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精霊幻想記(Web版) 作者:北山結莉

第三章 両親の故郷の地で

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第34話 望まれぬ来客

 季節は秋。
 収穫の時期を迎えていた。
 女衆が陸稲や麦を刈り取り、その後を追う様に男達が鍬を担いで地面へと振り下ろしている。
 その中にはリオの姿もあった。
 刈り取った陸稲の根を掘り返して、畑を耕し直しているのだ。

 本当は精霊術を使えば一瞬で畑を耕すこともできる。
 だが、そんなやり方は、リオがいる間しかできない一時凌ぎの方法だし、下手に周りの村人の仕事を奪うことになりかねない。
 いつの間にか、剣ダコとは違ういくつものマメが、リオの手に出来ては、潰れていた。
 それでもリオは一心不乱に畑を耕している。
 単調な作業だが、前世で農家を手伝っていた頃の記憶を思い出し、どこか懐かしく、不思議と楽しかった。

 リオが提案した農業改革のうち、農具改造については既に成果を出している。
 今も何人かの村人がリオの教えた鍬を使っており、彼らはその使いやすさに感心していた。
 土壌の改善については休耕地にそれを行ったため、種まきも含めて、成果がでるのは来年になるだろう。
 それまでまだまだ時間はたくさんある。
 そして、やることもたくさんある。

「おーい。そろそろ休憩だってさ!」

 作業がある程度進んで区切りが出来たところで、ルリが大きな声で作業をしている者達に休憩を宣言した。

「はい! 今日は昼食があるよ。一人一個までだからね! リオが持ってきてくれた塩を使って作ったから、みんなリオに感謝するように!」

 普段は出ない昼食だが、今日ばかりは一人一個とはいえ塩のおむすびが振る舞われることになっていた。
 ルリを含めた一部の女衆が村長宅で作ったもので、材料は村で作った共同財産である米とリオが持ってきた塩だ。

「ありがとな! リオ!」

 妻子持ちの村の男連中が、おにぎりを受け取り、ご機嫌な様子で、大声を出してリオに礼を告げていく。

「いえ」

 そんな彼らにリオも笑みを浮かべて返事を返す。

「ちょっと、あんた達もリオにお礼を言いなさいよね!」

 ムスっとした表情をしつつも、黙っておにぎりだけは受け取っていく独身の若い男連中を、ルリが叱りつける。
 そんな彼女の言葉を聞こえないと言わんばかりに無視して、若い男達は群れになっておにぎりを頬張った。
 普段よりも贅沢に使われている塩に驚き、目を見開く。
 だが、その美味さがリオの所有品である塩のおかげだと思うと、彼らは複雑な気分だった。

「ったく、あいつら子供ね。なんなのよ」

 一通り村人におにぎりが行き渡ったのを確認し、最後におにぎりを受け取りに来たリオに、ルリがそんなことを言った。

「いや、まぁ自分はいずれこの村も出て行くんだし、気に食わないのも無理はないと思いますよ」

 と、苦笑しながら、リオはそんな彼らを擁護するような発言をした。

「そんなことないよ。リオはちゃんと村人達に受け入れられているもん。あれはあいつらが子供だから拗ねているだけよ。ほら、一緒に食べましょ。みんな呼んでいるし」

 そう言って、ルリがリオの手を引っ張り、既婚者の男達と村の女衆達が集まっている場所へと連れて行く。
 ガヤガヤと談笑する中で、リオの到着を待ちわびていた若い少女達が、爛々とした声で二人を呼び、自分達の近くに座らせる。

「みなさん、まだ食べていないのですか?」

 若い少女達の誰もがおにぎりに手を付けずに待っていたことに気づき、リオが目を丸くして尋ねた。

「はい! みんなで食べた方が美味しいですから!」

 と、リオよりも一つ年下の少女が、目を輝かせて、そんなことを言ってきた。

「それは、お待たせしてしまったようで、すみません」

 申し訳なさそうな表情を浮かべて、リオが軽く頭を下げる。

「え~、みんなっていうよりはリオ様と一緒にご飯を食べたいだけでしょ、サヨは」
「ち、ちがっ! あ、いや! リオ様と一緒に食べたくないわけじゃなくて!」

 サヨと呼ばれた少女をからかう様に、他の少女が言った。
 すると、サヨは顔を真っ赤にして慌て始めた。
 それは小動物を連想させる愛らしい姿で、どこかラティーファのことを思い出させた。
 そんな彼女の様子を、周囲の者達が微笑ましげに眺めている。
 きっと、いつもこうやって周囲の者達から可愛がられているのだろう。

