挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
精霊幻想記(Web版) 作者:北山結莉

第三章 両親の故郷の地で

47/179

第41話 王都散策

 リオ達が王都にやって来た翌日、眩しい青空が広がる下で、リオはサヨと一緒に王都の街中を二人で歩いていた。
 二人は村人達に頼まれた嗜好品の購入を行っており、他の村人達は交易品の売却に行ったり、村の日常生活に必要な大量の物資を買い付けに行ったりしている。

「やっぱり王都はたくさん人がいますねぇ」

 王都に初めてやって来て、色々と感銘を受けているのか、サヨが感嘆の声を漏らす。
 サヨの言葉に、リオも周囲に広がる王都の風景に目をやった。
 リオもこの国の王都にやって来たのは初めてだ。
 カラスキ王国には漆喰で覆われた木造建築家屋が多く、どことなく東洋建築に似た雰囲気の家屋が立ち並んでいる。

 なにぶん二人ともおのぼりさんであるため、どんな店で嗜好品が売られているのかはほとんどわからない。
 そんな二人に買い出しを任せるのはどうなのかと村人達に尋ねてみたが、人が足りない上に、リオは計算もできるだろうとだけ言われた。
 いまいち釈然としない理由だったが、こうしてサヨと一緒に買い出しに来たというわけだ。
 現在、二人は商業区画を歩いており、色んな店を巡っては目的の品がないか探している。
 今日一日は買い出しのついでに王都の観光をしてきていいと言われているため、ゆっくりといろんな店を回っていた。

「サヨさんは村から出ること自体が初めてなんですよね?」
「はい。お兄ちゃんが前に一回王都に行って帰って来て、色々と話を聞いて、ずっと来てみたいと思っていたんです」
「それは願いがかなってよかったですね」
「はい! 本当に夢みたいです! それにこうして観光もできるなんて」
「きっと私達は初めての王都だから、みんなが気を使ってくれたんでしょうね」
「は、はい。そう、だと思います」

 最後の言葉はどこか歯切れが悪く、僅かに頬を赤らめてもいた。
 とはいえリオは周囲の人波に押されないように注意を払っていたため、その様子に気づくことはなかった。

「そ、それにしても下から見上げる王城の眺めは素晴らしいですね!」

 どこか焦ったような声を出して、サヨが言った。

「そうですね。色んな国を旅してきましたが、あれ程の城は見たことがありません」

 カラスキ王国王都は小高い丘を囲むように作られており、その中心部となる頂上に王城が存在する。
 市街地から見た王城の眺めはまさしく圧巻であった。
 そんな景観を楽しみつつ、街中を歩いていると――。

「そこの若いお二人さん、デートですか?」

 と、露店を経営している女商人から声をかけられた。
 どうやら女性向けの小物を販売しているようだ。

「あ、いや、えっと……」

 女性店員の言葉に顔を真っ赤にして、サヨはしどろもどろに返事をしようとした。

「村から王都にやって来て、交易のついでに買い出しをしているんですよ」

 思考回路がショート寸前で、言いよどんでいるサヨに代わって、リオが事情を説明する。

「あら、そうなんですか? へぇ」

 言って、女商人は顔を赤くして縮こまっているサヨに視線を向けた。
 どこか見透かされたような視線に、サヨはさらに顔を紅潮させる。

「お兄さん、せっかくこうして王都にやって来たんですから、記念に彼女に何か買ってあげたらどうですか?」

 にやり、と営業スマイルを浮かべると、彼女は商品の購入を促してきた。
 最初から営業目的で話しかけてきたことはわかっていたが、なかなかに断りにくい話の持っていき方である。
 ここで断っては少しばかり空気が読めていないようにリオには思えてしまったのだ。

「……そう、ですね。サヨさん。何か欲しいのありますか?」

 苦笑を浮かべ、リオはサヨに尋ねた。
 この国でも利用できる路銀をリオは十分に持っている。
 別に一つくらいサヨへプレゼントを買ったところで懐が痛むわけでもない。
 この状況で誘いを断るのも少し気が引けたので、リオは女商人のセールストークに乗ってあげることにした。

