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第三部第五章 雑軍その七
 艦橋では多くの死体が横たわっている。どうやらいざこざがあったようだ。
 見れば倒れているのは人相の悪い者ばかりである。どうやらエトンの部下達のようだ。
「サラーフの誇りを汚した愚か者共が」
 彼等はその屍を見ながら吐き捨てるようにして言った。
「暫くそこで転がってろ。あとで処分してやる」
 そう言うと電報をオムダーマン軍に対して出した。投降の電報であった。
 こうした艦が次々に出て来た。そして彼等がまず行ったことはミツヤーン派の者達への攻撃であった。
 モトキーラムはとりわけ無残な最期を遂げた。艦橋において彼に今まで虐待されていた兵士達が襲い掛かりまず全裸にされた。そして全艦艇に実況されながら寸刻みにされた。それはオムダーマン軍からも見られた。既に艦橋は占拠され投降が受諾されていたからこそ出来たのであった。モトキーラムの部下達は生きながらダストボックスから宇宙空間に放り出された。
 それを見たペタシャーンは激昂した。すぐにモトキーラムの乗艦に攻撃を仕掛けようとしたがその前に兵士達に後ろから撃たれた。彼等もペタシャーンにはいつも些細なことで虐待を受けていたのだ。その死体はバラバラにされ晒しものにされた。
 最早オムダーマン軍による攻撃よりもサラーフ軍の心ある者達がミツヤーン一派を攻撃する方が苛烈になっていた。彼等は今までその横暴を指をくわえて見ているだけしかできなかった。だが遂にそれに立ち上がったのだ。
 まずオムダーマン軍に投降を打診する。そしてそれが認められるとすぐにミツヤーン派の連中に襲い掛かったのだ。こうしてこの戦いは新たな局面を迎えた。
「何か話が変わってきたな」
 次々とやってくる投降の打診にアッディーンは面食らっていた。
「はい。こうなるとは思いませんでした」
 ガルシャースプが答えた。
「それだけあの連中が憎まれていたということか」
「でしょうね。まあ心ある者ならそうでしょう」
 サラーフ軍にも心ある者は多かった。その代表とも言えるのがグルド=スマラであった。
「ミツヤーンは何処だ!」
 彼は自らの下にある艦隊全てを率いてオムダーマン軍に投降した。そしてミツヤーンを探して戦場を荒れ狂っていた。
 彼もサラーフを愛していた。だがそれは正常なサラーフであり今のような異常なサラーフではなかった。その為サラーフを極限まで腐敗させたナベツーラ、そしてその下にいるミツヤーン達が許せなかったのだ。
 彼だけではなかった。その他の多くの者がミツヤーン達を狙いオムダーマンについた。彼等はこの戦いに負ければサラーフの滅亡が確実なのはわかっていた。だがそれは最早包囲された時点で確定していた。彼等にとって第一の敵はそういう状況にしたミツヤーン達であったのだ。
 次々とミツヤーンに与する者達が惨殺されていく。そしてオムダーマンに投降する者はあとを絶たなかった。オムダーマン軍は最早攻撃を加えてはいなかった。ただサラーフの投降を認めその援護をしているだけであった。
 ミツヤーンは戦場を逃げ回っていた。そして軍の一部がかろうじて包囲の隙を見つけそこから逃げて行くのを見た。じつはこれはアッディーンが意図的に用意した罠であった。
「奴は必ずそこに引っ掛かる。あの男を倒せるのなら少し位の取りこぼしは構わん」
 アッディーンは言った。ミツヤーンとホリーナム達はそれに気付かずそこへ突入しようとした。
 その時だった。彼等の前にオムダーマンの艦隊が一斉に現われた。
「な・・・・・・」
 こちらは僅か数隻しかない。まともにやって勝てる筈もない。彼等は慌てて他の逃げ道を探す。
 だがそれはなかった。上も下も、右も左も塞がれていた。そして後ろからは別の者達が迫っていた。
「いたぞ、逃がすな!」
 サラーフ軍の者達であった。彼等はミツヤーン達を後ろから取り囲んだ。
「もう逃げられんぞ」
 そこでアッディーンの旗艦アリーからモニターで話がきた。
 アッディーンはミツヤーン達の艦のモニターに顔を出した。そして彼等に対し言った。
「私はオムダーマン軍の総司令官アッディーン上級大将だ」
 彼はまず自らの階級や氏名を名乗った。
「ミツヤーンとかいったな」
 彼はあえて侮蔑を込めてその名を呼んだ。
「貴様とその取り巻き共のことは聞いている」
 彼はあからさまに侮辱を込めていた。
「まず言っておくが降伏は認めぬ。貴様は死ぬべきなのだ」
 そう言うとさらに冷酷な言葉を浴びせた。
「貴様等を裁くのは我々ではない。後ろにいる者達だ」
 そこにはサラーフ軍がいる。かって自分達が顎で使い散々蔑視していた者達だ。
「死ね、私が言うことはそれだけだ」
 そしてモニターの回線を切った。それを見てミツヤーンとホリーナムは怒りで身体を震わせた。
「おのれ、若僧が・・・・・・」
 彼等はまだ自分達だけ助かろうと考えていた。そして周りの者達を見回した。そして自分達にほんの少しだけ似た顔立ちの者を二人程見つけた。実際には全く似ておらず彼等が酒に酔った目と頭で選んだ者達だった。
「おい、貴様等」
 ミツヤーンとホリーナムはその二人を前に引き出した。
「我々の身代わりになれ。いいな」
 何と彼等をかわりに人身御供にし自分達は逃げるつもりなのだ。だがその二人は冷たい声で言い返した。
「お断りします」
「何っ!?」
 二人はそれを聞きさらに激昂した。
「貴様等上官の命令がきけんのかあっ!」
「そうだ、それが軍人としての勤めだろうが!」
