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第十九部第二章 会議は踊るその四
「その為に手を打っておくか?」
「いや、それにはまだ早いな」
「早いか」
「そうじゃ。まだ気付かれるわけにはいかぬ」
「わかった」
 長老達は最長老の言葉に頷いた。
「では準備をするだけじゃな」
「うむ」
「まずはこれでよし」
 最長老は話がまとまったと見てこう述べた。
「では今はこれで終いとするか」
「そうじゃな」
「また集まるとしよう」
「最後に聞きたい」
「何だ?」
 皆立ち上がろうとしたところで仲間内の一人の言葉に動きを止めた。
「この話、大統領には伝えるのか」
「当然だな」
 最長老がそれに答えた。
「我々はあくまで顧問だ」
 そういうことになっているのだ。実際にはどうあれ。イスラエルにおいてはこの十二人の長老達は大統領の顧問となっている。だがその権限は大統領のそれを上回ることすらあるのだ。大統領といえど彼等に逆らうことは出来ないのである。これはイスラエル独特のものであった。
「話を伝えなければならない」
「わかった。では」
「いや、待て」
 この話でまた別の長老が気付いた。
「今度は何だ?」
「『烏』はどうするか」
「『烏』か」
「左様。あの者にも直接伝えておかなければならないのではないのか」
「言われてみればそうだな」
 同僚の長老達もそれに気付いた。
「では伝えておくか」
「あの者には狐にあたってもらうか」
「狐にか」
「あの女狐に対抗出来るのは烏しかおらぬからな」
「ふむ」
 長老達は考え込んだ。思案に耽る。
「確かにな」
 一人が述べた。
「あの女は生半可な相手ではない」
「政治だけでなく謀略も巧みだ」
 ここが八条と大きく違うのである。そもそも謀略とは無縁の政治の表の力だけを発揮すればよい道だけを歩んできたと言える八条に対して伊藤は日本の首相、そしてそれ以前の閣僚経験から政治の裏の世界にも精通するようになっていたのだ。その為謀略も巧みなのだ。彼女は単に政治家として優れているだけではなかった。一癖も二癖もある策士でもあるのだ。だからこそ各国に警戒されているのだ。
「ここは烏しかおらぬだろうな」
「決まりか」
「他にはいない」
「イスラエルはおろか連合の中にもそうはおらぬな」
「女帝の下にいる一匹の狐にここまで目を向けなければならぬとはな」
 言葉が警戒するものになる。それと同時に賞賛もそこにはある。
「只の狐ではないしな」
「狐は狐でも化け物か」
「左様。日本だったか、いや中国か」
 長老の一人が語った。
「狐は長い間生きると化けるそうだ」
「それは聞いておる」
 これは彼等も知っていた。今の話にもそれが念頭にある。
「千年生きると尻尾が九つになる」
「あの女はまさしくそれだな」
「全くだ。九尾の狐だ」
 これが伊藤が最も多く呼ばれる渾名である。その頭の切れと女性であることから彼女はこう呼ばれるようになった。九尾の狐は女であったと伝えられているのだ。
 実はかっては狐はその全てが女であると言われていた。狐は陰性の動物であるとされ、女もまた陰性であるからだ。これに対して狸が陽性であるとされている。もっとも童話等における扱いは狐も狸も全く変わりがないのであるが。化けて悪戯をして人間に殴られたり懲らしめられるという話が日本には実に多い。
「今の天皇は厄介なものをその足下に置いているな」
「女帝陛下は狐を飼っておられるか」
「それも最も厄介な化け物狐を」
「こちらも烏を出すしかないな、やはり」
「うむ」
 他の十一人が一人の言葉に頷いた。
「やってもらうか」
「そうだな」
「それでは」
「次の会合の時までさらばだ」
「またな」
 彼等は別れた。闇の中には何も残ってはいなかった。
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