「ふぇ!? そんな、悪いです!」

 慌てたように、サヨはリオの申し出を辞退しようとする。
 両手を前に出し、首を左右に勢いよく振る姿がオーバーリアクションで、リオは可笑しそうに笑った。

「遠慮しないでも大丈夫ですよ」
「そうですよ! せっかく男の人が贈り物を買ってくれるって言っているんですから、ここは女としてしっかりと買わせてあげるのが礼儀ってもんです」

 サヨに遠慮させないよう、気楽な風に、リオが促すと、女商人がそれに便乗した。

「そういうことなんで、どうぞ」
「え……あ、じゃ、じゃあ……」

 二人の言葉に押されて、戸惑いながらも、サヨは陳列されている商品を眺めてみることにした。
 最初はおそるおそるといった感じだったが、すぐにサヨは真剣な表情を浮かべた。
 女商人の説明を受けながら、そうやって商品をじっと見つめているのを、リオが黙って待つ。
 やがてサヨは花の文様が描かれた可愛らしいデザインのかんざしを手に取った。

「おお。お目が高い。センスが良いですね。それは一品物なんです」
「えっと、高いんですか?」

 どこか遠慮したように、サヨが尋ねる。

「ん~、銅銭六十枚ってところでどうですか?」

 一般的な平民でも手が出せない程に高いというわけではない。
 だが、村で暮らしており、あまり貨幣を持っていないサヨにとっては大金であった。

「それでいいんですか? サヨさん」
「え、あ、でも……」

 気負ったところのない風に、リオがサヨの意思を確認する。
 だが、サヨは、かんざしとリオを交互に見て、戸惑った様子を見せた。

「お姉さん。それをください」
「え?」

 そんなサヨの様子から、それを気に入っていることがわかったため、リオはそのかんざしを購入する意思を伝えた。
 銀銭を一枚差し出すリオの姿を見て、サヨが呆けた表情を浮かべた。

「毎度あり! 女性へのプレゼントを値切らないところは好印象ですよ!」

 村からやって来たと聞いて、そこまで持ち合わせもないのかと、もう少し値引いてあげても良かったのだが、あっさりとお金を支払ってきたリオに、女商人は目を丸くする。
 が、すぐに満面の営業スマイルを浮かべ、銀銭を受け取ると、女商人は銅銭四十枚を差し出した。
 それをリオが受け取ると、女商人はかんざしを持ってサヨに近づいた。

「さて、じゃあさっそく着けてみますか?」
「え、あ、はい」

 すると、手慣れた手つきで女商人はサヨの頭にかんざしをセットした。
 サヨはやや夢現ゆめうつつ状態で、されるがままそれを受け入れていた。
 薄紅色の花柄のかんざしは、肩まで伸びたセミロングの黒髪と、サヨの白い肌とのコントラストで、良く映えている。

「とても良く似合っていますよ!」
「ええ、素敵だと思います」
「あ、ありがとうございます!」

 ニコリと愛想良く笑みを浮かべて、女商人が感想を告げる。
 続けてリオも感想を告げると、サヨは頬を赤く染めて礼を言った。

「頑張ってモノにするのよ。この少年、競争率高そうだから」

 と、軽いウィンクを寄こすと、女商人はサヨだけに聞こえるように告げた。

「っ~~」

 その言葉に、サヨは身を縮めて俯いた。

「それじゃあそろそろ行きますか。サヨさん」
「は、はい!」
「またのお越しをお待ちしていますね~!」

 再び買い物を再開しようと、二人が歩き出す。
 女商人はそんな去りゆく二人の背に声をかけた。
 しばらく歩いたところで、喜色満面な笑みで、サヨが「ありがとうございます!」と、リオに勢いよく頭を下げるのを、彼女は微笑ましげに眺めていた。

