第十六部第二章 新たな英雄その三
「それに今はこの戦いに負けぬことだ。全てはこれからだな」
「それはそうですが」
「彼が総統になったところでエウロパが滅ぶわけでもない。それは杞憂だ」
「杞憂でしょうか」
「そんな先のことは考えても仕方のないことだ。問題は今だ」
「それはわかっております」
彼女は述べた。
「では戦場に戻りますか」
「うむ」
彼等はその心を戦場に戻した。戦いは互角のまま進んでいた。
タンホイザー、そしてギルフォードは果敢な攻撃を続ける。これに対して義勇軍も負けずに激しい攻撃を浴びせていた。両軍は互いのダメージをものともせずぶつかり合っていた。
「これが戦いというものだな」
マシュハドは前線の激しい応酬を見て楽しそうに笑っていた。
「こうでなくては。ロスタムを前に出せ」
「最前線にですか」
「そうだ、この艦はそうおいそれとは沈まん。ならば派手にやるぞ」
「よいのですね」
艦長であるスキクダ准将が問うてきた。痩せた大男であった。
「よい。何の為のこの主砲だ」
「使う為です」
スキクダは答えた。
「そう、何の為に使うのか」
「敵を倒す為です」
「敵は」
マシュハドの問いは続く。
「エウロパの貴族達」
「彼等は何だ」
「仇敵であります」
スキクダの声も次第に強くなる。
「仇敵はどうするべきか」
「粉砕するのみ!」
スキクダだけでなく他の者も応えはじめた。
「ではどうするべきかわかっておろう」
「ハッ!前進!」
スキクダは艦に指示を下した。
「本艦も最前線に出る!よいな!」
「了解!」
それを受けて艦橋を歓声が支配する。こうしてロスタムも最前線に姿を現わした。
「敵の総司令部が出て来ました!」
「ロスタムか!」
ギルフォードはその報告を受けて部下に問うた。
「はい。それに続いて敵の巨大戦艦が次々に姿を現わしております」
「その数は」
「二十隻を優に越えます」
部下の報告は続いた。
「二十をか」
「どうされますか」
「それはもう言うまでもない」
彼は時間を全く置かずにこう述べた。
「倒すのみ。戦艦を前に出せ」
「はい」
「確かあの巨大戦艦はこの戦いで一隻も沈んではいないのだったな」
「その通りです」
部下の一人がそれに答えた。
「残念なことに。我が軍は未だに彼等に対して有効な手段が打てずにおります」
「ここで一つ言っておく」
ギルフォードは項垂れる部下達に対して言った。
「何をでしょうか」
「沈まぬ艦なぞこの世にはないのだ」
「ですが」
「かつて我が英国の誇る戦艦があった」
プリンス=オブ=ウェールズのことであった。第二次世界大戦初期に就航したキング=ジョージ五世級戦艦の二番艦であった。この当時七つの海を支配していた大英帝国の誇りとも言える巨大戦艦であった。
だがそれはマレー沖において空しく撃沈されてしまった。日本軍の爆撃機の攻撃により沈められてしまったのである。ロイヤル=ネービーの象徴は二流国とされ、侮られていた日本海軍によりあえなく撃沈されてしまったのである。これと同時に大英帝国の誇りも沈んだ。この戦いの後で英国の失墜は決定的なものとなり七つの海の支配権も失くしてしまった。そして欧州の中の一国の地位に甘んじるまでになったのである。それが今のイギリスであった。
「だがそれは沈んでしまった」
「はい」
部下達は彼の言葉に頷く。
「そしてその巨艦を沈めた国の巨大な戦艦もまた沈んだ」
大和である。日本海軍がその持てる力を結集して作り上げた巨大戦艦である。恐るべき巨砲と要塞の如き装備を持った巨大な戦艦であった。その大海原を行く姿はまるで幻想の世界にあるように美しく、そして威厳があった。この世にある艦の中で最も雄々しく、そして美しい姿を持っていたのである。
だがその大和も沈んだ。沖縄へ特攻し、アメリカ軍の艦載機によって葬られた。最後の最後まで戦いながらも散ったのであった。
「これでわかるだろう。沈めることのできない艦なぞ存在しない」
「ではあの巨大戦艦を」
「そうだ。戦艦の主砲で集中砲火を加えよ」
彼は指示を出した。
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