第十六部第五章 剣は収められその十八
その中に桃もあった。金はその桃をうっとりとした目で眺めていた。
「いい桃ですね」
「そうなのですか」
「この色といいみずみずしさといい。素晴らしいです」
彼女は果物も好きなのである。そのせいか果物の目利きとして知られていた。
「そうなのですか」
「是非召し上がられて下さい。他の果物も素晴らしいです」
「はあ」
言われるままその桃を皿に取る。そして口に入れる。
口の中に桃独特の優しい甘みが漂う。それは確かに素晴らしいものであった。
「これは」
「如何ですか?」
金は問うてきた。
「美味しいでしょう」
「はい」
八条は素直に頷いた。
「これはまた。こんな桃ははじめてです」
「台湾産ですね」
金も一口食べていた。それから述べた。
「この色と味は。間違いなく台湾の火焼星系のものです」
「左様ですか」
「あの星系は台湾きっての穀倉地帯とされていますね」
「はい」
台湾だけでなく連合の中でも有名な穀倉地帯である。連合はそうした大規模な穀倉地帯を多数抱えている。これもまた連合の豊かさの象徴の一つであった。
「そこで採れたものです」
「よくおわかりですね」
「味、いえ外見で」
金は答えた。
「わかります。ましてやこの甘さは」
「はあ」
「火焼の桃以外にはありません。流石と言うべきです」
「そうなのですか」
「ここにある果物は全てそうですね」
金はそこまで見ていた。
「苺も西瓜も。もっともこちらは野菜ですけれど」
「ですね」
これはもう言うまでもないことではあった。
「それでも見事です。新鮮で」
「はい」
中身が青い西瓜である。品種改良の結果だ。赤い西瓜に比べてあっさりしていることで知られている。
「この青い西瓜もまた火焼のものに限ります」
金は急に食べ物に関して饒舌になっていた。やはり甘いものには目がないということであろうか。
「一番美味しいのですよ」
「はあ」
「長官は召し上がられたことはないのですか?」
「あるとは思いますが」
八条は答えた。
「ですが。これといって記憶が」
「それは残念です」
金はそれを聞いて本当に残念そうな顔になった。
「果物は。やはりここが一番ですから」
「そんなにですか」
「それは今ここにある果物を御覧になればおわかりでしょう」
彼女はまだ言う。
「さあ、どうぞ」
そして八条にも勧める。
「召し上がられて下さい。後悔は有り得ませんから」
「わかりました。では」
八条もその果物を次々と食べはじめた。それは確かに美味かった。連合一と言ってもいいものであった。
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