第十七部第四章 幕の中でその六
「宗教の政治への介入も」
「その逆は今ではタブーとなっていますね」
「そうそう介入出来る程簡単な話でもないしね」
特に連合の様に複雑に様々な宗教が存在している場所においてはそうである。自分でどれだけの宗教に入っているか把握しきれていない者までいる程である。伊藤の所属している政党にしろ中央政府の保守派や改革派にしろ宗教で見ればモザイクとなっている。そうした状況で政治が宗教に介入出来る筈もなかった。問題となるのは特定の宗教団体が法律的に問題を起こしたり、それよりさらに問題のあるテロ行為を行った場合だ。そうした場合は警察が出て来るし最悪の場合軍隊が派遣されて鎮圧される。どれだけ立派な教義を持っていようともテロ行為に走ればその宗教団体はそれでテロ組織となるのである。
「あくまで法律的に問題のある時だけね」
「対処するのは」
「他ではやってはならないわ」
「特に連合においては」
「サハラみたいにほぼ一つの宗教しかないってわけじゃないし」
サハラはまた別である。イスラムは単なる宗教ではない。生活であり文明であるのだ。彼等にとってイスラムから離れることは想像も出来ないことなのである。
「それでも影響はあるものなのよ」
伊藤はまた言った。
「信仰は心の問題だから」
「心ですか」
だが東にはまだ今一つわかりかねていた。
「その心とは」
「これから貴方は一つ勉強することになるわ」
だが伊藤はそれには答えずこう言うだけであった。
「宗教の効果をね」
「わかりました。それでは拝見させてもらいます」
東は答えた。
「宗教というものを」
「これがわかるようになるにはね。かなりの勉強が必要なのよ」
伊藤は言う。
「けれど。わかったらそれは政治家にとって大きなプラスになるわよ」
「はい」
「まずは学ぶこと」
伊藤は教師の顔になっていた。
「それが大事なのよ。わかったわね」
「わかりました。それでは」
「楽しみにしておきなさい。それじゃあ」
「食事でしょうか」
「あら、もうそんな時間ね」
時計を見る。丁度昼食の時間だった。
「それじゃあ何かいただこうかしら」
「では私は一先これで」
「あら、帰るの?」
「私も食事を摂らなければなりませんので」
彼は答えた。
「それでは」
「食事もちゃんと摂らないと駄目よ」
「はい」
「栄養があるものをたっぷりとね。食べないと身が持たないわよ」
「連合の者はかなり食べ過ぎだと言われておりますがね」
「エウロパから見ればね」
伊藤はそれに応えてくすりと笑った。
「それが身長にも出てるって言われてるけれど」
「その様ですね」
これは本当のことであった。エウロパの平民の平均身長は一七五程度、貴族で一八〇程である。これに対して連合の者は一八九となっている。二メートルの者も珍しくはない。これは食べているものと量の関係である。とにかく連合では様々なものが多量に食べられる。栄養がかなり違うのだ。
だからといってエウロパの平民達が餓えているというわけではない。貴族達がいいものを独占しているわけではない。エウロパでは平民と貴族では食べるものが違い、食材も連合程多くのものがあるわけではないのだ。連合では恐竜や昆虫、ステラーカイギュウやオオウミガラス、そして地球にはなかった青い葡萄や四角い西瓜、異様に大きなザクロやアケビ、黄色いライチ等もある。また食事の量は連合では常に活発に動く社会である為エネルギー補給として食べられてきたのである。その結果が体格に出たのである。エウロパでも餓えはない。食べるものこそ違うが平民も貴族も腹一杯食べてはいる。ただその食材と量が違うだけである。
「エウロパでは我が軍の将兵達が引き起こした食事に関するトラブルが多く発生していたようですし」
「店のものを全部食べてしまった話ね」
「はい。それでエウロパのレストランでは一時閉店を余儀なくされた店が多発したとか」
「難儀なことね、それは」
「彼等は言ったそうですよ」
「何て?」
「まるでバイキングの再来だと」
「バイキングね」
伊藤はそれを聞いてくすりと笑った。
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