第7話 回想と言う名の被害者達
嵩治、陽雪との出会いは、そもそも櫻の妖、櫻華が妖霊山に来たのが始まりだった。
「ごめん下さい、どなたかいらっしゃいませんか?」
洞窟の中に恐る恐る入った彼女は小さな声で聞いてみる。が、返事は無い。
洞窟でしょ?そんな小声で聞くのはどうかと思うけど。
「いないの?」
ここまで来て主に会えないのかと思うと、櫻華は落胆した表情になってしまった。
「何の用だ?」
「きゃぁぁぁぁっ!」
すぐ後ろから声をかけられたせいか、櫻華は飛び上がる程驚いててしまった。
そりゃ、誰もいないと思ってるから驚くな。
「私の住処に来てでかい声を出すな。うるさい奴だな」
脅かしたのは明らかに貴方の方ですって。
「あ、あ、あ、あの…ごめんなさい」
あーあ、怖がってるよ。
「別にかまわんが、ぼーっと突っ立つのは止めてくれ。迷惑だ」
連さん、本当に迷惑そうに言うなぁ。
端によけて櫻華はおどおどした様子で連を見る。
「で、何の用だ?用もなしにここには来るまい。仮にも妖霊山の主である私の住処だ」
この言葉に櫻華は我に返ると、何かにせかされるように話し出した。
「主にお願いしたくて来ました。ここに…この世界に居たくないんです。お願いします、どこでもいい、別の世界に行きたい」
「お前…少し落ち着いた方がいいんじゃないか?」
貴方は落ち着きすぎ。
ゼー、ゼーと呼吸を乱して言った櫻華は、一気に顔が赤くなる。
この子は落ち着きないなぁ…。
「ごごごご」
「ごめんはもういい。ついて来い」
遮ったよこの妖は…。
どうも面倒そうなのに会ったと、連はこの時思っていた。
貴方はもっと面倒な妖だけどね。
落ち着きのない櫻華を無理矢理、落ち着かせて連は改めて櫻華に話しかけた。
無理矢理落ち着かせる辺り、連さんらしい…。
「要するに大樹を出たいのだろう。出てどうする?」
「何も無いです。でもここにはいたくない」
じっと考えるように連は櫻華を見た。
「分かった。但し、条件がある」
そう言うと条件を手短に言い、櫻華が了承すると連は別の世界へ連れて行ったのである。
条件って何?って言うか、そんなのあったの?
ひらり、ひらりと桜の花弁が舞い降りる。陽雪は、何気に舞い散る桜を眺めていた。
この季節のこの風景を見るのが彼は大好きだった。
「また見てんのか?」
嵩治が声をかける。
「うん、奇麗だし。やっぱり良いよねぇ」
この陽雪少年、印象はとても良いのだが性格は異常に腹黒いと兄弟達から評価されている。
何か嫌だなー…。
「まぁ、毎年の景色だけど」
嵩治はスポーツ少年という感じで、さっぱりとした性格だ。
この二人足して二で割りたいかも…。
「そう言えば、暢都と結都は?」
「そろそろ来るんじゃねーの?」
暢都と結都は、この双子の一つ下の弟達。
「ふーん、来なかったらどうやってからかってあげようかな」
弟達で遊ぼうとしないの。
「来るって…」
呆れつつ嵩治は言う。
陽雪君かーなーり、性格悪そう…。
「遅くなった」
言いながら下の双子が歩いて来る。
良かったね、遊ばれなくてすむよ。
「来ちゃった。せっかく来なかったら、からかってあげようって思ったのに」
陽雪の言葉に生野家の三男、暢都が顔を引きつらせる。
「てめぇにからかわれたくねぇ」
暢都は口が悪く、無愛想だが性格は真っ直ぐだ。
どこかの誰かさんと全然違うね。誰とは言わないけど。
「やっぱり来て良かった」
安堵の息をもらしたのは末っ子の結都。おっとりしていそうで、実は兄弟の中で一番、冷静な性格をしている。
しっかり者なんだね。
「で、一つ聞きたいんだけど。あれ、何?」
暢都が指したのは桜の木の下で、うっとりとした表情で舞い散る様子に見入っている少女。
「うーん、人じゃないよね。ここに来た時からずーっと居るけど…。可愛いし何もしないし、いいかなって思って、放っているけど」
陽雪に放られている少女は大樹で連にお願いしたあの櫻華。
何してんの、君は?
「声かけてこよう」
そう言うと、陽雪は櫻華へ近付いて行った。
陽雪君、君は藪を突いて蛇を出すタイプだね。 |