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精霊幻想記(Web版) 作者:北山結莉

第二章 旅は巡り会い

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第20話 襲撃

 ラティーファと出会い、アマンドを出発してから一ヶ月が経過した。
 現在、リオとラティーファはガルアーク王国の領域を抜け出し、未開地の奥深くに入っている。

「お兄ちゃん! お昼ご飯! 何!?」

 昼休憩になると、ラティーファが笑顔でリオに昼食の内容を尋ねた。

「昼はあんま凝ったものは作らないぞ。せいぜい保存食を加工してサンドイッチにするくらいだ」

 食欲旺盛なラティーファにリオが苦笑して答える。
 最初こそ怯えた様子のラティーファだったが、この一ヶ月でリオと接するうちにだいぶ明るくなった。
 道中ではリオにすっかり懐き、いつの間にか、リオのことを、お兄ちゃん、と呼ぶようになっているほどである。

「お兄ちゃんの料理! 何でも美味しいから好き!」

 今では言葉も少しずつ明瞭になってきている。
 リオと会話をして口数が増えたことで急激に発音を覚え始めたのだ。

「今日もお兄ちゃんと一緒に寝る! いい?」

 サンドイッチを作り始めたリオの顔を覗き込むように、ラティーファがリオと一緒に寝ることをねだってきた。
 ラティーファは眠っている間にうなされることが多い。
 酷い時には泣き出すほどだ。
 ラティーファがリオに懐くようになったのは、夜中に何かに怯えるように身体を小刻みに振るわせているラティーファを、リオがあやしたのも大きい。
 今では毎晩のようにリオに抱き着いてきている。
 リオに抱き着いて寝ていればラティーファはうなされなかった。

「……ああ、いいよ」

 リオは現状に悩んでいた。
 当初はここまで接近を許すつもりはなかった。
 既に獣人族のテリトリーに入っていてもおかしくはない。
 そうすればラティーファとの別れがやって来る。
 だが、気がつけば、手遅れなくらいに、ラティーファはリオに依存していた。
 仮にこの状態で少女に自らが転生者であると告げた時のことを想像すると、ゾッとした。
 それは奴隷として染みついた習性なのか、それともずっと孤独に生きてきたことの反動で触れた優しさに溺れてしまったのか。
 いずれにしてもこのままでは別れが来た時にラティーファは簡単に離れないのではないかと、リオは懸念していた。

(まぁ、それでも案外簡単に離れていくのかもしれないけどな……)

 どこか嘲笑するように、リオは内心でうそぶいた。
 人と人の別れは唐突だ。
 どんなにお互いの距離が近くとも、どんなにお互いがそれを拒絶しても、それを避けることができない時がある。
 そして、その時、お互いの想いが等価値であることはない。
 一方がどんなに相手のことを想い続けても、他方が自分のことを想い続けてくれるとは限らない。
 多かれ少なかれ、人はそのようなものだと、リオは思っている。

 だから、別れを寂しがってはならない。
 相手に過度の気持ちを抱いてはいけない。
 相手に期待してはいけない。
 少なくとも自分の方から別れを惜しむことはないはずだと、リオは自分自身に言い聞かせた。

「それにしてもやっぱりあの樹すっごく大きいね!」

 思考に没頭していたリオを現実に引き戻すかのように、ラティーファがリオに話しかけてきた。
 木々の隙間から映るはるか遠方にある巨大な大樹を、ラティーファが指差している。

「そうだな。ただの樹とは思えないけど……」

 その存在に気づいたのは昨日からだ。
 気が遠くなるほどに広大な森の中に、ポツリとそびえたっている一本の大樹があった。
 最初は遠目から見て小さな塔のようにしか見えなかったが、接近するにつれてその大きさと存在感を実感していた。
 まるで天空に突き刺さるかの如く、圧倒的な存在感を放ち、その樹はそびえ立っている。
 何故かリオはその樹に惹きつけられていた。
 何とも言えぬ心のざわつきをリオは感じているのだ。

「もう少し近くまで行ってみるか?」
「うん! 行ってみたい!」

 ちょっと寄り道してみるくらいならいいかもしれない。
 そう思ってラティーファに聞いてみると、彼女は笑顔で即答してきた。

「じゃあ昼を食べたら行ってみるか。ほら、できたぞ」

 会話しているうちに出来あがったサンドイッチをラティーファに渡すと、ラティーファはそれを嬉しそうに頬張り始めた。
 それを見てリオも食事を始める。
 保存食のパンはフランスパンよりも固いが、食材を入れて味をつけて食べるのならば、歯ごたえがあってなかなか捨てたものではない。
 その出来に満足し、数分ほどかけてサンドイッチを食べ終えると、リオとラティーファは巨大な樹へ向けて移動を開始した。

