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精霊幻想記(Web版) 作者:北山結莉

第四章 再会、その裏で

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第58話 その後

 夕食を食べ終えると、亜紀と雅人は精神的に疲れていたのか、すぐに眠り果ててしまった。
 美春が風呂に入っている間に二人を寝室へと案内して眠らせると、リオは一人でリビングのソファに腰を下ろす。
 そしてぼんやりと物思いにふけった。

 考えるのはこれから先のことだ。
 セリアに会い、復讐のために情報を集め、美春達の面倒を見て、美春達の知り合いを探す。
 細かいことを含めれば他にもやるべきことはたくさんあるし、配慮しなければならないこともたくさんある。
 だが、焦ってはいけない。
 焦ったところで結果は付いてこないし、それどころかミスをしてしまう恐れすらある。
 それが取り返しのつくミスならばいいが、取り返しのつかないミスを犯す危険だってあるのだ。

「…………」

 テーブルの上に置かれたアイスティーを口に含み喉を潤す。
 金属製のグラスから右手にひんやりとした温度が伝わってくる。
 リオはじっとその手を見つめた。

 今日、リオはこの手で人を殺した。
 生まれて初めて、人を殺した。
 人を殺した罪悪感に苛まれている――なんてことはない。
 残念ながら、今さらそんな感傷を抱くことはない。
 それが誰であろうと、自分や身内を害しようとする存在であるのならば、それはリオの敵だ。
 そう決めたのだから。

 ただ、人を殺すことは気持ちの良いものではなかった。
 綺麗なことでもなかった。
 そんなこと、出来れば知りたくもなかった。
 だが、この世界はそんなに優しい場所ではない。
 出来ることならばこんな世界を拒絶してどこかでひっそりと暮らしたいけれど、それはできない。

 リオはルシウスを許していない。
 正しいか間違っているかなんて関係ない。
 リオがそう決めたのだ。

 そして、もう一つ、リオにはこの世界を拒絶できない新たな理由ができた。
 この世界は美春達にとっては過酷な世界だ。
 こんな世界から美春達を守る。
 それが自分に課せられた新たな使命だった。

 自分が復讐をしようとしているなんて、美春にはとても言えないけど、その決意は美春と再会した今でも変わらない。
 けど、自分の前世のことと併せて、美春に想いを伝えようとするのならば、復讐のことも伝えなければならないのだと思う。
 自分は人から恨まれるかもしれないことをするのだから。

 いつか、いつか、復讐を終えて、やるべきことをすべて終えたら、悪意のない、ちっぽけな世界を創って暮らしたい。
 美春がいて、自分がいて、少しの大切な人達が一緒にいる。
 そんな小さな世界で暮らせれば、それで十分。
 それで十分だから。
 だから――。

 と、そこで。
 静かな室内に扉が開く音が響き渡り、リオは思考を中断してそちらに視線を移した。
 そこには風呂から上がってきた美春がいる。

「ハルトさん、すごく良いお湯でした。ありがとうございます」

 優しく笑って、美春がそう語りかけてきた。
 リオも笑みを浮かべて。

「ああ、良かった。少し今後のことを話したいのですが、よろしいですか?」

 と、そう答える。

「あ、はい。亜紀ちゃんと雅人君はひょっとしてもう眠っちゃいましたか?」
「はい。すごく疲れていたみたいですね。美春さんも疲れているようでしたら明日みんなと一緒に伝えようと思うんですが、年長者の美春さんには先に伝えておいてもいいかなと思いまして」
「あ、私は大丈夫ですよ。お願いします」

