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精霊幻想記(Web版) 作者:北山結莉

第四章 再会、その裏で

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第65話 情報収集

 セリアがリオの家で暮らすようになった翌日、リオはセリアと一緒にガルアーク王国南西端に位置する交易都市アマンドへと訪れた。

「初めて来たけど随分と綺麗で活気のある都市なのね」

 興味を惹かれている様子で周囲を見渡しながら、セリアがリオの隣を歩く。
 ちなみに今のセリアはリオが作った魔道具で髪の色を白から金髪に変えている。
 パッと見ただけだとリオですら見間違えるくらいにセリアの雰囲気は変わっていた。

「ええ、クレティア公爵の令嬢であるリーゼロッテという人物がこの都市の改革を推し進めたみたいですよ」

 アマンドが栄えている理由を告げるリオに。

「へぇ、実は私の友達がその公爵令嬢に仕えているのよね」

 と、セリアが何気なく話題を振る。

「そうなんですか?」
「ええ、本当はベルトラム王国の名門騎士の娘だったんだけど家が没落しちゃってね。王立学院も中退して、何とか王城で女官見習いとして仕えていたんだけど、風当たりが強くて辞めちゃったのよ」

 ベルトラム王国だけというわけではなく、基本的にこの世界の人間族の国においては身分が絶対だ。
 すべての貴族がそうというわけではないが、身分を笠に着て身分のない者に威張り散らす者は大勢いる。
 特に貴族やそれに準じる者が多くいる場所においてはその傾向が顕著であり、リオがいた王立学院や王城といった場所はその最たる例だ。

「確かに没落した家の出だと風当たりは強そうですね」
「うん。けど、凄く優秀な子だったのよ。王立学院時代じゃ筆記と魔法は私が首席だったけど、その子は中退するまで武術だけは断トツで不動の首席だったんだから」
「それはすごい」

 と、感心したようにリオが言う。
 王立学院では有事の際に備えて最低限の護身術として女性も武術を習うことになっているが、本格的に修練に打ち込む令嬢は少ない。
 せいぜいが体型作りの軽い運動程度にしか捉えられておらず、周囲の雰囲気もあって女性の身で武術で上位に名を連ねる成績を収める者はほぼいない。
 ましてや首席となるとかなり稀有な存在だろう。

「ええ、結局ベルトラム王国に嫌気がさして冒険者になったんだけどね。実力は折り紙つきだからあっという間に頭角を現したみたい。ガルアーク王国で活動しているところをここの令嬢にスカウトされて定職に就いたらしいわ」
「最近でも交流があったんですか?」
「うん。実はリオの手紙を届けてくれたのがその子でね。軟禁されるまでは定期的に手紙のやり取りしていたのよ」
「なるほど……」

 小さく頷きつつも、セリアの言葉に妙な違和感を覚える。
 リオは僅かに首を捻ると。

「たしかに俺はリッカ商会に手紙の配送を依頼しましたが……」

 言いかけて、考えるそぶりを見せた。

「どうかした?」

 リオの様子を不思議に思って、横からリオの顔を覗き込み、セリアが尋ねた。

「いえ、セシリアのご友人は冒険者としての腕を買われてこちらの公爵令嬢に雇われたんですよね?」

 セリアの偽名を呼びながら、リオが語る。
 アマンドを訪れるにあたってセリアには偽名を決めてもらっている。
 セシリアというのは少し安直な気がしないでもないが、あまり本名と違いすぎると認識できないからこれでいいと本人が申し出たため、この名前が採用された。
 閑話休題。

「そうよ。それがどうかした?」
「いえ、確かにリッカ商会はクレティア公爵令嬢の息がかかった商会ですが、そんな腕利きの部下をただの宅配業務に従事させるのかなと思いまして」

 と、リオは違和感を覚えた理由を口にした。

「ああ、そういえば仕事で王都に立ち寄ったついでみたいなことを言っていたわね。彼女が私の知り合いだから上司から手紙の配送を任されたみたいよ」
「そうだったんですか」

 表面上は納得したような声を出しながらも、リオは何となく釈然としない気持ちを抱いていた。
 セリアの話を前提にすると、彼女にリオの手紙を配送するように依頼した人物はセリアとその知人の関係を知っていたことになる。
 貴族に配送する手紙ならば配送人に相応の人物を選ぶのはわかるが、知り合いとはいえわざわざ武闘派の人間を選んだのは少し腑に落ちない。
 セリアの知り合いはクレティア公爵令嬢から直々にスカウトされた人物だという。
 もしかしたらセリアの知人に手紙の配送を依頼した人物はクレティア公爵令嬢なのではないか。
 そんなことを思い、ふと、一人の少女がリオの頭に浮かんだ。

