第三部第五章 雑軍その四
キヨハームは途中寄港した星の酒場でホステスを犯した。モトキーラムも一緒であった。
エトンは女子大に車で乗りつけるとそのまま二人の学生を拉致した。そして今だに自分の艦の自室に監禁し慰み者としている。ペタシャーンは酒を飲みながら指揮を執っている。そして誰から構わず部下達を虐待していた。
こうした者達が軍を率いているのだから風紀などとうの昔に崩壊していた。元々この軍は傭兵や罪人等を入れた混成軍である。統率をとるのが困難であると予想されていた。
だがミツヤーンもホリーナムも兵士を取り締まるようなことは一切しなかった。その為彼等は寄港先でトラブルを起こし側を通る商船から通行料として金を巻き上げたりしていた。
これを批判する者はいなかった。それどころかマスコミは彼等を『勇者』として称えその行いも既存の軍の在り方を打ち破る『英雄的な行い』と評価していた。
「ところで、だ」
ミツヤーンは娼婦達の胸をまさぐりながらホリーナムに尋ねた。
「ムスタファまではあとどれ位だ」
「はい」
ホリーナムは娼婦に自分の股間をまさぐらせている。すぐにでも部屋に消えてしまいそうな勢いである。
「十日程です」
「そうか」
ミツヤーンは葡萄酒を瓶に口を当てて飲んでいた。仮にも将校とは思えない品のなさだ。
「ならばそれまではゆっくりできるな。そしてムスタファ星系を陥落させたら」
「ええ、そこで宴といきましょう」
「酒に女でな」
彼等はそう言うとそれぞれ自室に消えて行った。それを見送る心ある将兵達の目は嫌悪に満ちていた。
だが彼等はその直後とんでもない目に遭うことになった。
「何を見とるんじゃ」
そこにキヨハームが来たのである。
全身筋肉の固まりである。だがそれはおそらくウェイトトレーニングや薬で作られた筋肉だ。すぐに見ただけでわかるようなものであった。
顔はまるで犯罪者かチンピラのようである。極めて獰悪な人相である。
「御前等ミツヤーン閣下のやられることに不満でもあんのか」
そして彼は先程ミツヤーン達を嫌悪の目で見た将兵達を前に引きずり出して来た。
「とんでもない奴等だな、上官をそんな目で見ているなんて」
モトキーラムが言った。これまた軍人というよりは夜の街の男の様な格好である。軍服を着崩しそこに色々なアクセサリーを着けている。その顔は気色悪い化粧をしている。
彼は何と側に幼女を連れている。歳は五歳程であろうか。真っ裸にして首に鎖を着けて引いている。
「おい、こいつ等どうすべきじゃと思う?」
キヨハームはモトキーラムともう一人の男に対して問うた。
「潰すべき」
色の黒い大男が言った。ブランデーを瓶に口をあて飲んでいる。この男がペタシャーンである。
「ペタシャーンの言うとおりですね、キヨハームさん」
モトキーラムが言った。
「御前もそう思うか」
キヨハームは残忍な笑みを浮かべてそう言った。
「そやがこのまま普通に殴っても面白くないと思わんか」
「はい」
モトキーラムは底意地の悪そうな笑顔で応えた。
「おい、あそこ行こうか」
彼等はその将兵達をトイレに連れて行った。そして彼等の顔を大をたす便器に突っ込んだ。
「おら、これでも飲めや」
「グググ・・・・・・」
彼等はジタバタともがき苦しむ。キヨハームはその尻に思いきり蹴りを入れた。
「これでも飲んで目を覚ませや。上官の悪口言う奴は酔うとる証拠じゃ」
「そうそう、ただそれだけじゃ酔いは醒めませんよ」
モトキーラムはそう言うと箒を持って来た。
「こうでもしないとね」
そしてそれを尻の穴に突っ込んだ。
「ググッ・・・・・・!」
その兵士は思わず苦悶の声をあげた。キヨハームはそこに肘を入れた。
「黙らんかい、折角こうして酔いを醒まさせてやっとるんじゃ」
その隣ではペタシャーンが他の将兵達を殴り飛ばしている。床に顔を打ち付けるとそれを脚で踏みつける。
「おら、有り難うございます、って言わんかい」
「そうだぞ、こうして提督様達が直々に世話をしてやってるんだからな」
モトキーラムは箒をさらに突っ込んだ。その先に血が出てきた。
「礼はどうしたんじゃ、礼は」
キヨハームはその兵士の顔を便器から取り出して問うた。
「あ、あうあわああああ・・・・・・」