 その後、しばらく王都の中を歩き回って、二人は簡易宿泊所に戻る。
 すると、サヨが頭に着けているかんざしを村人達が目ざとく発見し、色々と追及されて、サヨは顔を真っ赤にするという展開になった。
 交易の方は順調に商品を売り払うことができたらしく、その二日後に村へ向けて出発することが決まる。
 村に帰ってからも、サヨの頭にはリオに贈られたかんざしが四六時中着けられており、女衆達から追及の言葉が投げかけられた。

 ☆★☆★☆★

 リオ達が王都を立ち去ってから数日後。
 カラスキ王国の上級武士であるサガ家にて、現当主であるサガ=ゴウキは自らの息子であるハヤテと向き合っていた。

「ユバ殿から手紙だと?」

 力強さを感じさせる低い声で、ゴウキが言った。

「はい。何やら大切な手紙であるらしく、必ず届けてほしいとのことでした」
「うむ、そうか……。して、その手紙は?」
「こちらです」

 ハヤテが差し出した手紙を受け取ると、ゴウキは体格に似合わぬ丁寧な手つきでその封を破った。
 不機嫌というわけではないのだが、ゴウキは厳格で少々気難しい性格をしている。
 何事があっても動じず、どっしりと腰を構えて物事を見る人物だ。
 鬼神ゴウキという二つ名で、かつて隣国のロクレン王国の兵士達を震え上がらせたという逸話もある。
 それがハヤテがゴウキに対して抱いているイメージであり、そんな父親のことをハヤテとその弟妹きょうだいは尊敬していた。
 特に、ハヤテの八歳下の妹などはゴウキよりも強い人でなければ結婚しないと公言しているくらいだ。
 父よりも強い人間がこの国にいるはずもないというのに。
 それはさておき、今もゴウキは何やら小難しい顔をして、ジッと手紙を見つめている。

「っ!?」

 だが、ある時、そんなゴウキが明らかに驚愕した表情をのぞかせた。
 その様子を察し、ハヤテの表情にも驚きの色が浮かぶ。

(父上が感情を表に出すとは珍しいこともあるものだ。そんなに大事な知らせなのか?)

 気にはなるが、手紙を読んでいる父親に向かって話しかけるわけにもいかない。 
 ハヤテはじっと手紙を読むゴウキの姿を見つめていた。
 何やらゴウキはものすごい速度で視線を動かし、手紙に書かれた文章を追っている。
 沈痛な面持ちを浮かべているかと思えば、何かに喜んでいるかのように笑みを浮かべてもいた。
 一度読み終えた後も、間違いがないように、何度も繰り返し読み直しているようだった。

「リオという少年について詳しいことを教えなさい」

 何度も手紙を読み、その事実に読み間違えがないかを確認すると、ゴウキはリオについて尋ねた。
 どうしてリオの話がここで出てくるのだろうか。
 ゴウキの声は震えていた。
 それは怒りか、悲しみか、はたまた喜びによるものか。
 ハヤテはその感情を掴みかねていたが、命じられたままリオについて語ることにした。

「はっ、歳は十四歳だと言っておりました。礼儀正しく、人格は極めて良好、武人としても並みの者ではないことを感じさせる一廉ひとかどの人物でありました」
「そうか……」

 およそ手放しに称賛する人物鑑定に、ニヤリ、とゴウキが猛るような笑みを浮かべた。

「こうしてはおれん。今すぐ陛下のもとに参上せねば。ハヤテよ、よくぞこの手紙を持ち帰った。大儀であったな」

 言って、ゴウキは素早く立ち上がった。

「アヤメ様はお亡くなりになられたか。ゼンめ……。いや、今はいち早くリオ様の存在を陛下にお伝えしなければ……」

 複雑な感情の籠った呟きを残すと、ゴウキは颯爽と部屋から立ち去る。
 その後ろ姿を、ハヤテは呆然と眺めていた。

「いったいなんだったというのだ……」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