」

「はっ!」

 黒騎士の視線から隠すように私の頭を抱きこみ、レオナルドが馬を進める。
 ここの黒騎士はおそらく見張りだと思うのだが、自分たちは特に止められるようなことはないらしい。
 道の端へと移動してビシッと敬礼をした黒騎士の前を、レオナルドは悠々と馬の歩を進める。
 すれ違う際に黒騎士が小さく手を振っていたので、こちらも手を振り返してしておいた。

 ……レオナルドさん、顔パス的な何か?

 そう疑問に思って聞いてみると、この辺りに配置されている騎士は全て自分の部下だと答えられた。

「……団長、偉い人? レオにゃルドさん、偉い人?」

 マントをしているから偉い人だろう。
 短いマントも居るから、連れ立っている騎士たちの中では一番偉いのだろう、とは思っていたが。
 この辺りに配置されている騎士は全て、となると、『偉い』の意味合いがとんでもないことになる気がする。

「一応、砦では一番偉い人だな。グルノール砦を預かっている」

「グルノーりゅ、とりで……?」

「……そのうち話すよ」

 ポムっと頭を撫でられて、会話の終了を促された。
 口を閉ざして前を向くと、馬は再び走り始める。

 ……霧?

 白く霞みはじめた周囲の風景に、目を眇めて前方を睨むが、何も見えない。
 やがて足元も怪しい深い霧に包まれたのだが、レオナルドは躊躇ちゅうちょすることなく馬を進める。
 どこをどのように、どれだけの時間進んだのかはわからない。

 突然視界が開けたかと思うと、馬は渓谷の底に立っていた。
途中で立ち寄った村は、ティナたち家族のような除け者を作っていなかった村です。
全員仲良く死にました。
村人がばったばったと死んだので、遺体の多くは埋葬されることもなく、ほとんどは野ざらしで腐りました。
たぶん、レオナルドたちが来なければティナもいずれは同じ運命だったでしょう。
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