「お兄ちゃん! さっきからここらへんに何か知らない匂いがある! それも複数!」

 移動を開始してから数時間、いつものように走りながら順調に進んでいると、ラティーファがそんなことを言い出した。

「知らない匂い? 動物か魔物じゃないのか?」
「違う。そういった生き物の臭いはもっとツンとする感じ。身体を洗っていない人間とはまたちょっと違うけど」

 いまいち伝えたいことはよくわからないが、ラティーファの中には何らかの基準があるようだとリオは判断した。

「それが何かある程度特定はできないのか?」
「……人が密集しているみたいに混ざり合っていて、人間とは違うような。でも少し似ているような……、なんか懐かしい気がする。お母さんじゃないけどそんな感じ」

 ラティーファの言葉は要領を得ないが、その鼻はリオとは比べ物にならないくらいに当てになる。
 その鼻が何らかの存在を感知したのだ。
 無視するわけにはいかなかった。

「その臭いの主がどこにいるかわかるか?」

 リオがそう聞くと、ラティーファは周囲の臭いを嗅いだ。

「あっち! どれくらい離れているかはわからない……。でも少ししか臭いが残っていないから、ここに来てから結構時間が経っているかもしれない」

 その言葉を聞いてリオは考えるような仕草をし、やがて口を開いた。

「なるほど、な。そろそろいい時間だし、……とりあえず今日はここまでにしておくか」
「わかった!」

 それから、リオとラティーファは適当な野営スポットを発見し、ラティーファが手慣れたように草木を集め出した。
 その間にリオが野営地から離れて料理を作り始める。
 最近ではこれが二人の役割分担となっていた。

 リオは鍋に大麦を入れて水で数回ほど研ぐと、他の容器に一度移し、具材である保存用の乾燥肉、野草、チーズを切り刻んだ。
 鍋にオリーブオイルを定量入れて火にかけると、肉と野草を入れてサッと炒めた。
 そこに大麦を手でほぐして入れて加えてさらに炒めていく。
 良い感じに大麦が透き通ってきたところでお湯と調味料を入れる。
 やがて鍋の中身が沸騰すると、そのまま蓋をして十分強かけて炊き上げる。
 火を消して中身を蒸らし、胡椒を振ればチーズリゾットの完成である。

「お兄ちゃん! 良い匂い!」

 料理が出来あがったところで、寝床を作り上げたラティーファが匂いに釣られてやって来るのは、お馴染みの光景だった。

「先に手を洗うぞ」

 土で汚れたラティーファの手をリオが精霊術で水を創りだし洗ってやると、ラティーファは小さく日本語で「いただきます」と言って早速料理を食べ始めた。
 ラティーファは日常生活でこのように日本語を喋ることがたまにあるが、リオはあえてそれを指摘することはしていない。
 出来あがったリゾットは質素だが、野営の食事としては最高級の御馳走だった。

「このリゾット美味しいよ!」

 リゾットもリオが知る限りこの世界の人間族の間では存在しない料理だが、この世界の人間族のまともな料理を食べたことがないラティーファがそれを知ることはない。

「ありがとう。いつも似たような味付けばっかで悪いけどな」

 本来ならば和洋中と各調味料が揃っているのが理想だが、今リオの手元にあるのは最低限の洋食向けの調味料しかない。
 それでも毎日美味しいと言って自分の作った食事を食べてくれるラティーファをリオは微笑ましく感じていた。

「それを食べたら身体を洗って早く寝るか。疲れているだろうし、明日も早いからな」
「うん!」

 ラティーファが笑顔で頷く。
 食事を終えて、野営地に戻って、洗った鍋でお湯を沸かすと、二人は草木のテントの中で別々に身体を洗った。
 可能なことならば日本式の風呂に入りたいが、旅の最中にそんな贅沢を言うわけにもいかないとグッと堪える。
 不快な臭いを身体につけることがないだけマシだろう。