(いや、これ以上は憶測になるだけだな)

 不確定なピースが多すぎてパズルの絵柄が見えてこない。
 そう考えて、リオがひとまず思考を中断すると。

「自由奔放な上司だから苦労が絶えないってアリアも嘆いていたわ」

 と、セリアが可笑しそうに語った。
 どうやらアリアという名前の人物がセリアの友人らしい。
 何となく聞き覚えがあるような気がしたが、リオは思い出すことはできなかった。
 すぐに気のせいかもしれないと思い直し、リオは小さくかぶりを振る。

「今を時めくリッカ商会ともなると人使いが荒いのかもしれませんね。それとも人使いが荒いのはクレティア公爵令嬢なのか」

 言って、リオは気を取り直す様に悪戯めいた笑みを浮かべた。

「こらこら、滅多な事を言わないの。貴族は耳聡い生き物なんだからね」

 言葉ではそう言いつつも、セリアもリオと同じように悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
 貴族は名誉を大事にする生き物だ。
 平民が公衆の面前で表だって貴族を侮辱すれば殺されても文句は言えない。
 とはいえ貴族のいない場ではこうした冗談めいた軽口くらいはよく囁かれている。

「セシリアが言うと重みがありますね」

 リオが苦笑して言う。

「ちょっとそれどういう意味よ?」

 綺麗な笑みを浮かべて尋ねるセリア。
 リオは苦笑を浮かべたまま。

「あはは。深い意味はありませんよ。それはそうと、ひょっとしてセシリアはその友人に会いたかったりします?」

 話題を逸らす様にそう言って、セリアを見やった。

「うーん、まぁ会ってみたい気持ちはあるけど、今のところは様子見かしら。一応アリアはガルアーク王国の貴族に仕えているからね。ベルトラム王国に対するガルアーク王国の態度が確定するまでは保留しておくわ」

 セリアがそう言うと、リオは満足そうな笑みを浮かべて。

「わかりました。会いたくなったらいつでも言ってください。可能な限りは取り計らいますから。懸念事項を踏まえての判断は基本的にセシリアに任せます」

 と、そう告げた。
 クーデターが起きたことにより政情が不安定とはいえ、現時点ではまだ友好国であるベルトラム王国に恩を売るために、ガルアーク王国の貴族に仕えるアリアが主の命により友人であるセリアの身柄を確保する可能性は十分にあり得る。
 うかつな行動をとることはできないが、セリアの行動の自由は可能な限り確保したいというのがリオの本心だ。
 セリアならばうかつな真似をすることはそうそうありえないので、信用もできる。

「あら、信用してくれているのね」

 嬉しそうに微笑むセリアに。

「友人との接触を完全に絶たせたら、あのまま軟禁された状態と変わりありませんしね。身の危険が生じるリスクが許容範囲内なら、セシリアの行動の自由を制限する理由はないですよ」

 と、リオが肩をすくめて答える。

「ありがとう。もしかしたらその子を経由してその公爵家の令嬢が後見人になってくれるかもしれないし、万が一の時は頼ってみるのもいいかもしれないわね」
「まぁ信頼できる後ろ盾があった方が行動しやすいのは確かですね。一方的に頼りきりになるのは問題ですが」
「そこは私を交渉カードにしてくれていいわよ。こう見えて各国が欲しがる魔道学者だからね、私」

 セリアが少し得意げに語る。

「条件が良くてセシリアもそれを望むのならばともかく、交渉材料は俺の方で用意しておきますよ。セシリアは気楽に構えていてください」

 そう言って、リオはセリアにそっと微笑みかけた。

「……ありがと」

 少し強い午前の日差しの下、僅かに顔を紅潮させて、セリアが礼を告げる。
 そこで、目的の店が視界に入ってきて。

「さて、そろそろ目的の店に着きますよ。必要な日用品はあそこで揃うはずです」

 と、リオはそう言った。

「やっぱり大きな店ね。リッカ商会と言えばベルトラム王国の貴族の女性達にも人気のあるブランド店よ。質がいい分そこそこの値段がすると思うけど、本当にあそこの店でいいの?」

