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第三部第五章 雑軍その六
「攻撃です!」
 その巡洋艦のオペレーターが悲痛な声をあげた。
「何、何処からだ!」
 艦長は咄嗟に問うた。見れば彼は負傷している。彼だけでなくその他の多くの者も負傷している。どうやらかなりの損害を受けたようだ。その証拠に船足が遅い。
「味方からです、前から来ます!」
「そんな馬鹿なことがあるか!味方が撃ってくるなど・・・・・・」
「いえ、事実です。駄目です、避けられません!」
 そしてその巡洋艦は真っ二つに折られた。そして忽ち火球となり宇宙の中に消えた。
 キヨハームに撃たれたのはその艦だけではなかった。退こうとする艦艇は皆損傷を受けた艦艇であった。だがキヨハームはそれに構わず攻撃を仕掛けてきたのである。
「容赦すんな、どんどんやったらんかい!」
 彼だけではなかった。モトキーラムやペタシャーンも友軍の艦艇に対して攻撃を加えさせた。エトンはその時は自室に引っ張り込んだ看護婦達の相手をしていて指揮などそっちのけであった。
 それは督戦隊そのものであった。それを見て先に嫌悪感を露わにしたのはオムダーマンの方であった。
「あそこまで醜いとは思いませんでしたね」
 参謀の一人がアッディーンに対して言った。
「そうだな。今まで多くの戦場を回ってきたがここまで酷いのははじめて見た」
 アッディーンも嫌悪感を露わにしていた。
「これは個人的な考えだがな」
 彼はこう前置きしたうえで話はじめた。
「あの連中だけは許せんな。この戦いで一人残らず消してやる」
「はい」
 皆頷いた。それは賛同の返事であった。
「容赦するな、そして叩き潰せ!」
「ハッ!」
 珍しく感情のこもった指示であった。それはオムダーマン軍全将兵の感情でもあった。
 オムダーマン軍の攻撃は一層激しさを増した。サラーフ軍は容易に進めない。退く艦はキヨハーム達により容赦なく沈められていった。
「逃げる奴はまず撃て!」
 ミツヤーンもそう言った。そして彼等の一派はその通りにした。作戦指揮よりもそちらを優先させた。
 それが仇になった。碌に指揮する者もなく友軍に撃たれサラーフ軍は混乱状態になっていった。そこへ左右からオムダーマンの機動艦隊が突入してきた。
「行け、周りは敵しかおらん、ただ撃ちまくれ!」
 アタチュルクが指示を下す。敵陣に突入したオムダーマンの将兵はそれに従い攻撃を続けた。
 これによりサラーフの両翼は壊滅状態に陥った。それを見たアッディーンは次の指示を下した。
「よし、機動艦隊に敵の後方及び斜め後ろに向かうように伝えよ」
「わかりました」
 すぐに伝令が飛ぶ。そして機動艦隊はそれに従いサラーフ軍の後方及び斜め後ろについた。
 アッディーンはまた指示を下した。
「前方の部隊はそのまま三日月型の陣を作り前進せよ」
「ハッ」
 すぐに陣が汲みかえられる。そしてサラーフ軍を包み込んだ。
 これで包囲は完成した。サラーフ軍は完全に包囲された。
「フン、それで囲んだつもりか」
 ミツヤーンはまだ状況を理解していなかった。酒に酔った頭でモニターを見上げた。
「そんなもの我が軍の数の前には何の役にも立たんわ。構わぬ。逆に全方向に攻撃を仕掛けよ!」
 それは最早作戦の指揮ではなかった。ただ闇雲に攻撃せよ、と言ったに等しかった。
 無論それがまともな攻撃に繋がる筈もなかった。サラーフ軍は囲みを崩すことが出来ず次第にその数を減らしていった。
「さて、どうするつもりかな、連中は」
 包囲は上からも下からも行われていた。最早何処にも逃げ場はなかった。
「まさかまだ兵力を頼みにしているわけではあるまい」
 だが彼等はまだそれを頼みにしていたのである。
「小賢しい真似をしてくれますな」
 ホリーナムは完全な包囲下にあってもまだ自分達の置かれた立場をわかってはいなかった。
「そうだな。どのみち兵力では大きな差があるというのに」
 ミツヤーンもである。彼等は既に泥酔しており自分達の兵力がどれだけ消耗しているのかわかっていなかった。
 それはキヨハーム達も大体同じであった。彼等は部下に適当に指揮を任せ食事と称して自室で酒を飲み淫らな宴に興じていたのである。
「ここで一つお返しをしてやるか」
 アッディーンは意地悪く笑ってこう言った。そして側にいるシンダントに対して顔を向けた。
「ミツヤーンの電報を送るぞ」
「電報ですか」
「そうだ。文は俺が書く。すぐに用意してくれ」
「わかりました」
 そしてアッディーンはミツヤーンに宛てて電報を打った。それはすぐにミツヤーンの許にも届いた。それを見たミツヤーンは酒に酔った頭で怒り狂った。
「ふざけるにも程があるわ、若僧風情が!」
 彼は酒瓶を床に叩きつけそこらじゅうを踏ん回った。そして意味のわからないことを延々と喚き散らしている。
「どうしたのですか」
 ホリーナムはそんな彼に酒臭い息を出しながら尋ねた。