 真面目な浮かべて、美春が言った。

「じゃあ座っていただけますか? 今、飲み物を用意しますから」

 新たなグラスを持ってきて、金属製のカラフェに入ったアイスティーを注ぎ、美春に渡す。

「美味しいです」

 風呂に入って喉が渇いていたのか、少し多めにそれを口にすると、美春が嬉しそうに感想を告げた。

「それは良かった」

 新たにアイスティーを注ぎ足すと、リオは美春に微笑んだ。
 寝間着がないため、美春は鞄に入っていたジャージを身に着けている。
 制服もそうだが、このジャージもリオは見覚えがあった。
 かつて自分も通っていた学校のものなのだから当たり前なのだが、この場で美春がその姿でいるというのがリオとしては何とも新鮮である。
 しかも、風呂上りであるためか、妙に色っぽい。
 自分の使っているシャンプーと同じはずなのに、美春から漂ってくる甘い香りは全く別物に思えた。
 僅かに緊張した心を落ち着けるように、小さく息を吸うと。

「えっと、じゃあ今俺がしていることと併せて、今後の方針なんかについて教えますね」

 努めて、真面目な表情を浮かべて、リオは言った。

「はい。お願いします」
「現在、俺はベルトラム王国という国に向かっています」
「ベルトラム王国ですか?」
「はい。俺達が今いるのはセントステラ王国という国の国境付近なんですが、北西に向かうとベルトラム王国、北東に向かうとガルアーク王国という国にたどり着くと覚えておいてください」

 紙とペンを取り出して簡単な地図を描き、現在地と周辺国の説明を行っていく。

「なるほど。こういう形になっているんですね。わかりました」

 興味深そうに美春は地図を見つめた。

「ええ、では、俺がベルトラム王国に向かう理由について教えておきますね」

 言って、リオはアイスティーを口に含んだ。
 喉を潤すと、説明を続けるべく口を開く。

「実はその国では少し前にクーデターが起きたみたいなんですが、ちょっと昔お世話になった知人が暮らしているんです。その方の安否を知るためにその国に向かっているところでして」
「クーデター……。そんな国に行って大丈夫なんでしょうか?」

 不穏な言葉に、美春が心配そうな表情を浮かべる。

「はい。クーデターが起きたのは上層部の中でのことなので、おそらくですが市井の治安はそこまで悪化していないはずです」

 断言はできないが、そこまでひどいものではないはずだ。
 国民の中で不安はあるだろうが、直ちにそれが治安の悪化につながるとは思えない。
 とはいえ、今後の国政次第ではどうなるかはわからないが。

「ただ、行って帰って来るとなると、俺が一人で行動した方が色々と都合が良いので、美春さん達にはこの家で留守番をしておいてもらいたいんです」
「お留守番ですか?」
「はい。この家の中で隠れて住んでいる限りは滅多なことでは危険には遭いませんので安心してください」

 リオは安心させるように美春に微笑んだ。
 隠れ住むとなると人が来ない場所にこの家を設置する必要がある。
 代わりに魔物や危険な生物が出現する可能性はあるが、その程度の生物ならば家の中にいれば安全である。
 そういう風にこの家を作ったのだから。

「出発は数日後の予定で、出発後は遅くとも三日以内には戻って来るつもりです。面倒を見ると言っていきなり放置することになってしまい非常に心苦しいのですが……」

 申し訳なさそうにリオが頭を下げる。
 すると、リオに心配をかけないように。

「いえ、私達はハルトさんの言いつけ通りにこの家の中にいますから、ハルトさんは私達に構わずその人のところへ行ってきてください!」

 意気込んで、美春はそう答えた。

「ありがとうございます。自分はこうやって度々、家を空けることがあるかもしれませんが、なるべく頻繁に帰って来るようにはしますので」

 若干心苦しそうに、リオが言う。

「はい」

 美春は力強く頷いた。

「それで、明日なんですが、近くの都市に行って美春さん達の日用品を買いに行こうと思っています。身の回りの物はすぐにでも必要になるでしょうから」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ただ、言葉も喋れないまま三人を一緒に連れて都市に行くとなると少し不安なので、とりあえず美春さんを代表として連れて行くという形でよろしいでしょうか?」
「はい。私は大丈夫です」
「では、明日。朝食を食べたら出発しますので、そのつもりでよろしくお願いしますね」
「わかりました」
「それと、明後日からは俺が留守にする間に安心して定住できる場所を探そうと思っています。色々とタイトなスケジュールで不都合をおかけしますが、大丈夫でしょうか? 何か抱えている怪我や病気があったら教えてください」

