第十八部第二章 出発その九
「ではそれを要求してくることは間違いないですな」
「そしてそれにどう対処するかだ」
彼はまた言った。
「連合も愚かではないだろう。自分達の守りは固めてくる」
「同時に我等の守りは削って」
「非武装地帯の設立はそうした意味でも有効なのだ。連合にとってはな」
「我々にとっては有害であり」
言葉に険がこもる。
「非常に厄介なものになるのだ。どちらにしろ連合にとっては要求しない筈がないものだ」
「ですな」
「少なくともブラウベルグ回廊は彼等のものになる」
「それだけでも大きな痛手です」
八条は議会でそれを堂々と言っている。最早連合にとってそれは規定路線なのがわかる。
「我等にとってはな。敗戦の意味は非常に大きい」
「それに関して御主人様は何か御考えは」
「残念だが完全なものはない」
彼もそう返すしかなかった。
「今彼等はクロノスとニョルズにまで達している」
首都オリンポスの喉元にまで。停戦となければ間違いなくその首都も占領されていた。厳然にして冷酷な現実がそこにはあった。
「戦力もその三割を失った。総動員した戦力がな」
「交渉においても非常に不利であると」
「そう言う他はない。交渉するにしろ我々は非常に不利だ」
「彼等もそれがわかっているのでしょうな」
「今見てもそれがわかるな」
「はい」
八条はまだ話をしている。野党の議員もだ。彼等の主張は完全に連合が有利な状況にあると認識しているものであった。それは非常によくわかった。
「彼等は必要とあらばエウロパ併合すら可能だろう」
「エウロパをですか」
落ち着いた雰囲気を醸し出していた執事だがその声が突如として震えた。
「驚いたか?」
「ええ、まあ」
彼の方でもそれを認めた。
「まさか。その様なことが」
「必要とあらばな。だがそれはない」
「ありませんか」
「連合にとって我々は完全に異世界とその住人だ」
「異世界ですか」
「規模にしてはあまりにも大きな差があるがな。だが異世界には違いない」
彼は言う。
「サハラに侵攻した時我々はサハラの者達を追い出していたな」
「はい」
「それは何故だ?」
そして執事に問うた。
「それは」
「彼等が我々とは異なる存在だからではないのか」
その言葉こそが答えの一つであった。最もそうした一つの問題で片付けられる程単純な話ではなく居住区域や資源等様々な問題が他にもあるのであるが。
「サハラは。我々とは違う世界だ」
「それはよく承知しております」
「同じことが我々と連合にも言えるということだ」
「連合にとって我々は異世界だということですか」
これについては連合も同じことを考えている。つまりはどっちもどちということなのだ。同じ人間ではある。
「我々がそう認識しているのと同じ様にな」
「同じことを考えていると」
「彼等にとってみれば一千億もの不穏分子を抱え込みたくはないのだろう」
「社会不安等のもとになるからですか」
「そうだ。それに彼等は我々の持っているものにはどれに対しても何の価値も見出してはいない」
モンサルヴァートが併合はないと言う根拠は他にもあった。それがこれであった。
「資源も技術も文化も。彼等にとっては興味をそそられるものではないようだ」
「それは少し無念ですな」
「彼等にとってみればどれも既に持っているものだ。文化は文化で興味がないらしい」
「エウロパのこの素晴らしい文化をですか」
それはいささか憤慨すべきものであった。
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