第5話 何しに来たんだろう…
―八月一六日―
「正人、焼酎飲みたい」
いきなりですか。
賢治の所から直接来た連は、面を取るとぐっすりと寝ている次の被害者を揺すって起こそうとしていた。
はた迷惑な妖だなぁ。
「起きろ、正人」
しかし彼も慣れているせいか、一向に起きようとはしない。
ブスッとした表情を作った連は、何を思ったのか彼をベッドの奥に押しのけると、自分もベッドに潜り込み、何故かそのまま寝てしまった。
起きてくれないからふて寝したみたい。
そして、そのまま朝を迎えた。
狭いと思いつつ目を覚ました彼は、隣に連がいる事に気付いて、一瞬びくりとした。こっちに来ると賢治が電話していた事を思いだし、軽く溜息を吐く。
「朝から驚かすなよ」
っていうか、昨日寝ぼけて電話、取ってたじゃない。
彼は連が火事で拾って来た(あくまで拾ったらしい)息子で本城正人。今年、二六歳になる。高校教師で普通の人間…だと思う。
起こさない様にそっと起きると、そのまま顔を洗いに行く。
朝食を摂り、手早く身支度を済ませ、焼酎とコップ、それにつまみになりそうなものをテーブルに置いて、メモ紙に伝言を書いておいた。
仕事に行くから適当に飲んでいてくれと。そして、連を放って仕事へ出た。お兄ちゃんと違って要領いいかも…。
連はというと、昼近くに目が覚めた。正人がいない事に気付き、ご機嫌斜めな表情でリビングに行く。テーブルの上を見て、眉間にしわを寄せた。
「一人で飲んでもつまらないじゃないか」
けど、つまみは食べるんだね…。
「帰るまで一人でいたくない…」
我儘だなぁ…。
ふと何かを思いつた様に、にやっと笑った。
「行ってみよう、面白そうだし」
うっわー、この妖は良からぬ事考えてるよ。
言うが早いか、連はつまみが入っていた皿を流しに置き、そのまま姿を消した。
昼休みに入った高校。
正人は職員室を出て、憩いの場と化している保健室へ向かっていた。
保健室の主は正人の後輩で、行くと必ずお茶が出るという、ある意味喫茶店化している場所。正人の他に約数名の教師と生徒が利用している。あり得ないよねぇ、普通…。
「あ、いらっしゃい」
出迎えたのは保健室の主、じゃなくて保健医の吉村勇。
だから、喫茶店じゃないって。
「お?誰も来てない」
珍しげに正人が言うと、そうなんですよねと勇が返した。
「何だか珍客が見えそうですね」
「言うな、うちにその珍客いるんだから」
もちろん連さんの事です。
「へぇ、どんな方ですか?」
「…迷惑極まりない母親」
机に置こうとしていたお茶を、勇は危うくひっくり返しそうになった。
「疫病神?」
勇君、言ってくれるね。
「それ以上だな。昨日、被害者が出てる。しかもそのままこっちに来た」
ふぅっと溜息。一度や二度じゃなさそう。
「何も言わないようにしよう。本城先生のお母さん、来そうだし」
「来るかもな」
「呼んだか?」
来た…。
「呼んでない、帰れ」
正人君、慣れ過ぎてないか?
「嫌だ」
連さんも負けてません。
「焼酎置いといただろ、飲まなかったのかよ?」
「一人で飲んでも美味しくないじゃないか」
勇が唖然としていてもこの親子は平然と会話を続けている。そりゃそうだろ、連さんの外見って、一八歳くらいしか見えないから母親には見えないし。
「あのぉ」
おずおずと勇は言葉を挟んだ。
「…言っとくけど、人間やってないから」
しれっと連を指して正人は言ってのける。
「はい?」
「妖怪」
「妖怪って、妖怪?」
「以外に何があるんだよ?」
正人君、しれっとしたまま言わない様に。勇君免疫ないんだから…。
「へぇ、初めて見ました。普通の人とあまり変わらないんですねぇ」
まじまじとって、慣れるの早っ!
「姿の違う者もいるぞ」
だーかーら、何で普通にそんな会話してんの君ら。
「で、うちの制服まで着て何する気だ?」
着てたの?制服。
「面白そうだから、潜り込む」
面白そうなのか?
「あっそ」
面倒な事にならなければいいけど、と内心思う正人である。
なるだろうな、面倒な事。 |