 もし何らかの持病があるというのならばそれを知っておく必要がある。
 精霊の民の作った秘薬や霊薬があれば治せない病気はないと言ってもいい。
 非常に貴重でおいそれと使うものではないが、美春達のためならば安いものだ。

「いえ、不都合だなんてそんな。むしろ私達のせいでハルトさんに無理を強いているんですから、大丈夫に決まっています。私が知る限りみんな健康体なので問題ないですよ」
「そうですか。なら良かった。とりあえず俺が何度か行ったことのある都市も近くにありますし、ひとまず定住する場所はガルアーク王国にしようかと思っています」
「ガルアーク王国ですね。なるほど」

 リオが描いた地図を眺めて、美春が呟いた。

「ちなみに移動は空を飛ぶことになりますので、時間はそこまでかからないはずです」

 徒歩だとガルアーク王国に移動するだけで少なくない日数がかかる。
 だが、空を飛べばゆっくりと飛んでも数時間でたどり着くはずだ。
 三人を抱えて空を飛ぶのは初めてだが、自分の精霊術の技量的にできないことはないとリオは確信している。
 安全面に配慮して移動速度は落とすし、命綱をつける必要もあるだろうが、問題はないだろう。

「え、そ、空ですか?」

 美春が瞠目する。

「ええ、魔術とは少し違うんですが、空を飛ぶ手段もあると思ってください」
「えっと、わかりました……」

 どのように空を飛ぶのか想像できず、美春が不思議そうに返事をする。

「まぁ、実際に飛んでみればわかると思います。少し怖いかもしれませんが、どうしても無理なようでしたら言ってください」
「わかりました」

 美春が頷くと、二人の間に数瞬の沈黙が降りた。
 所在なさげに視線を手元のグラスに向けるリオ。
 既に話しておくべき会話は終えた。
 美春も疲れているだろうし、このまま会話を打ち切ろうかと思っていると。

「……えっと、それでですね。ハルトさん」

 美春がおそるおそる声を出した。

「あ、はい、なんでしょう?」

 返事をして、リオはグラスから美春へと視線を戻した。

「鞄の中に入っていた金貨なんですけど、あれはどうしたらいいでしょうか?」
「ああ、あの金貨ですか……」

 奴隷商が勝手に手渡してきた金貨は美春の鞄に入ったままだ。
 色々と話が多くて後回しにしていたが、今になってそのことを思い出した。

「あれは美春さん達の活動資金としてください」

 リオがあっさりとその所有権が美春達にあることを伝える。
 すると、美春は大きく目を見開いて。

「えっと、私達は助けてもらっただけなので、あれはハルトさんが受け取るべきお金だと思うんですが……」

 と、そう答えた。

「いや、被害者は美春さん達なんですから、あのお金は美春さん達のものですよ。慰謝料ってそういうものですし」
「でもハルトさんには助けてもらってばかりですし、私達じゃ持っていても使い道がありません。是非、ハルトさんにあのお金をもらってほしいんです」

 決然とかぶりを振って、美春はそう主張した。
 二人の視線が交差する。
 なかなか譲りそうにない美春の意志がリオに伝わってきた。

「えっと、……じゃあ、お金は俺が預かりますけど、美春さん達に必要な生活物資を購入する時はあそこからお金を出すというのはどうでしょうか?」

 そうやってリオが提案する。

「い、いえ、それじゃ結局、私達のお金になっちゃうんじゃ……?」
「あはは、バレちゃいましたか」
「えっと、これから私達に使うお金は貸したものとしてくれないでしょうか? お世話になったお金はいつか働いてリオさんに返そうと思っているんです」
「え、いや、別にそんなことをする必要はないですよ」

