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第十五部第五章 防戦その十一
「馬鹿な、指揮官自ら前線に」
「こんなことは。有り得ない」
「戦場において有り得ないということはない」
 タンホイザーはそれに対して言い返した。
「それに大将が後方にいるのはどうかと思わないかい?」
「ですが」
「何、死にはしないさ」
 彼は根拠なくこう言った。
「我等にはヴォータンの加護があるからな」
「いえ、それは違います」
 だがそれにクルーゲが一言加えた。
「違うのか」
「はい。ヴォータンだけではありません」
 そして彼は言う。
「アレスもいればアテナもおります。我等の戦の神は一人ではありません」
「そうか。そうだったな」
 これにはタンホイザーも一本取られた。楽しそうな顔で笑う。
「では言い直そう。我等には神々の加護がある」
「はい」
 将兵達はこれにあらためて頷いた。
「それでは行きましょう」
「それでもだ。覚悟はいいな」
「無論」
 艦橋にいる全ての者が頷いた。
「戦場にいれば死ぬのは当然のこと」
「それが怖くて司令の下にはおられません」
「言ってくれるな」
 それを聞いて今度は苦笑を浮かべた。
「私の下では命が幾つあっても足りないというのか」
「少なくとも生きた心地はしません」
 部下の一人がこう言った。
「ですが。これ以上はないという程派手な戦いを経験できます」
「では今も経験してみるか」
「無論」
 彼等は答えた。
「では指示をお願いします」
「進撃の御指示を」
「よし」
 それを聞いてあらためて頷いた。
「では全軍進撃だ」
 彼は言った。
「攻撃目標は前方の敵軍。全艦隊を挙げて突撃するぞ」
「はっ」
 この場合の全軍とは彼が率いる先陣のことである。彼はそれを率いて突撃を敢行することを決意したのである。
「撤退はない。あくまで敵の奥深くを狙っていく。それでいいな」
「わかりました。それでは」
「卿等の健闘を祈る」
 そしてまた言った。
「戦の神々の加護があらんことを」
「了解」
 エウロパ軍の突撃がはじまった。これに対して義勇軍は既に万全の備えに入っていた。
 その魚鱗陣は重厚なものであった。前面に戦艦や高速戦艦を配置しているのはエウロパ軍と同じである。だがその守りの固さがまるで違っていた。
「来るな」
 マシュハドはそれを見て呟いた。
「突撃を仕掛けて来る。用意はいいな」
「はい」
 部下達はそれに対して頷いた。
「こちらも突撃だ」
 守りを固めるつもりはなかった。突撃には突撃で、それで勝つつもりであった。
「一気に潰す。いいな」
「わかりました」
 部下達は今度は敬礼で応えた。
「それでは全軍このまま突撃します」
「そうだ。ティアマト級巨大戦艦も前に出せ」 
 彼はまた指示を下した。
「そして空母もだ。艦載機の発進準備を急げ」
「了解」
「格闘戦を挑む。数ではこちらの方が遥かに上だ」
 彼はまた数での優位を説いた。
「そうなれば我が軍が有利に立てる。接近してそれぞれ潰していく。よいな」
「わかりました。それでは」
「うむ。諸君等の健闘を祈る」
「ハッ!」
 これは全てワフラの策に拠るものであった。今回彼は的確全ての作戦を立案していた。マシュハドはそれに従うだけであった。だがそれで充分であった。戦いは今義勇軍主導の下に行われている形になっていたのであるから。
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