第十九部第一章 悠久の時は過ぎその十三
「とにかく連合との対立は避けなくてはならない」
実は同盟関係にあるとはいえ連合とマウリアの間に問題がないわけではないのだ。貿易問題で連合とマウリアは長い間複雑な関係にあるのだ。
「その為には」
「彼等にはこれまで通りエウロパに目が向いてくれないといけませんね」
「そういうことだ。だが」
「だが!?」
「エウロパで勝手にそうしてくれる可能性もあるな」
「エウロパでですが」
エウロパと聞くと。やはりこの場では目が自然と動くのであった。その問いにすぐに言葉が返る。
「今度の総統選挙では今のラフネール総統は立候補しないそうだな」
「ええ、確か」
これはまだ未確認の情報であるがマウリア大使館に入っている重要な情報である。この戦争の責任を取ってのことであるのではと推測されている。
「では。次の総統次第だな」
「どの様な人物か、ですね」
「それを抜きにしてもエウロパの次の総統選挙は彼等にとっては彼等の歴史上最も重要な選挙になる」
「最も、ですか」
「そうだ、誰を選ぶかでな」
そう語るクベーラの目の光は静かではあるが強いものであった。
「大きく変わる」
「それが対連合強硬派であったならば」
「またエウロパは連合と対立するな」
「我々としてはそうであって欲しいと」
「宥和派であれば困る。だがここで問題になるのは今のエウロパの世論だ」
エウロパもまた民主主義なのだ。連合のそれとはかなり形態は異なるが彼等も民主主義であることには変わりがない。民主主義も一つではないのだ。
「連合に対して。どう思っているか」
「敵愾心は衰えることがないようですね」
「それは何よりだ」
クベーラはそれを聞いて笑みを作った。
「では後は見ているだけかな」
「次期総統によるかと」
「こちらとしては出来るだけ有能な者がいい」
当然この言葉は好意からではない。他国の幸せを願うのはこの場合まずない。4
「そして過激な者が」
「かってのヒトラーの様に」
「なおよいな」
クベーラの笑みは深くなった。同時に剣呑な笑みであった。
「我々にとってはな」
「彼等にとっては?」
「さて」
だがその答えはぼかした。わざとである。
「そこまではわからない。だが今はヒトラーの時代でもない」
これが大きな違いであった。今この時代は二十世紀の様に破滅の時代ではないのだ。少なくともあのヒトラーが完全に出て来る時代ではない。
「その総統によってエウロパが滅ぶということはまずない」
「また連合と戦争をしない限りは」
「すると思うか?」
「いえ」
アグニもそれには首を横に振った。
「狂人でもない限りそれはないでしょう」
「狂人ならば消されるだろうな」
「ええ」
もっとも狂気を帯びた人間が出て来て、彼によって導かれるケースも考えられ歯するが。あの時代のドイツがまさにそうであった。ヒトラーは狂気を帯びていたがそれでも有能で冷静な一面もあったが。彼程理解し難い人物も珍しい。この時代においてもヒトラーという人物には様々な意見がある。
「何度も言うがあの時代とは違う」
「ですがヒトラーに比肩し得る人物は」
「出る可能性はある。そしてそれ程の人物でなければ」
「今のエウロパは救えませんか」
「出るかな」
クベーラの笑みがニヤリとしたものになった。
「果たして。エウロパを救える恐るべき人物が」
「それを見つけ出すのはエウロパです。そして」
「それを選ぶのも彼等か」
「そうかと」
「どうやら講和会議の後も面白いことが続きそうだな」
クベーラの笑みはニヤリとしたままであった。
「連合とエウロパは」
「それによって我々は安泰となります」
「表向きは連合と同盟を結ぶ忠実な仲裁役として」
「やっていけるかと」
「有り難い話だ」
彼等は食後のヨーグルトを楽しみながら話をしていた。カレーの辛さは何時の間にか政治の霧の中に消えていた。その霧はそのままエウロパ全土を覆っていたのであった。
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