 今度はリオが目を丸くする番だ。

「そういうわけにはいきませんよ。一方的にお世話になってばかりですから。お金で返せるものじゃありませんが、恩は返したいんです」
「なるほど……」

 確かにリオが美春の立場にいたら働いてお金を返そうとするだろう。
 だから美春の気持ちはリオにも良くわかった。
 だが、リオとしてはあまり美春に恩を感じてもらいたくはない。
 リオが美春に良くするのは当たり前のことなんだから。
 そこで。

「えっとですね。俺が美春さん達を助けたのは理由があってのことなんです。そこまで恩に感じることはないんですよ?」

 と、リオは少しおどけて言ってみせた。

「えっと、じゃあどういった理由で助けようと思ったんでしょうか?」
「それは……この地方で起きた出来事の情報が欲しかったからですかね」

 リオがそう言うと、美春が僅かに眼を見開く。

「……普通はそれだけの理由でここまで良くしてくれませんよ。私達が持っていた情報なんて全くなかったですし、やっぱりちゃんと恩は返したいです」

 少し可笑しそう微笑んで、美春は言った。

「あ、いや、他にも理由はありますよ?」
「そうなんですか?」
「はい。そりゃあもう」
「何なんでしょうか?」
「えーと、美春さん達が日本人で懐かしかったからとか。他にも色々と……」

 たどたどしく答えるリオだが、美春にはその言葉に何か深みがあるように思えた。

「色々ですか?」
「はい、まぁ……」

 言葉を濁すリオ。

「えっとですね。じゃあお金は受け取りますが、それで恩は返したということにしておいてください」
「ですが……」

 渋る美春。
 どうやらリオが思っている以上に美春は恩に感じているようだ。
 あるいは律儀な性格をしているのか、その両方か。
 何となく今の美春の人柄が伝わってきて、リオは嬉しくなった。

「いえいえ、あのお金ってすごい大金なんですよ? 単純に日本円で換算することはできませんが、その価値は軽く一千万円を超えるはずです。二千万円はいかないと思いますが」

 きちんと枚数は数えていなかったが、ざっと見た感じそれくらいの量はあった。

「い、一千万円ですか……」

 予想外に高い金額に美春が固まった。
 当然と言えば当然だが、その価値をきちんと理解していなかったようだ。

「そういうわけです。あのお金を頂いて、他にもお金を受け取るなんてできませんよ。そういうことで納得してくれませんか?」
「えっと、本当によろしいのでしょうか?」

 それでもまだ戸惑う美春に。

「よろしいです」

 と、リオは少しふざけて言ってみせた。
 美春は僅かに瞠目して。

「はい」

 くすりと笑って答えた。

「そういうわけでお金の問題は今後一切気にしないでください。どうしても気になるようでしたら、家事なんかを少し手伝ってくれればそれで十分ですから」
「あ、はい。それは当然やろうと思っていたことなので、もちろん!」
「では、お願いしますね。俺が留守にしている間は美春さんがこの家の家主になってください」
「わかりました」

 穏やかに微笑むと、美春は「でも――」と付け加えた。

「後になって何か必要なことがあったら何でも言ってくださいね。私にできることなら手伝いますから」
「はい。ありがとうございます」

 リオも美春に微笑み返す。

「じゃあそろそろ眠りましょうか。美春さんも疲れているでしょうから」
「はい。ありがとうございます」
「部屋は亜紀ちゃんと別の部屋を用意したんですが、それでいいですか?」
「あ、はい。でも、個室を使っちゃって大丈夫なんでしょうか?」
「ええ、まだ空き部屋がいくつもありますから、問題ありません」

 それから、美春を部屋に案内すると、リオも風呂へ入ることにした。
 リオが風呂に入っている間に美春は眠りに就いたようだ。
 そのままリオも寝室へと向かい、ドミニクが作った特大のベッドに背を預けた。
 この家の中でもこの部屋にあるベッドだけはサイズが異様に大きく、十二畳もある部屋を埋め尽くす勢いでベッドが広がっている。
 ドミニクが「ここがお前の部屋だからな。わざわざベッドまで作ってやったんだ。他の部屋で寝るのは許さんからな」と念を押して言ってきたため、そのままこの部屋がリオの個室として決まってしまったのだ。
 別に律儀に守る必要もないのだが、せっかくの厚意を無碍にするのも何となく悪い気がして、リオはこうしてこのベッドの上で眠っていた。
 最初は広すぎるベッドだと思ったが、こうして横になっていると何となく安心感を覚える。
 いくら寝相が悪くても落ちる心配はないし、思わずゴロゴロしたくなってしまうこともあった。
 今では普通のベッドで眠ると違和感を覚えるくらいだ。