「まぁ、私はリオ様と一緒に食べたかったから待っていましたけどね」

 と、サヨをからかった少女が言った。

「はは、ありがとうございます。でも、様はやめてください」

 爽やかに、だが苦笑めいた笑顔で、リオが応える。

「ええ~。でもリオ様ってなんか高貴な感じがしますもん」
「うん、なんていうか村の男達とは物腰が違うよね。ほら、あいつら今も何か睨んできてるし」
「うわ、何、あれ、感じ悪い」
「なんかさ、同じ男とは思えないよねぇ」
「比べちゃ駄目だって、リオ様に悪いもん」
「あはは、それもそうだね」

 姦しく喋る少女達に一人混ざるリオ、そんな環境に居心地の悪さを覚える。
 遠くから、若い男衆達が、リオのことを睨みつけているのをひしひしと感じていた。
 彼らは村の若い女衆がリオをちやほやするのが気に食わないのだ。

「あ、それはそうと、リオ様の発案した農具すごい好評みたいですよ!」
「うん、うちのお父さんも褒めてました」

 リオが提案し、村の野鍛冶と協力して作成した農具は、少数の人間が既に利用しており、反応は上々なようである。
 そのうち壊れた物から少しずつ新しい物へと入れ替えていくことになったようだ。

「それよりも石鹸って良いですね、リオ様」
「うん! あの匂いを嗅ぐとなんか貴族のお姫様になった気分になれるよね」

 リオが作って各家庭に配布した石鹸も好反応を得ている。
 衛生面を徹底させるために、外出した際には遠慮せずに使えと周知させている。
 こうしたリオの功績のおかげで少しずつ村が住みやすいものへと変わり始めている。
 そんなこともあって、一部の若い男衆を除いては、リオに対して非常に歓迎的な空気が出来あがっていた。
 少女達の自分へのちやほやするような態度や、少年達の敵対的な態度に、少しばかり気が重くなるが、僅かでも前進できているのは確かなはずだ。

「リオ?」

 そんなことを考えていると、隣に座っていたルリがリオに声をかけてきた。

「どうしたの? ボーっとしちゃって」

 不思議そうな顔をしてリオの顔を覗き込んでくるルリ。

「ええ、ちょっと考えことを。すみません」

 苦笑して軽く頭を下げる。
 すぐ思考に没頭してしまうのはリオの悪い癖だ。
 ルリは村の少女達の中で唯一リオに対して普通に接してくれる子である。
 彼女自身は知らないことだが、従姉妹というのもあるのかもしれない。
 リオとしてもあまり気を使わなくて済むため、村の中での貴重な話し相手だった。

「それでさ、ここから荷馬車で一日ほどの距離に王都があるんだけどね。収穫が終わったら税として納める分以外の余剰分を都市に売りに行くことになっているんだ」
「へぇ、面白そうですね」

 ルリが切り出してきた話題に、リオが興味深そうに応えた。

「本当? それで道中の護衛にリオが付いて来てくれないかって、お婆ちゃんとドラさんが話していたんだけど、どうかな?」
「自分は別にかまいませんよ」
「じゃあお婆ちゃんに伝えて来るね」

 嬉しそうに微笑むと、ルリはユバがいる方へ走り去った。
 颯爽と去っていくルリの後ろ姿を眺めると、リオも作業を再開するべく立ち上がる。

「それじゃ、みなさんお仕事がんばりましょう」
「はーい」

 立ち去る前に挨拶を告げると、少女達が間延びした返事をしてきた。
 それから、引き続き、リオは作業に精を出した。
 そのおかげか、この日の仕事は一足早く終えることができた。
 ルリは今ごろ村の特産品を作る作業に取り組んでいるだろう。
 帰りはもう少し遅くなるはずだった。

 時間も空いたことから、先に自宅へ戻って、リオは夕飯の支度をすることにした。
 家の中にはユバがいて、村人から何やら報告を受けているようである。
 邪魔をしては悪いと思い、軽く挨拶をし、お茶を出してあげると、リオは料理に取り掛かった。
 しばらくすると台所から良い匂いが放たれ始めた。

「相変わらず今日も良い香りだ。いつも悪いね」

 すると、そこに話し合いを終えたユバが顔を出してきた。

「いえ、時間は効率的に活用した方がいいですから」

 最近のルリは仕事で帰りが遅くなることが多い。
 また、ユバのもとには頻繁に村人が訪ねてくる。
 そこで、リオが彼女達の代わりに夕食の当番を引き受けたのだ。
 三人分の料理を作るくらいならさしたる手間でもない。
 そんな風に村が準備に取り掛かっている中、何やら家の近くから大きな声が響いてきた。
 リオとユバが目を見合わせる。

