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第四部第一章 欺瞞の国その一
                 欺瞞の国
 ムスタファ星系外の戦いでのオムダーマン軍の大勝利の情報はすぐに各国に伝わった。
 それはサハラ各国だけではなかった。連合やエウロパにも知れ渡っていた。
「これでサラーフは終わりだな」
 こう見る者が殆どだった。最早サラーフには戦力はなくあとはオムダーマンの侵攻に為す術もなくやられるだけだというのが大方の予想であった。
 だが当のサラーフはそう思ってはいなかった。
 何とこの戦いはサラーフ軍の大勝利だと報道されたのだ。
「名将ミツヤーンの知略冴えわたる」
「名軍師ホリーナム颯爽と登場」
「見よ、これが猛将キヨハームの戦いだ」
 こうした歯の浮くような賛辞が全くの捏造記事と共に新聞やテレビで乱れ飛んだ。そしてサラーフの市民達はそれを信じた。
 そして死んだ筈の彼等がインタビューを受ける。俳優を使ったのだ。
「今度はどうなさるおつもりですか?」
 アナウンサーがテレビに出演した死んだ筈のミツヤーンに対して尋ねた。
「決まっていますよ」
 彼は自信に満ちた声で言った。
「オムダーマン全土を一気に併合するまでです」
「おおっ、流石は稀代の名将です!」
 そうした臭い芝居がテレビで行われた。八条はそこまで見るとテレビのスイッチを切った。
「いい加減精神衛生上悪いですね」
 彼は不快感を露にしてそう言った。
「ですね。まさかこの時代にここまで酷い捏造報道が見られるとは思いませんでしたよ」
 側にはチョムがいた。彼は仕事の打ち合わせで八条の官邸に来ていたのだ。
「我が国もかつてはこうしたマスメディアの弊害に悩まされたのですが」
 八条はチョムの方に顔を移して言った。
「それは一千年以上も前のお話でしょう?」
「そうですけれどね。一度それで戦争に突入しそれから半世紀以上もの間彼等は専横を欲しいままにしました」
 日本の歴史の汚点とも言われる。この時代の日本のマスメディアは彼等がどれだけ権力を握り易く、そして腐敗し易いかということを世に伝えている。
「ネットがなければそのままだったでしょうね」
「そんなに酷かったのですか!?」
 チョムは思わず顔を顰めてしまった。
「はい。何度捏造しようが犯罪を繰り返そうが一向によくならないかったのですからね」
「それは私も歴史で学びましたが」
「結局マスメディアとはそうしたところがあります。自浄能力に欠けるのです」
「そのようですね。どうやらそれは政界や官界よりも酷いようです」
「情報を独占して密閉してしまいますからね」
 八条の言うとおりであった。マスコミはこの時代においてもそうした傾向があった。
 下手に警察や公権力が介入すればそれは報道の自由や言論の自由への侵害となる。また彼等はそれを常に楯にとる。なお彼等が幾らその報道の自由や言論の自由、人権等を侵害してもそれはお構いなしである。
「彼等へのチェックは行き届きにくいです。本当にネットが発達しなければ大変なことになっていたでしょうね」
 ネットはネットで問題がある。だが非常に有益なものであることは確かだ。
「少なくとも今のサラーフのようにはなりませんね」
「はい」
 チャムはその言葉に対し頷いた。
「サラーフにはネットがありませんから」
「だからあのようにマスコミが権力を握ると」
「それにしても酷いものですが」
 チャムも顔を顰めさせた。
「ナベツーラのような者に権力を握らせるのですから」
「おそらくあの国のマスコミとナベツーラは同じ程度の人間なのでしょうね」
 八条は表情を変えずに言った。
「だからこそあのように礼賛できるのです」
「成程」
 チャムは頷いた。
「人間というのは同じ程度の者しか理解できませんからな」
「残念なことに。結局それはどうしようもありませんね。それは人間の本質ですから」
 八条は寂しそうな顔をして言った。
「どれだけ素晴らしい思想や宗教、哲学でも人間自体の本質を変えるかというと。残念ながらそうではないというのが現実ですね」
「はい」
「それは仕方ないです。結局それは変えようがありません。しかし」
 八条はここで顔を引き締めさせた。
「律することはできますがね」
 それは彼の持論であった。結局人間の本質は変えることができない。だが自らを律し努力することで自身を高めることができるのだ。
 実際に彼は紳士として知られている。これは彼の常日頃の心がけと努力から得た評価だ。
 軍においては軍律がある。八条は軍律を厳しく定めた。それは彼等が軽挙妄動に走らないようにする為であった。
「まあこの話はそれ位にしましょう」
 彼はここで話を変えることにした。
「本来は別の理由でこちらに来てもらいましたし」
「おっと、そうでした」
 チャムは思い出したような顔で笑った。
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