 久々の外出に心が躍っているのか、セリアが嬉しそうな笑みを浮かべる。

「ええ、お金ならかなり余っていますから。どうせなら品質の高い物の方がいいでしょう。美春さん達の衣類もリッカ商会で買い揃えていますから気にしないでください」
「そういえばリオって国から結構な額の金貨を支給されていたんだっけ? そのお金ってまだ持ってるの?」
「ええ、逃走時に必要な物資を買う以外はほとんど使わなかったので、現金だと魔金貨数枚分のお金を持っています。旅をしている間に倒した魔物の魔石も大量に持っていますので、それを売れば一生働かなくても大丈夫です。むしろ使い切れません」
「……ひょっとしてそこら辺の貴族よりも裕福なんじゃないの?」

 セリアが呆れたような視線をリオに向ける。

「貴族の収入がどの程度なのか知りませんので何とも言えませんが」
「下級貴族だと金貨四十枚くらいが年収よ。魔金貨が一枚もあればその年収を上回るわ。あの家も高位貴族の屋敷よりずっと快適だし、食生活もずっと豊かだし、甲斐性がありすぎよ」

 くすくすとセリアは笑った。

「セシリアを連れ出す時に言ったでしょう。常識外れなところが多々あるって」

 リオが小さく肩を竦める。

「ええ、良い意味で常識外れなことだらけだったわね。お陰様で今は人生最高に快適な生活を満喫させてもらっているし、本当にリオには感謝しているわ」

 そうやって会話をしているうちに店の前にたどり着く。
 二人は立ち止まり、何となく視線を合わせる。
 すると、お互いに口元がほころんでいることに気づき、フッと笑みを強めた。

「では、後で合流しましょう。色々と入り用でしょうし、買い物は二時間くらいでいいですか?」
「ええ、それだけ時間をもらえれば大丈夫だと思うわ」

 セリアは言葉が通じるので、何かわからないことがあれば店員に尋ねることができる。
 少しずぼらなところもあるが、仮にも貴族ならば平民よりは買い物慣れをしているだろうし、お金は十分に渡してあるので問題はないだろう。

「いえ、俺も用事がありますから。一階のフロアにいてくれれば迎えに来ますので」
「わかったわ。それじゃあ気をつけてね」
「はい。セシリアも」

 別れの挨拶を告げて、セリアが店の中へと入っていくのを見守る。
 店内に入り終えたところで、リオは自らの所用を済ませるべく移動を開始した。

 まず向かうのは人気のない路地裏だ。
 周囲に人の気配がないことを確認して、軽く一息。
 小さく目を瞑ると、リオの顔が光に覆われ、その容姿が瞬く間に変化していく。
 次の瞬間には、リオとは容姿の異なる成人男性がその場にいた。
 リオが行ったのは精霊術による変化だ。
 やっていることは髪の色の変化と同じだが、容姿を変化させる方が難易度は比較にならない程に高い。
 変化の術はオドとマナの操作が複雑で扱いにくい上に、常時オドを操作してマナに干渉する必要があるため、気を抜くとすぐに術が解けてしまう。
 なので、永続的に変化を行うのならば魔道具か霊具を作成する方が効率的であるが、一時的に変化を行う分には精霊術で事足りる。
 戦闘中はともかく、都市の中で行動するくらいなら術が解ける心配はないので、リオは精霊術で変化を行うことにした。
 小さく深呼吸をすると、リオは意識を切り替え、路地裏から立ち去った。

 アマンドの商業区画の中でも飲食街の少し奥外れにある酒場にリオはやって来た。
 まだ昼間だというのに酒場の中には冒険者の風貌をした男達がたむろして騒いでいる。
 リオは迷うことなく真っ直ぐにカウンターへと向かった。

「蒸留酒でおすすめを頼む」
「飲み方は?」
「任せるよ。ただ、ちょっと強めが良いな」 
「わかった。任せな」

 言葉少なげに会話を終えると、店主は注文の酒を作るべく作業に取り掛かった。
 年の頃は中年で、長年の経験を経た熟練の手付きには一切の無駄がない。

「ところで、お前さん、見ない顔だね。余所の都市からやって来た冒険者かい?」

 手持無沙汰に椅子に座るリオに店主が世間話を振ってきた。

「ああ、ちょいと人探しをしながら各地を旅していてな。そうだ。マスターに心当たりはないか? ルシウスっていう冒険者なんだが」

 普段とは口調を変えて、無頼ぶらいの冒険者を装い、リオが尋ねた。
 リオが冒険者の多い酒場を選んだのは情報の収集を行うためだ。
 こういった酒場を経営するマスターならば情報屋に似た役割を担っているだろうと判断したのである。