「喧嘩かい?」

 怪訝な顔で、ユバは呟いた。
 今の声は明らかに怒声だった。
 村人同士の喧嘩はまったくないというわけではないが、滅多なことでは起きない。
 どこかいぶかしく思うのも当然だった。

「少し様子を見てきましょう」
「私も行くよ」

 そう言って、玄関に近づき扉を開けると、二人は外に出た。
 すると、家から少し離れた場所で、男達が二つの集団に分かれて睨み合っているのが見える。
 一方は村の若い男連中、他方はリオがまったく見知らぬ若い男達であった。
 人数的には村の連中が上回っているが、見知らぬ男達の中にはひときわ体格の良い大柄な男がいる。
 もし素人同士の単純な殴り合いになったら、その人物が確実に大活躍するだろうという迫力を持っていた。
 そして、あと一人、村の若い男達に守られるように一人の少女が立っていた。
 ルリである。

 いったい何があったというのか。
 とりあえずリオは近づいてみることにした。

「テメェが村長宅に泊まりたいとはどういう了見だ? ああ?」

 すると、シンが怒鳴りつけるように体格の良い男を威嚇した。

「はっ、俺は客だぜ。それも余所の村の村長の息子だ。なら、村長の家に泊まるのは当たり前のことだろうが」

 と、シンが睨みつけていた男が不敵な笑みを浮かべて返す。

「あぁ? 来客用の小屋で泊まりやがれ! しかも二日は泊まるだと? 図々しい野郎だな」

 対するシンは少し熱くなりすぎているようだ。

「仕方がないだろ。こっちは大事な馬車が壊れちまったんだ。今日はもうすぐ暗くなるから修理もできねぇ」

 と、何やら芝居がかった口調で、男はシンに語りかける。

「とくれば明日に修理して、出発は明後日になる。つまり二泊しないといかん。当たり前のことじゃないか? お前、馬鹿なのか?」

 憐れむような表情を浮かべ、男は肩をすくめた。

「ちっ。ペラペラと図体の割に口が回りやがる。だったらなおさら来客用の小屋に泊まりやがれ。二日も村長宅に貴様みたいな奴を泊める余裕なんてねぇよ」
「ああん? 弱い奴が何をいきがってやがる?」
「ハッ、テメェが泊まるとルリの身があぶねぇって言ってんだよ!」

 そんなシンの言葉に、村の若い男達も声を大きくして賛同した。
 そんな様子を見て、男はニヤリと笑みを浮かべた。

「ああ、なんだぁ。お前ら、ルリの恋人でもないのにそろって独占欲か? しまらない奴らだぜ」

 と、小馬鹿にするように語る。

「んだとっ!?」

 すると、火に油を注がれたかのように、村の男達の怒りを爆発させた。

「なにせ俺様は隣村の村長の次男だからな。跡取りのいないこの村でルリと結婚してゆくゆくは村長になるかもしれん。今から親睦を深めるのは当たり前のことだぜ」

 今にも喧嘩が始まりかねない空気の中で、体格の良い男はさらに挑発するような言葉を投げかける。

「ふざけやがってっ!」

 村の男達は今にも殴りかかりそうな雰囲気だ。
 まさしく一触即発の状態である。
 二人が近づくにつれて不穏な空気が伝わってくる。
 ちらりと隣を歩いているユバへ視線を送ると、何やら呆れたような表情を浮かべていた。

「五月蠅いよ! ゴン、いったい何の用だい? とりあえずこれ以上騒ぎを起こすっていうんなら、村から出て行ってもらうよ!」

 今まさに開戦の火蓋が切って落とされようとした時、ユバは一喝するようにその場にいる全員に声をかけた。

「ちっ」

 大柄な男、ゴンが小さく舌打ちをする。
 村の男達も不機嫌そうにユバと目をそらしてそっぽを向いた。
 そんな彼らをリオはユバの隣で見渡していた。

(あの男、最初から喧嘩をするのを狙っていた……のか?)