「お休み、お兄ちゃん」

 明かりを消して真っ暗になった室内で、ラティーファがリオに引っ付いてそう言った。
 異変を察知して瞬時に動けるように、神経の一部を張り巡らせて薄く意識を落とすと、リオも眠りにつく。
 寝ている間に何があっても動けるようにとスラムで育っているうちに身に着けたスキルだった。
 それが旅で役立つのだから孤児だった経験も唾棄すべきものではないのかもしれない。

 それから、何が起きたのか、リオにはわからなかった。
 気がつけばリオの眼前に見知らぬ少女がいたのだ。
 顔の作りからして年の頃は十六歳前後だろうか。
 どうやらリオは膝枕されているようだ。
 何故かされるがまま、リオはその状態を受け入れていた。

 その少女が実在しているのかを確認するために、リオは眼を瞬かせる。
 何度目を瞬かせてもそこには彼女がいた。
 どうやら本当に少女はそこに存在するようだ。

 リオは驚いていた。
 少女は、表情がなく、寡黙で儚げというか、実在感の薄い無機質な顔をしていた。
 だが、それは何の欠点にもなっていなかった。
 なぜなら、かつてこれほど美しく愛らしい少女を見たことはあっただろうか、そう感じていたからだ。
 その美は圧倒的で神々しさすら放っている。
 いや、美という言葉で表現することすらおこがましい。
 リオはそう思った。

 そんな神の芸術品ともいうべき可憐な少女が、上から覗き込むように、リオの顔を見ていた。
 ふと、少女のピンクブロンドの長い髪がリオの髪をくすぐった。
 それをこそばゆく感じて、リオがそっと少女から視線を外して周囲を見る。

 白い、真っ白な空間だ。
 それがどこまでも広大に広がっていた。
 ひどく殺風景な空間だなと、リオは思った。
 そして、何故だろうか、その光景を見ていると、胸が掻き毟られるように、酷く寂しく感じられた。
 なんというか、酷く、酷く、不快だった。
 リオは思わず顔を顰めた。
 嫌なものから目を逸らす様に、リオが目の前にいる少女に視線を戻す。

『貴方は誰?』

 すると、少女が透き通るように耳触りの良い神秘的な声で話しかけてきた。

 ――俺? 俺はリオだけど……。

 不思議だ。言葉を発しようとしても、何故か声が出なかった。

『リオ、リオ……、リオ……』

 だが、少女にはリオの言葉がわかったようだ。
 何故かそれを疑問に思うことはなかった。
 ぼんやりとした表情でリオの顔を見つめると、少女はリオの名前を刻みこむように繰り返し呟いた。

 ――そう言う君は誰なんだ?

 リオは再び声を出さずに言葉を発した。

『……私? 私、私は……わからない』

 少女がどこか困ったような表情を浮かべた。

 ――わからない?

『うん……』

 ――そっか……。

 今にも消えてしまいそうな雰囲気が少女から発せられ、リオは、少女を気遣う様な、そして困ったような声を出して、そう言った。

『でも、リオと一緒にいればわかるかも……』

 ――俺と……一緒に? どういうこと?

 その言葉を聞いて、少女の言っていることが解らないという様子で、リオが首を傾けた。

『私は貴方と繋がっているから……。そんな気がする』

 ますます意味が解らなかった。
 けど、不思議と、心が温かかった。
 何故だろうか、すごく安心できる。
 こんな風に思えたのはいつ以来だろうか。
 こんな気持ちがいつまでも続くならいい。
 そんなことを思って、リオは口元がうっすらと笑みを浮かべた。

『でも、まだ眠い……』

 意識が朦朧としているかのように少女の目が薄くなる。
 その目を見ているとなんだかリオも眠くなってしまった。

 そして、意識が再び薄れていき、ぱちり、と、リオは目を開く。
 視界には草木が敷き詰められたテントの室内が映った。
 何だろうか、とても深い眠りから覚めたような気がした。
 何か夢を見ていたような気もする。
 だが、夢の内容を思い出すことはできない。
 深く眠ってしまったことを不味いと思ったが、何も異変はない。

 周辺に危険な生き物の気配もないようだ。
 辺りはは静かでまだまだ暗い。
 実は深い眠りについていたというのは勘違いで、あまり時間が経っていないのだろうかと、リオは思った。
 すぐ側に体温を感じてそちらを見てみると、ラティーファがぐっすりと熟睡していた。
 少し離れるくらいなら夜泣きも大丈夫だろうと、ラティーファが深い眠りにつくように精霊術をかけ、リオはテントの外に出ることにした。

