第十六部第一章 最後の防衛線その九
ソーセージにハム、テリーヌ、オイルサーディン、鶏のパテ、マカロニ、パンに乾燥させた野菜と果物が数種。ビスケット、チョコレート、そして茶だ。他にも様々なバリエーションがあるがこの日のメニューはそれであった。数も多いが量も多い。それを食べたら誰でも満腹になりそうなものであった。
それを持って空いているテーブルに座った。するとそこにムオンがやって来た。
「どうも」
「おお」
劉は彼の姿を認めて声をあげた。そしてムオンは劉の向かい側の席に座った。対面する形となった。
「何かレーションを食べるのも久し振りですね」
ムオンは笑いながら言った。
「そういえばそうだな」
劉もそれに頷く。頷きながら缶を開けていく。それぞれ缶に入っているのである。
「最近は戦闘配備でも普通に食べられることが多かったからな」
「はい」
連合軍の艦艇では調理に火は使わない。電気や熱等を使って調理をするのである。二十世紀は戦闘中は火を落としたものであるがそうしたことをする必要はなかった。それを考えるとかなり立派な設備であった。
「中国軍にいた頃はしょっちゅう食べていたのだがね」
「そうだったのですか」
「訓練でな。その合間はいつもレーションだった」
「何故でしょうか」
「考え方だろうな。訓練の間はレーションを食べる。戦闘中を念頭に置いていたのだろう」
「そうだったのですか」
これは彼の知らないことであった。
「だが連合軍ではそれが違う。それも大きな違いだな」
「はい」
「だがな」
彼はここで顔を変えた。懐かしむ様な顔になった。
「中国軍のレーションは美味かったな」
彼は感慨を込めてこう述べた。
「味付けまでよく考慮されていてな。それで連合軍のレーションにも旧中国軍の補給士官達がよく意見を出したそうだ」
「それは聞いたことがあります」
ムオンは答えた。
「レーションも美味くなくてはいけないと」
「そう」
劉は頷いた。
「美味いものを食べなくては士気にも大きく関わるからな」
「それはありますね」
ムオンもそれには同意した。
「エウロパ軍はよくあんなものを食べて戦っていられるものだと常々不思議です」
「下士官や兵士達の食事だな」
「はい、粗末なソーセージにジャガイモに黒パンですか。それにワインかビール」
「艦内で酒が飲めるだけでもいいという話が出そうではあるがな」
確かにそうした感じの食事である。典型的なドイツの食事だ。
「まあ私は酒はあまり飲みませんが」
「そうなのか」
「それよりも甘いものが。まあそれはいいですね」
「では話を戻そう」
「はい。そして将校達は豪勢な食事ですね」
「彼等はその多くが貴族だからな」
ある意味これは厳密な事実である。貴族と平民の差はエウロパ軍においては絶対のものがあるのだ。
「将校の食費は自分で払うそうですが。かなりのものらしいですね」
「少なくとも我々が食べているものとは比較にはならない」
「はい。まあ階級社会である為だと言ってしまえばそれまでですが」
「それでも彼等は戦意が衰えないな」
「それが当然だと思っているのでしょうね。我が軍なら暴動にまで発展しているところでしょう」
「どの階級の者も同じ場所で同じものを食べる」
劉はここで一言こう述べた。
「それが連合軍だからな」
「はい」
「だからこそ味付けは細心の注意を払ってもらわなくてはな。例えレーションでも美味くあって欲しい」
「そうですね」
「私もかって他の国の軍のレーションを食べたことがあるのだがね」
「如何でしたか」
「やはり国によって色々と違いのあるものだと痛感させられたものだよ」
彼は笑いながらこう言った。
「まあ大抵どの国も量は半端なものではないが」
「それは我がラオスでもそうでした」
「問題はそれが舌に合うかどうかなのだよ」
「合わない国もあったと」
「カナダのレーションはな、よくなかった」
「ああ、カナダですか」
これにはムオンも同意した。
「あの国とフィンランドにはあまり期待されない方がいいですぞ」
「話には聞いていたがあれ程とは思わなかった」
劉は苦笑いを浮かべてこう述べた。連合三百ヶ国あるがその中においてカナダとフィンランドは料理のまずさで定評があるのであった。そうした意味で双璧とさえ呼ばれている。
「一度食べたら忘れられない」
「それはまた」
「カナダという国は実はあまりよくは知らなかったがあれで知るようになった位だ」
「食べ物がまずい国と」
「そうだ。だがわからない」
ここで劉は首を捻った。
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