「ふむ。どの程度の情報が欲しいんだ?」

 予想的中 (ビンゴ)
 当たりを引くまでそれらしい店を片っ端から回ってみる予定だったが、初っ端から目的の店に辿りつけるとは幸先がいい。
 リオは小さくほくそ笑んだ。

「簡単な人物像と出来れば所在を頼む」
「……小銀貨一枚ってところだな」
「ああ、頼む」

 こういった活動は初めてのことだが、リオはポーカーフェイスでスッと小銀貨を一枚を差し出した。
 手元にきっちりと小銀貨を収めると、店主は淡々と説明を開始する。

「ルシウス。一級冒険者。専門は傭兵業。指揮している傭兵団『天上の獅子(ザ・グリフォン)』は無敗で最強の傭兵団の一角に数えられるくらいに有名だな。戦士としての実力は超一流。とまぁここまでは表向きによく知られている客観的に確定している情報だな」

 店主はここでいったん言葉を切る。
 冒険者は六段階に階級分けがされており、最下位にいるのが五級の冒険者であり、数字が減るごとに上位の冒険者となる。
 一級の上にいるのが特級の冒険者であるが、名誉階級的な意味合いが強く、その数は非常に少ない。
 それゆえ、実質的には一級が最高位のランクとなる。
 それはともかく、差し出された酒の香りを楽しみながら、リオは黙って店主の説明を聞いていた。
 話を続けてくれと言わんばかりに店主に視線を投げかける。
 店主は小さく頷くと話を続けた。

「この業界じゃハッタリをきかせるのは当たり前だからどこまで本当かは知らねぇが、やっこさんはもともとはベルトラム王国で『王の剣』の候補者に選ばれたほどの使い手だったという噂を聞いたことがある」

 その話にリオが小さく目を見開く。
『王の剣』とはベルトラム王国の国王に認められた最高の剣士に与えられる称号である。
 リオが知る限りではかつての『王の剣』は近衛騎士団長であるアルフレッド=エマールであったはずだ。
 その前の『王の剣』が誰であったかは覚えていない。
 店主はリオの反応を機敏に察し、小さく笑うと。

「まぁそれを裏付けるくらいには強いってことだ」

 と、そう付け加えた。

「活動範囲は転々としているが、ガルアーク王国で活動していた時期もあった。ここ最近は活動の噂を一切聞かないんだが、大規模だろうが小規模だろうが戦争をやってるところには高確率で出没するから、戦争中の国に行けば会えるんじゃねぇかな」

 どうやら居場所については大した情報は持っていないようだ。
 最近は活動の噂を聞かないというのが少し気になるが、ヒントは戦争だという。
 話を聞く限りではまるで戦争中毒者のようだ。
 いや、傭兵なんてそんなものなのかもしれない。
 表情には出さず、リオは内心で小さく舌打ちをした。

「なるほどな。それで、近々、戦争が行われそうな国に心当たりはあったりするか?」

 リオはじっと店主を見据えた。
 店主は小さく肩をすくめて。

「最近じゃどこもきな臭いことになっているぜ。大国で戦争をおっぱじめてもおかしくないのはプロキシア帝国かベルトラム王国らへんだな。相手がどこの国になるかは知らんが、もしかしたらこの国になる可能性もある。小国だとガルアークの北方に行けばプロキシア帝国とガルアーク王国を背後に小競り合いが日々生じているよ」
「なるほどな。助かったよ」

 と、リオは小さく礼を告げた。

「いや、料金分の仕事をしただけだ」

 店主が誇り気に答える。
 リオは薄く笑って酒の入った杯を飲み干した。

「この店の他のお勧めをもう一杯頼む」
「ああ、任せときな」

 追加でもう一杯を注文し、リオは店主との会話を続けた。
 とりあえずルシウスに関する話は聞けたが、他にも聞きたいことはある。
 特に勇者に関する情報だ。
 だが、店主は勇者について詳しい情報をまだ仕入れることはできていないようだった。
 知ることができたのは光の柱が立った方角くらいだ。
 勇者召喚がされてから数日しか経過していない現在では無理もないのかもしれない。

「御馳走さん。酒、良い仕事してるぜ。また来るよ」
「おう、金払いの良い奴はいつでも歓迎だぜ。最近じゃ情報屋を相手に値切る阿呆が多いからな」
「そいつは長生きできそうにないな」
「まったくだ」

 視線を交わし、ニヤリと笑いあうと、リオはテーブルに代金を置いて酒場を立ち去った。
 それから、セリアとの合流までまだ時間が余っていたため、都市の中を散策して買い物を行う。
 時間がやって来て、セリアと合流すると、リオは帰宅した。
+注意+
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