 野営地に何があってもすぐに対応できる距離を保って周囲をうろつく。
 なぜか心はとても落ち着いていた。
 肌に当たる夜風は寒いが、頭を覚醒させるのにはちょうど良い。
 明日に響かない程度に少し夜風にあたろうか、そんなことを考える。
 適当に座れそうな岩を見つけると、リオは深く腰を下ろした。
 特に何かを考えるわけでもなく、ぼんやりと静かな森の景色を眺める。
 夜の森は恐ろしい程に静かだった。

 魔物に比べると野生の獣に襲われる可能性はそこまで高くない。
 そもそも一定の知能を持つ動物ならば、やむを得ない場合を除いて、戦闘は避けるのが通常である。
 野生の獣が他の動物を襲うのは狩りや子の防衛といった一定の目的がある場合だけで、積極的に戦闘を仕掛けてくるのは魔物くらいだ。
 どういうわけか魔物は他の種族に攻撃的であるが、その攻撃性ゆえに気配を隠すという真似を一切してこないため、こういった野営時には索敵範囲に入ってきた瞬間に気づくことが可能である。

 どれほど夜風にあたった頃か、ふと、リオは自らの索敵可能範囲の相当深くに入ってきた気配を察知した。
 ここまで接近を許してしまったことにリオが驚きを感じる。
 一般的な獣と比べても気配が非常に希薄だったのだ。

(……狼?)

 気配の主がリオの視界に入って来る。
 それは薄っすらと銀色の光を放つ一匹の大きな狼だった。
 獣特有の湿った気配の感覚が存在せず、無機物的で実在感も薄い。
 まるで生物ではないようだと、リオは感じた。
 同時に、これと似た感覚をリオはどこかで見知っている気もした。
 その狼の動きを見逃さないようにリオがジッと視線を送る。
 すると、いきなり狼が発光し、周囲一帯を光の奔流が照らした。

(しまったっ!)

 視界が真っ白に染まりかけ、リオは瞬時に目を閉じる。
 五感のうち視覚が一時的に失われた。
 だが、その他の五感は無事だ。
 その時、突如、リオは索敵範囲の外から中に急接近して来る存在を感知した。
 それも大量にいる。
 どうやらリオの索敵範囲を察して外で待機していたようだ。
 いつの間にか目の前にいた狼の気配は完全に消えている。

(この戦術的行動……、獣じゃない。ラティーファの言っていた臭いの主か)

 リオは襲撃者の正体を推測した。
 そして彼らがいずれ接触を図って来るということもあらかじめ予想はしていた。
 だが、ここまで行動が早く攻撃的とは予測していなかった。
 ラティーファが相手の匂いの残り香を察知したように、相手もリオ達の匂いを遠くから察知したのか、それとも別の方法でリオ達の侵入に気づいたのか、それについて今は考慮するべきではないだろう。
 万が一のことを考え、リオは瞬時にラティーファが眠っているテントの近くへ移動する。

「おい! 待て、あんたら亜人だろ?」

 声が届くであろう位置に相手の気配がやって来ると、機先を制して、リオが大きな声を発した。
 戦闘中ゆえに丁寧な言葉づかいをしている暇もない。
 だが、その声が聞こえていないのか、単に無視されているだけのなのか、あるいはリオの言葉を理解できていないのか、その気配の集団の動きが止まることはない。

(人間族を警戒しているのならば人間族の言葉が解る奴がいても不思議じゃない。なら、聞こえていてあえて無視しているという可能性が高いのか? まさか相手が俺の予想通りの連中じゃないということはない……よな)

 事態を考察している間にも、集団は、殺気ではないが強い敵意を持ったまま、リオに近づいてきている。
 その中から一体だけ急速に突出してリオに接近してくる個体がいた。
 リオが目を瞑ったままその相手に向き合う。

「っ!?」

 すると相手が驚く様子が伝わってきた。
 だが、そのままリオに接近して来ている。
 間違いなくリオに攻撃しようとしているのだろう。
 相手の気配が直前まで来て敵意が膨れ上がった瞬間、リオは横にステップを刻んだ。
 攻撃音、空気の流れを頼りに、相手が無手であることを予測する。
 武器は持っていないわけではないだろうが、今のところ殺すつもりはないようだ。

