第15話 最後までやりっぱなしで帰って行く
聞き覚えのある声に、竜喜は驚いて名前を呟いてしまった。
「竜喜…何で」
正人も驚いたらしい。
いるとは思わなかったんだろうなぁ。自分の弟の家くらい覚えとこうよ…。
「何だ、知り合いか?」
連さんは竜喜君の事、知らないみたいに言ってますけど…。
「弟…会ってんだろーが」
忘れるの早すぎだって…と思わず呟いてしまう。
「そうか、火事の時に助け出された子か。会ったのは二〇年程前だったか」
それ、いつの話?
「いや、少し前に会ってる」
最近、会ってるんだ…。
「あれ以来か、大きくなったものだ」
連さん、酔っぱらってる?それとも単に正人君の話、聞いてないだけ?
「その後、会ってるって」
「あの、話見えませんけど…」
竜喜君、見える方がおかしいって。
賢治君、苦笑いしてるし…。
「後で説明する。それより、俺らにばっかり相手させるなよ。いい加減、何とかしろって」
そうだね、さっきから連さん何もしてないね。
「…する気ないな。これと話していた方が退屈しのぎになりそうだ」
大きな影を相手にしたくないだけ。動きたくないらしい。
「へぇ、退屈しのぎに俺ら巻き込んだのかよ」
正人君、顔引きつってますよ。
「たまには相手くらいしろ、バカ息子」
いえ、毎回相手させられてます。
「二度としねぇ」
本心だ…。
「育てた恩を忘れたか?」
「育てたんじゃなくて、拾って来たんだろ。育てたのこっち」
賢治を指して正人はきっぱりと言う。
やりっぱなしだなぁ。
「面倒見が良いんで助かった」
連はにっこりと笑う。
「俺は厄介者かよ」
半ば呆れつつ正人が呟く。
「見ていて楽しかったぞ」
「見せ物か…」
何を考えてか、連は竜喜を見た。
「後先考えずに川に飛び込むんだ、こいつは」
急に竜喜君と話そうとするかなぁ。しかもそれ、昔の話でしょ。
「って、竜喜に言うなよ」
正人君、慌ててない?
「で、カエルを捕まえてな」
「やめろ!」
慌ててるよ。余程、言ってほしくないんだろうなぁ。
「びしょ濡れで、こう言ったんだ」
「連!話する前に、あれ片づけろって!!!」
「うるさい奴だな、片付ければ良いのだろう」
本当にうるさそうに言うなぁ。
連は白王の柄をしっかりと握り、軽く一振りした。鞘が消え、白く光る刃が姿を現す。それを縦に構えると、大きな影に向けて振り上げた。ひゅんっと風のような音と金属音が同時にしたかと思うと大きな影が真っ二つに切れ、地上へと落ちて行く。そして、途中で消えてしまった。
「何か、金属音したよな」
ぼそっと呟いた正人の言葉に、賢治と竜喜は頷く。
「連、何を一緒に切ったんだよ?」
金属音って…。
「あれ」
指した先には建設中のマンション。騒音と共にマンションが崩れて行く。
この妖は…。
「電柱じゃたらないのか、このババアは…」
呟いている正人に、互いに顔を見合わせている賢治と竜喜である。
「で、続きだが『カエル捕まえた』って。可愛らしくてな、今思い出してもあれは笑える」
くすくすと笑ってますけど、酔っ払いの行動は良く分からないや。マンション切っても気にしてないんだもん。
「……」
竜喜君、困ってます。
「さぁてと、焼酎も飲んだ事だし、帰るか」
また…急だなぁ。しかもまたやりっぱなしで消える気か?
「あのマンション、一から建て直しですかね?」
竜喜が賢治に聞くと、賢治は苦笑いを浮かべていた。
軽く手摺を蹴り、連は空中へ身を投げ出すとそのまま消えて行ってしまった。
「やりたい事やって帰りやがった…」
本当、迷惑だけかけて帰ったよ…。
「しばらく見なくても良い…」
一番迷惑被ったもんね、賢治君。
「何なんですか、あの人?」
被害者なんだけど状況を把握しきれないままの竜喜君。正人と賢治に聞いてるし。
「四千年ババア」
すぐに答えたのは正人。それは答えているの?
「あんまり会いたくない」
呟くように賢治。答えになってないし。
よく分らないと思いつつ、竜喜は一妖と一人にコーヒーを勧めるのであった。
分かる方がおかしいって…。 |