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第十七部第三章 シャイターンの蠢動その十九
 夫人は私邸に戻った。シャイターンは護衛を連れそのまま官邸の奥深くへと入って行く。アラベスクの装飾が宮殿を飾っていた。そして金や銀の装飾もあった。それで以って宮殿を照らさんとしているようであった。
 執務室に入る。そして椅子に着きまずは電話を入れた。程なくしてハルシークが部屋にやって来た。
「御呼びでしょうか」
「例の件で聞きたいことがある」
 シャイターンはまずはこう言った。
「例の件ですか」
「そうだ。今はどうなっているか」
「全ては順調です」
 その例の件が何であるかハルシークにはよくわかっていた。そのうえでこう答えたのである。
「そうか」
 シャイターンはそれを聞いてその猛禽の様な目を動かした。
「順調か」
「皆よく働いてくれております」
 ハルシークは述べた。
「特にアブサーファ大将は」
「あの男を直接送り込んだのが効果的だったようだな」
「ですな」
 ハルシークはそれに頷いた。
「やはり彼がいるといないのとでは。こうしたことは全く違います」
「破壊工作及び暗殺のプロフェッショナルだからな」
 シャイターンは言った。
「上手く動いてくれる。こちらとしては実に助かる」
「これによりハサンの優秀な人材はかなり減りました」
「ではそろそろ潮時かな」
 考えながら述べる。
「ですな。気付かれぬうちに」
「引き揚げるか。実はもう一人大物を消したかったのだがな」
「それは」
「キングだ」
 彼は言った。
「クイーンではなくキングをだ。それを消しておきたかったがな」
「ナイトやビショップはもう消しておりますが」
「それだけではな。満足はしない」
 シャイターンの言葉は思わせぶりなものとなっていた。
「キングを除いておくと。後が楽なのだがな」
「流石にそこまでは無理かと」
「やはりな。表のキングならともかく」
 彼はそれに応える形で返した。
「真のキングは。そうは取らせてはくれないか」
「取れる場所を一つ知っておりますが」
「戦場だな」
「はい」
 ハルシークは頷いた。
「そこが一番かと存じます」
「ではこれまで通り戦いの準備も進めておこう」
「はい」
「またサハラは戦乱に覆われることになる。だが」
 その言葉に甘美なものが宿った。それは決してよい存在ではなかった。異形の、無気味な存在を思わせる甘美な言葉であった。
「その先にあるものは栄光だ。間も無くサハラはその長い戦乱の歴史に終止符を打つ」
「そして栄光の歴史が」
「それをもたらすのは私だ。私をおいていない」
 先程劇場で述べた言葉が重なった。今彼の目には果てしない栄光が映っていた。
「違うか」
「いえ」
 ハルシークは首を横に振った後で答えた。
「全てはアッラーの思し召しです」
「そう、アッラーは選ばれるのだ」
 シャイターンは笑った。その唇に野心を宿らせて。
「栄光をな。サハラに対して」
「その為の布石は打っておくにこしたことはありませんな」
「そういうことだ。だが問題はサハラだけではない」
「はい」
 ハルシークもそれは読んでいた。
「エウロパにマウリア、そして」
「連合だ」
「連合との関係はどうされますか」
「友好関係を結んでおくにこしたことはない」
 彼はまずはこう述べた。
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