「だから、待ってくれ! あんたら亜人か?」

 相手が次の攻撃行動に移る前に、リオが機先を制して口を開いた。
 すると、目の前で相対している相手とは別の位置から、誰かがリオの知らない言葉で何かを叫び、その声に反応して目の前にいる相手の動きも止まった。

「その名で私達のことを呼ばないでほしいですね」

 続いて、人間族の言葉でリオに話しかけてきた。
 考えた通りに、人間の言語が通じる相手がいることに、リオが薄っすらと微笑む。
 声の感じからすると、相手はリオと同年代程度の少女だろう。

「それはすみません。では何と呼べばいいでしょう? 獣人か、エルフか、ドワーフか」

 リオが口調を改めて少女に尋ねる。

「……一纏めにする時は精霊の民と」

 あっさりと謝罪したリオに、声の主が短くそう言った。
 どうやら会話をする意思はあるようだとリオは判断する。
 そして、今の受け答えから、この場に精霊の民を構成する種族がすべているであろうことも察した。

「ではその精霊の民に聞きます。貴方達の狙いは?」
「我々のテリトリーに侵入した存在がいると精霊が騒いでいたために撃退のために来ました。既に我々の同族を拉致しているようですね」

 と、ラティーファが眠っているそのテントを睨みながら、少女が言った。
 後半の台詞に強い敵意が込められていることから、どうやらリオを奴隷狩りか何かと勘違いしているようである。

「ならばその子を保護してくれるか?」
「保護する? 当たり前です! さらっておいて何をぬけぬけと……」

 相手の怒気がリオに伝わってきた。
 事態の展開がややこしくなっていることに、リオは内心で舌打ちをした。

「待ってくれ。そのことで貴方達に話がある……」

 リオが事情を説明しようとすると、テントの方からリオの知らない言葉で、今話している少女とは別の女の子の声が響いた。
 その瞬間、リオに攻撃を仕掛けてきた存在の怒りが膨れ上がり、いきなりリオの腹部に打撃を打ち込んできた。

「がはっ」

 肉体は強化していたが、会話が続いているものと油断していたリオは、不意の打撃の衝撃を吸収しきることができず、悶絶するようなダメージを負った。

(なんて馬鹿力だ……。殺す気か!?)

 不意を打たれて衝撃を逃すことができなかったとはいえ、強化した肉体の上からダメージを与えてきたのだ。
 おそらく薄い鉄板くらいならぶち抜く程の威力があったはずである。
 リオの身体は軽々と宙を舞い、勢いよく地面に叩きつけられた。

 ようやく戻り始めた視力で辺りを見渡すと、ぼんやりとだが一定の距離を保ってリオの周囲に精霊の民達が大勢いるのが見えた。
 弓を構えて狙いを定めているエルフ、剣やダガーを構えた獣人、斧や鉾を構えたドワーフの姿がそこかしこに見える。
 少なくとも三十人はいるだろう。
 その中でもリオの近くにいるのは四人だ。
 金髪のエルフと思しき少女、灼髪のドワーフと思しき少女、銀髪の狼獣人と思しき少女、灰色髪の翼獣人と思しき女性である。
 前三人はリオと同年代程度で、最後の一人はリオよりも一回りは年上のようだ。
 リオに攻撃をしたのは翼獣人の女性のようだ
 彼女は呪い殺すかのように忌まわしい目つきでリオを睨んでいた。
 他の精霊の民達も似たような視線ばかりだ。
 リオをどこか非難するような、軽蔑するような、そういった類の感情が込められている。

(ここまで敵意を持たれているとは予想していなかったな……)

 自身の認識の甘さにリオが苦笑する。
 ラティーファと過ごすうちに、説明すればわかってもらえると、無意識に思っていたのかもしれない。
 朦朧とした意識の中で、翼獣人の女性がリオを拘束しようと接近してくるのを察知した。
 気合で立ち上がり、僅かに抵抗したリオだが、腹部のダメージは大きく、制圧されてしまう。
 そのまま首筋に手刀を撃たれてリオは完全に意識を失う。

 狼獣人の少女が翼獣人の女性に何か注意すると、慌てた様子でエルフの少女がリオの怪我の応急処置をし、精霊術を使いリオに手かせを嵌めた。
 翼獣人の女性がリオを担ぎ、別の獣人が深く眠っているラティーファを抱きかかえると、彼らは揃って同じ方向に移動を開始した。
+注意+
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