 観察するような冷たい視線を、リオはゴンへと向けた。
 あの男の行動はまるで喧嘩を引き起こしたかったかのような言動だった。
 ただの考えなしというのなら馬鹿で終わる。
 考えがあってあのような真似を引き起こしたというのなら、何が目的なのかが問題となるが、いずれにしてもあまり性格のよろしい人間ではないようだ。

「で、喧嘩を売りに来たっていうんなら、お帰りはあっちになるけど?」

 有無を言わせぬ物言いで、ユバは村の出口を指差した。

「ちっ、話は聞いていたんだろ? 収穫の余剰品と交易品を売りに行く最中なんだよ。馬車が壊れたからこの村に泊まらせてもらうぜ」

 と、ゴンはユバに村に立ち寄った目的を語った。

「そうかい。この時期はふらりと行商人もやって来るからあんた達に割り当てられる小屋は一つしかないよ。どれか一つを選んで使いな」
「おいおい、俺をそこら辺の空き小屋に雑居寝ざこねさせる気か?」

 これほどのもめ事を起こしておきながら、なかなかのふてぶてしさである。
 リオは呆れたように男を見据えた。

「当たり前だろ。騒ぎを起こした罰としてうちには絶対に泊まらせないからね。さっさと行っておくれ」

 有無を言わせぬ厳しい顔つきで、ユバは言った。

「ちっ、わーったよ。どけ!」

 ゴンが不機嫌そうに返事をする。
 そのまま軽く体当たりするように、ゴンはシンを押しのけた。
 身体をぶつけられ、僅かにムッとした表情を浮かべるシン。

「はっ。ざまぁねぇな。しまらねぇのはお前じゃねぇか」

 だが、すぐに挑発するような笑みを浮かべて、そう言った。

「あん? 弱いのに粋がってるんじゃねぇよ」

 すると、苛立った様子で、ゴンが徐にシンの首へと手を伸ばした。
 そのまま首を掴むと、片腕で軽々とシンの身体を持ち上げる。

「ガッ……」

 首を掴まれたシンが苦しそうにもがいた。
 顔をゆがめながらゴンの腕を掴んで離そうと力を入れるが、その太腕はビクリとも動かない。
 ゴンは苦しむシンを楽しそうに眺めていた。

「シン!」

 ルリが慌てたような声を出して、シンのもとへ近寄ろうとする。
 流石にこれは止めないと不味いと考え、リオもシンを助けようと身体を動かそうとする。

「止めな! 本当に村から出て行ってもらうよ!」

 だが、二人がシンのもとへたどり着く前に、ユバがゴンを怒鳴りつけた。
 するとゴンがシンの首を掴んでいた手を放す。

「おいおい。村の客に対して挑発してきたのはこいつだぜ。余所の村の村長の息子である俺にな」

 地面に崩れ落ちて、首を押さえて苦しそうにしているシンを見下ろして、ゴンが言った。

「あんたが先に挑発したんだろうが。三度目はないよ?」

 温度を感じさせない冷たい声色で、ユバが最終勧告を告げる。

「はっ。わーったよ。こんな何もない寂れた村なんざ、すぐに出ていくさ」

 力に物を言わせてシンをあしらったことで多少の鬱憤は晴れたのか、ゴンは捨て台詞を残してその場から大人しく立ち去った。

「シン! 大丈夫!?」

 立ち去るゴンを背にして、いつの間にか駆け寄っていたルリがシンを介抱していた。

「ああ、大丈夫だ。わりぃ」

 悔しそうな顔つきでシンが謝罪を口にする。

「シンが謝ることじゃないでしょ! まったく……」

 そんなシンをルリが引っ張って立ち上がらせた。
 やめろよと言いながらも、満更でもなさそうな表情で、シンが立ち上がる。
 ふと、リオと視線が重なると、勝ち誇ったような笑みを向けてきた。
 リオは思わず呆れたように苦笑した。

 それから、ゴン達は大人しく空き家の中で休息をとっているようで、これといった騒動は起きていない。
 リオ達もゴンの存在を忘れて、家で夕食を食べていた。

「おぉ、今日も美味しいねぇ~」

 リオの作った食事に、ルリが目を輝かせる。
 お米との相性は抜群で、箸の進みも早い。
 ご満悦な表情のルリを見ていると、作った甲斐があるというものだ。
 招かれざる客の訪問もあり、騒がしい一日であったが、夕食時の村長宅ではいつもの平穏が戻っていた。

 一方、その頃、貸し与えられた小屋で、ゴンは男達と酒を飲み交わしていた。
 机の上には、調理も施されていないツマミが、夕食も兼ねて乱雑に並んでいる。

「ルリの奴、良い女になってましたね、兄貴」

 脇に控えている小柄な男が、ゴンに酒を注ぎながら、言った。

「ああ、あの強気なところがたまんねぇな。屈服させてやりたくなる」

 ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべると、ゴンは注がれた酒を一気に飲み干した。
 幼い頃から、短気で、乱暴で、ゴンは自分の村でも問題児として扱われていた。
 なまじ体格が良く、腕っぷしが強いせいで、村人達もゴンを恐れて強く言うことができない。
 本当は、長男である兄が次期村長として期待される中で、ゴンは少しでも自分に構ってほしかっただけの子供だった。
 だが、表だって非難することもはばかられ、取扱いに困っているが故に放置され、やがてゴンは非常にずる賢く自分勝手な人物へと成長してしまった。
 もうゴンは十六歳。
 今からその性格を変えることは難しいだろう。

