第零審【ハジマリの世界】
気がつくと、自分は白い海の真ん中にいた。
……綺麗だな。
そんな感慨が湧く。足元で穏やかな波を立たせているそれは四方無限に広がっていて、更に言えば空も純白一色に尽きていた。その偉大な統一性に息を呑み、
――懐かしい…?
まるで久しく自分の故郷にたどり着いた旅人のような、不思議な気持ちを抱く。
…いや、こんなことをしている暇は無い。と、軽く自分を叱咤する。
自分は、行かなければならないのだ。
何故か?と考えて、自分がその答えを持ち合わせていないことに気付いた。遠い昔、理由を知っていたはずだったのだが、今はすっかり忘れているみたいだ。ただそんなことはどうでもいい。むしろ、大切なのは『何処へ』だ。
決まっている。【 】のいる場所へだ。
そう思った矢先だった。
静謐な白の世界が、一瞬歪んだ。
――来たか。
世界が鼓動する。これは、新たなる生命の息吹。まだ見ぬ大いなる存在の胎動だ。何故だかわからないが、そう感じた。
間もなく、【 】が生まれる!
急がなければ。と足を動かそうとしたときだった。
――!!
まるで地雷でも踏んだかのように、急に足元から何本もの鎖が飛び出す。雁字搦めに縛られ、すぐさま身動きが取れなくなる。
――まずい、これ…――イテェっつのぉ!!?」
ついきつく引っ張られたことに悲鳴を上げ、その『自分の生声』に驚いた。
「ああぁ?」
目から鱗が落ちたような……それでいて、頭がこんがらがったような感覚だ。っつか、どうして俺はこんなところにいるんだ?
なんなんだ、ここは?
ズゴン
そんな擬音が相応しい衝撃が、自分の足元に響く。いきなり何だ?と思ったが、すぐに理解した。
「おっ、おい……」
体がどんどん沈んでいく。或いは、水面がどんどん上昇しているのか。真っ白なこの世界じゃどっちがどっちかわかったもんじゃないが、膝下辺りにあった水面が、今股下にまで上がってきている事は確かだ。
このままでは溺れると思っても、体に巻きついた鎖のせいで逃げられない。真っ白な水面はもう肩にまで到達しようとしていた。
「ったっ助け……っ!」
掴む藁も無く、助けの声を呼ぶにも周囲に人の姿は無い。
……いや、
「おい、あんた!」
いた。
目の前、大体十メートルかそれくらい先に、一人、素っ裸の少女の姿が。
格好云々はどうでもいい。もう顔を仰がなければ息ができない状態だからな。
「聞いて…!んのか!」
必死に助けを呼ぶ。しかし声は届かないまま、とうとう水位が俺の身長を超えた。体全体がその海に没する。口に入ったその味から、ああ、これ何か牛乳みてぇだな。と、もはやどうでもいい事を考え―――
俺は思う。
このときの光景、そしてあの少女こそ、これから俺の身に次々と降りかかる『不幸』の原因なんじゃねぇのか?と。
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