季節なき庭に鳥は舞い 永遠に終わらぬ歌を紡ぐ
時なき庭園に獣は集い 永久に続く夢を見る
ああ、声なき歌姫よ 闇に惑うものを導きたまえ
ああ、声なき歌姫よ 光差す永久の庭を言祝ぎたまえ
鳥が、獣が、歌っていた。ずっと、ずっと、同じ歌を、動物が歌う。意思を持って、意味を込めて。
それ自体は、ファルクにとっては当たり前のことだったけれども。
幼い頃から、動物の声が聞こえた。それが当たり前と思っていた。だから…他の人には、彼らの声が聞こえないとわかったときには、もう、遅かった。
両親が早くに死んでしまって、笛ばかり吹いているファルクは村で厄介者扱いされていたから、特にかもしれないけれど…
『獣の言葉が解る? なら、こいつは人間じゃなくて、獣の一種なんだろ!?』
そう言って村を追い出された時は、ただただ絶望するしかなかった。
だから、ずっと仲良くしていた動物達が、その伝説を教えてくれた時は、嬉しかった。
『人間では決して辿り着けないところに、動物達の楽園がある。全ての動物が安らげる場所だ。ファルクは一応ニンゲンだけど、ぼくたちの仲間だから…きっと、辿り着けるよ』と。
そこなら…自分を隠さなくていいのかもしれない。
だから、ファルクは旅立ち…そして、ついに辿り着いたのだ。
人間たちが、凶悪な獣の住む場所と怖れる、深い深い森の奥。幾重にも張り巡らされた樹木の帳を抜けた果て。
光の恵みを一身に受けた、奇跡のような場所に……
* * *
「ここが…」
ぽつりと呟いた言葉が、光の中に染み渡る。
静かだ。けれど、それは寂しい静けさではなくて、安らぎに満ちたもの。
ゆっくりと、躊躇うように、ファルクは足を進める。下草を踏みしめる小さな音が、この暖かい静けさを壊してしまわぬように。
と。
……音が、聞こえた。
いや、本当は、もっとずっと前から聞こえていた。ただ、その音が、あまりにも自然で…まるで、水のせせらぎのように、光に満ちた空気に溶け込んでいたから、それを『音』と認識できなかっただけで。
足音を殺しながら、音のある方へ向かっていく。引き寄せられるように……。
−−季節なき庭に鳥は舞い 永遠に終わらぬ歌を紡ぐ
時なき庭園に獣は集い 永久に続く夢を見る−−
音にあわせて、鳥たちが歌っている。
そして、光溢れるその庭の中心に……
無数の鳥に囲まれて、ハープに似た楽器を爪弾いて。
眠る獣に惜しみなく与える、安らぎを導く子守唄。
光を集めて編み上げたような、柔らかな髪が揺れて。
若葉色の瞳がファルクを見る。
聖女のような、慈母のような、その少女は、ファルクを見つめ、微笑んだ。
呆然と立ち尽くすファルクの元に音もなく歩み寄り、少女はファルクの手を取る。瞬間に真っ赤になるファルクには気付かなかったのか、少女は、その細い指で、ファルクの手に文字を綴った。
−−わたしは、シアラ−−
−−あなたは、誰?−−
『シアラ。シアラ。声なき歌姫』
『シアラが認めた。ならば、キミは仲間』
『新しい仲間。キミは誰?』
歌いながら飛ぶ鳥たちが、ファルクの肩で羽を休める。
ファルクは、口を開こうとして……やめた。
シアラの手を取り、綴る文字。
−−僕は、ファルク−−
綴られる文字。
−−ファルク…わたし、耳はきこえるよ?−−
−−言葉は、遠い昔に置いてきてしまったけど−−
ことりと傾げられた首。瞳に宿る純粋な光が、美しい。
なぜ、シアラが言葉を持たないか、それは分からないけれど…
−−いい。なら、僕も言葉はここに捨てていく−−
−−この静かさを、壊したくないから−−
眠る獣の中心で、文字を綴りあう二人。
やがて、彼らは寄り添って、光の中で静かに時を刻んでいくことになるだろう。
光差す楽園、奇跡の箱庭。無数の獣に囲まれて、声なく流れる子守唄。
水のせせらぎのような竪琴の音色に、流れる風のような笛の音が重なるようになるのは…そう遠い未来のことではない。
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