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第十七部第一章 銃は収められその十八
「その舞台裏で全ての者が何に基いて動いているのか」
「文明によって」
「政治家でも頭のいい人はこれに気付いているかもね」
「どうかしら」
 その言葉にくすりと笑ってみせてきた。
「気付いていたらこれからすべきこともわかるだろうね」
「これからのことも?」
「そう、戦後のこともね」
 彼は言う。
「二つの文明が急に一つになれるのか」
「ここは政治家さん達のお手並み拝見ってことね」
「まあ実際は」
 ここでフットは少しシニカルな笑みになった。そしてコーヒーを口に入れる。
「併合とかそういうことをしたら世論が黙っていないだろうけれどね」
「世論があったわね」
「その通り」
 ここでもまた文明が出ていた。大衆文明が。
「誰もエウロパを併合しようなんて言ってはいない」
「そういえばそうね」
 妻はこれにも気付いた。
「戦争には勝ったのに」
「国力から見れば連合にとってエウロパなんてちっぽけなものなんだ」
 ここではエウロパを馬鹿にしたように言う。
「一千億のね。けれどそれが連合の中に入ると」
「一千億の不穏分子ね」
「そんなのを入れたらかえって大変なことになるね。しかも全く異質な存在だ」
「ええ」
「それがわかっているから。誰も言わないんだ。まああちらが相当馬鹿なことをしない限り併合という極端なことにはなりはしないだろうね」
 実際にそうした馬鹿なことをして併合に至った歴史的前例もあることにはある。そうして莫大な財政負担を毎年抱え込むことになった国もある。実に不幸なことに。
「きりのいいところで手打ちね」
「その手打ちの内容で揉めるね」
「文明から急に世俗的な話になったわね」
「そういうものさ、世の中ってのは」
 コーヒーを置いて菓子を食べた。コーヒーで苦くなった口を今度は甘みが包む。
「些細なことで揉めるんだ、けれどそれは人間にとっては大きなものだったりする」
「人間にとっては」
「けれどそこからは少なくとも僕の専門分野じゃないね」
「文化人類学者としては」
「そうさ。まあ論文には書かないけれどじっくりと見せてもらうよ」
 彼は言った。
「これからどうなるか」
「面白いことになると思っているのかしら」
「そうだね。それは役者さん達次第だ」
「政治家の」
「さて、どうなるかな」
 二人はそこで談笑に話を移した。そして楽しい一時を過ごした。コーヒーを飲みながら。だから美味いコーヒーを飲んでいる者だけではなかった。中には苦いコーヒーを飲んでいる者もいた。
「またこれは」
 八条は次々に送られて来る書類に閉口してしまっていた。
「しかも次から次へと」
「減ることがありませんね」
 それを見てシャリアピンも言った。そこには中央議会議員であるセチフ=ハンニバルもいた。
「国防省は相変わらず大変そうですね」
「否定はしません」
 八条はハンニバルにこう返した。
「猫の手も借りたい程です」
「実際に借りられてみては?」
「いえ、単なる例えでして」
 冗談とわかっていながらも応える。
「かえって邪魔になります」
「その通りですな」 
 ハンニバルはそれを聞くと顔を崩して笑いだした。
「猫は邪魔にしかなりません」
「はい」
「用事をする時になると側に寄って来てまとわりつきます」
「ですね」
「尚且つ自分勝手で我儘ときています」
 彼は言葉を続ける。
「おまけに怠け者で気紛れです。こんな勝手な生き物は他にはいないでしょう」
「またえらく猫について御存知ですね」
「十四匹飼っておりますので」
「十四匹」
 その数に大いに驚く。
「また増える予定です。最早我が家は猫屋敷となっております」
「またどうしてそんなことに」
「私が好きでして。猫はいいものです」
 笑いながらこう述べる。
「そんなところがまたいとおしくて」
「そうなのですか」
「ですが妻は犬好きでして」
「それはまた」
 犬派と猫派の戦いはこの時代においても健在である。両方好きな者もいる。
「犬は七匹です」
「家が騒がしくて大変そうですね」
「まあ子供達の遊び相手にはなってくれております」
「ふむ」
「家のあちこちを爪跡だらけにしてくれていますけれど」
「でしょうね」
 八条もそれを聞いて笑った。猫の習性である。
「虫には跳び付きますし」
 これもまた猫の習性である。動くものに興味を示す習性なのである。
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