「これを見ろ」
 ミツヤーンはその電報を見せた。それを見たホリーナムもその顔を見る見るうちに真っ赤にさせた。
「何と・・・・・・。我々を馬鹿にするにも程がある!」
 その場にいた心ある者達は当然だ、と思ったが口には出さなかった。
「許さん、すぐに連中を成敗してくれる!」
「はい、総攻撃しかありません!」
 それは妥当な命令であった。ただし彼等も知能ではそれも妥当なものにはできない。
 彼等が下した命令は驚くべきものだった。
「奴等を瞬時に殲滅する。全方位に一斉攻撃を仕掛けよ!」
 それは先程と全く同じ命令であった。それを聞いた者は皆絶望した。
 だが彼等に意見を言う者はいなかった。何か言えばその場で射殺されかねなかった。実際に彼等は手に銃を持って喚いているのだ。
 その命令はすぐに実行に移された。それを見たアッディーンは思わず笑ってしまった。
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたがこれ程までとはな」
 鈍重な動きでこちらに向かってくるサラーフ軍を見て嘲笑した。
「せめて一方向に攻撃を仕掛けるという考えにはならないのか」
「どうやらそのようですね。ここまでの愚か者も珍しい」
 ガルシャースプが言った。
「そうだな。そもそも火力も速度もバラバラに編成された艦隊で一斉攻撃を仕掛けて来るというのも馬鹿げているが」
 アッディーンはモニターから目を離さない。
「ここまでくると喜劇だな。愚劣にも程がある」
「そうですね」
 ここでシンダントが前に出て来た。
「愚か者共の愚かな戦いですから」
 その口調は辛辣そのものであった。
「しかし単純に喜劇と呼べないところもあります」
「それは何だ?」
 アッディーンは問うた。
「我々にとっては輝かしい勝利であるということです」
「それは少しキザな言葉だな」
 アッディーンはそれを聞いて苦笑した。彼はあまりそうした芝居がかった言葉は好きではない。元々演劇を観ないせいもあるだろうか。
「だが確かにそうなるでしょうね、このままですと」
 ガルシャースプが言った。
「閣下のご命令一つで」
「俺のか」
 アッディーンはその言葉に顔を向けた。
「はい、是非勝利の為のご命令を」
「勝利の、か。どうもそうした芝居がかった言葉は好きにはなれないが」
 そう断ったが今こそ命令を下す時であるのはわかっていた。
「全軍まずは一斉射撃を浴びせよ。そしてそのあとは波状攻撃を休むことなく行え!」
「ハッ!」
 ガルシャースプと参謀達が一斉に敬礼した。そしてそれはすぐに実行に移された。
 オムダーマン軍のビームとミサイル、そして魚雷が一斉に放たれる。それはサラーフ軍の前面の艦艇を激しく撃ちすえた。
「そんなものが通用するかい!」
 キヨハームはすっかり泥酔した様子で艦橋に来るとその攻撃を見て言った。
「構わん、前進じゃあ!」
「しかし・・・・・・」
 周りの心ある僅かの者がそれを制止しようとする。しかし。
 そこに拳がきた。彼はそれを顔面にまともに受けた。
 右の眼球が衝撃で飛び出る。そして壁に後頭部を叩きつけられた彼はそのまま床に崩れ落ち動かなくなった。
「わしに指図できる程の身分なんかい、御前は」
 彼は血に塗れた拳を軍服で拭きながら言った。
「行くぞ、何か言う奴は今のこいつみたいになるぞ」
「はい、わかってますよ」
 取り巻き達は嬉々としてそれに従った。他の者も無残な屍を見て仕方なく従った。
「おら、行けや!」
 キヨハームは自身の艦を前に進ませた。
「わし一人であいつ等全部やっつけたるわあ!」
 どうやら彼は臆病ではないらしい。しかしだからといってそれが戦上手とは限らない。
「前に飛び出してきた艦に攻撃を集中させろ!」
 アタチュルク達各艦隊司令の指示が飛ぶ。それに従いオムダーマン軍は攻撃する。
 忽ちキヨハームの乗艦は十発のミサイルを受けた。そして瞬時に炎の塊となり宇宙の塵となった。キヨハームが自身の無様な死を知ったのはジャハンナムにおいてであった。
 エトンは作戦指揮などせず看護婦達を相手に淫らな行いを続けていた。その司令室に旗艦の若い将校達が入って来た。
「何だ貴様等、俺は忙しいのだ!」
 見れば彼は全裸で看護婦を押し倒していた。それを見た将校達は黙ってビームガンの引き金を引いた。
 エトンの頭をビームが貫いた。そして彼は看護婦の上に崩れ落ちた。見れば看護婦には意識がない。どうやら首を絞めて殺してそれを死姦していたようだ。
「こんな奴が指揮官だったのか・・・・・・」
 彼等はエトンの屍を蹴り飛ばしながら言った。
「だがこれでお終いだな。こいつはジャハンナムへ行った」
「ああ。そもそも生まれてきたのが間違いだったがな」
 彼等はそう言いながら司令室を出た。そして艦橋に戻った。
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