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第十六部第四章 停戦その十四
「まあそう言うな」
 バンダルはそう言って彼を宥めた。
「命があって何よりじゃないか」
「命が?」
「ああ。天国に行くのはまだ先にしたいところじゃないのか?」
 彼に小さい子供がいることを知っているからこその言葉であった。
「今のところは」
「ヘッ、俺が死ぬ筈ないだろ」
 彼はその言葉に軽い笑いで返した。
「俺が天国に行くのはまだまだ先の話だぜ」
「死なないっていうのか」
「そうさ。俺が死ぬのはもっと派手なところなんだ」
 笑ったまま言う。
「もっとな。敵を倒して倒して倒しまくって」
「死ぬというわけだな」
「そういうことさ。少なくとも今じゃない」
「もっと派手な戦場でか」
「この程度の場所じゃあ死ぬのには相応しくないんだよ」
「困った奴だな、死ぬ舞台まで選ぶのか」
「その通り」
 笑みが変わった。軽いものからニヤリとしたものになる。
「そこまで生きてやるさ。とことんまでな」
「わかった。じゃあその時まで精々派手にやりな」
「ああ」
「こっちも死ぬまで見ていてやるぜ。それでいいな」
「頼むぜ」
 戦士達はそんな話をしながら戦争が終わったその時を過ごしていた。そしてその中には当然ながらマシュハド達もいた
¥のであった。
 彼等はこの時艦橋にいた。そして少し感慨に耽っていた。
「終わったか」
「はい」
 マシュハドの言葉にワフラが応える。
「何かいささか狐につままれた様な感じですが」
「連合の諺だな」
「はい」
 ワフラはそれを認めた。
「確かかなり古い諺だったかと」
「狐か。何か連合の狐は我々が知っている狐とは違うな」
「どうやらその様ですね」
「魔力を持っているという印象があるな」
 サハラでは狐はあまりそういう目では見られてはいない。頭のいい動物として知られてはいるがそれだけである。
「そして日本のあの首相を思い出す」
「ああ、あの人ですか」
 ワフラにもそれが誰のことなのかすぐにわかった。言うまでもなく伊藤のことである。彼女はその頭の回転の速さと知識から『日本の女狐』『九尾の狐』等と呼ばれているのだ。連合の中でも特に頭の切れる政治家として知られ彼女に煮え湯を飲まされた者は多い。その為狐と呼ばれているのだ。
 なおこの時代日本という国はよく狐だの猫だの呼ばれる。基本的に女性的な性格の強い国家であるとされその頭の回転の仕方がそういった動物を思わせることから言われている。なお女性的な性格を持つ大国はあまりないとされる。少なくとも米中露やブラジル、トルコ、ASEAN諸国といった大国の中ではあまりない。
「サハラでも女が政治家をやっていることは多いがな」
「はい」
 彼等は話し合う。
「だが。それでもあそこまで切れる政治家はいない」
「オムダーマンの首相はどうでしょうか」
「彼女でもな。あそこまではいかないだろう」
「左様ですか」
「手強いな、敵に回すと」
 そしてこう述べた。これは冷静に見ている言葉である。政治は冷静に見なければ話にならない。何かを見失えばそれがすぐに全てを失うことになってしまうというのもままある世界なのである。
「味方ならば心強いが」
「そう、味方であればですね」
「敵だと思うか?」
「場合によっては」
 その言葉は醒めていた。
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