その兵士は最早苦痛で何も言えない。キヨハームはその兵士の顔をまた便器に突っ込んだ。
「まあええ。今日はこれ位で許したる。酔いも醒めたやろ」
「有り難く思うんだな」
二人はその兵士の腹に最後にそれぞれ蹴りを入れて行った。
「ところでエトンはどうしとるんじゃ」
「救護船に向かいましたよ」
モトキーラムが答えた。女性兵士は原則としていないサハラ各国であるが例外もある。
通信兵には女性もいる。そして看護婦もいるのだ。
「ほう、あいつもお盛んやのお」
キヨハームはそれを聞くと下品な笑い声をあげた。
「今頃は思う存分やっているでしょうね」
モトキーラムもそれを聞いて似たような笑い声を出した。
「じゃろうな。全くあいつの趣味は変わらんわ」
その頃救護船では実際に阿鼻叫喚の地獄絵となっていた。
「わし等もそっちへ行くか」
「ええ、いいですね」
モトキーラムが頷いた。
「ペタシャーンはどないするんじゃ」
「そうだな」
彼は兵士達を脚で蹴飛ばしながら言った。
「俺は酒があればそれでいい」
「あるぜ。たっぷりと」
「なら行こう」
こうして三人も救護船へ向かった。彼等はこうした醜悪極まる行動を繰り返しつつ進軍を続けていた。
この動きはマスコミにより大々的に報道されていた。美辞麗句と媚び諂いに満ちた文章が新聞に載りテレビを賑わせていた。
「こんなに動きがわかるとかえって怖いな」
アッディーンはテレビを観ながら思わず呟いた。
「はい。それにしても今日はトクンですか」
隣に立っていたガルシャースプは顔を顰めて応えた。
「ああ。いい加減こうも毎日毎日テレビに出ていると顔を覚えるな」
「それがテレビの持つ力の怖ろしさです」
「成程な」
アッディーンはそれを聞いて頷いた。テレビではトクンが盛んにナベツーラやミツヤーンを礼讃していた。
「あのテリームの下劣さには嫌気がさしていたが」
彼は腕を組んで言った。
「この男はああしたきちがいじみた発言をしないだけだな。中身は全く一緒だ」
「ええ。そのかわり聞いていて歯の浮くような賛辞ばかり言いますね」
「これはこれで腹が立つものだな」
彼は不機嫌そのものの顔になっていた。
「はい、何の根拠もなく礼讃ばかりですから。こんなことは恥をほんの少しでも知っていれば言えないでしょう」
「この連中に恥という概念があるかどうかだな」
アッディーンの顔は顰められたままであった。
「あとエジリームというのもいるな」
「ええ。あの男がマスコミを仕切っているようです」
「それでか。サラーフのマスコミ連中の発言や文章が異様に汚いと思ったら」
サラーフのマスコミの文章や発言の汚さには定評がある。もっともそれはサラーフ以外での話でありサラーフの国民は知らない。
「読んでいてここまで不快になる文章も珍しい」
「本当ですね。まるで人間性の卑しさが滲み出ているようです」
「人間性か。それで一つ聞きたいのだが」
「何でしょうか」
「サラーフのマスコミ連中の人間性だが」
「はい」
ガルシャースプは顔を前に出した。
「どうしてあのように卑しい輩ばかりなのだ?そういえば昔、そう二十世紀のマスコミもああした人間が多かったと聞くが」
「情報と権力を独占しているからでしょう」
ガルシャースプは答えた。
「人間権力を独占し何でも意のままにしていると自然とああなります。そしてその中に溺れているうちにああいったふうになってしまうのです」
「全ては権力のせいか」
「はい。マスコミの権力は絶大なものですから」
この時代でもマスコミには権力があった。ネットが発達していた一千年前のような行動はできなくとも、である。ネットがないサラーフでは言わずもがな、であった。
「全ては権力のせいか」
「はい」
「権力は腐敗するというのは昔からのことだが」
「絶対的な権力は絶対に腐敗するとも言われますね」
「サラーフではそれがマスコミだったわけか」
アッディーンは腕を組みなおし言った。
「我々も肝に命じておかなくてはな。権力は腐敗するということを」
「はい。そしてマスメディアの危険性を」
「うむ」
二人はそのあと会議室に向かった。そして翌日サラーフ艦隊を迎撃すべく十五個艦隊をもって出撃した。
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