第10話 条件=焼酎
その日の夜、生野家が深い眠りに就いた頃、連はタマを呼び出した。
「久し振りだな。三百年くらいか?」
え?最初のあれって三百年も前だったの?
「それくらい…ですね」
タマちゃん、ちゃんと喋ってるし。
「別にあの兄弟と喋ってもかまわんぞ」
禁止してるわけじゃないんだ。
「まだ、二日しか経ってないの。まだ、一緒にいたいの」
喋っても生野さんちの四兄弟なら、大丈夫だと思うけど…。
「じゃあ、こちらで少し遊ばせてもらおうかな」
遊ぶの?あの兄弟で?貴女ならやりかねないね。
「遊ぶって?」
タマちゃん、不安そう…。
「退屈しのぎだ。お前の悪いようにはしない」
されたら困るって…。
にっこりと笑った連にタマは安心した表情を見せた。
「どうするの?」
タマちゃん、乗る気?
「そうだな…、術でもかけるか?正体がバレたら消えるとか」
こらこら、消してどうすんのよ?
「あの…」
ほら、そんな事言うから困ってるじゃないですか。
「冗談だ。消してしまっては意味がなかろう。本当に喋れないように術をかけておく。あの四人がお前の正体と、ここに来た経緯分かった時点で術はといてやる。それとこちらに来る時につけた条件の解除もな」
そう言えば条件がどうのって言ってたね。
「分りました」
承諾したよこの子。
「では、さっそく」
って、本当に退屈しのぎなんだね。嬉しそうに術かけてるもん。
誰かこの妖止めて…。
その翌週の日曜日。時間をちょっと進めて見ました。
本日、嵩治、陽雪は図書館に用事とかで、午前中に家を出た。
慌ててついて行こうとしたタマの襟を暢都が掴んだまま、二人に手を振っていた。
見送ってから、未だジタバタしているタマを自分の方へ向かせる。
「タマ、今日は一緒に行けないの」
フルフルとタマの首は横へ振られる。
ピクッと暢都の眉が動いた。
あっ…。
「…ワガママ言ってねーで、留守番してろっつたんだよ。分ったか?!」
睨まれてピタリとタマが止まった。それから目に涙をためながら渋々頷いた。
怖かったのね。
言われて泣く奴、初めて見たと思いつつ暢都は溜息を吐く。
ま、人じゃない子が泣くのは初めてだろうね。
「今日はそんなに遅くならねーはずだからさ、大人しくしてろよ、俺と結都は居るから。それとも俺らは嫌?」
フルフルと横に首が振られる。
掴んでいた襟を離す。そして、その手でタマの頭を撫でる。
本当にペット扱いだな…。
「じゃ、俺やる事あるからその辺に居…おい」
リビングへ歩きながら言っていた暢都の服をタマが掴んだのだ。
タマの目が、上目遣いになっている。
「…手伝う?」
にこっとタマが笑った。
寂しがり屋め。
生野家の両親は共働きの為、休日も居ない事が多い。本日もその中の一日で、暢都、結都は大雑把に(あくまで大雑把。細かくはしそうにないから…)掃除機をかけたりしている。そして、その二人の後をタマはついて来るといった具合である。
期待してなかったけどなと思う暢都だった。
その前に期待する方が変だって…。
一方、図書館に行った嵩治、陽雪の二人は予定していた時間よりも早く終わってしまった。
「案外早かったね」
そう言いながら陽雪は、嵩治から持っていてもらったバックを受け取る。
ついて行きたげにしていたタマと留守番組の双子にお土産を買う為、近くの菓子店に向かっていた。
優しいとこあるんだ。けどそれって、タマちゃんにお土産がメインで双子はついででしょ…。
「ん、時間かかるかなって、思ってたんだけどなぁ」
嵩治は言って自分の携帯電話を取り出した。
前方から、和服姿の日傘をさした女性がゆっくりとした足取りで歩いて来る。
「でも、良かった。タマちゃん喜ぶかな?」
君の一番はタマちゃんなのか?
「お土産付きだもんな。そりゃ…」
ふと嵩治の言葉が止まった。陽雪も何も言わずに、和服の女性を見ている。
「違うよな…」
嵩治が言っているのは人ではないという意味。
「この前、家を見てた人だね」
くすっと笑って陽雪が言う。
…性格が出てくるなぁ。
「さすがに、あれを連れて帰っただけはあるな。もう気付いたか」
和服の女性は連だ。顔は見せない。
「タマちゃんの事、知っているの?」
陽雪の問いに連はくすっと笑う。
「知っている。あれをこちらへ連れて来たのは私だからな」
そうね。しかも退屈しのぎの相手にしてるし。
「連れて来た?」
嵩治が言うと、そうと連は静かに答える。
「あれの願いを叶えただけだ。言葉を喋れないようにしてな」
後から喋れないようにしておいて言うかな…。
この言葉に陽雪は明らかに不機嫌そうな表情になった。
「戻してください。そんな事をする必要が無いでしょう」
からかい易そうな奴だなぁ…と心の中で呟きながら、連は首を横に振った。
そう思うのは貴女だけですけどね。
「嫌だ。戻してほしいのなら、あれがどうしてこちらへ来たのか、あれが何者なのか知る事だな」
「それは、貴女が教えてくれるって事?」
不機嫌そうに聞き返した陽雪を見て、連はさぁっと呟く。
「教えても構わんが、条件がある」
また条件?何の条件よ…。
「何だよ?」
短く嵩治が聞き返すと、連は二人を見た。
「欲しい物があるんだ。私では手に入れられない物でな、それが欲しい」
はい?何おねだりしてんの?
「欲しい物って何?」
不機嫌を通り越した冷たい口調で聞いた陽雪に、連はにっこりと二人には見えないが、満面の笑みを浮かべた。
「焼酎、こちらの金は持ってないから買えないんだ。くすねても良いんだが、それをすると後で文句言うのがいるからしない」
…焼酎かい!
「焼酎欲しさかよ…」
ほら、条件に焼酎持って来るから嵩治君呆れたじゃない。
「未成年者にアルコールを要求しないで下さい。まぁ、この時間帯なら知り合いの酒屋で買えるけど」
知り合いならお父さんので通りそうね…。
「では、お前達があの娘と会った場所で待っている」
そう言うと、二人の横をすり抜けるように通って行く。
二人が振り返った時、すでに連の姿は何処にもなかった。
あーあ、この妖は焼酎要求するかね…全く。 |