「…………」

 眠る前に美春と会話をしたからだろうか、リオは何となく遠足を前にした夜の小学生のような気分になった。
 寝静まった家の中でじっと暗い天井を見つめる。
 こんな気分は本当に久しぶりだった。
 ふと、前世で美春と一緒に行った遠足を思い出す。
 あの日の前夜も寝付くことはできず、翌朝に早起きした美春に起こしてもらったことを思い出した。
 その美春が今は同じ屋根の下で眠っているというのだから不思議な気分だ。
 色々と考えているうちに、リオの意識が落ちていく。
 そうしてその日は安らかに眠りに就いた。

 そして翌朝。
 岩の窓から朝日が差し込み、リオは眼を覚ました。
 のろのろとした動きでベッドから降りて、部屋の外へと出ていく。
 すると、リビングに食欲をそそる香りが充満していた。

(昨日作った料理を置きっ放しにしたっけか?)

 なんて、寝ぼけた頭で考えて、キッチンへと向かう。
 そこにはエプロンを着けて料理をする美春がいて――。
 はたと、リオは硬直した。
 一気にリオの思考が覚醒する。

「おはようございます。すみません。寝坊したみたいで」

 慌ててリオは美春に声をかけた。

「おはようございます。まだ亜紀ちゃんと雅人君も眠っていますから。腕時計のアラーム機能を使って早起きしたんです」

 と、美春は早起きした理由を語った。
 この家にも時計はあるが、目覚まし機能はついていない。
 そもそも時計は高級品で一般にはあまり出回っていないし、体内時計で生活することが染みついているからあまり問題もない。
 リビングの時計を覗くと時刻は七時前だった。
 昨日は少し眠るのが遅かったせいでゆっくりと眠ってしまったようだ。

「勝手にキッチンを使ってしまって申し訳ありません。今、朝食を作っているのでゆっくりしてください」
「あ、手伝いますよ。何か足りない食材とかあれば言ってください」

 キッチンに置いてあったエプロンを着けて、リオが申し出た。
 冷蔵魔道具の中にも食材は入っているが、大部分は時空の蔵の中で眠っている。

「あ、はい。えっと、主品に何を作ろうか迷っているんですが、それ次第ですかね」
「なるほど。じゃあベーコンエッグでも作りましょうか」
「あ、卵とベーコンがあるんですか?」
「はい。今、出しますから少し待っててください。『解放ディスチャージ』」

 時空の蔵の中に眠っている食材を思い浮かべて、必要な量の卵とベーコンを取り出す。

「これを使ってください」
「あ、はい。ハルトさんって何でも持っているんですね」

 感心したように美春が言った。

「あはは、何でもというわけにはいきませんけど、食材は色々と持ってますよ」

 何となく照れくさくて、リオはそれをごまかす様に笑った。

「あ、そうだ。お昼から俺達は出かけますし、亜紀ちゃんと雅人君の昼食を作り置きしておきましょうか。俺はそっちを用意しますね」
「はい。じゃあ私は朝食の準備を続けますね」
「ええ、こっちは冷めてもいいようにお弁当にでもします」

 そう決めると、リオも行動を開始した。
 ただご飯を作るだけなのに、何故かそれが楽しい。
 自分のご飯を作るのは味気ないものだけど、他の人のご飯を作るのは楽しかった。
 それは美春が一緒にいるからだろうか。
 クーデターとか、復讐とか、そんな暗い話は忘れて、今はそんなことは放っておいて。
 リオは純粋に嬉しかった。
 今、この瞬間だけは――。
 それがすべてだった。
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