「上官!?軍人!?」
 彼等はそれを聞いて口の端を歪めて笑った。それは彼等だけではなかった。ミツヤーンやホリーナムを嫌悪する心ある者達全てがそうであった。
「一体どの口で言うやら」
 彼等はミツヤーンとホリーナムを取り囲みながら言った。
「御前達が一度でも軍人らしく行動したことがあったか」
「上官!?何の敬意も払うに値しない奴をそう思ったことは一度もない」
 彼等は既にミツヤーンやホリーナムの取り巻き達を拘束していた。
「そんなふざけたことを言う口はこうしてやる」
 まずはその口を拳で殴った。
「アググ・・・・・・」
 歯が折れていた。鮮血が飛び散る。二人は倒れ込み思わず口を押さえた。
「これだけじゃないぞ」
 そう言うと今度は股間を蹴り飛ばした。流石にこれには悶絶する。
「まだだ、今までの恨み晴らしてやる」
 誰かが何本かナイフを持って来た。そしてミツヤーン一派を取り囲んだ。
 その様子はモニターでオムダーマン、そして投降したサラーフの将兵全てに送られた。彼等はモトキーラムやペタシャーンと同じようにゆっくりと寸刻みで処刑されていった。
 この二人の処刑をもってムスタファ星系外の戦いは終わった。結果はオムダーマン軍の圧勝であった。
 サラーフ軍で戦線から離脱できたのは一割程度、四割近くが戦死した。その中には味方により殺されたミツヤーン派も入っている。そしてその他は皆オムダーマン軍に投降した。何と彼等は自軍と同じ位の大規模な捕虜を得たのだ。
「まさかこんなことになるとはな」
 流石にアッディーンもこの事態には閉口した。
「どうするべきかな」
 そしてバヤズィトに対して問うた。彼が後方参謀であるからだ。
「そうですね」
 バヤズィトもこうした事態は予想していなかった。暫し考え込んだ。
「まずは武装解除しましょう。そうすれば暴動等が起こっても心配はありません」
「うむ」
「それから」
 彼はまた考え込んだ。そして言った。
「捕虜はまず後方に送りましょう。殺すわけにもいきませんし」
「そうだな。それは論外だ」
 アッディーンは戦場での勝利を追及こそすれ捕虜や非戦闘員に対して危害を加えることはしない。それは彼にとっては最も卑しむべきことなのだ。
「カッサラまで送るとするか。それからは軍の上層部に任せよう」
「そうですね。おそらく上手くやってくれるでしょう。少なくともアジュラーン閣下なら悪いようにはしません」
「だな」
 アジュラーンも捕虜に危害を加えるような人物ではない。その点は安心だった。
「あとはサラーフを倒したあとですかね。おそらく彼等も我が軍に編入させるでしょう」
「問題は忠誠心か」
「そうですね。しかしそれは今のサラーフに対してでしょうか」
「それはないだろう」
 アッディーンは言った。
「あんな状態の国を誰が支持するというのだ。支持するのはそれこそ骨の髄まで腐り果てた者共だけだ」
「でしょうね」
 バヤズィトはその言葉に頷いた。
「ですが本来のサラーフに対しては、ですね」
「そうした者は仕方ない。こちらが無理に服従を強いても無駄だろう。かえって逆効果だ」
「はい」
 ここには後々火種を抱えてしまうのではないか、という危惧もあった。
「それにナベツーラは出鱈目に兵を集めたようだな。問題のある者が多いと聞く」
「そうした輩は既にあらかた死んでおりますが」
「だがまだ僅かながら生き残っているだろう。一人残らず見つけ出して軍事裁判にかけよ。そして然るべき処置をとれ」
「わかりました」
 それは処刑という意味であった。
「彼等のオムダーマン軍への編入は急ぐ必要はないな」
「はい、むしろ早急に行っては危険な問題だと思います」
 バヤズィトは言った。
「何しろ膨大な数です。旧ミドハド軍の編入もそれなりに手間がかかりましたし」
「今回の規模はその比ではないからな」
「その通りです」
 バヤズィトはその言葉に頷いた。
「それに最早サラーフに軍を回復させることはできまい。これだけの損害を受けてはな」
「あとはアルフフーフを攻略するだけですね」
「いや、それはまだ先だ」
 アッディーンはそれに対しては首を横に振った。
「急いではならない。まずは星系を一つ一つ我々のものにしていこう」
「このムスタファを拠点としてですね」
「そうだな。だがすぐに拠点を移すことになる」
 彼は言った。
「その場合はアルフフーフとムスタファの中間点がいいな」
「それならいい場所がありますが」
「何処だ?」
 アッディーンは問うた。
「アルマザール星系はどうでしょうか」
「アルマザールか」
 その星系のことはアッディーンも知っていた。交易の中心でありアルフフーフに次ぐ人口を誇る星系である。
「あそこなら各地に兵を送ることも容易ですしね」
「そうだな。それに物資も集まりやすい」
 アッディーンは考えながら言った。
「よし、まずはアルマザールに進むか」
「それがよろしいかと」
「よし、全軍に伝えよ」
 アッディーンは参謀達の方を振り向いた。
「この戦いの処理が終わり次第アルマザールに進軍する。そしてそこからサラーフ各地に兵を送る」
「わかりました」
 参謀達が応えた。
「そしてアルフフーフを攻略する。ナベツーラの首は最早我等が手にある!」
「ハッ!」
 艦橋にいた全将兵が敬礼した。そして彼等は戦いの傷を癒し次の行動に備えるのであった。


第三部  完


                 2004・7・3
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