第8話 お持ち帰りになりました
「桜、好きなの?」
陽雪が声をかけると櫻華は笑顔のまま頷いた。
それから、すっと左手を出すと、タイミング良く花びらが掌に舞い落ちてくる。花びらを一旦、握ると陽雪の前に差し出す。陽雪が手を出すと、櫻華は花びらをそっと手に乗せた。
「くれるの?」
櫻華がにっこりと笑って頷く。
「ありがとう。名前、聞いてもいい?」
陽雪が聞くと櫻華はほんの少しだけ、悲しそうな顔をした。
「名前、無いの?」
櫻華が頷くのを見て、陽雪はうーんと考え込む。
名前あるのに言わないの?
それを見ていた三人は互いに顔を見合わせた。
「何か、連れて帰りそうな気がする」
「嵩治、何とかしろよ…」
「暢都、多分無理」
嵩治、暢都、結都の順で呟く。
っていう事は、陽雪君は人の言う事聞かないんだね。
くるりと陽雪が三人を見る。
「ねぇ、この子の名前何がいいかな?」
突然聞かないように。
「好きにつけろよ…」
暢都君、呆れてます。
「右に同じ」
結都君、考える気ありません。
「名前つけるのはいいけど、連れて帰るなよ」
さすが長男。嵩治君、釘さしてます。
「分かってるよ。けど、名前くらいあっても良いんじゃない?」
ま、確かにね。
「いいよ、好きにつけて」
嵩治君、名前つけるのは許可したんだ。
「そう、じゃあ、タマちゃんで」
陽雪君…何でタマ?ネコじゃないでしょこの子。
「ペット扱いじゃん」
聞こえないように暢都が突っ込む。
「暢都、何か言った?」
聞こえてるし…。
「何にも言ってねー」
地獄耳…と心の中で呟く。
言いたくなるわな。
「名前もついた事だし、陽雪そろそろ帰るぞ」
嵩治君、実はまとめ役?
「分かった。じゃぁね、タマちゃん。また会おうね」
にっこりと笑って陽雪が言い、四人がその場から離れて行くと、櫻華…タマは悲しそうな顔をしていた。
無言のまま、四人は家の近くまで帰っていた。
理由は…ある。
四人から距離を置いてついて来ているのだ。桜の木で会ったタマが。
ピタリと暢都が止まる。三人も止まるとタマも止まる。
何やってるの君ら…。
何とも言いたげな表情で暢都が頭をかいた。
「どこまでついて来るんだよ。どうにかしろよ、陽雪」
距離置いてついて来るあたり、控え目だけど、一歩間違えればストーカーだな。
「タマちゃん、ついて来ちゃダメだよ」
タマに近寄り、陽雪はそう言った。だが、聞いていないのか、タマはにっこりと笑って陽雪に抱きついてしまった。
さすがに言葉ないよね、年の近そうな子に抱きつかれたら。
「…殺られたな、ありゃぁ」
嵩治君、人事のように言わないように…。
「陽雪が黙ったよ」
結都君、珍しそう…。
「あのな…」
暢都は呆れた口調で呟く。
「三人共、ごめん。やっぱり連れて帰るよ」
お持ち帰り決定!いいのか、それで?
「もういい。分かったから距離開けて…」
するりと、少なくとも一五メートルあったはずの距離をたった一瞬で暢都の所へ、しかも抱きついてきた為、さすがに面食らってしまった。
そりゃ、面食らうよ…。
「分かったから、抱きつくなって!」
タマの襟首を掴んで引き離す。何かネコみたいだなぁ。
「暢都が慌ててる…」
ポツリと嵩治が呟いた。
珍しそう。
「慌てると思うけど…」
冷静に結都は言葉を返している。
結都君、他人事ですって顔に出さないでよ。
「良かったね、タマちゃん」
陽雪の言葉にタマは嬉しそうに笑っていた。
本当、嬉しそうね…。
その様子を、タマを連れて来た張本人は電柱の上から眺めていた。
眺めないように…。
「面白くなってきた。これでしばらくは退屈しのぎになる」
あのー、その為にわざわざタマちゃんこっちに連れて来たの?
「しかし、人じゃないって分かっていて連れて行く奴もいたんだなぁ。珍しい…」
珍しそうに言ってますけど、電柱の上からそれを眺めてる連さん自身、ものすごく珍しいんですからね。分かってるのかなー。 |