 そして、そんな性格でも次男以下の若い男達の中にはゴンのシンパがおり、コバンザメの如く付き従って問題児グループを形成していた。
 ここ数年は特にひどく、親である村長も扱いに困っているくらいだ。
 今回の王都への交易も、本来ならばゴン達のような粗暴な人物に行かせていいものではない。
 いつものようにゴンが我儘を言って、強引に交易のメンバーに加わっているのだ。
 なので、ゴン達は物見遊山ものみゆさんの同行人にすぎず、交易隊の渉外役は別の男が担っている。

 とはいえ、そんなゴンを一時的にとはいえ、体裁よく村の外へ出して、村人達のストレスを発散させることができるのは魅力的だった。
 そこで、村長はこの時期になると毎年のようにゴンを王都への交易品の出荷へと送っていた。
 その過程でゴンはルリと知り合い、彼女に目をつけたのである。
 ゴンは次男であるため今の村で村長の座を継ぐことはできないが、この村に村長の跡継ぎがいないこともあって、公然と自分がその跡を継ぐと宣言するようになった。

 村長は国の兵士になってみてはどうかと勧めてきているが、自分を追い出したい気持ちが透けて見えてしまった。
 そんなことをしてたまるか。
 俺は俺の生きたいように生きる。
 その野望への架け橋となる人物がルリだった。
 おまけにルリは容姿がゴンのタイプだった。
 性格もどこか母性を感じさせる。
 小さい頃に村長に連れられてこの村にやって来て、初めて会った時から惚れているのだ。
 最初は優しくしてくれた彼女だが、自分が起こした行動のせいで既にルリからもゴンは嫌われている。
 だが、そんなことはゴンには関係ない。
 それならば力で振り向かせればいい。

「お、おい、あまり問題事を起こさないでくれよ」

 先ほどのもめ事を見かねて、この交易隊のリーダーとして渉外役の任に就いている男が、ゴンに注意を呼びかける。

「あん?」

 すると、ゴンは威嚇するような声を出した。

「ひっ、あ、いや、だから、できれば騒ぎを起こさないでくれと言っているんだ」

 ギラリ、と猛禽類のような視線を浴びせられ、男は情けない声を出した。

「はっ、別に悪いようにはしねぇよ。俺があの村からいなくなった方が村の連中とって好都合なんだろ。なら、お前は王都での取引のことだけを考えてろ」
「っ……、べ、別にそんなわけじゃ」

 包み隠さぬゴンの言い様に男が言いよどむ。
 だが、そんな男のことはもはやゴンの意識にはなかった。
 今考えているのはルリのことだけだ。

「それにしてもユバのババアは厄介なタイミングで来やがりましたね」

 と、コバンザメの一人が残念そうに言った。

「ふん。シンの野郎が切れて殴り掛かって来る前にあのババアが来やがったからな」

 小さく鼻を鳴らしてそう言うと、ゴンはぐびりと酒を飲んだ。

「あのまま行けば村長宅で泊まれて今頃はルリに酌をさせられたんですがね」

 そう、当たり屋の真似事をして、ゴンは村長の家に強引に泊まろうと企んでいた。
 あの時、シンが殴りかかってきたら一発は大人しく殴られてやるつもりだったのだ。
 自分がルリにもこの村の連中にも嫌われていることは知っている。
 それゆえのからめ手だった。

「まぁ、忍び込んでやっちまえばいいだけだ。大して手間は変わんねぇよ」

 ゴンからすれば昨年はまだガキっぽさが残っていたが、ルリはこの一年でずいぶんと女らしい身体つきになっていた。
 今は完全に食べごろだろう。
 いざ事に及んであられもない姿を晒してしまえばこちらのものだ。
 それでも多少反抗するようならば力で脅してしまえばいい。

 夜這いという文化と既成事実を作ってしまえば勝ちという村社会の暗黙の掟から、やってしまえば自分とルリの結婚を認めざるを得ないだろう。
 とはいえ、夜這いは同意を前提にした文化ではあるのだが。
 そこら辺の道徳観がゴンには欠けていた。

 どう料理してやろうか。
 今夜は油断させるためにも大人しくしているべきだろう。
 そのためにわざわざ馬車の一部を簡単に壊したのだ。
 決行は明日の深夜、村が寝静まった後だ。
 気丈なルリが泣く姿を想像し、ゴンは愉悦に浸った。
+注意+
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