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第十七部第三章 シャイターンの蠢動その九
「エウロパは自分達の領土で戦っていたせいもあるがな」
「それもありますな。エウロパが受けたダメージは最低限でしたが」
「それでも甚大であったことには変わりがないしな」
 戦力差を考えれば最低限であった、という意味である。エウロパ軍として受けたダメージは言うまでもなく甚大であった。
「そうです。連合軍の進撃を全く止められませんでしたし」
「補給で負けたということか」
「敗因の一つにそれがあるのは間違いないかと」
「ふむ」
「結果としての見方ですが」
「いや、間違ってはいないな」
 アッディーンはハルダルトのその見方を肯定した。
「それに結果を見てからの分析は重要だ」
「有り難うございます」
「連合の勝因とエウロパの敗因の分析はな。我々の今後の役にも立つ」
「エウロパの敗因も、ですか」
「そうだ」
 アッディーンは頷いた。
「両方がだ」
「エウロパの敗因となるとあまりないですね」
 ハルダルトは述べた。
「ないのか」
「私はそう思いますが」
 少なくとも彼はこう見ていた。
「物資不足が危惧されたのはありますがそれでも最後まで満足に戦いましたし」
「確かにな」
「そして戦略も戦術も特に不備はありませんでした。多くのミスはありましたが」
「ミスは連合もしている」
「ですがそれは致命的なものではありませんでした。エウロパもまた」
「ではエウロパの敗因は何か」
 これはサハラにとっては重要な研究材料となっている。
「彼等は満足に戦ったと言うべきでしょう。ですが」
「連合はそれ以上だったということか」
「物量や補給の問題だけではなく」
 そこも見られていた。戦争とは勝因にしろ敗因にしろ一つではない場合が殆どだ。
「戦略もしっかりしていたか」
「エウロパ以上に。そうした意味で今の連合軍とそれを統括する国防省はかなり優秀だと思います」
「そうだな。連合中央政府の国防長官は日本人だったな」
「はい。八条義統です」
 ハルダルトは答えた。
「そう、八条長官だった」
 アッディーンも言った。
「若いが。相当優れていると言うべきだな」
「そうですね。彼の手で国防省と連合軍は築き上げられたと言っても過言ではありませんから」
「それを考えると。相当なものだ」
「はい。あれだけの軍を短い期間で。見事と言うべきでしょう」
 一口に言うと簡単であるが実際にやるとそうではない。雑多な各国軍を統一された中央軍にするというのは。決して容易なことではない。かなりの時間がかかるし綻びも次から次に出る。だが八条はその統率力と政治力、事務処理能力により果たしたのである。結果として設立当初はかなりの激務の日々であったが。
「天才的と言うべきか」
「かつては軍にいたそうです」
「日本軍にか」
 実はアッディーンは八条の細かい経歴までは知らなかった。今はじめて聞いたと言っていい。八条の名はサハラ全体で知られるようになってきているのは事実である。しかしその細かい経歴まで知っている者はそうは多くはなかったのだ。
「それから政治家になり日本の国防相となり」
「中央政府に誘われて初代国防長官になったということか」
「そうです。そうした経歴を考えますとやはり相当の人物です」
「連合はこれまで軍事に関してはそれ程考えてはいなかった」
「はい」
 これは事実である。連合は産業の発展や開拓地の開発にばかり熱心であり、軍事に関してはおろそかであったのである。各国の軍は地位も決して高くはなく、その規模もエウロパやサハラ各国と比べてそれぞれは大きいものではなかったのであった。
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