第十八部第一章 舞台の移転その二十
「どうも今も規律を守ってそれぞれの職務に就いているらしい」
「意外ですね」
「彼等は彼等でモラルが高いということだな」
「またあの例の貴族主義ですかね」
「多分な。それが彼等のアイデンティティだ」
それは連合とは全く違うものではあるがだ。
「それだけは崩れませんか」
「それが崩れた時こそ本当に終わりだろうな」
「エウロパそのものだ」
「逆にそれさえあれば彼等は彼等であり続ける」
「バチカンがなくとも」
かつて欧州には教会はなかった。騎士道というのはルーツはゲルマンにあるのだ。そうした意味で騎士道は最初は多分に北欧的であるとも言えるものである。
「若しかするとな。そして我々と対峙し続けるだろう」
「この戦いで負けても、ですか」
「戦いは一度の戦いだけを言うものではないからな」
「ですね」
これは彼にもわかっていた。かってローマとカルタゴは三度に渡って戦ってきた。それはカルタゴが滅ぶまで行われたのであった。ローマの戦略目的は最後にはカルタゴそのものの滅亡になっていた。そしてローマはそれを果たすまで戦いを止めはしなかった。戦争というものはその戦略目的を果たすまで何度も行われる場合があるのである。
「連合とエウロパ、どちらが滅ぶまで」
「何、それはないさ」
「ないですか」
「エウロパを欲しいか?」
バールは彼に問うてきた。
「エウロパをですか」
「そうだ。欲しいと思うか?」
「いえ」
彼はその問いに対して首を横に振った。
「一千億も不穏分子を抱え込むわけにもいかないでしょう。産業も資源も我々にとって魅力的なものはありませんし」
「そうだな」
「要は彼等に手出しをさせなければいいのです。それは今度の戦争での条約で充分果たせると思いますが」
それだけで戦争防止にもなる。戦争を防ぐには手を出させないことも重要なのだ。
「逆に言えば果たさないとそれは無能になる」
「そう思います」
「エウロパにとっても連合に併合されるのは嫌だろうな」
それは言わずもがなであった。かつての奴隷達に支配されるのを喜ぶ者はいない。
「あの誇り高い彼等が我々の中に入るなんて想像も出来ませんね」
「うむ」
「以前は植民地で今は大衆達による無知蒙昧な政治が続いているこの連合に対して」
「それは貴族としての誇りが許さないか」
「どっちにしろ我々と彼等は合うとは思えません」
彼はそう結論を下した。
「併合なぞ考えられませんしあってはならないことでもあります」
「そうなるか」
「精々防衛上必要な処置を飲ませて、バチカンを譲り受けて、ですね」
バチカンの譲渡は譲れない。それが連合の願いの一つだった。
「そして賠償金かな」
「それも大して得られないと思いますが」
「エウロパの国力の問題でか」
「流石に四十倍の相手の腹を満たすなんて無理でしょう」
彼はエウロパの国力をもとに話をしていた。
「四十人相手だと。牛でも無理です」
「鯨ならともかくな」
「エウロパは精々子羊といったところでしょう」
「ラムか」
子羊の肉だ。柔らかく匂いもない非常に美味い肉だ。連合はおろか人類全体で人気のある肉の一つだ。
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